メジロ家の落ちこぼれ   作:神咲胡桃

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何でブルボン来ねえんだー!

あ、誤字脱字報告ありがとうございます!


6帝王と恐怖の曇らせ大魔王

――別に、気になったのに特別な理由なんてない。

 

 

「ふっ、ふっ、ふっ……!」

 

ただ、気付いたらそこにいて、とても気になった。

 

「ねぇねぇ!」

 

だから声をかけた。

 

「はい? なんですか?」

 

だけど、もしかしたら……

 

「ボクとさ、並走してよ」

 

それが、大きな間違いだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「一人でやるのも、味気ないなぁ……」

 

その日、ボクは一人でグラウンドを走っていた。

いつもならトレーナーなり他のチームメイトなりいるんだけど、どんな巡り会わせか、今日はボク一人だった。

 

別に皆から嫌われてるわけじゃないよ!

トレーナーが外せない用事との事で今日は休みの日になって、ボクは自主トレーニングをすることにして、偶々誰ともタイミングが合わなかったってだけ。

 

無敗の三冠ウマ娘を目指しているボクにとって、一人で自主トレーニングするのは初めてじゃないし、間違っても味気ないなんて思わない。

でも、この時だけはなぜか物足りないって、そう感じた。

 

緩んだ気を引き締めるために頬を叩き、再びトレーニングを始めようとした時、視界の隅に一人のウマ娘が映った。

 

「……え?」

 

何でかは分からない。

 

だけどボクは、カイチョーの走りを初めて見た時のように、彼女の走りに()()()()()()

 

「――――ねぇねぇ!」

「はい? なんですか?」

「え? マックイーン!?」

 

気づけば僕は、彼女の元に声を掛けていた。

 

そして驚いた。

 

声を掛けたウマ娘が僕のライバル、メジロマックイーンだったから。

だけどそれは、眼の前の彼女に否定された。

 

「私はマックイーンおね……コホン。マックイーンさんではありませんけど」

「ああ、いやごめん。その、あまりにも似てたから!」

 

良く見れば確かに顔立ちは似てるけど、髪の長さとか色とか、あと身長とかも違う。

胸の大きさは同じだけど。

 

彼女の胸に向けていた視線に気づいたのか、眼の前の彼女はこてんと首を傾げた。

 

「どうしましたか?」

「え!? あいや、なんでもないよ。アハハ……」

 

うっ!?

彼女の純粋な目が痛い!

マックイーンと比べちゃったのも悪かったなぁ。

 

「それで、何かご用ですか?」

「そうだった。あのさ、ボクと並走しない?」

「並走、ですか」

 

ボクと彼女はチームメイトってわけじゃないけど、基本的に自主トレーニング中、異なるチーム間で一緒にトレーニングすることは良くあることだ。

 

チームが違うトレーナーが、別チームのウマ娘を指導することは良い顔をされないので、さすがにトレーナーが付いているトレーニングだと、相手側のトレーナーの了承を取る必要がある。

けど、自主トレーニングなら大目に見られる傾向にある。

 

誘われた方からすれば将来競うかもしれない相手の実力が見れるし、何より大抵のウマ娘は一人でやるより、大勢でやった方が集中力が続く。

 

ま、今回のボクみたいに初対面の相手に申し込むのは、あまりないだろうけどね。

 

「私は……構いませんけど」

「……自分から聞いといてなんだけど、トレーナーに聞かなくていいの? ほら、自主トレーニングって言っても、人によっては良い顔しないし」

「大丈夫です。……トレーナーいませんし」

 

トレーナーがいない?

あそっか、ボクと同じで用事で外してるってことかな?

 

「じゃあ大丈夫だね! ボクはトウカイテイオー! よろしくね!」

「……メジロクラウディです」

「じゃあクラウディ。まずは、軽く大回り一周! ほらほら、行くよ!」

 

勢いよく走りだしたボクの後を、クラウディが付いてくる。

 

この時、ボクは楽しみにしてた。

もしかしたら、目を奪われたさっきの走りを見れるんじゃないかって。

ただの勘だけど、クラウディと一緒に走ったら、何か得れるかもしれないと思った。

 

だけど、そう都合よくはいかなかった。

そんなスピードを上げていないにも関わらず、半周した辺りからボクとクラウディの差が離れ始めた。

 

クラウディはボクが走り終わってから、三分ほど遅れて走り終わった。

 

う~ん、おかしいな。

あんなに()()()()()()をしていたクラウディが、ここまで遅れるかな?

