ただし、きちゃったらまあ、仕方ないとは思いますが、感想欄で批判するのは出来れば遠慮してほしいです。
レース描写は三人称視点になってます。なんというか、拙さは勘弁してください。
「……調子はどう?」
「問題ありません。適度な緊張と、適度なリラックス。両方とも大丈夫です」
11月、菊花賞。
今日は私にとって、重要な日になる。
「3000mの大舞台。しかも長距離の経験はほとんどない。でも、あなたなら勝てる。それだけのことをしてきた」
「はい。トレーナーさんのおかげです。だから、勝ちます。勝ちたいんです」
「……そろそろ時間ね。私は観客席の方に戻るわ。やりたいこと、全部やってやりなさい」
「はい」
控室からトレーナーさんが出ていく。
GⅠともなると、出走ウマ娘一人一人に個別の控室が充てられる。自分の息遣いだけが部屋に響く。
そこに緊張はない、と思う。あくまでも、自然体の自分。
鏡で自分の服装を見る。
GⅠのレースでは、特別な服装、いわゆる勝負服を着ることが可能となる。
皐月賞の時から来てはいたけど、今回も私は勝負服に身を包んでいる。
私の勝負服はコートタイプで、何というか白い。ただただ白い。ポケットや装飾が一つもなく、白い布を適当に切り縫いしたら完成しそうなほどだ。
以前、勝負服の要望を聞かれたとき、特に興味がなかったので適当に出した結果だ。
特に問題はないのだけど、よくよく考えればこの勝負服では、『蜃気楼』の二つ名を意識していると思われるのではないだろうか? その点だけは間違えたと思う。
『メジロクラウディさん。間もなく、レースが始まります』
呼ばれた。
ついに来たと思うと、今までの事が脳裏に浮かんでくる。
ライスさんとの約束、トレーナーさんとの日々、タキオンさんの過去、ゴールドシップさんの奇行……
…………ゴールドシップさん?
◇◇◇
『クラシック三冠、最後の大舞台菊花賞。間もなく出走開始です』
アナウンスが流れるなか、観客席を歩いていると見知った顔が見えた。
「おハナさん」
「あら、雲莉。こんにちは」
「天下のリギルが、一体どうしたんですか」
「緊張してるの?」
……そうなのかもしれない。
「ま、このレースで三冠ウマ娘が生まれれば、新たなライバルになり得るかもしれないし。それを防いだウマ娘が出ても、ライバルになり得るしね」
だからリギル全員で見に来たと。
「そう気張らないの。レースになれば、私たちトレーナーは応援することと信じてあげることしかできないもの」
「……そうですね」
そうやっておハナさんと話していると、ふと他の客の話し声が耳に入った。
「お前はどう思うよ。今日のレース」
「そりゃお前、どう考えたってミホノブルボンの勝ちで決まりだろ! 無敗の三冠ウマ娘が誕生するかも知れねえんだぜ!」
まるで無敗の三冠ウマ娘のために、他のウマ娘が負けることが確定している。そんな物言いに、思わず手に力が籠る。
「落ち着きなさい。世間の目なんて、そんなものよ」
「分かってますけど……こんなのは、あまりにも」
「別にここにいる観客全員がミホノブルボンだけを応援している訳じゃないわ」
おハナさんに宥められて、どうにか気持ちを落ち着ける。
気を付けなよ、クラウディ。このレースは、一筋縄でいくようなものじゃない。
◇◇◇
会場にけたたましいファンファーレが鳴り響く。観客席から歓声が轟く。
『クラシックロードの終着点。菊花賞を制し、最強の称号を手にするのは誰だ』
ウマ娘たちが続々とゲートに入って行く中、クラウディにライスシャワーが近づく。
「クラウちゃん。ライス、負けないから」
「私も、負けるつもりはありません」
それだけ短く言葉を交わし、二人はゲートへと入る。
「(クラウちゃんにも、ブルボンさんにも負けない。付いてく……付いてく……)」
「(マスターからの指示は、菊花賞の勝利。そして私の目標も三冠の達成)」
ゲートに入り、スタートするまでの数秒。各ウマ娘たちは、それぞれの思いを、新たに心に刻みつける。
しかしその中で、明らかに異質なのが一人いた。
「(
全てのウマ娘が構える。会場を包む刹那の静寂。
『さあゲートが開いた!』
「――ッ!」
開かれる扉。各々が最高のスタートを切り、そして…………
――――爆発加速、
