いつか、きっとどこかで   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第12話「紅城一夏、ドラグキュアノス、出ます!!」

あれから一週間。とうとうこの日を迎えた。今日はセシリアとの模擬戦を行う日。私は第三アリーナのピットにて待機していた。……この一週間、教員補佐の仕事をしながらだけど、少しは訓練する時間を作ることができたからね……代わりに千冬姉さんのお弁当が犠牲になったけど。私も榛名も疲れてしまうからどうしても作る時間って用意できなくなっちゃうんだよね……なんかすごい残念そうにしてたけど、その怒りの矛先がセシリアに向かない事を祈る。それは完全に八つ当たりにも程があるからね。

 

「それにしても……まだ来ないみたいだね。織斑君の専用機」

〔……予定の時間にもうすぐなってしまいそうなのですが……これ、どうするんでしょうか?〕

 

しかし、どうにもトラブルに見舞われやすいのかわからないけど、今日になるまで織斑君の専用機が届かないという事態になっている。いや、どうするんですかこれ。まさかの織斑君が訓練機で模擬戦するんですか? ……そんな事はないんだろうけど、開始予定よりもう十分経ってしまってるからね。

 

「うーん……最初の予定だと、織斑君とセシリアの模擬戦をしてから私とセシリアの模擬戦って流れらしいんだけどね」

〔……それだといつ始まるのかわからなくなりそうですね〕

「……この状況じゃ否定できないから困る」

 

本当にどうしたらいいんだろうね。現在織斑君や千冬姉さん達はピットの管制室にいる。専用機がいつ来るのか把握するにはあそこの方がいいだろうからね。すぐに情報とか来そうだし。まぁ、そこにいてこの状況なんだからどうしようもないんだと思うけどね。

 

「……なんだろう、嫌な予感するなぁ」

〔嘆いても事態は好転しませんよ……〕

「わかってはいるんだけどね……」

 

一応、ピット側の音が管制室にいかないように千冬姉さんに頼んで設定して貰ってるから、こんな風に堂々と榛名と会話できてる。そうでもしなかったら多分、独り言を延々と喋ってる変な人に思われそうだし、榛名の存在があちこちに広まってしまいそうだしね。それだけは避けたい。

 

『——紅城、聞こえるか?』

「聞こえてますよ、織斑先生」

 

そんな時、千冬姉さんから突然通信が入る。とりあえずいつものように後頭部の通信アンテナだけを展開して通信に応じる。回線は……普通の開放回線だね。

 

『お前の機体コンディションは良好か?』

「はい、チェックは完了してますから。最高の状態だと思いますよ」

『それならいい。……現在、織斑の専用機の納入が遅れている。まもなく到着との事だが、アリーナの使用できる時間の問題もある。そこで予定を繰り上げてお前とオルコットの試合を先に行おうと思うが、構わないか?』

 

……まぁ、そんな事だと思ってましたよ。このままじゃただ時間を消費するだけだし、下手したら何もせずにアリーナの使用時間を過ぎてしまうかもしれない。それだけは避けなきゃいけない。そういう事なら先に準備が済んでいる私から模擬戦を行おうと考えるのは当たり前。それに、私が模擬戦しているうちに織斑君の専用機も届くと思うしね。

 

「わかりました。では、私は改めて準備しておきますね」

『ああ、発進タイミングはそちらに任せる。すまないが頼むぞ』

 

そうして私は通信を切ろうと思ったんだけど

 

『ああ、言い忘れていた。せっかく実力を示せる機会なんだ——思いっきり暴れてこい』

 

その言葉を残して通信は切られた。……思いっきり暴れてこい、って……私はそんなに戦う事得意じゃないんだけどなぁ……模擬戦とかそういうのなら仕方ないって割り切れるけど、あんまり戦闘自体好きじゃないし。まぁ、でも、今回は言葉通り思いっきりやろうと思うよ。やれるだけの事は全力でやらなきゃね。

 

「それじゃ、榛名」

〔分かってます。駐機形態で展開しますね〕

 

