いつか、きっとどこかで   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第17話「今日は宣戦布告に来たってわけ!」

クラス代表が織斑君に決定し、その歓迎パーティーを終えた翌日。いつも賑やかな教室は一段と賑やかになっていた。まぁ、理由としては十中八九、あの話題なんだと思うけどね。

 

(転校生、かぁ……確か二組に来るって話だったよね?)

〔はい。今朝の打ち合わせの際に聞いた話だとそれで間違いないはずです〕

 

そう、転校生の話題だ。四月に入学式をして、そこから大体半月が過ぎたこの時期に来るというのは異例だと千冬姉さんは言っていた。それもそうだよね、結局入学することになるんだったら最初から来た方がいいはずだし。仮に専用機とかの調整に遅れが出ているんだとしても、後から搬入するっていう方法もあるわけだし、わざわざ難易度の高い転入試験を受ける必要も無いと思う。とはいえ、その試験をクリアして転入してきたわけだから、相当なエリートであることは間違いない。

 

〔あのくらいの問題であれば、一夏なら余裕で解けるかと思いますよ?〕

(無理だって。私、暗記科目は苦手なんだから……)

〔その苦手な分野でも九割は当ててる一夏が無理なら誰も合格しないと思うのですが……〕

 

いや、あれは難しいって。ちょっとだけ見せてもらったけど、合格ラインに達するのも難しそうな問題だったよ。私の受けた入学試験の問題よりもかなりレベルは高かった。凡人の私には大変なものだよ。

 

〔……一夏がそう言うのであればそう言うことにしておきます。それにしても、この時期に転入となると……あの方を思い出しますね〕

(そうだね……確か鈴もこの時期に来たんだったもんね)

 

凰鈴音。向こうの世界でもこの時期来ていた転校生。そして、私の大事な幼馴染。快活で、いつも元気で笑顔を振りまいていた鈴は私にとって支えでもあった。いつも困っていた時にはすぐに彼女が手伝ってくれたし、私に対して普通に接してくれる人だったから……あの頃はそれだけでとても嬉しかった。何度も迷惑をかけちゃったなぁ……もしかすると、今も向こうで私の事を心配しているのかな……。

 

〔……きっと鈴さんも、他の皆さんも一夏の事を心配していますよ。むしろ、あれだけ仲の良かった人達が一夏のことを忘れるわけなんてないじゃないですか〕

(……そうだよね。向こうの世界に戻ったらみんなに謝らなきゃいけないね……)

 

今頃みんなはどうしているんだろう……無事でいるといいんだけど……まぁ、違う世界に飛ばされてしまった私が大丈夫じゃないし、未だに行方不明の悠助もいるから全然大丈夫じゃないけど。でも、せめて元の世界にいるみんなは無事だといいなぁ……。

 

「おっ、紅城さん。おはよう」

「おはよう、織斑君」

 

そんな風に考え事をしていたら私の席の隣人である織斑君の登校だ。相変わらず学園中の人気者である彼が教室に入っただけで賑やかさはさっきの二割増くらいになっている。

 

「しっかし、何でこんなにみんな騒いでいるんだ? 何かあったのか?」

「まぁね。二組に転校生がくるみたいなんだよ」

「紅城さんの言う通りですの。それも中国からの代表候補生らしいですわ」

「ああ。しかも、噂ではクラス代表にそいつがなったとかという話だ」

「セシリア、箒、おはようさん」

「二人ともおはよう」

「ええ、おはようございます、一夏さん、紅城さん」

「ああ、おはよう」

 

そしてやってくるセシリアと箒の二人。どうやらこの二人にも噂は耳に入ってたようだ。

 

「しかし、これではますます訓練に力を入れていかなければならなくなったな」

「篠ノ之さんの言う通り。ですので、これから放課後は私達がご指導していきますわ」

「ま、マジかよ……」

「それだけ期待されてるってことだから。何かあったら私も力になるし」

「なんと……! 大龍神紅城様、ありがとうございます……!!」

「あんまりふざけていると私でも怒るよ?」

「ひぇっ……」

 