 

頭を捻った結果、多分スタミナが無いのだろうと考えたボクは、息切れしてるであろう彼女に声を掛けようとして、違和感に気付いた。

 

「遅れてすいません」

「別に構わないけど、大丈夫?」

「はい。大丈夫です」

 

クラウディは、少しも()()()()()()()()()()

 

もしかして手を抜いていた?

そんなタイプには見えないけど。

 

自分の考えと誠実そうな彼女の見た目とのちぐはぐさで、余計に彼女が気になった。

 

「それじゃ、次は直線だ!」

「頑張ります」

 

結局、この日は彼女のスタミナが切れることはなく、ボクが見惚れた走りをもう一度見ることは叶わなかった。

 

互いに礼を言い、その日は解散となった。

 

 

メジロクラウディ。

マックイーンと同じくメジロの名を持つウマ娘。

 

彼女のことが気になったボクは、部室に戻っているであろうトレーナーに、彼女のことを聞いてみることにした。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて、()はトレーニングに励んでいた。

 

「ふっ、ふっ、ふっ……!」

 

ここ最近変わったことと言えば、ゴールドシップさんがやけに絡んでくること。

 

熱中症にやられて倒れた私を介抱してくれてからというもの、あの人は私に話しかけてくるようになった。

 

ただ、その度にハチャメチャな行為に巻き込むのはやめてほしい。

この前なんか、水の代わりに牛乳を詰めたペットボトルロケットで火星を目指そうとして、なぜか私に導火線に火をつけさせてきた。

 

しかも何故か大量の火薬が入ってたらしく、火を付けた瞬間ペットボトルロケットは爆散。

犯人曰く「宇宙に行くにはメッチャぶっ飛ばさないとな!」だとか。

火薬と言ってもダイナマイトみたいなものじゃなくて、ただ音が派手なだけで、被害も牛乳が撒き散らされただけだった。良かった。

 

ちなみにこの後、生徒会室に呼び出され、聴取を受けた。

私は巻き込まれただけと言うことで無罪、ゴールドシップさんはお説教らしい。

生徒会長はいなかったが、副会長は怖かった……。

 

話を戻そう。

 

トレーニングに励んでいると、いきなり見知らぬウマ娘から声を掛けられた。

 

「ねぇねぇ!」

 

振り返ると、そこには如何にも快活そうなウマ娘がいた。

 

「はい? なんですか?」

「え? マックイーン!?」

 

あーこれいつものか。

 

私の顔はマックイーン姉さまと似ているためか、たまにこうやって驚かれる。

多分、この子も勘違いした口だろう。

 

私はなるべく眼の前の子を刺激しないように、マックイーンでないことを伝える。

前に同じような状況の時があって、ブチギレられたことがあったからである。

えぇ……?

 

幸いなことに、眼の前のウマ娘は受け入れてくれたのだが、何故か彼女の視線が私の胸に向けられていた。

 

「どうしましたか?」

「え!? あいや、なんでもないよ。アハハ……」

 

誤魔化すようにあいまいに笑う彼女は、どことなく気まずそうな表情だった。

 

「それで、何か用ですか?」

「そうだった。あのさ、ボクと並走しない?」

「並走、ですか」

 

彼女の誘いに、私は目を丸くした。

 

確かに、ウマ娘同士でのトレーニングは禁止されていなかったはずだ。

 

とはいえ、せっかくのお誘いだが断らせてもらおう。

誰かとするトレーニングに興味はあるが、彼女ほど明るい人物なら誘える友達ぐらいたくさんいそうなものだが。

 

あれか?

この子もボッチなのか?

 

というか、普通は仲の良い者同士でやる事ではないのだろうか。

ちなみに、ほとんど友達のいない私は誰かと一緒にトレーニングなどしたことない。

 

……別に悲しくなど、ん?

これもしかして、友達作るチャンスでは?

