メジロ家の落ちこぼれ   作:神咲胡桃

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タキオン、可愛いよタキオン。




8マイルドサイエンティスト

足を動かす度に、ジャリッと音が鳴る。

 

主要な施設周りのように、コンクリートで舗装された道とは違う感覚を感じながら、アグネスタキオンはとあるグラウンドに向かっていた。

 

木々が立ち並ぶ道を抜けると、開けた場所に出た。

そこには、いささか整備がされていないグラウンドがあり、そこを一人のウマ娘が走っていた。

 

「おーい!」

「……? タキオンさん、こんにちは」

 

走っていたウマ娘――クラウディはタキオンの声に気付くと、足を止めてペコリと挨拶する。

 

「待たせてすまないね」

「いえ、大丈夫です。それじゃあ、お願いします」

 

クラウディはベンチに座ると、靴と靴下を脱ぐ。

さらにジャージのズボンの裾を引き上げて、しなやかな健脚を晒す。

 

見せびらかされる素足を、タキオンはジーッと見つめる。

その視線に込められているのは、果てしない興味のみ。

 

「……ふむ。どこか痛いところがあったりしないかね?」

「いえ、特にはないです」

 

その他にも軽く質問を投げかけた後、タキオンは差し出されたクラウディの右足に触れる。

 

「ふむふむ」

「ッ……!」

 

最初は爪先、次は足の甲、土踏まず、踵、くるぶし、足首、ふくらはぎ、そして太ももへと登って行く。

 

ペタペタと無遠慮に触られていくクラウディは、右手を口に当てて声を出さないように我慢する。

 

「足を動かさないでくれ。測れないだろう」

「ご、ごふぇんなひゃ……ッッ!!」

 

しかし、声を我慢する分、口で我慢した衝撃で身体がピクリとかすかに跳ねる。

 

それをタキオンに注意されながら、クラウディは羞恥に身を焦がす。

 

 

 

そうして耐えること数分、クラウディはクタクタになりながら、ベンチに寝そべっていた。

 

タキオンはクラウディの足を触って気づいたことを、持ってきていたタブレットに打ち込んでいる。

 

「中々興味深いデータだ。私の実験の役に、ぜひ立ってくれるだろう」

「……本当、ですか?」

「どういう意味だ?」

 

満足げなタキオンに、クラウディが恐る恐る尋ねる。

 

不安そうに揺れる彼女の瞳に、タキオンは疑問を感じた。

 

「その、タキオンさんに協力して貰っても、全然速くならないし、未だに勝てていませんし……。本当に、タキオンさんの役に立ってるのかなって思って」

 

俯きながらポツポツと語るクラウディに、タキオンは思案する。

 

 

そもそも、彼女は大きく()()()()()()()

 

タキオンにとって、これはただの取引に過ぎない。

クラウディには、彼女が願ったように速くなれるよう、タキオンの研究の成果を彼女に施している。

その代わり、その研究の成果を彼女で試す。

 

彼女に書かせた同意書にも、その旨は記載されている。

ここを適当にすると、後が面倒だからだ。

 

もっと言えば、タキオンにとってはデータの採取が目的なのであって、クラウディが勝とうが負けようがどうでもいいのだ。

 

 

しかし、この時のタキオンは偶々、偶然、クラウディの言葉に釣られて手元のタブレットに視線を落とした。

 

「(未だに勝てていない? 妙だな。彼女から得たデータでは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

しかしタキオンはその疑問をすぐに頭から消し、作った笑顔でクラウディに話す。

 

「まだ私の肉体改造が馴染んでいないのかもしれないね。それじゃ、私は研究の続きがあるから、お暇させてもらおう」

「あ、ありがとうございました」

「何か違和感を感じたら、すぐに私に言いに来ると良い」

 

タキオンはグラウンドから出ていくと、ある程度の所で振り返る。

 

視線の先では、クラウディがトレーニングを再開していた。

 

「簡単に壊れてくれるなよ。モルモット2号くん……?」

 

浮かべた本物の笑みには、隠しようのない狂気が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

その日、私はいつものように研究室で研究に励んでいた。

 

「ほう、ほうほうほう! もう少しだ。もう少しで……!」

 

ウマ娘の可能性の先を見るという目的のため、日々モルモットくんを使って研究を続けていた。

そして今日、そのためのピースとなる研究がまとまろうとしていた。

 

