いつか、きっとどこかで   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第13話「『白式』……」

ピットに戻った私は機体を駐機状態で解除すると、大きく深呼吸をした。緊張が解けてだらしない声が出そうになるけど我慢我慢。私の行う模擬戦はセシリアとのだけだったわけだし、後は休憩しながら織斑君の模擬戦を見るだけだ。

 

『紅城、ご苦労だった』

 

少しだけ気を抜いていたら千冬姉さんから通信がきた。

 

「ありがとうございます。でも、オルコットさん、強かったですね。こっちがやられるかと思いましたよ」

『ほぼ被弾していないお前が言うか。機体性能もそうだが、お前の操縦技術には驚かされる』

「まぐれですよ、まぐれ」

『まぁそういう事にしておいてやろう』

 

いや、絶対今回のはまぐれだから。あと榛名のサポートもあったわけだし。そうじゃなかったらきっと私はセシリアにやられていたと思う。

 

〔榛名も大した事はしてませんよ。一夏は自分が思っている以上にすごいんですから、もっと自信持っていいんですよ?〕

 

そんな事を言われてもね……自信なんてないし。全部が全部、たまたま上手くいっただけなんだよ。きっとそうだよ。

 

〔一夏ももう少し自分に自信が持てるといいんですが……まぁ、そこが一夏のいいところでもあるんですけどね〕

(威張り散らすよりは全然いいでしょ?)

〔それはそうですが、ちょっと極端すぎますよ〕

 

まぁ、私はこれでいいんだよ。自信過剰になって誰かを傷つける事になるよりは、自信がなくても誰も傷つけない方が大事だから。……私には誰かを傷つける覚悟なんて全く持ち合わせてないからね……その覚悟から逃げているだけなんだよ、きっと。誰も傷つけずになんていられないって事はわかってるのに、どうしてもそれだけは避けたいって思ってしまう。

 

『それはともかく、こうも容易く現役の代表候補生にも勝ってしまうとはな……本当、一体どのような訓練を積んできたのか。お前を鍛えた者と会ってみたいものだな』

 

千冬姉さんはきっと何気なく聞いたんだと思うけど……その言葉は今の私には辛いものがある。私を鍛えてくれた人……悠助とは離れ離れになってしまっているから……大切な人と会えずにいるっていうのはとても辛いよ。出来るだけ表には出さないようにしていたけど、やっぱり寂しいものは寂しい。一緒にいた時の楽しい時間を覚えているだけに、側にはいないという事実が心を締め付ける。

 

「……きっと、会えると思いますよ」

 

ふと出た言葉。それは単なる返事なのか、それとも私自身の願望を込めたものなのか、私にもわたからなかった。

 

『私もそう願うとしよう。——さて、つい先ほどようやく織斑の機体が一次移行を完了した』

「結構早く終わったんですね。三十分はかかると聞いていましたが」

『チェックリストの省略可能箇所は徹底的に省略したからな。しかし、武装がいまだに確認できていない』

「それなら試合は武装の確認をしてからでもいいのでは?」

『そうもいかん。アリーナの使用時間が迫っている。——とにかくだ、これから織斑とオルコットの試合を行う。試合の様子は管制室、ピットのどちらからでもモニターで観れるが……まぁ、念の為お前のいるピットの監視カメラは止めておく。好きな方で見てかまわん。今は休んでおけ』

「わかりました、織斑先生」

 

どうやらそろそろ織斑君とセシリアの試合が始まるみたいだ。少し落ち込んでた気持ちを取り直し、ピットに設置されてるモニターで試合を見ることにした。ピット、というか整備用のハンガーというか、そういうところだけどね。それに、千冬姉さんが言うには監視カメラ止めてもらってるみたいだし、大丈夫かな。

 

「榛名、出てくる時は出てきて大丈夫だよ」

〔では早速お言葉に甘えさせていただきますね〕

 

そう言うと、いつものように榛名が具現化してくる。最早見慣れた光景だ。ただ、いつもと違って、あの改造巫女服みたいな格好ではなく学園の制服に着替えている。私とお揃いの格好だ。

あと、実を言えば、さっきの試合の時ISスーツに着替えてないんだよね、私。ドラグキュアノスを展開している時、勝手に制服が量子変換されてISスーツに着替えさせられてるからね。量子変換してあるのを取り出せば着替えられるけど、こっちの方が楽だしね。

 

「……やはり、このような格好で出ると少し違和感がありますね」

「いや、あの際どい改造巫女服で出てこられても困るけどね」

 