あんまり怒ったことはないんだけどね、と心の中で呟いた。

 

「……というか、なんでそんなに俺に勝って欲しいんだよ。まぁ、俺だって負ける気はないけどさ」

「ほらほら、折角の男子が勝つところを見たいっていうのもあるし?」

「優勝賞品のデザートフリーパスのためにも織斑君には頑張ってもらわないと!」

 

今月の末に行われるクラス代表によるクラス対抗戦。その優勝賞品である半年間有効の食堂デザートフリーパスが大体の目的なようだ。うん、欲望に忠実なのはいいことだと思うけど、もっとちゃんと織斑君のことを応援してあげようね。

 

「……まあ、やるだけ頑張るけどさ。でも、勝てるのか? 俺まだ素人に毛が生えたくらいの程度だぞ……?」

 

欲望に忠実な応援を受けた織斑君は戸惑いながら、不安を露わにする。確かにその通りだ。織斑君は圧倒的に経験が不足している。でも、この間の模擬戦ではそれなりに動けていたようだし、意外と本人自身に才能ありそうだからね。そこをどう活かすのかが大事だと思うけど。

 

〔随分と専門家のように言えるようになりましたね、一夏……榛名はその成長ぶりが嬉しくて涙が出てきそうです〕

(いやいやいや!? これ全部前に榛名が言っていた事だからね!?)

 

もし榛名の姿が見えていたら泣き真似をしているのがはっきりと見れたことだろう。とはいえ、榛名も嘘をつくのが苦手だから、そういう真似も上手くできないと思う。

 

「大丈夫だって! 今のところ一年で専用機を持っているのは一組と四組しかいないから!!」

 

 

 

 

「——その情報、古いわよ」

 

 

 

 

 

教室の入口の方から聞こえてきた声にクラス中の視線が集まる。そこにいたのは……あまりにも見覚えがありすぎるシルエットの女子。不敵そうな笑みを浮かべているツインテールが特徴的な小柄な女子……私の記憶の中で合致するのは一人しかいない。

 

「残念だったわね。二組も専用機持ちがクラス代表になったの。クラス対抗戦はそう簡単に勝たせてあげないわ。今日はその宣戦布告ってわけ」

 

間違いない。口調とかは全然違うし、その雰囲気に全く似合ってないけど……でも、この声には聞き覚えしかない。

 

「まさか……鈴? お前、鈴なのか?」

「そう。中国国家代表候補生、凰鈴音! 今日は宣戦布告に来たってわけ!」

 

そう……私の事を支えてくれていた、大切な親友の一人……こっちの世界での鈴だった。それにしても、子供が背伸びして大人の真似をしているように見えてくるのはなんでなんだろうか……? あんまり鈴らしくない格好だ。

 

「——って、それすげえ似合ってねえぞ」

「なっ……!? な、なんって事言うのアンタは!!」

 

あ、一瞬で私の知ってる鈴と同じになった。というか、鈴は教室に戻らなくていいのかな……予鈴すでに鳴ってるんだけど。箒もセシリアも予鈴がなった瞬間そそくさと自分の席に戻っていったし。まぁ、席に戻ったとはいえ、鈴に向けて警戒の目をしているんだけどさ。……流石にここまで露骨だと私にもわかるよ。

そんな時だった。鈍く響き渡る打撃音。最早この教室では聞き馴染みのある音。

 

「いったあぁぁぁぁっ……!! 誰よ! いきなり人の頭をたた——」

「——すでに予鈴は鳴っているぞ、凰。速やかに自分の教室へ戻れ」

「……えっ!? ち、千冬さん……」

「織斑先生だ、馬鹿者。いいか、速やかに自分の教室へ戻れ。返事は?」

「は、はいぃぃぃぃっ!! ——一夏! 逃げずに待ってなさいよね!!」

「早く行け」

「すいませんでしたぁぁぁぁぁッ!?」

 