私は首から下げている剣をあしらったペンダントを軽く握る。同時に光を放つと、目の前には一機のISが駐機形態と呼ばれる形態で展開されていた。今はその中でも胸部装甲も何もかもを閉じた待機状態だ。外観はすごく蒼龍と似てるし、あちこちの雰囲気にも蒼龍の雰囲気が残っている。でも、変わったところもいくつかある。頭部の蒼いブレードアンテナは四本になってるし、胸部のクリスタルユニット周りの装甲も変わってる。膝の装甲も形状が変わってる他、両肩の装甲は一部フレームが露出したような形状になってる。そして、背中にはウイングブースターとはまた形の違うウイングスラスターが取り付けられている。

 

「……やっぱりまだ見慣れないかな。蒼龍の印象が強いから」

〔そればかりは仕方ありません。とにかく、搭乗してください〕

「わかってるって」

 

私はその機体に近づくと装甲に手を触れた。同時に機体は一度量子化され、私の身体を六角形の非発光体が覆っていく。非発光体は全身を覆い尽くして崩壊を始める。最後に[ARMOR COMPLETED]のウィンドウを確認したら、機体の展開は完了だ。両手を見ると見慣れた装甲に覆われた手が視界に入る。

 

〔無事に展開が完了しました〕

「そうみたいだね。本当、起動すると馴染みはいいよ」

 

元が蒼龍だからか私は不思議と機体が馴染むような気がしていた。多分それは気のせいじゃないと思いたい。そういう風に榛名が調整してくれたんだと思うから。

 

「そういえばさ……ずっと蒼龍って私は呼んでたけど、この機体に名前ってあるの?」

 

ふと気になった。確かに蒼龍を元にしてる機体ではあるけど、蒼龍ではないからね。今日までこの機体を蒼龍と暫定的に呼んできてはいたけど、別の名前とかあるのかなって思ったから榛名に聞いてみた。

 

〔ええ、勿論。蒼龍という存在を秘匿するために別名を用意してあります。今ウィンドウに表示しますね〕

 

榛名はそう言うと新しいウィンドウを展開してきた。そこに表示されている名前を見て、不思議としっくり来るような名前だなあって思った。なるほど……これがこの機体の名前なんだね。改めてだけど、お披露目するのは初めてだから……だから、全力で行こう。

 

「紅城一夏、ドラグキュアノス、出ます!!」

 

私の新しい翼——ドラグキュアノスは言葉に応えてくれるかのように、アリーナに出た途端、空へと舞い上がったのだった。

 

 

「随分と遅かったですわね」

 

アリーナに出ると、すでにセシリアは自分の機体を展開して空中にいた。あの機体も見慣れた機体……間違いなくセシリアの専用機であるブルー・ティアーズだ。身の丈もある大型のライフルを展開し、いつでも模擬戦を始められるといった出立だ。

 

「ごめんね。織斑君の専用機がなかなか来なくて」

 

私はそう言ってドラグキュアノスのフルフェイスバイザーを解除する。

 

「まさかあなたが初戦とは……まぁいいでしょう。いずれにしても勝つのはこの私ですわ!」

 

どうやらセシリアは少し驚いているようだけど、すぐに気を取り直した。

 

「それに、全身装甲などという旧世代の機体に——って、あなたも専用機持ちでしたの!?」

「言ってなかったからね。この子はドラグキュアノス、私の大切な親友だよ」

「あ、ISを親友と呼ぶなど……どうやら一筋縄ではいかない相手のようですね」

 

セシリアの目線はさらに真剣さを増していく。本当に私に勝つ気でいるようだ。でも、私だって負けるわけにはいかないよ。

 

『両者、試合開始』

「これで決めますわ!!」

 

模擬戦が開始された合図とともに、セシリアはそのライフルを放ってきた。放たれたのはレーザー。一直線に進んでくる光条を私は余裕を持って避ける。射線が見え見えだったからね……本当に不意打ちとかだったら避けられなかったかもしれない。

 

「避けた!? ならば……ッ!!」

 

その後も次々と放たれるレーザーを地表付近で避ける。確実に私に当ててこようとしてるからこそ避けられるって感じ。ウイングスラスターによって細かな姿勢制御も簡単になってるし、一撃一撃を躱してくのはなんとかなるよ。

 

「なぜそうも簡単に避けることができますの!?」

「何故って……私だって負けたくないからだよ」

 

そろそろ私も攻勢に移った方がいいのかもしれない。今の状態——ノーマルドレスの状態で使える武装は……やっぱりこの武器しかないよね……私が一番慣れ親しんだ武装。

 