しかしながら、まだそんなに制服に慣れてないのか落ち着かない様子の榛名。しきりにあちこちを気にしているのだが、その様子も可愛らしく見えてしまうから榛名はある意味恐ろしい。あと、慣れてるからとはいえ改造巫女服で出てきたらそれはそれで大問題だよ。本当あの格好ってかなり際どい感じのものだし、榛名ってサラシを巻いてるんだよね……そんな格好で街中で出られたらそれはもう大変なことになりそうである。というか、コスプレそのもの。

 

「あ、あれは榛名の標準の服装ですから慣れてるのは仕方ありませんよ! 榛名よりも武蔵の方がギリギリですから!」

「……その標準が色々とアウトな気がするのはなんでたろうね。あとそれ、五十歩百歩」

 

むうっ、といった感じで頬を膨らませて反抗する榛名。最近、榛名がやけに子供っぽくなったなぁって思うのは私だけかな? 前よりもこういうのが増えたと思うんだけど……気のせい?

 

「それはそうと、榛名」

「はい? なんでしょうか?」

「蒼龍——ドラグキュアノスの事、ありがとね。榛名のお陰でまた一緒に空を飛べたし、榛名がいてくれたから勝つこともできたしね」

 

お礼、ちゃんと言ってなかった気がするからね。榛名のおかげでまた空を飛べたし、セシリアとの模擬戦にも勝つことができた。私だけじゃ到底ダメだったと思うからね。榛名には支えてもらってばかりだよ。

 

「一夏のためですから——当然の事をしたまでです。特別な評価なんて……榛名にはもったいないです」

 

そう言って謙遜する榛名。誰に似たのか、榛名はお礼を言われるといつもこんな感じになる。少しは素直に受け取ってもいいとは思うんだけど……でも、そこが榛名のいいところだからね。

 

「それでも、だよ。私のために頑張ってくれた人にはちゃんと感謝しなきゃ。いつもありがと、榛名」

「……その、微笑みながらお礼を言うのは卑怯ですよ」

「何か言った?」

「な、なんでもないです!」

 

急に榛名が顔を赤らめたけど、一体どうしたんだろう? それに何かを小声で呟いたような気もするし……気のせいかな?

 

「そ、それよりも、織斑君の試合を見ませんか? そろそろ試合開始だと思いますので」

「それもそうだね」

 

榛名に言われてモニターの電源を入れる。アリーナの全容が掴めるアングルでカメラが設置されてるようで、試合の様子もしっかりと見れる。

 

「どうやらセシリアさんのブルー・ティアーズは予備パーツが揃っていたみたいですね。喪失した武装も全て補給が完了してると思います」

「見たところ損傷もないようだしね」

「ええ。それと、織斑君はまだアリーナに出てきてないのですが……まだ調整が終わってないのでしょうか?」

「それは流石にわからないかな。でも、一次移行は完了しているようだし、もう直ぐくるんじゃない?」

 

アリーナにはあの蒼い機体が宙に浮いて待っている。セシリアの表情にも慢心というものは見られない。最初から全力でいくつもりなのだろう。そして、セシリアとは反対側のピットから一機、真っ直ぐ飛び出てきた。もしかするとあれが織斑君の機体——

 

「あ、今織斑君の機体が出てきたようで——って、あの機体は!?」

 

榛名も驚いているようだけど、私も驚きを隠せずにいるよ……あの機体、織斑君の機体は見覚えがあるからね。あんまりいい思い出なんてないけどさ……。

 

「……まさか、この世界であの機体と出会うことになるなんてね……」

 

駆け巡る気持ち悪さを堪えながらモニターを見つめる私。映っているのは、白を基調とした、大型のウイングスラスターを装備した機体。見間違えるわけなんてない……あの機体は一度悠助を殺そうとした機体……それも、向こうで私の事を散々見下してきたあいつが乗ってた機体……

 

「『白式』……」

 

私にとっては忌まわしい記憶を呼び起こすに十分なその機体を、織斑君が纏っているという事実を私は認めたくなかった。

 

「い、一夏……その、大丈夫ですか? もし、気分を害するようであれば、視聴を止めても誰も文句なんて言いませんよ……?」

「……心配してくれてありがとう、榛名。ちょっとびっくりしただけだから、大丈夫。乗ってるのは織斑君だから……春十じゃないから大丈夫……」

 

心配そうに声をかけてきてくれた榛名にそう返す。でも、あの白い機体を見た瞬間、思い起こされた記憶はもう見たくないものだったよ……悠助の機体を貫く雪片と、それを握る白式と春十。その歪んだ笑みが記憶越しに私をとてつもなく不安にさせてくる。あの時の光景はもう私にとっては絶望以外の何でもない。私のせいで大切な人を殺されかけたんだから……だから、もう二度と思い出すことなんて無いと願いたい。

