いつか、きっとどこかで   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第15話「そ、それとこれとは話が別!」

「——という事で、一組のクラス代表は織斑一夏君に決まりました〜。あ、一繋がりでいいですね〜」

 

クラス代表を決める模擬戦の翌日、そんな山田先生の呑気な声でホームルームが始まった。今日のホームルームの進行担当は山田先生。千冬姉さんはそれを教室の角に座って様子を見ている。

 

「あ、あの、山田先生?」

「はい、なんでしょうか?」

「いや、昨日の模擬戦、俺負けてたと思うんですが……」

 

そう山田先生に質問する織斑君。確かに模擬戦では織斑君はセシリアに負けていたね。でも、これにはとある事情があるんだよ。

話は今朝の打ち合わせの時になるんだけど——

 

『織斑君をクラス代表にするんですか?』

『ああ。しかもこれは日本政府並びに国際IS委員会からの要請だ。……全く、面倒な事をしてくれる』

『……『貴重な男性操縦者として各種データ収集に務めさせるため——』……なんと言いますか、大変な事になってしまいましたね』

『で、でも、先輩の弟さんですから! きっとうまくやってくれますよ!』

『……それはどうだろうな。さらに言えば、あいつの機体が不安を加速させている』

『……雪片についてお話はしたんですよね……?』

『……ああ。だが、どこまで理解しているかわからんな……』

『と、とりあえず、先輩も紅城さんも気分上げていきましょうよ! いずれにしても、昨日あの後オルコットさんが代表を辞退してしまったので織斑君がなる事に決まってたんですから』

『……山田先生、紅城。私の弟が迷惑をかけるかもしれんが、私の顔に免じて許してくれ……』

 

——という感じで、織斑君のクラス代表就任が決定したんだよ。まぁ、千冬姉さんはあんまり良くは思ってないみたいだけど……それに、雪片について説明をしたらしいけど、本人がどこまで理解しているかは不明とか……確かにそれは不安でしかない。間違っても、今月の末にあるクラス対抗戦で事故が起きない事を祈るしかない。

 

「それはですね——」

「——私が辞退したからですわ!」

 

山田先生が経緯を説明しようとした途端、高らかにその声を遮った者がいた。うん、この話し方は間違いない、セシリアだね。

 

「お互い専用機があったとしても、私のような代表候補生とついこの間まで一般人だった方とでは大きな経験の差がありますわ。それでは私が勝つのは自明の理。流石に私も大人気なかったと思いまして、一夏さんにクラス代表をお譲りしましたの」

 

あ、山田先生、話そうとしてた事を話されてしまったからって泣きそうな顔にならないでくださいお願いします。……このクラスってもしかして問題児ばっかり集められるクラスなのかなとふと思ってしまう。……多分、私は問題児じゃない……うん、問題児じゃない。

 

「え、ちょ、俺そんな事昨日聞いてない——」

「ですから、この私が一夏さんの指導をさせていただきますわ! そうすれば間違いなく技能は向上するはずですわ!」

 

セシリアの話もいつのまにか織斑君を指導するという話になっているし。周りも周りでそれに乗ってわいのわいの騒いでるし……そして山田先生の方を見たらそのうち教室の角に縮こまって壁を見つめ続け出しそうな雰囲気だ。さらに言えば千冬姉さんの額に小さいけど青筋が浮いてるんだよね……あ、千冬姉さんが口パクで何か伝えてきた。えーと、『今すぐ馬鹿を静かにさせろ』……私にできると思うんですか?

 

「——生憎だが、一夏の指導は足りている。私が頼まれたのだからな」

「あら、これは篠ノ之さん。適性ランクCの貴方が一夏さんの指導役に足りているとでも言うのですか?」

「ら、ランクは関係ないだろう!」

 

そして、この場をさらに混沌に追い込んでくれたよ箒。しかもそこからなんか言い合いに発展してるし。あと、千冬姉さんの方はちゃんと見た方がいいと思うよ、二人とも。

 

「——騒ぐな、馬鹿共」

「あだっ!?」

「いたっ!?」

 