「今度はこっちからだね!!」

 

右腕にはレーザーライフル仕様となったブレードライフルを、左腕にはトンファーブレードを。異なる二種類の大剣の刀身を展開した。

 

「何をしてくるかと思えば……中距離射撃型のブルー・ティアーズに近接武器で挑むだなんて……笑止ですわ!!」

「それはどうかな!!」

 

ウイングスラスターを全開にし、セシリアに向かって一気に距離を詰める。流石、榛名が調整してくれただけあって私の動きにしっかり応えてくれる。本当、蒼龍と操作感覚は同じだ。あのピーキーさがなくなった分、むしろ扱いやすいかも。

 

「そ、そう簡単に近づけるものだと思わ——」

「——せやあぁぁぁぁぁッ!!」

 

すれ違うように一太刀。同時に伝わる硬いものを切り裂く感触。ブレードライフルの切っ先はブルー・ティアーズのシールドバリアに確かな一撃を入れていた。

 

「あ、あの距離を、この一瞬で……!?」

「呆けてると危ない、よっ!!」

 

振り向くようにトンファーブレードを振り抜く。再び切り裂く感触が伝わってくる。それでも本体には傷がついてない事から、セシリアもギリギリのところで躱したんだと思う。やっぱり代表候補生ってだけはあるよ。

 

「一度ならず二度も私に、それも近接武器でダメージを与えるとは……教員補佐に選ばれるだけはありますわね!!」

 

ライフルを向けられた私は咄嗟に射線上から飛び退く。一撃を避ける事はできたけど、代わりに距離を取られてしまった。射撃がとことんダメな私からしたら、また接近する必要が出てくる。

 

「接近戦でここまでダメージを与えたのはあなたが初めてですわ……ですから、此処からは私の本気を出させていただきましょう。——行きなさい、ティアーズ!!」

 

セシリアがそういうと同時に、機体の非固定浮遊部位から四つ、何かが外れて飛んでくる。間違いない……あれは……

 

「ビット……!」

 

四基のビットが私を撃ち落とさんとばかりに狙ってくる。縦横無尽に動き回るビットにはどうしてもこの大剣では対応しきれない。

 

〔一夏、背後です!〕

「くうっ……!!」

 

榛名からの警告を受けて回避しようとしたけど、ギリギリのところで間に合わず、ブレードライフルの小型シールドで受け止めることになった。ライフルよりは威力がないみたいだけど、それでも当たるわけにはいかない。

 

「こうなったら……一か八か!!」

 

ブレードライフルとトンファーブレードを折り畳み、ブレードライフルをライフルモードで使用する。決して早いとはいえない連射速度だけど、今はまともに狙って当てる事が出来ないのがある意味では効果的なのかもしれない。レーザーがばらけて飛び散るから、ビットも迂闊には近づいて来ないみたいだ。同時に左腕のアームカノンも起動、心の中でトリガーを引いてレーザーを連射する。

 

「そんな射撃で私のティアーズ達を捕まえる事などできませんわよ!」

 

しかし、やはりセシリアはビットの扱いに慣れているのか、そう簡単に当たる事はなかった。そもそもで私の射撃で当たることの方が珍しいんだから……投げるのはまだ当てられるんだけどね……投げる?

 

「戦闘中に考え事とは感心しませんわね!」

 

ビットからの攻撃は止む事がない。放たれた四条のレーザー。もし、これがいつもの私だったら躱せずに直撃をもらっていたのかもしれない。でも……今の私には何処から攻撃されるのか、それがなんとなくだけどわかっていたような気がする。身体をひねり、レーザー同士の隙間を縫うように躱す私。掠めたりはしたけど、どれも致命的な一撃にはならなかった。本当、こっちに来る直前くらいから時折攻撃が見えるようになってたんだよね……直感というよりも予知が近いよ。どうしてなのかはわからないけどね……。

それよりも、今は試合に集中しなきゃ。私は腰のあたりに手を伸ばして直方体のものを掴んだ。手にすると短めのレーザーブレイドが展開される。それを迷いなくピットに目掛けて投げつけた。レーザーブレイドは迷う事なく突き進み、ビットを一基貫いた。よし、これでまずは一つ!