それに、今白式に乗っているのは織斑君。彼は春十と違って誰かを見下すような真似はしないし、なんだかんだで真面目な人だから……私にとって嫌な事はしないと思うよ。

 

「そ、それならいいのですが……本当に大丈夫ですか?」

「……心配性だね、榛名は……大丈夫だから、気にしないで」

「……本当、無理だけは禁物ですからね」

 

あはは……榛名は本当優しいよね。私にこんなに気をかけてくれる……でも、その優しさが私には辛い。榛名をこんなにも心配にさせてしまっているという事がどうしても胸の内に引っかかってしまう。榛名にまで負担をかけてしまっている事が時折凄く申し訳なくなってくるんだ……なんだか、私だけが助けられてるような気がしてしまって。本当だったら二人で支え合っていきたいのに、私ばかりが支えられてしまっている。

 

「……うん、そうするよ……負担かけちゃってごめんね」

 

でも、そんな優しさに甘えたくなってしまう自分がいる。優しくしてくれる人に全てを委ねたい、楽になってしまいたい。そう考えてしまう事も多々ある。そんな自分が嫌で仕方なかった。

 

「気にしなくていいんですよ。ささ、椅子を準備させていただきましたので、こちらにおかけください」

 

榛名はそう言うと、いつのまにか用意していた折りたたみ式の椅子を出していた。私も私でそんな榛名の言葉に促されるまま、椅子に腰掛ける。横に並べてあったもう一つの椅子には榛名が腰掛けた。

モニターには、織斑君がセシリアの攻撃を必死になって避けている様子が映し出されている。何発かは直撃しているみたいだけど、それでもギリギリで躱し続けているあたり、織斑君も天才の部類に入るんじゃないかな。

 

「……すごいね、織斑君は。セシリアの攻撃をあんなにも避けられるなんて」

「本当に初心者なのか疑ってしまうくらいには動きがいいですよね」

 

セシリアはビットを四基すべて展開して攻撃してるけど、織斑君も紙一重で躱している。でも、変だなぁ……確かにあの機体は白式だけど、武器とかまで全く同じって事ないよね? そうだとしたら、あの機体に搭載されてる武器って雪片と腰に装備されたハンドグレネードしか無いはずなんだけど……そのハンドグレネードすら投げてない様子からするにもしかして……

 

「……榛名、白式の情報って何か手に入りそう?」

「やはり気になるんですか?」

「まぁ、ちょっとはね……」

「わかりました。少々お時間をいただきますが、ご用意しますね」

 

そう言うと榛名は周囲に蒼色の六角形の発光体が繋がったようなリングと空中投影ディスプレイを展開する。こんな榛名の姿を見るのは初めてだ。目を閉じて手先を動かしている姿はどこか神秘的に見えてくる。

 

「……データベースへのアクセスと閲覧が完了しました。すぐに表示します」

 

そして展開される空中投影ディスプレイ。榛名が調べてきてくれた白式のデータがこれでもかとわかりやすくまとめられている。なるほど……やっぱり春十の使っていた白式と同じく高機動型で燃費も悪いと……見た目も全く同じだから薄々そう思っていたけど、やっぱり同じ機体なんだなぁって思った。

 

「……本当、見るのが嫌になるくらい同じなんだね」

「ええ……いくら乗り手が違うとはいえ、本質的な機体としては変わっていないようです」

 

となると、武器も同じになりそうだよね……うん、やっぱりそうだ。武器はあの日本刀みたいな形をしているレーザー刀身を展開した近接ブレードである雪片弍型。その特徴はシールドバリアを無効化して絶対防御を発動させるというもの。あの青白く光る刀身が私にとって恐怖そのものだ。直接戦うのが怖いんじゃない。あの攻撃で悠助が重傷を負った事があるから……大切な人を奪われてしまう事を連想してしまう。つまり、あの武器は絶対防御すら貫通しかねない、本当に危険な武器であるということだ。

 

「雪片は確かに危険な武器です。現にRATナンバーに用いられている特殊複合装甲材を貫通した唯一の武器ですからね……それも蒼龍のみならず黒龍も……特殊複合装甲材は光学兵器に対しても耐性はあるはずなのですが……蒼龍の装甲ではあまり受け止めたくはない一撃ですね」

 

織斑君が次々とビットを落としていく様子がモニターに映し出されている。通常の武器としても高い攻撃力を持っているように思えてくる。いや、持っているんだ。織斑君はその事をわかっているんだろうか?

そういえば、白式の他の武装を見ていなかった。雪片のインパクトが強かったからね……えーと、他の武装は……え?