『あーっと! 先頭に出たのは
勝負が決まった。
『先頭に出たのはメジロクラウディ! しかしこれは! なんと、まさかの大逃げだー!』
『これは予想外ですね。特にメジロクラウディは今まで逃げで走った事はありません。ですが此処に来て逃げ、しかも大逃げの選択。他のウマ娘に揺さぶりを掛けに来たのでしょうか』
驚愕する実況と動揺する解説。それは観客席でも同じだった。
雲莉の隣で観戦していた東条も、思わず雲莉を見る。
「……説明してくれるわよね?」
「ただ単に、これが最善策だったというだけです」
向けられた視線に対し、雲莉は淡々と答える。
「ミホノブルボンの強みは、トレーニングで身に着けた、常に他のウマ娘の前を走れるスタミナ。確かに脅威です。彼女が一度前に着けば、それを差すのは困難でしょう。なら、彼女を最初から前に行かせなければいい」
「だとしても、ミホノブルボンが差さないと限らな……だから大逃げなのね?」
「はい。まだスピードに乗らない序盤で、一気に差を作る。スタミナが強みなのは、ミホノブルボンだけではないと言うことですよ」
真剣な表情で語る雲莉だったが、東条は納得できないでいた。
確かに、彼女が語った理由も一理あるかもしれない。ことレースに置いては「逃げて勝つのが一番強い」と言われる。
加えて、解説が言ったようにクラウディは今まで一度も逃げをしていない。もしクラウディを警戒しているウマ娘がいたとしても、おそらく今までの傾向から、逃げを選択しないと考えていたはずだ。意表を突くには十分だろう。
問題は大逃げをする上で、菊花賞が長距離だということ。いくらスタミナが強みと言っても、最後まで持つのだろうか。
東条だけでなく、京都レース場にいる観客全員がそう思った。
しかしそれは、あっけなく裏切られることになる。
一方のターフの上でも、まさに混乱が渦巻いていた。
GⅠにでるウマ娘は揃って強豪ばかり。特定のウマ娘なんてことはいわず、全てのウマ娘の走りを分析、一応の対策は考えている。
その中で、メジロクラウディが先行、差し、追い込みのどれかで走る事はあっても、逃げで走ることはない。それが共通の認識だった。なのに今、彼女は先頭を走りその差をぐんぐんと広げていくではないか。
しかし、ほとんどのウマ娘は特に脅威と感じていなかった。なにせ、今の彼女は見た限り
スタミナのペース配分を考える必要があり、尚且つ坂があるこのレース場で、序盤にあそこまで飛ばしてしまえば最後は潰れる。そう思っていた。
しかしその中で、それとは違う考えを持っているウマ娘が二人いた。
その一人であるミホノブルボンは、サイボーグとまで呼ばれる無表情を崩し、前を走るクラウディの背中を睨んでいた。
「(大逃げを確認。それをするだけのスタミナがあると考察。……それは)」
学園でサイボーグと呼ばれるだけあって、彼女は冷静沈着が言葉が似合うが、同時に無愛想という言葉が似合うウマ娘でもある。
実際、彼女はどんな時も冷静であるのだが、そんなミホノブルボンが今、心を激しく乱していた。
「(――私よりもスタミナがあると言うこと。ですが、私とトレーナーの努力は、負けません!)」
その激情は、逆に頭の中を冷静にさせていく。激情と冷静さの矛盾した感情が、勝利への道を弾き出す。
ミホノブルボンは、元々スプリンターとしての才能があった。
しかし、彼女は元トレーナーであった父が叶えられなかった、クラシック三冠を取ることを目標としていた。そんな中で出会ったのが、今のトレーナーだった。
スプリンターとしての才能を知って尚、彼はブルボンの夢を叶えることを是とした。そのために彼女を徹底的に鍛えた。
並のトレーニングとは一線を画すようなハードトレーニング。この菊花賞を走り抜けられるほどのスタミナを得るためのトレーニングは、あのミホノブルボンをもってしても、泣きたくなるほどのものだった。
しかし彼女は堪えた。トレーナーとしての彼を信頼していたから、これが必要なことだと知っていたから。
その結果、ミホノブルボンは皐月賞、日本ダービーと2冠を達成。そしてこの菊花賞を勝利すれば、三冠の夢に手が届く。
だが目の前で、大逃げをかまそうとしているウマ娘がいる。
半分を超えたあたりでも、スピードが落ちる兆しが見えない。そしてスタート直後、一瞬見えた彼女の顔は、紛れもなく勝ちに行く表情だった。