二人の頭に容赦なく振り下ろされたのは千冬姉さんが手に持ってた出席簿。音からして当たったら絶対痛いやつだ。千冬姉さん、ここまでよく我慢してたと思うよ……普通だったらここまで騒ぐってのもどうかと思うしね。痛さは想像できるけど、これについて私は何も言わないし、擁護もしないつもりだよ。反省はしてもらいたいからね。

 

「貴様らのランクなど所詮は目安でしかない。仮に適性が高かろうとも技能が身についてなければ宝の持ち腐れだ。この学園には例え適性が低かろうとも己の技量を磨き、自らを高めている者達が多くいる。——わかったか、小娘共」

 

そう言う千冬姉さんはどこか凄みがあった。ちゃんとした教師なんだけど、本当にちゃんとした教師にしか見えない。自分でも何が言いたいのかわからないけど、なんだかそうとしか言いようがない。でも、千冬姉さんの言う事は間違ってないと思うよ。現にそういう人を見てきたわけだからね……私はああいう風にはならないように気をつけなきゃ。

 

〔一夏にそんな心配は無いと思うんですが……むしろもっと自分に自信を持ってください〕

(そう言われてもね……自信なんてそう簡単に持てないよ……)

〔なんで一夏はそんなに自信なさげなんですか……〕

 

自信がない、というより自信ありげに物事をやって失敗した時に何をされるのかわからないというのが一番だね……今までずっと嘲笑されたり、蔑まれたりしてきたから、そういう事に対しての警戒心がまだ解けてないんだ……多分ないとは思うけど、絶対無いっては言い切れないから余計に、ね……。

 

〔この世界に一夏に害を及ぼすような人はいないと思うんですが……一夏がそう感じているのであれば榛名からは何も言えませんね……〕

 

そういう風に人を信じきれない自分がいるのも嫌だけどね……本当、この性格をどうにかしたいとは思うよ。思ってるんだけど……どうにもできないんだよね。

 

「——ほう、私が話をしている最中に考え事をしているとは……中々にいい度胸をしているじゃないか、紅城」

 

そんな風に考え事をしていた時、不意にかけられた声。目線を上げれば私の前に出席簿を構えて立っている千冬姉さんの姿が。同時に感じる視線。きっと今の私は皆に注目されてしまっている。そう思った瞬間、血の気が引いていく感覚に陥ってしまった。私もさっきのセシリアや箒と同じように出席簿で叩かれてしまうのだろうか……そんな事が脳裏を過ぎった。

 

「あっ……い、いやっ、そ、そんなつもりは……」

「……そこまで狼狽えるな。一時限目の時間、許可は取ってあるから本日行う実習の準備を先に山田先生と進めておいてくれ」

「は、はい! わ、わかりました!」

「それと、考え事をするなとは言わないが、次からは気を付けるように」

「は、はぁい……」

 

千冬姉さんはそう言うと構えていた出席簿を引っ込めた。叩かれるのを覚悟していたから少し拍子抜けしたような感じがするよ……流石に今のは私が悪かったようなものだし……叩かれるのは嫌だけど。

 

「では、これにてホームルームを終了する。各自、授業の準備をしておけ」

 

千冬姉さんの言葉を合図にホームルームは終了した。さて、私も言われた通りに準備をしてこなきゃ。

 

「紅城さん、お手伝いお願いしますね?」

「わかりました、山田先生。この資料通りでいいんですよね?」

 

私と山田先生は準備を進めるべく教室を後にしたのだった。

 

 

二時限目からは外での実習。といっても、実機を使っての実習というわけではなく、教員や専用機持ちの動きを見て学ぶといった要素が強い。それに、今日が第一回目の実習だからね。これまでは座学で基礎的な事や知識、関係する法律とかそういうのを学んでた。あと、一般教養とか。だからこそ、見学だけとはいえ実機を間近で見られるということもあって、皆少しワクワクしているようだ。

 

「では、本日より実習を開始する。その前に一つ。貴様らがこれより扱うのは現行のありとあらゆる兵器を凌駕する性能を持った代物だ。一歩間違えば大惨事に繋がる——その事を肝に銘じておけ」

「「「はいっ!!」」」

 

