シャチョーみたいなウマ娘に「粉砕!玉砕!!大喝采!!!」とか言わせてみたいけど、ボツった。
――ライスがまた不幸にした。
ライスが彼女を誘ったから、みんなが彼女を責めて、ブルボンさんも不幸になって……。
ごめんなさい……ごめんなさい……
◇◇◇
「はぁ……」
ため息が口をついて出る。
ブルボンさんのお見舞いから数日、私はとあることに悩んでいました。
別に菊花賞のことで虐められたとか、何かしらの実害を受けたわけではありません。
むしろ、トレセン学園はレースがある関係上実力主義なところがあるので、トレセン学園の生徒やトレーナーたちは既に過去のこととしているような節がある。
もっとも、それが全ての生徒・トレーナーに当てはまるというわけではありませんが、今はどうでもいいです。
閑話休題。
「私、ライスさんに何かしてしまったでしょうか……」
最近、やけにライスさんに避けられる。
菊花賞後に何度かお会いすることがあったのですが、その全てで避けられてしまいます。出会った拍子に叫びながら逃げられた時は、本当に堪えました。
しかしなぜ急に避けられて……?
まさか菊花賞で負けて、ということはないでしょう。私に勝負を挑んできたのはほかならぬライスさんです。負けたから無視……というか逃げることは、ライスさんはしません。
では他に何か理由がある?
うんうん唸りながら歩いていると、目の前をライスさんが通り過ぎた。それを見送りながら理由を考える。
やはり私が何かしてしまったのでしょうか。それならちゃんと謝らないと。ライスさんは私が立ち直るきっかけをくれました。だからこそ……え?
「うひゃぁぁぁぁ!!」
「ライスさん!? いた!」
何故か悲鳴を上げながら走っていくライスさん。
さすが菊花賞終盤でブルボンさんを追い抜いたウマ娘というべきか、あっという間に見えなくなってしまった。
ああ……せっかく会えたのに……。
耳を項垂れさせてがっかりしていると、後ろからギュィィィンという機械的な音が聞こえてきた。
私はこの音を知っている。この音はゴールドシップさんが乗っているセグウェイの音です。つい先日聞いたので間違いありません。その時は何故か日帰りでマグロ漁に連れて行かされましたが……。
「ゴールドシップさん、もう私はマグロ漁には」
「クラウディ?」
「クラウディさん?」
まためんど、奇抜なことをさせられるのかと戦々恐々しながら振り返ると、そこにいたのはテイオーさんと、セグウェイに乗ったブルボンさんだった。
「……ライスさんが春の天皇賞に出ない?」
「うん。マックイーンがライスがそう言ったのを聞いたんだ。だから理由を聞こうと思って。ブルボンにも協力してもらってるんだけど」
「はい。テイオーさんからオーダーを受けました。ですが、どういうわけか逃げられてしまいます」
心なしかシュンとした顔で俯くブルボンさん。しっぽや耳も垂れてしまっている。
お見舞いに行った時から思っていましたが、この人は意外と感情表現が豊かのようです。
「それにしても、テイオーさんたちもなんですね」
「ということは、クラウディさんもですか」
「はい。私は菊花賞後からですけど」
「……もしかして」
「テイオーさん?」
「あいや、何でもないよ」
うーん……とどうするか3人で悩みつつ、私たちは結局解散するのでした。
……そういえば、どうして理由を聞こうとしてるんでしょうか?
◇◇◇
「な、なんでこんなことするんですかぁ……」
「ごめんね。でも、何があったか聞かせてほしいんだ」
私は今、スピカの人たちに拘束されてしまっています。麻袋で誘拐されたと思ったら、ひもでぐるぐる巻きにされて、目の前にかつ丼を置かれて……なんですかこれぇ……。
「ライスが春の天皇賞に出ない理由、教えてほしいんだ」
「言ったら、帰してくれますか?」
『うんうん』
少しだけ迷って、私は話すことにした。
――昔からずっと、キラキラした奇麗なものが憧れだった。
デビュー戦のレースで勝ったら、みんなが笑顔になってくれた。私も笑顔になった。だんだんレースが楽しくなって、もっとみんなが笑顔になって欲しかった。
『ミホノブルボン、逃げ切って今ゴールイン! 無敗で皐月賞を制しました!!』
そんな中でブルボンさんは、とてもキラキラしてた。そんな風になりたかった。
レースで勝って、憧れの背中に追いつきたかった――
「じゃあ、菊花賞でブルボンに勝ったから……?」
テイオーさんの言葉に、頭を横に振る。
――私の憧れのウマ娘は、もう一人いるんです。
それがクラウちゃん……メジロクラウディ。
まだデビューする前、レースに出ることを怖がっていたとき、クラウちゃんから勇気をもらった。
大きなものじゃない。ちっちゃくて、ほんの少しの勇気だったけど。ライスにとっては、とても頼れる大切なものだった。
ブルボンさんとはまた違うキラキラを持ってて、憧れのもっと上、羨ましかった。
だって、ライスが落ち込んでいるタイミングで、絵本の王子様みたいに元気づけてくれて……ずるい。
ああやって、元気づけてくれたクラウちゃんが、そんなことができるクラウちゃんが羨ましかった。
だから、クラウちゃんが菊花賞に出ないって聞いて、でもライスはレースで一緒に走りたかった。ライスの一番得意な長距離レース。あの時元気をくれたライスが、こんなにできるんだって知ってほしくて。
結果は最悪だった。
クラウちゃんに負けちゃったのは、仕方ないと思った。それだけなら良かった! でも、ライスがわがままを言ったせいで、クラウちゃんはライスやブルボンさんに勝って、なのに誰も笑顔にならなかった。
クラウちゃんに負けたけど、憧れのブルボンさんに勝てて嬉しかった。クラウちゃんが一位なのも嬉しかった。
……だけど、誰もそんなの望んでなかった。
みんなブルボンさんの勝利だけを望んでて、ライスやクラウちゃんが勝つところなんて望んでなかった。
ライスなら良かった! ライスが我慢するだけなら良かった。でも、みんながクラウちゃんの勝利を否定して、認めなくて!