だが、そんな時に限って邪魔は入るものだ。

 

――コンコン

 

「……一体誰だ?」

 

今日はトレーニングは休みで、モルモットくんは「今日は休ませて!」と言っていたから、モルモットくんは違う。

 

何で今くるんだと、若干の怒りが湧き上がり、そのまま無視してやろうかと思った。

だが、さっきまで張りつめていた集中の糸がノックの音で切れてしまい、なんだか萎えてしまった私は、扉の向こう側にいるであろう相手に声を掛ける。

 

「鍵は開いている! 用があるなら入ってくると良い!」

 

私の声に応じて入って来たのは、一人のウマ娘だった。

 

小さい体に白い髪が目を引くウマ娘は、メジロクラウディと名乗ると、私にとって驚くことを言い出した。

 

「あなたは、ウマ娘について研究していると聞きました。そして、そのサンプルを探していることも。私がそのサンプルになります。だから、私を速くしてください」

 

そう言って彼女は頭を下げた。

 

さて、何故そのことを知っているのかな?

他のウマ娘に話したこともないし、私の独り言を誰かに聞かれたか?

 

まあそこはどうでもいい。

 

クラウディの提案を、私は意外に感じたさ。

なんせ私の噂なんて良いものではないから、ほとんどの者は怯えて近づいてこない。

ましてや、自分を実験材料に使えなんて正気の沙汰ではない。

 

しかしメジロクラウディか。

聞いたことのない名前だし、私の研究に縋ってまで速くなりたいと言うことは無名のウマ娘か。

 

まぁ、私からしたら好都合だ。

 

「ふむ。なら、君の申し出を歓迎させてもらおう」

「っ! 本当ですか!」

「ああ、ああ。本当だとも。末永く、よろしく頼むよ?」

 

その日から、私と彼女の取引が始まった。

 

私は研究の成果を使い、彼女に肉体改造を施す。(もちろん合法)

彼女はそのデータを私に提供する。

 

その中でクラウディについて幾らか知った。

 

一つ、彼女はそれなりにお人好しだということ。

私に恩義でも感じているのか、実験の役に立てているか度々聞いてくる。

 

二つ、彼女からは珍しいデータが取れる。

というのも、どうも彼女から得られるデータと、実際の彼女にズレが出ている気がする。要注意だ。

 

三つ、彼女はかなりのスタミナを持っている。

まぁ彼女の走りが遅いから発揮されていないようだが、何かのきっかけさえあればたちまち化ける……可能性はあるだろうね。

 

 

彼女についてはこれくらいか。

 

引き続き研究を続けようと思う。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

研究室に戻ったタキオンは、紅茶を淹れ椅子に座る。

 

何故か分からないが、無性に糖分を補給したくなり砂糖を大量にぶち込む。

 

不意に思い出したのは、不安に揺れていたクラウディの瞳。

そして、疑問に感じたデータと現実のおかしなズレ。

 

「……いやいや、気にしても仕方ないだろう」

 

彼女が活躍できないのは、おそらく才能の有無によるものだろう。

 

才能というのは生まれつきの問題だ。

足が脆い自分だからこそ、それが痛いほど理解できる。

 

それに、彼女が勝てなくとも、タキオンには関係ないわけで……。

 

「…………」

 

気づけば、タキオンは机に向かっていた。

 

ケーブルでタブレットをパソコンに繋ぎ、クラウディから取ったデータを移していく。

 

「……これは決して、彼女のためではない。そうだ、彼女が勝利できないということは、私の研究の成果が間違っていることになってしまうからだ。それに彼女のデータを調べれば、私の研究に役立つからであって、別にモルモット二号くんのためではないのだよ」

 

誰に聞かせるでもないタキオンの呟きは、やがてパソコンのキーボードを叩く音に消えて行った。

 

 

 




アグネスタキオン

マッドなようでマイルドなサイエンティスト。
雲ちゃんのことはモルモット二号としか思っていなかったが、雲ちゃんが不思議と懐いたので絆された。
ヤンデレにならないか心配。


マージでタキオン尊い。いやマジで。

雲ちゃん視点の時の地の文はどっちがいい?

  • ライスシャワー回の時みたいなやつ
  • トウカイテイオー回の時みたいなやつ
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