そんな浮き足立つクラスの皆に警鐘を鳴らすように声をかける千冬姉さん。やはりカリスマ的な存在が言うと重みが違うのか、一斉に静かになる。最早そういう訓練を受けているんじゃないのかなと思ってしまうくらい統率が取れているみたいだ。

 

「では、初めに専用機持ちによる飛行の実演を行ってもらう。紅城、織斑、オルコットの三名は準備をしろ」

「はい」

「は、はい!」

「わかりましたわ」

 

千冬姉さんに言われ、私達は皆の前に出る。

 

(おいで、ドラグキュアノス)

 

たった一言。その一言を心の中で呟く。同時に、幾多もの六角形の非発光体が体を包んでいき、崩壊を始める。姿を見せるのは蒼と白のカラーリングが特徴的な、私と榛名の新しい機体、ドラグキュアノスだ。最後に[ARMOR COMPLETED]の表示を確認したら展開が無事に完了できた証拠。

 

〔本日も機体の調子は最良の状態です。一夏の思うように動かせるはずですよ〕

(いつもありがとう、榛名。今日も一日頑張ろうね)

〔はいっ!〕

 

ドラグキュアノスはどこも異常がない。これはいつも榛名が細かいところまでメンテナンスしてくれいるからに他ない。榛名には頭が上がらないよ。

周りを見るとセシリアは無事に展開を終えていたようだ。それに、ブルー・ティアーズも修復が終わっているようだし、特に問題はなさそう。ただ……

 

「——遅い、いつまで時間をかける気だ貴様は」

 

織斑君、全く展開できてないんだよね……機体の不調、というわけでもなさそうだし。一体どうしたんだろう?

 

「……来い、白式!!」

 

結局、名前を呼んで展開するという事にしたみたいだ。一番確実だし、私も心の中で呼んでいるからね。あまり人のことは言えないので、何も言わずにいよう。

 

〔とは言っても、明らかに一夏の展開速度は早い方ですし、イメージを固めるって意味でもいいと思いますよ〕

(でも、悠助が展開する時は名前とか呼んでないし、しかも早いし……)

〔あの人は何かと規格外ですから……こと戦闘技能に関しては特に〕

 

確かに悠助、部分展開もそうだけど全身を展開する速度も早かったからね……すごいと思う反面、同じ人間なのかなと思ってしまうことも時々あるよ。

 

「——熟達した操縦者であれば展開には一秒とかからん。機体の展開など基礎中の基礎だ。織斑、紅城やオルコットを見習って精進しろ」

「い、いやでも、俺まだ初心者——」

「そんな言い訳はここでは通用せん。やれ」

「……はい」

 

千冬姉さん、本当厳しいよね……指導にも容赦がないよ。

 

「まぁ、今は授業中だ。紅城、織斑、オルコットはその場より高度40メートルまで上昇し、その後指示があるまでグラウンド上空を旋回。上空では紅城の後を追従するように飛行しろ」

 

要するに実演飛行ってことだ。事前に知らされてなかったら緊張していたことだろう。まぁ、事前に知らされてても、いざ言われてしまうと緊張するんだけどね。でも、飛行ルートは教えてもらってるし、なんとかなると信じたい。

 

「わかりました。——では、お先に」

 

とにかく、指示通りに動くとしよう。私はウイングスラスターを噴かし、ドラグキュアノスを上空へと舞い上がらせる。垂直に飛翔するって今までしたことなかったから、少し不思議な感じがあるけど、空が真っ直ぐ近づいてくるような感じがするよ。予定の高度まで上昇したら一度機体を静止させて水平飛行に移行。少しだけ速度を抑えて飛行する。後ろを見ると安定した飛行でセシリアが付いてきていて、その後ろをちょっとふらつきながら織斑君が付いてきているようだ。

 

『何をしている織斑。ドラグキュアノスはともかく、スペック上では白式の方がブルー・ティアーズよりも速度は上だぞ』

『そんな事を言われても……今一つイメージが掴めないんだよなぁ。自分の前方に角錐を展開するイメージとかわかんねえって……』

『所詮イメージはイメージ。自分に合った方法を探すのが建設的でしてよ?』

 

通信回線越しに聞こえてくる会話。織斑君は仕方ないよね……まだ一ヶ月も経ってないから慣れてなんていないだろうし。イメージを模索するのも大変そうだよ。

 

