☆3因子出てくれよー
太陽が沈み、月の光と点在する蛍光灯の明かりだけが夜道を照らす。
夜の帳が落ちきっている中、二人のウマ娘が歩いていた。
「お疲れ様だったね。エアグルーヴ」
「いえ、会長もお疲れ様でした」
一人は生徒会副会長<女帝>エアグルーヴ。
もう一人は生徒会会長<皇帝>シンボリルドルフ。
生徒会の要件で外に出ていた二人は、虫の鳴く音しか聞こえない道を会話しながら歩いていく。
「やれやれ。例の要件で、随分と時間がかかってしまったな」
「ですが、これでまた一つ、先に進んだといっていいでしょう」
「夜は外で食べてきたとはいえ、こんなに遅くなってしまうとはな。
「は?」
その瞬間だけ、エアグルーヴは世界から全ての音が消えた気がした。
エアグルーヴは やる気が下がった!
「……ああ、夕食と
「むぅ。今回のは良いと思ったんだが……」
「むしろ分かりづらいです」
ルドルフのダジャレを言うのは今までのことだが、こんな意味不明なダジャレは中々ない。
こういう時は、決まって何かが起こるのだが……
「……む?」
「会長?」
ルドルフが急に歩みを止め、それに気づいたエアグルーヴが何かあったのかと尋ねる。
しかしその問いには答えず、ルドルフの視線はある場所に向けられていた。
エアグルーヴがルドルフの視線を追うと、そこには蛍光灯が微かに照らすグラウンドを走る何者かの影。
だが、二人のウマ娘としての動体視力は、その影の正体を見極めていた。
「あれは、ウマ娘?」
「だな。こんな時間までトレーニングをしていたのか? まったく、彼女のトレーナーは何をしているんだ」
「とりあえず、寮に返しましょう。そこのウマ娘! こんな時間に何をしている!」
エアグルーヴが声を張り上げるが、グラウンドを走るウマ娘は気にした様子もなく走り続ける。
無視された。
女帝として君臨し、皇帝の背中を目指す彼女にとって、それは屈辱的だった。
一方、ルドルフはそのウマ娘を興味深そうに眺めていた。
エアグルーヴの声に立ち止まらないのは、本当に聞こえなかったからなのか、はたまた煩わしいと一蹴できる蛮勇か、それとも……。
好奇心に釣られるように目を凝らし、暗闇のなかにあるウマ娘の顔を見て――
――――戦慄した。
背中をゾクゾクッとした何かが駆け抜ける。
己の中に燻るウマ娘としての魂が暴れる。
幾度となくターフを駆けた自慢の脚が、ピクリと震えた。
時間にすれば、ほんの一瞬。
だがその一瞬は、日本初七冠を手にし、皇帝と呼ばれ、多くのウマ娘から畏怖を集めるシンボリルドルフを
「(なんだ、今のは……)」
深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている。
そんな言葉が、不意に頭に浮かんできた。
有名どころのウマ娘はすでに何度も見て来たが、未だにこんなウマ娘がいようとは。
ルドルフは少しだけ嬉しくなった。
そんなルドルフをよそに、エアグルーヴがさらに声を張り上げた。
「おい! そこのウマ娘、いい加減に止まれ!」
サボっているナリタブライアンを連れ戻すときか、逃げるゴールドシップを捕まえようとするときのような迫力のある声。
これには走っていたウマ娘も遂に足を止め、あたりをキョロキョロと見回しはじめる。
「あ、あれ……? 真っ暗……」
「おい」
「ひゃいっ!?」
エアグルーヴが、不思議そうに首を傾ける彼女に声を掛けると、大げさなと言いたくなるような反応が返って来た。
「ふ、副会長さん!?」
「お前は確か、メジロクラウディか」
「ふむ。知り合いか?」
「最近会長にご報告した、ゴールドシップの騒動に巻き込まれた生徒です」
「心当たりが多すぎて絞り切れないんだが……」
「……ペットボトルロケットのことです」
「ああ」
納得がいったといわんばかりのルドルフ、頭痛を堪える様に頭に手をやるエアグルーヴ、そして震えるクラウディ。
そんな3者の間の空気をリセットしたのは、どこからか鳴った可愛らしい音だった。
――グゥゥゥ~
『ん?』
如何にもな腹の虫の音。
だが、ルドルフとエアグルーヴはすでに夕食を食べている。
二人は一斉にクラウディに視線を向ける。
その先では、お腹を抱えたクラウディが羞恥に顔を赤く染めて、涙目でプルプルと震えていた。
マックイーンが見れば、すぐに抱きしめにかかるであろう光景を見て、しかし生徒会長のルドルフは年長者の余裕を持ってクラウディを落ち着かせる。
「ああ、そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫だよ。しかし、この時間では食堂は既に閉まっているだろうね」
ルドルフはしばしの間考え込むと、何か思いついたのか、頷きクラウディの手を取る。
「そうだ。生徒会室には茶菓子があったね。少しは腹の足しになるだろう」
「ふぇ?」
「会長! 何を言い出すんですか!」
「良いじゃないか。これも、生徒との大切なコミュニケーションだ。実はね、今の私は気分が最高なんだ。
「?」
「はぁ……」
メジロクラウディは 賢さが5 上がった!