一緒にトレーニングすれば、友達になれるんじゃないだろうか。

 

……よし。

 

「私は……構いませんけど」

「……自分から聞いといてなんだけど、トレーナーに聞かなくていいの? ほら、自主トレーニングって言っても、人によっては良い顔しないし」

「大丈夫です。……トレーナーいませんし」

 

許可を取るようなトレーナーなんていませんし。

 

そんな風に思っていたら「じゃあ大丈夫だね!」と元気良く返された。

そこは申し訳なさそうにするところでしょ。

 

「ボクはトウカイテイオー! よろしくね!」

 

友達のいない私でも、その名は聞いたことがある。

 

トウカイテイオー。

トレセン学園に入学してから、今まで無敗の戦績を誇るウマ娘。

無敗の三冠ウマ娘になることを公言しており、実際それだけの実力を持っている。

たしか、どこかのチームにも所属していたはずだ。

 

「……メジロクラウディです」

「じゃあクラウディ。まずは、軽く大回り一周! ほらほら、行くよ!」

 

一瞬、ほんの一瞬、彼女に対して良からぬ感情を抱きそうになったが、それを抑え込むのもそろそろ慣れてきた。

彼女のトレーナーが居ればどうなるか分からなかったが、この場に居ないのならどうにかなる。

 

気分を落ち着け、走り出したテイオーさんの後を追う。

 

 

 

彼女ほどの実力者と同じペースで走れないと分かっていた。

分かってはいたが、この結果は私にとってひどいものだった。

 

途中から彼女との差はどんどん開いていき、最終的には三分ほども遅れてしまった。

 

「遅れてすいません」

「別に構わないけど、大丈夫?」

「はい。大丈夫です」

 

はぁ……やってしまった。

 

テイオーさんに飽きられてなきゃいいけれど。

 

「それじゃ、次は直線だ!」

「頑張ります」

 

 

 

…………

 

 

 

 

数時間後、空もすっかり茜色に染まった頃。

 

「それじゃ、今日はこれくらいにしよっか!」

「……はい。ありがとうございました」

 

テイオーさんは速かった。

あの後色々なトレーニングを試したが、その全てで彼女より後れを取っていた。

 

さすがは無敗の三冠ウマ娘を目指しているだけはあって、私なんかでは練習相手にもならなかった様だ。

 

「お礼を言うのはボクの方だよ。付き合ってくれてありがとう! それじゃあ、またね!」

 

そう言って、彼女は手を振りながら帰って行った。

 

愛嬌があって、快活で、純粋で、夢があって、そして実力がある。

 

そんな彼女とのトレーニングを終えて得たのは、今のままでは彼女のようなウマ娘には敵わないという事実と、そんな彼女への嫉妬だった。

 

これには、相も変わらず嫉妬ばかりだな、と自虐する程度には慣れてしまった。

 

 

 

 

………………泣きたい。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいまー!」

「おーう。お帰り―」

 

クラウディとのトレーニングを終えて、部室に帰って来たボクを迎えたのは、ボクが所属するチームスピカのトレーナー。

 

「ねぇねぇ、トレーナー。聞きたいことがあるんだけど」

「ん? 聞きたいこと?」

 

トレーナーが書類とにらめっこしていた顔を上げると、いつも加えている棒付きキャンディーが見える。

 

「メジロクラウディっていうウマ娘、知ってる?」

 

トレーナーは記憶を探るように目を閉じて、だけどすぐに頭を横に振った。

 

「いや、知らないな。聞いたことない名だ」

「そっかぁ……」

「というかメジロならマックイーンに聞けばいいだろ」

 

メジロマックイーン。

ボクの最大のライバルで、天皇賞(春)を優勝する少し前に()()()()()()()()()()

 

あの時、他の皆は納得してエールの言葉を掛けていたけど、ボクだけは納得できなかった。

なんで抜けるのかって問い詰めても、マックイーンは何も言わなかった。

 

その時のことがあって、ライバルと言っている今でも、少し話しづらい。

 

「おーっす! ゴルシちゃんのお帰りだー! ……ん? 何の話してんだ?」

 

マックイーンから話を聞くことを躊躇っていると、部室の扉を勢いよく開け、ゴールドシップが入ってきた。

 

「おお! ゴールドシップ、お前メジロクラウディって知ってるか?」

「おん? クラウディのことか?」

「知ってるの!」

 

クラウディを知っているっぽいゴールドシップに、ボクは思わず詰め寄る。

 

「何だよ?」

「知ってること教えてほしいんだ!」

「……あー、そりゃ構わねえけどよー」

 

頼み込むボクに、だけどゴールドシップは悩む素振りを見せる。

 

だから、どうしてボクがクラウディのことを知りたいか、彼女の走りに見惚れたことは言わずに、ゴールドシップに教えた。

 