どうせ勝てないからという投げやりでもなく、ましてや一か八かの賭けでもなく、間違いなく
それは、
「(私とトレーナーの努力を)……否定なんて、させない!!」
そしてミホノブルボンともう一人、ライスシャワーは意外にもミホノブルボンの背中を見つめていた。
「(ついてく……ついてく……ついてく……)」
ただ一心に、前を走るブルボンの背中を追う。
皐月賞での走りを見て、彼女を明確な目標としてきた。時には、彼女のトレーニング中に密かに後ろを走ることで、感触を確かめてきた。
もっとも、それもバレていたのか、菊花賞前には宣戦布告されもしたが……まあ、些細なことである。
とはいえ、クラウディの事を意識していなかったかといえば、それもない。彼女に挑戦状を叩きつけたのは、他ならぬライス自身だ。
しかし、ミホノブルボンが先頭で立ち上がると思っていたライスは、見事に虚を突かれた。
だからといって、クラウディを意識しすぎれば明らかにペースが呑まれてしまう。だからこそ、当初の予定通りブルボンの背中を追うことにした。
ブルボンは三冠を取れるか取れないかの瀬戸際にある。そんな時に、大逃げのウマ娘が出てくれば、彼女は間違いなく離されないために前に出る必要がある。
後は、それに自分が食らいつけるかどうか。
「(クラウちゃんに、負けたくない!)」
そして、そんな二人の前を行くクラウディは、雲莉の立てた作戦に舌を巻く思いだった。
さいしょこそ、この作戦が通用するか分からなかったが、日々のトレーニングを経てそれは自身に変わっていた。
「(スタミナにはまだ余裕がある。この調子で行けば良いけど、油断は出来ない)」
なんせ後ろには、2冠ウマ娘のミホノブルボンがおり、その後ろにもライスシャワーがいる。
雲莉の研究結果では、ミホノブルボンは強靭なスタミナが、ライスシャワーにはメジロマックイーンにも劣らないステイヤーとしての才能があると出ている。
タキオンの教えてくれた走法が無ければ、先頭にも出ることが出来ず、才能でも劣るクラウディは油断をする暇などない。
「(それに……)」
今の段階で、クラウディはほぼ全力で走っている状態だ。
ミホノブルボンに差されることは、それは全速力で走っても差されることと同義だ。そうなると、差し替えすことは無理だ。
『さあ第2コーナーカーブを過ぎて、先頭は依然としてメジロクラウディ。その差は約10バ身ほど。続いて本日の一番人気ミホノブルボンが続きます』
『そろそろ終盤に入ってきます。メジロクラウディのスタミナは大丈夫でしょうか』
「――はぁぁぁああああああ!!」
『ここでミホノブルボン、さらにスピードを上げてきたー!』
「(やっぱり来た!)」
背後からの圧が増えたことで、ブルボンの加速に気づいたクラウディは、次の行動に入る。
「誰よりも速くは無理でも、この直線を――駆け抜ける!」
――
何故かその言葉が頭に浮かんで、消えた。
『来たぞ来たぞ来たぞ! 先頭メジロクラウディ。
雲莉と出会う前のクラウディが、参考のためと見続けてきた多くのウマ娘のフォーム。その中から、
「ッ! まだ、まだぁぁぁあああああ!!」
『しかしミホノブルボンも負けてない! あのミホノブルボンが! あのミホノブルボンが! 鉄仮面を壊して走る! まだ加速するのかミホノブルボン!』
『他のウマ娘もよく食らいついています!』
ミホノブルボンの思わぬ一面に、叫ぶ実況。
そして加速するブルボンに、
だがそんなことを気にする余裕など、とうの昔から彼女にはない。夢や目標も、彼女の頭にはすでにない。ただ、トレーナーとの努力を否定されたくないと、その思いだけで足を動かす。
『まもなく第3コーナーに入ります! しかし京都レース場には坂がある!』
『ミホノブルボンはこの坂で詰めたい所です』
「(ここで! ここで一気に近づきます!)」
ブルボンが行ってきたトレーニングには、もちろん坂を駆けあがるトレーニングもある。学園近くにある地獄の坂道を、何往復もしたのだ。こと坂道を駆けあがる速度には、この菊花賞に出ているウマ娘全員に優っている自負がある。あの成果を発揮する時が来たのだ。
しかし
「(坂道……坂道……坂道なら、これで!)」