エアグルーヴは やる気が下がった!
◇◇◇
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「ああ、そうだ。生徒会室にいるから、後で送って行こう。……ありがとう、エアグルーヴ」
生徒会室に連れてこられたクラウディの目の前に、紅茶とお茶菓子が置かれる。
「ヒシアマゾンには連絡を入れておいた。さ、遠慮なく食べたまえ。お腹が空いているだろう?」
「あの、えっと、いただきます」
生徒会長というクラウディからすれば、雲の上どころか宇宙の上の存在に見られながらということに恐縮しつつ、お茶菓子の饅頭をパクリと食べる。
あんこの絶妙な甘さが、さっきまで走っていたクラウディの隅から隅へ広がって行く。
続いて、紅茶を一口。
こちらも、紅茶の香りが疲れに行き届き、しっかりとした風味に思わずクラウディの口からため息が漏れ出る。
「はふぅ、美味しい……」
「喜んでくれたようで何よりだよ」
蕩けた様な笑みを浮かべるクラウディに、ルドルフもつられて笑みを浮かべる。
そしてある程度落ち着いたタイミングで、本題に入った。
「さて、それでは君に聞きたいことがあるのだけど……」
「ッ!?!?」
ルドルフが話を始めた途端、クラウディは肩を跳ねさせ、可哀相なくらいに体を震わせる。
「あ、あの……なんでしょうか……?」
「そんなに警戒しなくて大丈夫だよ。別にお説教をしようというわけではないのだしね。私が聞きたいのは、あんなに遅くまで走っていた理由だ」
「それは……」
ルドルフの問いに、何故かクラウディは答えにくそうに俯く。
それを目敏く見つけたエアグルーヴは、怪訝な表情で尋ねた。
「そもそも、トレーニングだとしても何故あんな時間まで残ることになるんだ。担当のトレーナーは何をしている?」
「……その、トレーナーは、いないです」
「っ。そうか、すまない……」
予想していなかった答えに、エアグルーヴは気まずそうな表情になる。
一方で、ルドルフもまたもやもやしたものを感じていた。
「(……さっき私が彼女に恐怖したことは事実だ。そんな彼女が、トレーナーがいない?)」
自惚れるわけではないが、ルドルフは日本で初の七冠ウマ娘だ。
自慢とかそういうものではなく、れっきとした事実だ。
故に彼女の持つ経験は馬鹿にならない。
並大抵の気迫など、彼女の前では児戯に等しい。
そんな彼女に恐れさせる気迫を出せるということは、それ相応の才能があるはずなのだ。
「(そうでなければ、また
思わず椅子の背もたれに寄りかかってしまう。
眼の前にいる、如何にも気弱そうなウマ娘のどこに、隠された才能とが潜んでいるのだろうか。
「(だが、一番の由々しき事態は、そんな彼女に未だトレーナーが付いていないこと、か。やはり、
「あの……」
考えに耽っていると、不意にクラウディが話し始めた。
「その、実は午後からトレーニングを始めたんです。それで、あの、こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないんですけど、私、生徒会長さんたちに声を掛けられるまで、全然気づかなくて、それで……」
「……休憩を挟んだりはしなかったのか?」
「は、はい……」
「うん、うん。そうか。よく話してくれたな」
「ふぇ? 信じてくれるんですか?」
驚いたようにルドルフを見上げるクラウディ。
話の内容は、確かに荒唐無稽だ。
どんなに才能のあるウマ娘だろうと、集中力には限りがあるし、何より今はもう20時半だ。
午後からというのを仮に13時からだとしても、彼女は7時間半は走り続けたことになる。
あの時の走りはさほど速さのあるものではない、ウマ娘からすればジョギングに等しい速さだったため、ルドルフも同じことをやろうと思えばやれる。
しかし、レースと同じくらいの気迫を持ち続けられるかと言われれば、それは無理だ。
だからこそ、クラウディの話はそう簡単に信じられるものではない。
だが、クラウディにとっては勇気を振り絞って話したのだろう。
その証拠に、信じてもらえないかもと前置きしたクラウディは、迷子になった幼子のように涙目で震えている。
それに、生徒会長という役職柄、人を見る目は養っているつもりだ。
その目が言っている。彼女はこんな嘘を吐くようなウマ娘ではないと。
だから信じる。それだけの話だ。
「信じるさ。他ならぬ君が言うのだからね。エアグルーヴも、そうだろう?」