 

「しゃ、射撃ならいざ知らず、武器の投擲でビットを落とすなんて……なんて野蛮なやり方!」

「お世辞にも私の射撃はいいとは絶対言えないからね!」

 

投げたレーザーブレイドの柄を攻撃を避けながら回収、同時に両手のブレードライフルとトンファーブレードを格納する。私はウイングスラスターの付け根あたりに両手を伸ばす。そこには大きなグリップがある。引き抜くと同時にさっきのレーザーブレイドよりも大きいレーザーの刀身が展開された。名前はそのまんま大型レーザーブレイド。大剣よりも取り回しがいいこの武器の方がいいと判断した。それに……大体どこから攻撃してくるか分かってきたしね。

 

(あの攻撃は私の死角を突いてしてくる……それも一番反応できないようなところから。もしそうだとしたら——)

〔——敢えてその隙を作るってわけですね〕

(まぁ、そうなんだけどね……うまくいくかわかんないから、その時は一撃離脱するしかないかな)

 

私は相手を騙す事とかすごい苦手だし。でも、そうでもしないとこのビットを落とすのは難しいと思うよ。とにかくギリギリで避けながら攻撃のチャンスを伺う私。でも、それはすぐにやってきた。

私の背後を取ろうと迫ってくるビット。放たれたレーザーを空中でバク転するような要領で躱すと同時に、大型レーザーブレイドを振り下ろした。もろに一撃を受けたビットはレーザーの高熱で融けていく音を立ててから爆散する。よし、これで二基目!

 

「あ、あり得ませんわ!?」

 

さらにもう一基、すれ違いざまに切り裂く。もう、包囲網は作る事ができないだろう。残る一基は両腕のアームカノンを連射していたら偶然当たって撃墜した。これでもうあのビットは残ってない。ならば私のやる事はただ一つ、全力で突っ込むだけ。

 

「よ、よくも……よくも私のティアーズ達を……!!」

 

ライフルから放たれるレーザーを避けながら突っ切る。さっきのビットに囲まれている時と比べたらこのくらい平気だ。距離はどんどんと縮まっていく。セシリアも下がって距離を取ろうとするけど、ドラグキュアノスが詰め寄る速度の方が速い。

 

「——かかりましたわね」

 

けど、そんな危機的状況の中、セシリアが少し笑ったような気がする。そう思った瞬間、ブルー・ティアーズの腰アーマーが動いた。円筒形の、それも私には見覚えのある形のもの。間近で似たようなものを扱ってた人(悠助)を知ってるから、同じ機体を使ってた人(向こうのセシリア)を知ってるから、それがなんなのか予想できた。

 

「お生憎様——ティアーズは全部で六基ありましてよ!!」

 

ミサイル——!! 放たれた二発の小型ミサイルは私を墜とさんとまっすぐこちらに向かってくる。しかも、私はセシリアにかなり接近していた。この距離では回避なんて難しいどころの話じゃない。ノーマルドレスじゃ耐えられるのかわからない。

私は咄嗟に大型レーザーブレイドを収納、代わりにブレードライフルとかとは違う大剣を取り出す。慣れ親しんだもう一つの武器、ハンドバスターソード。片手で振るえる少し小さめの大剣を両手に構え、ミサイルが着弾する直前に薙ぎ払った。両断されたミサイルは目標にたどり着く事なく、その場で起爆していき、爆煙が私を包む。

 

「……随分とてこずらせてくれましたが……これで終わり——」

「——せやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

爆煙を切り抜けた私はセシリアへと肉薄、ハンドバスターソードを交差させるように振り下ろした。

 

「きゃあっ!?」

 

ハンドバスターソードは確実にセシリアを捉え、手に持つライフルを両断すると同時にダメージを与えていく。ハンドバスターソードは何よりもその剛性が自慢。ミサイルを切った程度ならなんともない。

 

「これで——」

 

右手のハンドバスターソードをブレードライフルに持ち替え、刀身を展開する。切っ先を空へと向けるように振り上げ、目標を正眼に捉える。

 

「——終わり、だよ——ッ!!」

「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」

 

そのまま刀身の重量を生かした袈裟斬りの一撃を叩き込んだ。硬いものを切り裂く感触がゆっくりと伝わってくるような気がした。同時にセシリアは大きく吹き飛ばされ、アリーナの地面へと墜ちた。……正直、全部土壇場だったけど、なんとかなってよかった。向こうの世界ではセシリアと模擬戦した事があんまりなかったからね……本当よくここまでできたと思うよ。