千冬姉さんによる指導を受けた鈴は綺麗なお辞儀を決めてから、脱兎の如く駆け出していった。あのすばしっこさはこっちでも同じなんだね。

 

〔なんだか懐かしい人が来ましたね〕

(こっちの世界の人だから、厳密には違うけどね。でも、また賑やかになりそうだよ)

 

そんな事を思いながら私は授業の準備を進めたのだった。

 

 

午前中の授業を終え、少々千冬姉さんの手伝いをしていた私は遅めの昼休みとなった。まさか、午後からの授業で使う資料を全く用意してなかったとか……千冬姉さん、しっかりしてください。幸いにも私が任されたのは印刷と配布用にファイルにまとめる程度だったからまだ良かった。まぁ、一番大変なのは、その授業を担当する山田先生だけどね。よりにもよって詳細な解説が必要なところだったから……流石に千冬姉さんも責任を感じたのか、きっと今頃二人で打ち合わせをしているところだろう。……私も手伝った方が良かったのかな?

 

〔ですが、織斑先生から直接昼休みは取るようにと言われましたから。それに従うのが一番です〕

(それはそうなんだけど……これでも教員補佐だし)

〔それ以前に一夏は学生ですから。教師の指示に従うのも学生の役目ですよ?〕

 

そういうのものなのかな? そんな風に思いながら自然と足は食堂の方へ向かっている。今日のお昼は何にしようかな? お弁当作ってこなかったから久々の食堂だ。今日は鈴が来たことだし……炒飯とかにしてみようかな。という事で、食券を買って受付に渡す。そういえば悠助も時々注文していたなぁ……まぁ、量はとんでもなかったけどね。ラーメンとかが入ってる丼に山盛りになった炒飯を見た時は自分の目を疑ったくらいだもん……そして、それを平然と私よりも早く食べ終える悠助にも驚いてしまった。いくら訓練した後とはいえあの量は驚くしかないよ……。

 

〔あの人は胃袋にブラックホールがあるのかと疑ってもおかしくない量を食べてますからね……一夏も食事を用意するのは大変だったことでしょう〕

(いつもだと普通より多いくらいなんだけどね……時々何か箍が外れたかのように食べるけど)

〔それでいてあの肉体ですからね……コア人格と揃って燃費の激しい方々です〕

(でも、榛名も結構食べる方だよね?)

〔わ、私は武蔵ほど食べたりしてません!! 食べても三時のおやつにたい焼き十個程度です!!〕

(それ世間一般からしたら食べてる方だと思うよ……?)

 

そんなやりとりをしている内に注文していた炒飯が来たので、受け取って席を探すことにした。なお、量は普通である。私にとっては丁度いいか、少し多いかもしれないくらいだ。

 

(やっぱりこの時間帯だと混んでるよね)

〔昼休みの真ん中ですからね〕

 

しかし、肝心の空いてそうな席はそうそう見つからない。来るのが遅かったからなのか、混雑具合はピークに達しているんだと思う。席は無事見つけられるかな……不安になってくる。とりあえず、空いてそうなところを目指して歩いていこうとした時だった。

 

「——あっ、紅城さんじゃん! こっちこっち!」

 

彷徨ってる私にかけられる声。その方向を見ると、手を振って場所を示してくれている織斑君の姿が。周りには箒にセシリア、鈴の姿も見える。あと、ついでに私に集まる視線……うぅ、目立つの慣れてないから、視線に晒されるのは苦手なんだけどなぁ……。ひとまず、呼ばれたので彼の元に向かうことにした。

 

「そんなに大声で呼ばなくてもいいのに……目立って恥ずかしかったよ」

「そうだぞ、一夏。紅城は目立つのが苦手なんだからな」

「わ、悪かったって。でも、席を探している感じだったからさ。一緒にどうだ?」

「そういうことなら……それじゃ、セシリア、お邪魔するね」

「ええ。少しずれますので、しばしお待ちを」

 

そういうわけで織斑君達がとっていたグループ席に混ぜてもらえることに。もしかすると席に座れないんじゃないかって思ってたから、座れたことに一安心だよ。

 