「……ええ。私も、彼女が嘘をついてはいないと思います」
「そういうことだ。だから、気にしなくていい」
「……あ。ありがとう、ございます……」
そう言って、泣き出しそうなクラウディの涙を、ルドルフは軽く拭ってやる。
「さて、そろそろ寮に戻ろうか。クラウディ君は、私が送って行こう」
「では施錠は私がしておきます」
「ああ。頼むよ、エアグルーヴ。さ、行こうか」
ルドルフはクラウディの手を握り、二人は部屋を退出した。
◇◇◇
寮への道を歩く中、ルドルフはクラウディに話しかける。
「クラウディ君、さっきの君の話のことだが。君の話していた内容、あれはもしかすると、<ゾーン>と呼ばれる状態だったのかもしれない」
「ゾーン、ですか?」
「ああ。極度の集中状態のことだ。一般的に、ゾーンに入るためには幾つかの構成要素が必要だと言われている。例えば、限定された分野への高度な集中だったり、時間感覚のゆがみ、もしくはその活動自体に高い価値を見つけていることだとかね」
ウマ娘はその高い運動能力を限られた長さを走る中で、完全に使い切ろうとする――いわゆる全力を出すため、レースにおける集中力はとんでもないものになる。
そのため、知らずの内にゾーンに足を踏み入れるウマ娘というのは、それなりにいる。
そう言ったウマ娘は、そのほとんどがいつの間にかレースが終わっていたと、後に語ることが多い。
今回の状況も、その似たようなケースからゾーンに入っていたのではないかと、ルドルフは当たりをつけた。
「そう、ですか……?」
「何か気になる事でも?」
「いえ……?」
どこか納得してなさそうなクラウディに、それも仕方がないとルドルフは思う。
ルドルフでさえ、ゾーンに入ったことを自覚することはまずない。
クラウディなら尚更だろう。
「(だが、そう考えると、彼女はトレーニングにも関わらずゾーンに入っていたことになる。……存外、彼女の秘めている才能はとてもつもないのだろうかね)」
そんなことを考えていると、目的の寮が見えてきた。
「それではお別れだ。今後は同じようなことがないように、気を付けてくれ」
「は、はい。その、ありがとうございました」
「ああ。おやすみ」
最後にクラウディの頭を一撫でして、ルドルフは寮の前で別れた。
自身の寮に帰る間、ルドルフはあの不思議な後輩のことを思い出していた。
「なかなか、可愛らしかったな。……ふむ。テイオーと合わせてみるのもいいかもしれないな。そう想
何故か エアグルーヴの やる気が下がった!
「……それにしても、あれだけの才能を持ちながら、トレーナーがいないのは悔やまれる。やはりあの件について、早急に理事会の承諾を得る必要があるな」
決意を固め、月を見上げるルドルフ。
あいにくと今日は少し雲が出ており、その光は微かに陰っていた。
「……ああ、私は楽しみで仕方がないよ。テイオーのように、君もいずれは私に追いついてくれるのだろうか。ああ、ああ……その時が本当に――――」
今の自分はどんな顔をしているのだろうか。
いや、確かめなくても彼女は分かっている。
か弱い光に照らされるルドルフの表情は、どうしようもなく――――
「――――待ち遠しいよ。
獰猛な笑みを抑えることが出来なかった。
シンボリルドルフ
皇帝で生徒会長。
今ではレースに出場することは少なく、生徒会の業務に力を入れている。
最近は理事長と一緒に何かを進めている様子。
雲ちゃんを見て、レースを走っていた頃の闘争心が甦ってきている。
ダジャレのキレが悪い時は、大抵何かが起こる前触れ。良いようにも悪いようにも。
ダジャレのボキャブラリーなくてごめんな。
エアグルーヴ
女帝で副会長。
厳しいけど慕われる、ある意味ルドルフの目指す理想の姿。
ゴールドシップの件で雲ちゃんをすでに知っている。
トレーナーの件については、またちゃんと謝りたいと思っているが、ルドルフのダジャレでやる気が下がるせいで上手くいかない。
ここ最近の悩みは、ルドルフのダジャレのキレが悪いことと、会長が近くにいないのにやる気が下がること。
雲ちゃん視点の時の地の文はどっちがいい?
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ライスシャワー回の時みたいなやつ
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トウカイテイオー回の時みたいなやつ