 

『——試合終了。勝者、紅城一夏』

 

そのアナウンスが流れると同時に、観客席からは歓声が聞こえて来る。……そっか、勝ったんだ私。今更になってセシリアに勝利したという実感が湧いてきた。

私は武装を格納し、一度地表にいるセシリアのもとへ向かった。ブルー・ティアーズは殆どの兵装が破壊されている他、各所の装甲も傷が目立つ。それだけ私が派手に攻撃をしたって証拠なんだけど……少しやりすぎたかな、と思ってしまう。

 

「……なんですの。あれだけ大口を叩いて負けた私を嘲笑いにでもきましたの?」

 

地表に降りた私を見つけるなり、セシリアはそう言ってきた。とても悔しそうな表情を浮かべ、まるで自らを卑下するような言い方だ。一週間前に見せたあの自信過剰な物言いは鳴りを潜めてしまっている。

 

「まさか、そんなつもりはないよ」

「ではなんですの!? 主席で合格した事を鼻にかけてこの国を侮辱し、気に入らなかったからとあなたに決闘を申し込み、剰えあなたを臆病者と罵って、結局は一矢報いることもできず負けて……こんな私を誰が嘲笑わないと言いますの!?」

 

今にも泣き出しそうな顔で声を荒げるセシリア。目尻にはうっすらと涙が溜まってきている。……どうしたらいいんだろう。こんな姿のセシリアは向こうでも見た事なかったし……でも、きっと私の知っている彼女も同じような事を考えていたのかもしれないと考えると、なんだか他人事のようには思えなくなってきた。ひとまずフルフェイスバイザーを解除し、私は素顔を露出させた。

 

「少なくとも、私は嘲笑わないよ」

「そ、そんなの、口先の言葉——」

「——真剣に戦ってくれた相手に失礼な事はしたくない。だから、オルコットさんを笑ったりなんてしない……したくないよ。それに、ほら」

 

私は観客席から聞こえてくる声を通信回線につなげた。ドラグキュアノスの音響センサーならこのくらいなんて事はない。そんな事よりも、観客席から聞こえてくる声の方が今は大事だ。

 

『二人ともすごい戦いだったね!』

『紅城さんも凄いけど、やっぱオルコットさんも代表候補生だけあって凄い!』

『最初はアレだったけど、セシリアって強いじゃん!』

 

聞こえて来るのはこの模擬戦に対する感想。誰かを貶めるような発言はない。あるのは私と、その相手であるセシリアを称賛する声。

 

「ね? 誰もオルコットさんの事を笑ったりなんてしてないよ」

「……そう、みたいですわね……」

「でしょ。それにさ、もし間違った事をしちゃったって思ったら謝ればいいんだよ。きっとみんなも許してくれるよ」

 

そう、そうだよ。ここにいる人達に根っから悪い人なんていないんだから。きっと、いや絶対大丈夫だよ。根拠はないんだけど、どこか不思議とそう思えてくる。

 

「……紅城さん」

「どうしたの?」

「この度の一件……誠に申し訳ありませんわ」

 

そう言ってセシリアは私に頭を下げてきた。まぁ、確かに色々言われたけど、前ほどじゃないからギリギリ大丈夫だったし、別にいいんだけど……って思ったけど、それを口にしたらきっと彼女はこっちが認めるまで謝ってくると思う。

 

「それと、もう一つ……あなたは確かに強かったですわ。ですが、次に勝つのはこの私ですから! 負ける事は許しませんことよ!」

 

突然そんな事を言われて呆然とする私を余所に、どこかスッキリしたような顔でアリーナのピットに向かって飛んでいくセシリア。

 

〔ライバルとして認められてしまったみたいですね〕

 

榛名が何かくすくすと笑いながら言っているのが聞こえてくる。ら、ライバルなんて……それに、私はそんなに強いわけじゃないんでけどなぁ。榛名とドラグキュアノスがいたから勝てたようなものだし……。

 

〔謙遜しすぎるのはあまり良くありませんよ〕

 

……榛名、当たり前のように心の中を読まないでよ。まぁ、でも

 

(ずっと落ち込んでいるよりは全然いいかな?)

 

そんな事を思いながら私もまたピットへと戻ったのだった。

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