「——一夏、そいつ誰?」

 

……その安心感も束の間だったけどね。いや、わかってたことだよ。この世界の鈴は私の知ってる鈴じゃないってことくらい……でも、私の知ってる顔で堂々と私の事を知らないって言われてしまうと、少し心にくるものがある。

 

「こら、鈴! 人を箸で指すな!……この人は紅城一夏さん。俺たちのクラスメイトで教員補佐っていう役職に就いてるんだ」

「ついでに言うと一年では技量トップクラスだな」

「現状一年生最強格と言っても差し支えないですわね」

 

フォローするかのように織斑君、箒、セシリアが私の事を紹介してくれる。一息置いて落ち着いたし、ある程度わかってた事だからすぐに持ち直すことができたよ。……あと、箒とセシリアは余計な事を付け足さないで。

 

「へぇ……あんたが噂の大剣使いだったのね。私は凰鈴音。よろしくお願いするわ」

「改めて……紅城一夏です。こっちこそ、よろしくね」

 

って、噂の大剣使い?

 

「なぁ、鈴? その、噂の大剣使いって紅城さんのことか?」

「私も教室でちょっと耳に挟んだだけだけどね。一組にいる大剣使いのブルードラゴンってクラスの子が噂してたのよ。試合見た子がめちゃくちゃ強かったっても言ってたし……まぁ、まさかこんななよっとしてる子だとは思わなかったけど」

 

……あの黛さんから教えられた異名がここまで広まってるとは思わなかったよ。

 

「あはは……別に私はそんなに強いわけじゃないからね」

「ふーん。でもまぁいいや、戦ったら勝つのは私だし」

 

自信満々に答える鈴の姿はやはり私の知っている鈴と重なるところがある。でも……違和感を覚えずにはいられない。その理由を探して頭の中で擦り合わせが行われていく。

 

「……どう思うセシリア?」

「……箒さんは投擲でビットを落とせる相手に勝てますの?」

「……一般生徒の私が勝てると思うか?」

「……他者とは隔絶された強さですわね、彼女」

 

何やら箒とセシリアがこそこそと話をしているようだけど、周りの喧騒に埋もれてよく聞こえない。断片的に聞こえた内容から鈴の事でも言っているのだろうか?

 

「んじゃ、私はそろそろ戻るから。一夏、放課後絶対空けときなさいよ!!」

「いや、俺放課後は訓練あるって言ったよな!? 今日だけは本当に無理なんだって!……って、話聞いてねえし」

 

そう言って席を後にする鈴。自信の高さと元気さは私の知っている鈴と同じ……だけど、こんなに自信過剰ではなかった、人の話を聞かないような人ではなかった。我を通す、と言えば聞こえはいいかもしれないけど、あまりにもわがままというかなんというか……それに、織斑君に接している時との機嫌の差。きっとこの世界の箒と同じなんだと思う。この間からセシリアも似た様な感じになってるみたいだけど。

 

(やっぱり、私の知ってる鈴じゃない、か……)

 

勝手に自分が知ってる人だと期待して、勝手にその思いを裏切られて……そんな自分が嫌になりそうだった。霞がかかった心は晴れ間が差しそうになかった。

 

 

放課後。

いつもなら部屋に戻って復習だったり夜ご飯の準備だったり、なんなら明日の授業の準備とかをしているんだけど、今日は違う。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!」

「そこっ!!」

 

響き渡る大剣と長刀が交差する音。現在、私はアリーナで織斑君の訓練に付き合っていた。前にも頼まれていたんだけど、今日ちょうど時間が空いたし、アリーナでしておきたいこともあったから付き合うことにしたんだよ。本当は箒とセシリアがするはずだったんだけど、織斑君から直接頼まれちゃったからね……ただ、二人とも私が参加するってことになったら少し残念そうな、けど嬉しそうな顔をしていたよ。

 

「というか、その機体本当にあの時と同じ機体なのかよ!? 全然見た目違うんだが!?」

 