『それにしても、紅城さんの操縦って上手いよなぁ。初心者の俺から見てもすげえって思う』

『それに関しては同意ですわね。紅城さんの操縦技術は代表候補生と同等かそれ以上であるかと……』

「別に大したことじゃないよ。私より上手い人なんていくらでもいるだろうし」

『だとしてもすげえよ。そういえば、紅城さんは飛行してる時ってどんなイメージで飛行しているんだ?』

 

織斑君にそう質問を振られてしまった。うーん、どうなんだろう。今までがむしゃらになっていたってのもあるし、明確にこういうイメージで飛んでいるとか操縦しているとかってのはないんだよね……感覚でやってるってわけでもないし。一番近いのが悠助のを見様見真似でやってるって感じだし。でも、あえて挙げるとしたら……

 

「ドラゴン、かな……?」

『ドラゴン?』

『どうしてドラゴンですの? 鳥とかそういった類かと思いましたが』

「……実のところ、私の操縦ってある人の見様見真似でしてたらできるようになったって感じなんだよ。それでその人を例えるならドラゴンかなって思ったから、かな」

 

ドラゴン、というよりは龍が正しいのかもしれないけど、多分そんな感じなのは間違いない。強引だし、ちょっと粗暴だし、手加減なんてものは全くないんだけど、でも自分が大切だと思ったものはずっと大事にしているし、一度手にしたものは手放さないし……暴力的な一面もあるけど優しいところもある、それが悠助をドラゴンとか龍とかと例える理由。そういうおとぎ話の本を読むのが好きだったからというのもあるんだけどね。

 

『なるほど……そういう事でしたのね。でも納得がいきました。それならばとても自由に空を飛べるわけですわ』

『ドラゴンという例えには驚いたけどな。俺もそういう感じでイメージしたらいいんだろうか……』

「それはあくまで私のやり方だから、さっきセシリアが言っていたように自分なりのやり方を見つけた方がいいと思うよ」

『それもそうかぁ……でも、本当によくわかんねえんだよなぁ……』

『でしたら、私が後ほど理論に基づいたレクチャーを——』

『——一夏!! いつまでそこにいるつもりだ!! 早く降りてこい!!』

 

突如として響く怒声。思わず名前を呼ばれて一瞬体が強張ったが、よくよく考えてみたらこっちで私の事を名前呼びするのは榛名しかいない。つまり、これは私に向けてでのものではない。ふと下に目を向けると、なにやら山田先生からインカムを奪って声を荒げている箒の姿が……いや、何をしてるの? もう山田先生なんて慌てているし、何度目になるかわからない涙目になってるし……

 

『……箒のやつ、何やっているんだ?』

 

これには流石の織斑君も困惑の表情。あれは誰がどう見ても褒められた行動じゃないし、むしろ指導すべき行動だよ。勝手に通信を行うのもそうだけど、それ以上に人のものを勝手に強引に取り上げるというのがダメ。とはいえ、普段の態度を見ていれば箒が織斑君に対してどんな感情を抱いているかはうっすらとだけどわかるよ。でも、それを免罪符にはできない。そんな事を思っていたら、千冬姉さんに出席簿で叩かれていた。まぁ、そうなるよね。

 

『教員の物を強奪するな、馬鹿者。——紅城、織斑、オルコット、次に急降下と急制動を行う。織斑、オルコットは地表10cm、紅城は地表5cmを目標とする。まずは織斑、オルコット両名からだ』

 

……千冬姉さん、なんで私だけ二人と違ってそんなに低いんですか? いや、そんな地表から『お前ならできるだろう?』みたいな目線を送るのやめてくれませんか……? 第一、そんな曲芸じみた事今までした事ないんですけど……

 

〔背面飛行しながら二刀流の格闘戦、高速で後退しながらアームカノンによる射撃、複雑な軌道を描きながらの近接格闘戦、相手の目前で宙返りして背後に強襲……どこが曲芸じみた事をした事がないんですか、一夏?〕

(そ、それとこれとは話が別! というか、私そんな事してたの!?)