「あー、既に話したのか」

「しっかし、自主トレとはいってもテイオーのトレーニングについていくとはなぁ。しかも聞いた話じゃ、遅れる事はあっても息を乱すことはないのか」

 

話を聞いていたトレーナーも、興味深そうに顎を擦る。

 

ボクはそれを見て、なんだか嬉しくなった。

 

「そりゃ俺も気になるな」

「でしょ! だからお願いゴールドシップ!」

「うーん。まぁ、しゃあねえか。うし! 教えてやる。ただし、これだけは守れ。今からする話は、みだりに人に話すな。スピカのメンバーにもだ」

「? うん、分かった」

 

何故ゴールドシップがそんな条件を付けるのか分からなかった。

 

でも、ゴールドシップの話を聞くうちに、その理由が分かっていった。

 

「そんな……」

「……まぁ、そういうわけで、クラウディはトレーナーが付いていない。おまけに成績も振るわないから、あんまり他人に話はしない方がいい」

「そりゃたしかに渋るわな。悪いなゴールドシップ。無理に聞いちまって」

「(本当はマックイーンのこともあるんだが……これは言わない方がいいか)」

 

トレーナーとゴールドシップが話してる内容が耳に入らなかった。

 

それじゃあ、クラウディが「……トレーナーいませんし」って言ってたのは、トレーナーがそもそも付いていなかったから?

 

それにあの時、ボクなんて言ったっけ?

「じゃあ大丈夫だね!」って、笑顔で言ったんじゃないか?

 

さっきのクラウディとの会話を思い出して、後悔の念があふれ出てくる。

 

「テイオー、お前が何を言ったのかは聞かねえ。だけど、後悔できてんなら、あいつだって許してくれるさ」

「うん……」

 

ゴールドシップがフォローしてくれたけど、ボクはもしもの想像が頭から離れられない。

 

初めてカイチョーの走りを見た時みたいに、最初に見たクラウディの走りに見惚れた。

でも、そんな彼女に嫌われたてたら? 

そう考えると、なんだか胸の奥がキュゥってする。

これ、なんなんだろ……。

 

「とりあえず、今日はもう遅い。そろそろ寮に戻れ」

「……うん。それじゃあね、二人とも」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

力なく帰って行くテイオーを見届けた後、トレーナーはゴールドシップに尋ねた。

 

「なあ、ゴールドシップ。そのメジロクラウディ、勧誘できるか?」

「やだ」

 

トレーナーの問いを、ゴールドシップは即切り捨てた。

 

「あいつは、そういうんじゃねえんだよ。あたしも上手く言えねえけど」

「そうか……。なら、テイオーのメンタルをケアしてやってくれ。俺がするべきなんだろうが、俺もあいつと同じくせがんじまったからな。お前の方がまだマシかもしれん。ひとまず、近々あるレースに引っ張らないようにしてやらないとな」

「ああ。任せときなって」

 

スピカの部室は、暗い雰囲気に包まれるのだった。

 

 

 




トウカイテイオー

無敗の三冠ウマ娘を目指して成長するウマ娘。
雲ちゃんの走りを見て、何故か見惚れてしまう。
マックイーンが正ヒロイン、ライスが裏ヒロインだとして、テイオーは隠しヒロイン。


ゴールドシップ

雲ちゃんの介抱の一件以来、何かと構うようになる。
が、変なことに巻き込むせいで雲ちゃんからはちょっとだけ引かれ気味。
何気に気遣いの出来る優秀な子。カッコイイ。


メジロマックイーン

実はチームスピカに所属していたが、現在は脱退し、ある時に知り合ったトレーナーと専属トレーナー契約を結んでいる。
スピカのメンバーとは今でも仲は悪くないが、その際テイオーと少し確執がある。



風のうわさで、トレーナーに名前付けると評価下がるって聞いたんで名前付けてないんですけど、最後に出て来たトレーナーはぶっちゃけ沖野トレーナーです。
だから名前付けても良いよね……?

ウマ娘SSは読んでるんで、ある程度の知識はあります。
ただ、話し方とかキャラの呼び方とか違うところがあると思うので、その時は優しく教えて下さるとうれしいです。

雲ちゃん視点の時の地の文はどっちがいい?

  • ライスシャワー回の時みたいなやつ
  • トウカイテイオー回の時みたいなやつ
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