一度距離を取った織斑君が困惑の声を上げる。まぁ、それはそうだと思うよ。一応、少しは見せているけど、この姿で模擬戦を行うのは初めてだからね。

 

「同じドラグキュアノスだよ。装備は換装しているけどね!」

 

今のドラグキュアノスは蒼のスマートな装甲は消え去り、赤の重厚そうな装甲が四肢を覆っている。まるで以前使った高機動モジュールと同じ。背中には慣れ親しんだウィングブースターとウィングブレード。腰回りにもスラスターが増設されている。

近接特化仕様ドレスユニット、クロスドレス。それが今のドラグキュアノスの姿だ。私は改めて主兵装のバスターブロードソードを構える。両刃の大剣で、ブレードライフルの刀身を超える大きさもある。取り回しは決して良いとは言えないが、瞬発力が向上しているクロスドレスではそこまで大きなデメリットではないと思う。

 

〔蒼龍の近接攻撃力を高めるためには、高い瞬発力と重兵装を容易に操る出力が大事ですから。悠助さんのバスターソードを参考にし、ハンドバスターソード三本分の重量と引き換えに得たリーチと破壊力が自慢のバスターブロードソードはどうですか?〕

(そこまで取り回しが悪いわけじゃないんだけど、なんだか二刀流じゃないと落ち着かなくて……)

〔……流石にバスターブロードソード級の二刀流はお勧めしませんよ? ただでさえ重量が増加しているのに、これ以上重装備を増やしたら機動力を損なってしまいます〕

(そうだよねぇ……)

 

とはいえ、両手で剣を握るのはあまり慣れてないのも確かなこと。ブレードライフルもトンファーブレードも大剣であるはずなのにコネクタ接続とマウントフレームのおかげで片手で扱うことができたからね。それに、機体出力が上がっているとはいえ、悠助みたいにバスターソードを片手で振り回すような芸当は無理。

 

「うーん、やっぱり打ち込みが弱かったかな……?」

「十分腕に痺れがきてるんですけど!? と、とりあえず距離を取るしか——」

 

そう言って私から距離を取る織斑君。でも、そんなに大きく離されたわけじゃない。だったらこうだ。私は両腰のエッジが立っている部分を射出した。その後端にはワイヤーが取り付けられていて、先端のブレードは織斑君めがけて飛んでいく。

 

「げえっ!? なんだその武器!? しかも捕まった!?」

 

白式の脚部に突き刺さったブレードをワイヤーごと巻き取っていく。その間に私は両腕の対装甲散弾機関砲を放つ。アームカノンの代わりに装備された実弾兵装だ。初めて使う実弾の反動は、アームカノンより強く感じたよ。実弾兵器を扱う事の多かった悠助とかシャルロットとかよく取り回せたよねって思う。

 

〔ワイヤードダガーに対装甲散弾機関砲……接近戦特化のクロスドレスにおいて中距離から近距離を補う為の兵装ではありますが、まさかここまで効果的とは……そもそも、なんでそんなにさも当然のように扱えるんですか一夏は……〕

(私に聞かれても……強いて言うなら榛名が使いやすくしてくれたから、かな?)

〔相変わらず他人を褒める事がお上手で……〕

 

別に感覚的に操作できるのは本当の事だし、榛名が私が扱いやすいように調整とかしてくれたから大丈夫なんだと思うよ。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!? で、でも今度こそ一撃くらい——」

 

ワイヤードダガーを巻き取った後、あの散弾の雨を受けながらも接近せざるを得なかった織斑君は雪片を上段に構えて振り下ろそうとしてきた。昔ならそのまま当たっていたことは間違いない。でも、今は違う。

 

「——ッ!!」

 

私はバスターブロードソードを右手で強引に振るった。大質量のフルスイングを受けた雪片は織斑君の手を離れ飛んでいく。突然の事に呆然としている織斑君。その大きな隙を逃すわけにはいかなかった。振るった勢いは抑えることはできなかったが、そのままの勢いで左手でレーザーブレイドを抜刀、横薙ぎに振るった。

 