――
また、クラウディの頭に浮かんで、消えた。
『続々と坂を駆けあがる! しかし先頭との差が縮まらない!』
「(……そん、な……!?)」
縮まらない差に、さしものブルボンでも心がくじけそうになる。けれど、それをグッと堪え足を踏み出す。
もはや夢も目標も関係ない。トレーナーと築き上げた自分の全てを、この場で使い切る――否、使い潰すつもりで走り抜ける。
その必死の思いが通じたのか、徐々に徐々に、ブルボンとクラウディの差が縮まって行く。
その事実に焦るのはクラウディだ。元々、実力で言えばブルボンが上なのだ。それを騙し騙し走って、先頭にいるに過ぎない。
「(このままじゃ抜かれる! これならッ……!)」
――
もう、気にしている余裕はなかった。
再びフォームを替え、最終コーナーを曲がる。
「(速度を緩める余裕は無しと判断。危険度上昇……ですが、やるしかないと判断します!)」
しかしブルボンも譲らない。一切足を緩めず、危険とも呼べる速度でコーナーを曲がる。その様子に観客の一部からも悲鳴が上がる。
もしこけたら、故障したら、なんて考えはブルボンにはない。これが最善だと判断したから走るのだ。きっとレースが終わったら、トレーナーに叱られるだろう。
「(ですが、トレーナーの指示を受けた私ならば、出来ると断定!)」
『最終コーナーを回って、最初に立ち上がったのはメジロクラウディ! 後ろとの差は約6バ身!』
「ここで、差すッッ!!!」
さらにギアを上げるミホノブルボン。
「まけ、ない!」
――全身全霊。
だがメジロクラウディも残った力で、加速する。終盤に強いウマ娘のフォームを取り、ゴールを目指す。
しかし、少しずつミホノブルボンが差を縮めてきた。
『最後の直線! 食らいつくミホノブルボンが差を縮めてきた! しかしメジロクラウディも逃げる! 差すのか!? 逃げるのか!? この結果はどうなる!!』
「「はぁぁぁぁあああああああああああ!!!」」
もはや絞りつくさんと言わんばかりに声を張り上げ走る二人。
このレースは二人が中心となって進んでいるといっても過言ではなかった。
しかしレースに絶対はない。
ここで
一つ目。
クラウディはゴールまでの直線を、ひたすらに、がむしゃらに走っていた。
「(この最後の直線を、逃げ切れれば!)」
勝てる、と考えるよりも速く、
「がんばれー! ブルボーン!」
「ブルボン負けないでー!」
「もう少しで三冠だ!」
「追い抜いてやれー!」
「無敗の三冠ウマ娘になるところを見せてくれ!」
「
「―――――――――――」
ほんの一瞬だった。ミホノブルボンとの戦いの中で、極限状態の集中をしていたクラウディには、聞こえる筈のない
だが、勝利することを意識した際の、一瞬の気の緩みで鼓膜から入ってきた膨大な情報の中から、それがハッキリと分かってしまった。
きっと、誰も悪気はないのだろう。悪意はなかったのだろう。
だけど、クラウディは
――――爆発加速。
今日
二つ目。
「(あ……ああ……!)」
遠くなる背中を見つめ、ミホノブルボンは顔がクシャリと歪むのが分かった。
それは夢が叶わなくなることを悟ったからか、トレーナーとの努力が負けたからか、それとも……
しかしそれでも足は止まらない。スピードに乗りに乗ったこの足は、もはやゴールまで緩まることはないだろう。
「(私の負け、ですか……)」
負けたというのに、三冠が叶わなくなったというのに、どこか晴れやかな気持ちだった。
この時、ミホノブルボンのレースは彼女の中で
それが、この想定外を生んだ。
「やぁぁああああ!!」
「ッ! ライス、さん……?」
当たり前だが、このレースは、菊花賞は、二人だけで走るものではない。
故に、二人の後ろにはウマ娘がいるのだ。
ブルボンの横を、黒い影が抜き去った。
『ゴォォォオオオオルッッ!! 1着でゴールしたのは、メジロクラウディ! 2着ライスシャワー! 一番人気のミホノブルボンは3着という結果になりました!』
これが、後に『悪夢』と呼ばれるレースである。
努力をしたあの娘が差されたのはウマ娘にではない。才能にだ。
途中に出てた「百万バリキ」。あれ差し専用スキルだろとかいうツッコミは無しでお願いします。
ネタバレ
・誰が『悪夢』と呼ぶかは分からない。