ふと思った。(唐突)理事長代理に雲ちゃん突っ込ませたら曇るんじゃないかと(にちゃぁ)
――9月 セントライト記念
3着までのウマ娘に菊花賞の優先出走権が与えられるだけあって、出走するウマ娘たちの闘気は膨れ上がっていた。
そんな中スタートしたレース。序盤7番手に着いたウマ娘は、これからの展開を窺っていた。
「(よし。良い位置には着けた。後はどこで勝負を仕掛けるか。だけど……)」
何故かも分からない嫌な予感が、思考の影にちらつく。
「(なによ……何なのよこれ。まるで、霧の中にいるような、気持ち悪い感じ……)」
その不快感の原因が分からないまま、そのウマ娘は
「(よしっ! 最終コーナーでスパートをかける! このままいけば勝てる!)」
中盤、三番手に着いているウマ娘はこれからの展開を頭の中で描く。
もちろん、このまま上手くいくとは思っていないが、彼女の強みはその末脚だ。
終盤まで先頭にくらいついていれば、そのまま追い抜かすことが出来る。
「(最悪3番手に入れば、優先出走権は貰える! だけど、どうせなら勝ちたいよねぇ!)」
徐々にスピードを上げ、同時に闘争心を膨らませる。しかし、
「(後は逃げ切るだけ。でも、油断はしない)」
終盤、一番手を走るウマ娘は、現状もっとも勝利に近く、しかし油断していなかった。
トレーナーと共に作戦を練りに練って望んでいるのだ。負ける要素はないと思いつつ、一抹の不安が拭えないでいた。
「(あのウマ娘の姿が見えないのが不気味ですね)」
作戦を考える際、トレーナーから一番の警戒要素だと言われたウマ娘。そのウマ娘がどこにいるのかを、彼女は確認できないでいた。
「(クラシックからの戦績は振るわないとはいえ、それでもURA賞を受賞したウマ娘。気にしすぎる必要はありませんが……気にしすぎも良くないですね)」
確認できたのは、最後方にいたということだけ。もし追い込みだとすれば、そろそろ上がってくるはず。
そう考えて、最後のスパートに入る。
だが次の瞬間
「――『蜃気楼』が由縁、教えてあげます」
「……は?」
彼女の隣を、白い影が通り過ぎて行った。
◇◇◇
「俺はいったいどうしたらいいんだ!」
「……飲み過ぎよ」
「沖野さん、お酒は静かに飲みましょうよ」
顔を赤くした沖野さんが音を立ててグラスを置くと、ガタンッとこじゃれたお酒の席には耳障りな音が響く。
私はおハナさんと沖野さんに誘われて、いつものバーに来ていた。
最初は静かに飲んでいたのだが、次第に沖野さんがうるさくなってきた。
「俺は、アイツに前を向いてほしいんだよ。だからトレーニングのプランも考えた。レースのプランもだ。でもよぉ……」
「普通ね」
「そうなんだよ! 普通にこなしてるだけなんだ」
春の天皇賞後、沖野さんの方でもいろいろ大変だったらしい。
まず、トウカイテイオーの足に怪我が見つかった。軽いものだったとはいえ、それなりにてんやわんやだったのだとか。
次にメジロマックイーンも怪我を負った。こっちは全治六か月。療養のために、学園を離れて実家に戻っているらしい。
そして今、沖野さんの頭痛の種がトウカイテイオー。どうやら、以前のレースに対する情熱が小さくなっているようなのだ。
まあ、立て続けに夢が破れればそうなるのも仕方なしだ。こればっかりは、本人がどうにかするしかない。
「どうしたらいいんだ……」
「呆れた」
「あとお金もないし……」
「沖野さんのところには、あのスペシャルウィークがいますもんねぇ」
トレセン学園の手伝いをしていた頃、食堂のヘルプに入ったこともあるんだけど、確かにあれはヤバかった。ウマ娘は人間よりも食べるけど、彼女はそれ以上だった。
あの子にご褒美と称してご飯に連れて行くのは絶対にダメだ。金欠になるのが目に見える。