「——双方、そこまでですわ。白式、シールドエネルギー残量無し(エンプティー)を確認。この模擬戦、紅城さんの勝ちです」

 

セシリアからの通信を受けて私はバスターブロードソードとレーザーブレイドを格納する。ふぅ……久々の模擬戦だったから緊張したぁ……。

 

「……やっぱり紅城さん強すぎね? 俺、一方的にボコボコにされただけのように思えるんだが……」

「全くその通りだな。手も足も出ていなかったぞ」

「それを否定できないのが残念ですわね」

「お二人さん、少しくらいは否定してくれてもいいんじゃないですかねえ!?」

「あ、あはは……」

 

ドラグキュアノスのフルフェイスバイザーを解除した私が見たのは箒とセシリアから追い討ちを受けている織斑君の姿だった。機体の性能差とかもあるんだろうけど、織斑君からの攻撃はほとんど防いじゃったしね……。

 

〔全部捌き切ってますよ、一夏。被弾ゼロです〕

 

訂正、一発も当たってなかったみたい。

 

「で、紅城さん的には俺はどこをどうしたらいいと思う?」

 

立ち直った織斑君が私にそう聞いてくる。けど……人に教えるって苦手なんだよね……具体的にどうしたらいいのかなんてわからないし……むしろ悠助に教えてもらってた立場だから……うーん、前に悠助に教えてもらった感じでいいのかな?

 

「多分だけど、攻撃を仕掛けるタイミングなのかな? 今だとがむしゃらに突っ込んでいる感じがするし。前に教えてもらったんだけど『隙を見つけて攻撃』『接敵は一瞬』って感じにすればよくなる、のかな?」

「となると……今は機動や試合運びの練習となるわけか……ここはオルコット、お前に任せた方がいいだろう」

「あら、篠ノ之さんからご指名されるとは思ってませんでしたわ。てっきり紅城さんが担当するのかと」

 

セシリアの疑問に箒は少しだけ悩んだような表情をしてから答えた。

 

「……私が教えたい気持ちも山々なのだがな。紅城との模擬戦を見た後だと私では間違いなく役不足だ。お前に任せた方が間違いはないだろう。それに……」

「それに?」

「仮に紅城が一夏に教えたとして、今のあいつに真似できるものではないと思ってな」

「不本意ですが、同意しざるを得ませんね。超低空での瞬時加速などさせたらまた墜落しそうですわ」

「本当にひどいですねお二人さん!? 俺のことをなんだと思ってるんだ!?」

「「調子に乗って自滅しかけたバカ」」

「息を合わせて言うな!!」

 

そんな事をなんだか楽しそうに言い合ってるけど、二人の織斑君に対する信頼がなんというか……まぁ結構ひどいね。いや、既に実習で墜落っていう光景を見せられているから、しそうだなっていう気持ちはわからなくもない。

 

「まあまあ、二人ともそのくらいにしてあげようよ」

「女神だ……ここに女神がいる」

「はいはい。じゃ、セシリアお願いするね。織斑君も頑張って。予定が合ったら模擬戦なら付き合うからね」

「おう! ありがとな紅城さん! それじゃ、セシリア頼んだ!」

「ええ! このセシリア・オルコットにお任せくださいな!」

 

そう言って二人は飛翔していく。飛び上がった二人を見上げた後、私は残った箒に声をかけた。

 

「……よかったの?」

「何の事だ?」

「だって、せっかく訓練機借りれたんでしょ? 織斑君と特訓するために」

 

今の箒は訓練機である打鉄を纏っている。訓練器の使用には貸出申請を出して予約を取らなきゃいけないんだけど、大体いつも埋まっているんだよ。きっと、ようやく自分の番が回ってきたって事なのは間違いないはずだし、彼女としては織斑君と訓練をしたかったに違いない。……本人は隠してるつもりなんだろうけど、絶対織斑君の事が好きなんだと思うしね。私の知ってる箒なら、すぐに暴力に訴えて力ずくで片付けようとしていた。でも、この世界の箒はそれをしなかった。いや、しなくなった、なのかな。