〔……自覚なしでやっているんですから、余計にタチが悪いですね〕

 

いや、本当にそんな事した事ないって! ……多分だけど。大体いつもがむしゃらでやっているから、自分でもよくわかってないし……なんて事を思っていたら突然轟音と土煙が。……いや、今度は何が起きたの!?

 

〔一夏! あそこです、あそこ!〕

 

榛名がディスプレイでマーカーを表示したところには、何やらクレーターのようなものと土煙の隙間から見える白い装甲。その近くではセシリアのブルー・ティアーズが待機しており、皆の視線がクレーターのほうに向いてる。しかも、織斑君の姿が見えないという事は……

 

(……まさかあそこにいるのって)

〔……十中八九、織斑君でしょうね……おそらくですが、急降下での加速がつき過ぎて減速が間に合わなかったのかと〕

 

……まぁ、それなら考えられなくもないけど、あんまり見たくはない光景だよね。土煙が晴れていくと、そこには頭をクレーターの中心にめり込ませている織斑君の姿。バイタルでは異常がないことから特に問題はないと思うんだけど、どう見ても墜落事故だよねこれ。一体どんな速度で突っ込んだのやら……とりあえず、私も心配だから見にいくとしよう。

 

(榛名、降下するよ)

 

ウイングスラスターを操作し、降下体勢に入る。後は地表面に到達する直前に体を起こして、スラスターの方向を変えて減速。完全に墜落状態の白式のもとへと降りた。私の降下では、周りには余計に土煙も舞い上がってないみたいだし、とりあえずは大丈夫かな。

 

〔さらっと高い技能を出さないでくださいよ一夏……〕

 

いや、そんな事はしていないんだけど。それはともかく、今は織斑君だ。

 

「えーっと、織斑君? 無事……ではないみたいだね」

「——ぶっはぁっ!! し、死ぬかと思った……」

外傷とかは特にないようで、ひとまず安心。白式を纏っている以上、怪我をすることなんてまずないとは思うんだけど、それでも負荷はかかってるから心配するに越した事はない。

 

「——馬鹿者、誰が墜落しろと言った。一歩間違えれば大惨事になるぞ」

 

千冬姉さんがそういうのも無理はない。今回は人のいないところに落ちたからいいものの、これがみんなの真上とかだったりしたら……想像なんてしたくない。

 

「今回は被害がなかったからいいものの、以降は気を付けろ。我々が扱っている物は一歩間違えれば大惨事に繋がる危険性を有している。最低でもこれだけは頭に絶対入れておけ」

 

千冬姉さんの言っている事は尤もだと思う。多分それはどんな事をする場合でも言える事。特に私たちは、それだけの物を使っているって認識をしておかないといけないからね。

 

「——まぁいい。次は武装の展開の実演だ。織斑、流石にそれくらいは出来るだろう」

「は、はい!」

 

そう言われて咄嗟に雪片を展開する織斑君。多分普通の人が見たら十分早いと思うけど、千冬姉さんの評価は

 

「遅い、あと1秒は早くしろ」

 

との事。そんなに細かく測っていたんですか、千冬姉さん……普通の人だったらあんまりわからないですよ、本当。

 

「次、オルコット」

「わかりましたわ!」

 

そう言って展開したのは主兵装であるスナイパーライフル。流石代表候補生と言うべきか、一瞬で武装の展開を終えていた。

 

「……オルコット、私からはあまり言わないが、そのポーズはやめておいた方がいいだろう」

「そそそそ、そそうですわね!!!」

 

ただ、そのライフルの銃口がこっちに向いてたから、思わずトンファーブレードの刀身を向けちゃったよ……そんなはずないけど撃たれるって思ったら体が勝手に動いていたから……ごめん。

 

「も、申し訳ありません紅城さん!」

「い、いや、気にしなくていいよ」

 

多分、ああいうポーズを取るのが彼女なりのイメージの固め方なんだと思うから、こればかりは仕方ないと思うしかないかな。実害なかったわけだし。

 

「し、しっかし、紅城さんの武装展開速え……気付いたらセシリアの真前に大剣が出てたぞ」

「わ、私も目前に刀身がきている事に気づくのに時間がかかりましたわ……」

「……紅城の武装展開はそれで充分かもしれんな」

 

千冬姉さんまで何を言ってるんですか!?