ライスの我が儘のせいで、クラウちゃんがみんなから悪く言われる!
今も、たまに夢に見るんです。クラウちゃんがみんなに責められて、それがだんだん酷くなっていく夢。最近はクラウちゃんがライスに恨み辛みを叫んで、ライスから離れて行って……ただの夢だって分かってる。それでも、頭からそれが離れないでいる――
「――ライスがブルボンさんたちの夢を壊して、みんな悲しんで……春の天皇賞は、みんなマックイーンさんの3連覇を期待してる。そんなレースで勝っても、誰も幸せにならない」
だから
「みんなを不幸にしてしまう。みんなの幸せを祝う、ライスシャワーという名の自分が……」
『(重い……)』
「だからライス、もう走らないです。これ以上、関わらないでください」
ぐるぐる巻きにされたまま立ち上がり、後ろ手にドアを開けて外に出る。
理由を話したことで溢れ出しそうになる何かに蓋をするように、ドアの締まる乾いた音が聞こえてきた。
◇◇◇
ライスから話意を聞いて、さっそくボクはマックイーンにライスの話をした。
そもそも、ライスから話を聞こうとしたのは、マックイーンが集中できないだろうからと思ったからだ。
次の春の天皇賞。マックイーンはライスシャワーを一番の強敵として見てる。
クラウディじゃないのが意外だったんだけど
『確かにあの娘は菊花賞を勝ちましたが、同時に手の内を見せすぎましたわ。確かに家族として大切で大切で仕方ありませんが。それこそあの娘を泣かせるような輩はただではおきませんが、レースに至っては別です。あの娘の走りは既に分析済みです。なんといっても、家族ですから。ですがライスシャワーさんは違います。彼女がどれだけの走りを本番でしてくるか……くっ! 菊花賞を見に行けていたら! どうしてクラウディの活躍が生で見れないのですか! あの娘の走りは私の手で記録に残したいというのに何で毎度毎度――(以下略)』
確かにボクもクラウディの走りは、なんというか、すごい大変そうに思った。
だからマックイーンの気持ちもわかる。
話を戻して、ボクの話を聞いたマックイーンは一言。
「そうだったんですの」
「気持ちは分からなくもないよ。今まで頑張って走ってきて、認められないのは悲しいもん」
クラウディから避けられていると聞いた時から、薄々察しはついていたけど、それ以上に深いものだった。
何よりクラウディのことを自分のことの様に思っているからか、より話がややこしくなってる感じがする。
……クラウディはボクの大切な人なのに……
「……確かに、クラウディの菊花賞は祝福されるべきだと思います。ライスさんが気に病むのも仕方ないでしょう。ですが」
「?」
「だからと言ってレースから逃げるのは、ウマ娘として間違っていると思いますわ」
「マックイーン……分かった。ボク、ライスに出走するよう説得してみるよ! 後悔しないでよ?」
「構いませんわ。それに、ライスに舐められっぱなしは癪ですもの」
「え?」
「自分が勝ったら誰も喜ばない? 不幸にしてしまう? 走る前から勝つつもりかしら?」
「あはは……」
マックイーンはどうやらやり合うつもりらしい。
だけど、ボクも同じ考えだ。今のままじゃ、レースを嫌いになったままかもしれない。
それはとても、悲しいよ。
「オッケー! 任せといてよ!」
「ええ。ライスさんのこと、お願いしますわ、テイオー」
こうしてボクは、マックイーンからライスのことを任されることになった。
「――なるほど。そういうことだったんですね」
どうやら、そう簡単にはいかないらしい。
ブルボンがライスを追いかけるのは、スピカが拉致してからですが間違えました。直すと無駄に引き延ばしちゃうのでこのままでいきます。