 

「……以前の私なら感情に任せて自分の我儘を押し通していたかもしれない。だが、初日にお前に説教されてから、最近はできる限りそれを抑えようと思ってな。今はあいつの力になりたい、その一心だ」

 

私はあいつの幼馴染だからな、と誰になく言う箒は少しだけ大人びているように見えた。とても初日の夜に織斑君に木刀で殴りかかってた人と同じようには見えない。

 

「そうなんだ……」

「ああ。それに、今日はお前に聞きたい事もあったからな」

「私に?」

「そうだ。どうしても気になった事があってな……」

 

気になった事? 一体なんなんだろう……見当がつかないんだけど。でも、聞いてきた箒の顔は何やら真剣なものだし……本当になんなんだろう?

 

「お前の剣……篠ノ之流のものだな。二刀流だからわからなかったが、今日の模擬戦で確信した。相手の剣を捌き、断ち切る様は一で閃き、二で断ち切る『一閃二断の構え』——篠ノ之流では基本でもあり至高とも言える型だ。一体それほどの腕をどこで身につけたのだ……?」

 

……そういう事。確かに私は小さい時に、向こうの千冬姉さんに無理やり連れて行かれて篠ノ之道場で剣道をしていたよ。でも……ちゃんと剣道ができていたのかと言われたら、それは違うと答えるしか無い。一方的に叩きのめされて、無理やり立たされて、また叩きのめされる……そんな毎日だった。ついには師範でもある箒の父さんにも見放されて……そんな時私に声をかけてくれたのが束さんだった。その時に束さんから二刀流での立ち回り方を教えてもらって……今に至るって感じだね。だからあまりいい思い出がないけど、篠ノ之流の型が入っているのはそういう事なの。でも……どう答えたらいいんだろう。まさか『束さんに教えてもらったから』なんて言ったら怪しまれそうだし。とりあえず、なんとか誤魔化さなきゃ……。

 

「む、昔にちょっとだけ篠ノ之道場にいたから、かな? す、すぐに引っ越しちゃったからあんまりいなかったけど、それからも練習していたし」

「なんだと!? お前、私と同門だったのか!? ……いや、昔の事で時期も短ければ覚えていなくても不思議ではないか……」

 

信じられないと言った表情をする箒。まぁ、信じてはもらえないとは思うけど……しかも何かぶつぶつと呟いているし。かと思ったら深呼吸をして落ち着かせようとしている。箒が何を考えているのかわからないよ……。

 

「全く……そういう事なら話は早い。紅城、私はお前の剣に魅入られてしまったようだ……だからこそ、一つ私にも鍛錬を頼みたい。そして、私の剣でお前の剣を超えてみたい——いや、超えてみせる……!」

 

そう言って近接ブレードの切っ先を向けてくる箒。頼みごとなのか、宣戦布告なのかわからないよ……でも、その表情は真剣そのもの。きっと箒の中では決心付いた事なんだと思う。こんなにも真っ直ぐな感情を箒から向けられてしまった事に戸惑ってしまった。でも、私はその想いに応えたいと思った。なんでかはわからないけど、不思議と不安になる気持ちも湧いてこなかったし、なによりこんなに愚直にも想いをぶつけてくれる箒が、私の知ってる箒と違って輝いて見えてしまったから、なのかな。

 

「……私から教えられるような事なんてほとんどないよ。それでもいいの?」

「無論だ。そこは実際に見て学ばせてもらうから問題ない」

「そこまで言うなら……わかったよ。でも、あんまり役に立たないかもしれないから、期待はしないでね」

「気にするな。——さぁ、早速始めさせてもらおうか!!」

 

そう言って近接ブレードを構えて突き進んでくる箒。もう……こうなったら仕方ないか。

 

「それじゃ私も行くからね……!」

 

両手にレーザーブレイドを抜刀、刀身をクロスさせて振り下ろされたブレードを弾いた——。

 

 

その後、アリーナの閉館時間ギリギリまで箒の練習に付き合う事になったのだった。

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