 

「とにかく、最後に紅城に実演してもらう。先程のはアクシデントだったが、熟練した操縦者はあの程度ならば造作もない。では紅城、武装の展開を頼む」

「い、いえ、それは構わないのですが……」

 

武装展開の実演を行うのは全然構わないよ。構わないんだけど……ドラグキュアノスの中で展開できる武装、ほとんど無いんだよね。蒼龍の時と同じで大体が固定武装だし、いつも使ってるブレードライフルもトンファーブレードも最初からコネクタに接続されたままだしね……どうしようかな。

 

〔では、ドレスユニットの換装でもしてみますか? あれも武装みたいなものですし〕

(あ、そっか。そういう手があったか。それじゃ、早速やってみる?)

〔いつでも準備はできていますよ〕

 

ドラグキュアノスに搭載されている特殊装備、ドレスユニット。装備がまるっきり変わるっていう装備なんだけど、今の今まで使った事がないんだよね……今のままでも十分って思えるくらいの高性能だし、何より私が扱い切れるかどうか不安が一番の理由。しかし、今回は換装するだけだし多分大丈夫だと思いたい。

 

(えっと、そこのスロットを操作してあわせて、後はイメージするだけ……)

 

イメージ……といってもどういうイメージをしたら換装できるのか……とりあえず、前に見せてもらった全体図を思い出して……確か高機動モジュールと似ていた形状……よし、いける!

そう思った瞬間、四肢とバックユニットが展開時の非発光体に覆われる。しかし、それも一瞬の出来事。爆ぜた非発光体の中から出てきたのは、ドラグキュアノスの蒼と白の装甲ではなく、真紅と白の装甲。スラスターを内蔵して一回り太くなった四肢と蒼龍の時と同じ形状のウイングブースター。腰には増設スラスターとワイヤードダガーによる装甲が追加され、与える印象は全く違うと言っても過言では無い。真紅の装甲を纏ったドラグキュアノスのドレスユニット、それが近接特化のクロスドレスだ。

 

「……武装を展開しろとは言ったが、誰がパッケージごと展開しろと言った。技能は認めるが、指示は守ってくれ……胃が痛む」

 

展開を終えた私を見た千冬姉さんはそう言って眉間を押さえる。いや、そう言われてもこれしか現状できないんですよ……。

 

「あの、一応普通の武装も展開できるのですが……」

「さらっと大剣を高速展開するな」

 

新しい武装であるバスターブロードソードを試しに展開したら、今度はツッコまれる始末。普通の武装を展開してくれって言われたから展開しただけなんですが……。

 

「——とまぁ、このように熟練した操縦者であれば武装の展開など呼吸するかのように自然な動作となる。諸君にはこのレベルを目標に精進してもらう。では、授業はここまでとする」

 

そんなこんなで、よく分からないうちに授業が終わってしまった。結局飛行の実演をして武装の展開の実演をして終わったんだけど……どうなのこれ? いや、何に対してどうなのって言ってるのか自分でもよく分からないんだけど。

 

「あと、織斑はそのクレーターを埋めておけ。自分の事は自分の手で始末しろ。紅城もオルコットも手伝うなよ」

「嘘だろ!?」

 

そして突然の重労働を課せられる織斑君。あの大穴を埋めるのにはかなりの労力を要すると思うけど、それを一人でやるってなると中々に大変な事だと思う。手伝ってあげたい気持ちはあるけど、そもそも私じゃ大して力になれないと思うし……とりあえず合掌しておこう。無事に終わるのを祈って。

 

「待って待って待って!? なんで合掌!? なんで合掌したの紅城さん!?」

 

背後から聞こえてくる織斑君の悲痛な声を聞こえてないフリをする私。我ながら酷い事をしているなぁって思うよ。でも、私は次の授業の準備をしたりしなきゃいけないし……そう自分に言って納得させる他ないよ。……後でお疲れ様って感じで何かしてあげようかな。

 

 

あ、織斑君は結局次の授業にはギリギリで間に合わず、千冬姉さんに出席簿で軽く叩かれていたよ。

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