 

「白式って……雪片だけ?」

「……製作者は一体何を考えてこんな仕様にしたのでしょうか? 使えるかどうかは別にしても、近接機でも銃火器の類は搭載する必要がありますよ。使えるかどうかは別にしても」

「……榛名、二回も言わなくていいから。それ私の事だってわかってるから」

 

とんでもない機体を押し付けられてしまったみたいだね、織斑君。どう考えても初心者が乗っていい機体じゃないと思うよ。いや、初めて乗った機体が蒼龍っていう近接特化で大剣二刀流が基本みたいな癖の強い機体だった私が言える事じゃないんだけどさ。

 

「でも、織斑君は勝てると思う?」

「初心者とあの機体の組み合わせ、さらに相手が代表候補生なので勝率はほぼ無いかと」

「ばっさり言うね……」

「こればかりは経験が物を言いますから。あとはビギナーズラックがあるかないか、というところですね」

 

それでも二割が関の山でしょうか、と榛名は言う。勝ってほしいという気持ちはあるけど、機体が機体だけに難しいのは榛名の説明でよくわかった。あと……織斑君は全然悪くないんだけど、白式にいい思い出がないからっていうのがあるからね……そんな感情を抱いてしまう自分に嫌気がさしそうだよ。

 

『——ふぅ、ようやく慣れてきたぜ。全く……本当、俺は最高の家族を持ったよ』

 

突如モニターから流れてきた織斑君の声。先ほどまでは全然流れていなかったというのに急にどうしたのだろうか。画面には互いに向き合って武器を構えた状態で静止している織斑君とセシリアの姿。雪片の切っ先は彼女に向けられている。

 

「一夏……? あの、どうかしましたか?」

「いや……モニターから急に声が聞こえてきたからびっくりして……」

 

私が答えると、榛名は不思議そうな顔をして答えてくれた。

 

「あの、このモニター、最初から音声出力はされていませんよ?」

「……えっ?」

 

榛名の言葉に疑問を抱く私。でも、だって声が——

 

『あなた、急に何を——』

『——まずはその家族の顔に泥を塗らないようにしなきゃな』

 

その瞬間、何故だか私は嫌な汗が背中を急に流れ落ちる感覚に陥った。わからないけど、原因はあの雪片にあると思う。なんで声が聞こえてくるのか、そんな事がどうでも良くなるくらいには背筋が凍りつくような、そんな感覚に襲われた。同時に見えてきた……見えてしまった。織斑君の振るった雪片が、セシリアのブルー・ティアーズの装甲のない胴体を斬りつけてしまう光景が……雪片がシールドバリアを無効化するという事は、絶対防御を発動させるだけでなく、同じシールドエネルギー由来の絶対防御すら貫通できるという事。まるでこの先に起こり得るであろう大惨事を予測したかのようなビジョンが脳裏を過ぎった。

 

「……だめ……」

 

織斑君はスラスターを点火して突撃する構えを取っていた。そして、一気にセシリアへと詰め寄る。振りかぶった雪片が振り下ろされるまでもう時間はなかった。

 

「だめぇぇぇぇぇ——ッ!!」

 

思わず目を閉じて叫んでしまった。そして訪れる静寂。私は目を開けるのが怖かった。きっと凄惨な光景が広がっているんじゃないかって思ってしまったから。

 

『——白式、シールドエネルギー、エンプティー。勝者、セシリア・オルコット』

『……は?』

『……え?』

 

だが、その予感は杞憂に終わった。聞こえてきたのは試合終了を告げるアナウンスと、二人の間抜けな声。恐る恐る目を開けたら、セシリアに突撃した直後くらいの位置で停止している織斑君が映し出されている。という事は……最悪の事態にはならなかったという事、だよね……? そう考えたら力が抜けてその場に崩れ落ちそうになった。

 

「一夏!? 大丈夫ですか!?」

「いや、ちょっと力が抜けちゃって……何事もなくて良かった」

「一夏が崩れ落ちてる事が問題ですよ!? しかも突然叫んだりして、どうしちゃったんですか、もう!?」

「あ、あはは……」

 

力が抜けた私とそれを支えてくれる榛名。端から見たら変な光景だろうけど、それでもいいや。無事に終わった事がなによりだよ……あの見えたビジョンは一体なんなんだろうか。セシリアとの模擬戦の時とかに感じたようななんとなく攻撃が来るのがわかった事とかと関係があるのだろうか……自分の事なのに自分がよくわかってないや。

とりあえず、今は織斑君を労いにいくとしよう。あと、雪片の危険性も教えに。大事な事だからね。




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