沖野さんに同情していると、横目におハナさんが息を吸い込んでいるのが見えた。
思わず手で耳を塞ぐ。
「――――――ッ! ――――――ッ」
「――――。―――――?」
「―――――――。――――――ッ!」
そろそろ終わっただろうか? 恐る恐る手を離すと、おハナさんの喝は終わったらしい。沖野さんが背中をさすっているのが見えた。確かに痛いよね、おハナさんの張り手。
「まったく……それで、雲莉の方は大丈夫なの?」
「あー。そういえば、菊花賞出るんだっけか?」
「……ええ、まあ」
「どうしたのよ。歯切れ悪いわね」
「いや、出るには出るんですよ」
「なんだぁ? あれか。担当が勝てるか心配なのか? トレーナーが信じてやらなきゃ、誰が信じてやるんだ?」
「あいや、勝つのは知ってるんです」
おそらく今のままなら、彼女の勝ちは堅い。
「知ってるとは、大きく出たなぁ!」
「あなたが信頼しているのは分かるけど、なら何をそんなに顔を顰めているのよ」
「あ、顔出てましたか」
今考えているのは、あくまで予想の域を出ないもの。だけど、どうにも不安が拭えないので、思い切って相談することにした。
「実は、ミホノブルボンってウマ娘いるじゃないですか」
「ああ。あの無敗の三冠候補の」
「となれば、菊花賞でぶつかるわけか」
「そっちじゃなくてですね。心配なのは、その後なんです」
「後……?」
「……まさか」
どうやら、おハナさんは私の懸念に気付いたらしい。
はっきり言って、想像の斜め以上に世間が騒いでいた。それだけなのだが……。
「もしミホノブルボンが三冠を達成できなかった時の、世間の反応か」
「……それは確かにな」
「私の考えすぎで済んでほしいんですがね」
最悪のパターンを想像して、私たちの間に沈黙が流れる。
私たちトレーナーから見たレースと、特に詳しいことを知らない世間から見たレースが一致することはまずない。
だからこそ、想像がつかない。何か起こるかもしれないし、何も起こらないかもしれない。結局は、やってみなければ分からないのだろう。
「ま、やるだけやってがんばりなさい。それでもし何かあったら、遠慮なく私を頼っていいわ」
この空気を断ち切ったおハナさんは、立ち上がってカバンを持つ。
「アンタも。トウカイテイオーのこと、ちゃんと支えてやりなさい。それはトレーナーであるアンタの仕事でもあるんだから」
「ああ……サンキュー」
おハナさんが店を出る。それを見送った沖野さんが、おもむろに財布を取り出した。
それを見た私も、財布を取り出す。
「……フッ。マス「お会計お願いしまーす」え?」
財布の中身を見て笑みを浮かべた沖野さんが何か言う前に、レジに向かう。
当然払うのは、今回の飲みの代金だ。私と沖野さんとおハナさんの3人分。
「ありがとうございました」
「行きますよ。沖野さん」
「お、おい雲莉ちゃん。さすがに後輩に払わせるのは……」
「じゃああるんですか、お金」
「うっ……」
さっきお金ないって言ってたじゃないですか。
これでもお世話になりましたし、尊敬だって一応してるんです。お願いしますから、グラス洗いを申し出るところを見させないで下さいよ。
「何時か返してくれたら、それで良いですよ」
「す、すまん……」
項垂れる沖野さんを尻目に、すっかり暗くなった空を見上げる。
光溢れる都会では星々の眩きも見えず、訳も分からず不安がのしかかってきた。
柄にもないことはするもんじゃないなぁ。
――11月 菊花賞
……ああ、くそっ
次は菊花賞。さすがにレース描写は書くつもりです。
極限の集中状態になるとオーラが出て来るウマ娘は、準バトルアニメでもいいと思います。
カフェ引けたらタキオンとドロッドロのやつ書きます。てか書きたい