いつか、きっとどこかで 作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)
次に目を覚ましたとき、視界に入ってきたのは見慣れない部屋。見慣れないテーブルと見慣れないソファ……横になっていた身体を起こすと部屋の全景が見えて来る。ちょっと狭い感じもするけど、なんだか会議室みたいな感じの部屋だ。
(あ、毛布……)
起き上がってから気づいたけど、私の身体には毛布がかけられていた。そういえば、あの時抱きしめられたから急に安心したて泣き出しちゃって、そのまま寝ちゃったんだっけ……という事はあの人がここまで連れてきてくれたのだろうか? でも、あの人は間違いなく千冬姉さんだった。もし、あの人が私の知っている千冬姉さんだったとしたら、少なくとも私を抱きしめたりなんて事はしてくれない。それに、どこか温かくて落ち着くような感じ……悠助や束さんと同じくらい安心できる感じがした。私は全く知らない雰囲気の千冬姉さん……頭がなんだかこんがらがってきたよ……。
(榛名、聞こえる?)
〔はい! 榛名はしっかり聞こえています!〕
(あ、うん、それならいいや。榛名はさ、さっきのどう思う?)
〔さっきのというと、織斑千冬そっくりのあの人の事ですか?〕
どうやら榛名も千冬姉さんの事はあまり良く思ってないようだ。
〔あんな一夏を事を誹謗中傷したり暴力を振るおうとしたり、依怙贔屓は当たり前だったりと、そんな振る舞いをする人間を誰が好きになると思いますか?〕
(は、はっきり言うね……私もそれには同感だけどさ)
〔ですが、先程のそっくりな方は中身は全く違ってましたね。口調こそあまり変わらないような気もしますが、それでも優しさを持った方だと榛名は思います〕
そういう榛名の声はどこか落ち着いているような感じがする。それよりも安堵が優っているんじゃないかなと思えるような声音だった。確かに、私をここに連れてきて寝かせてくれたという時点で私の知ってる千冬姉さんとは大違いだ。
(全く正反対の千冬姉さんって感じだね……私の知ってる千冬姉さんもあんな人だったら良かったのに……)
〔一夏……〕
(……ごめん、今のは気にしないで。今の私には榛名がいるから大丈夫だよ)
でも、あの人が私の千冬姉さんだったらと思ってしまったのは本当の事。そんなもしもの話をしたところで意味なんて無いのはわかってるんだけど、そう思わずにはいられなかった。
(そういえば悠助とは連絡取れそう……?)
〔……申し訳ありません。まだ黒龍の反応を検知できていないので、通信を繋げようにも繋げられないのが現状です〕
(……さっきと変わりなし、って事だね……でも定期的に通信は繋げるようにしてて。もしかするとって事もあるかもしれないでしょ?)
〔……わかりました。ですが、通信では様々な危険が伴いますので、RATナンバーの固有信号を放ちます。これなら他の機体に間違って認識される事も無いと思います〕
(うん。そこは榛名に任せるよ。私より詳しいと思うからね)
〔はい! 榛名にお任せください!〕
まだ悠助とは連絡がつかないという状況。あの時爆発に巻き込まれたのは間違いないけど、頑丈な機体である黒龍に乗ってるんだから、きっと悠助も大丈夫だと信じたい。もしかすると通信系の故障だって考えられるし……悠助が生きていると私はどうしても信じていたかった。私の目の前からいなくなった事もあったけど、でもちゃんとまた戻ってきてくれたんだから……今度もまた同じように戻ってきてくれると信じてるんだ。いや、信じていたいんだ。今の私にできるのはそれくらいしか無いから……。
〔一夏もあまり追い込まないようにしてくださいね?〕
(うん……榛名もこれから色々大変になると思うから少し休んでてね)
〔はい、では少し休ませていただきますね。用件があったらいつでも呼んでください〕
コア人格とはいえ、榛名だって急に状況が色々変わったんだから疲れてるはず。それに……蒼龍にはかなり無茶をさせちゃったからね。きっと榛名の方も同じように疲れてると思う。ちょっとの間かもしれないけど、ゆっくりして欲しいよ。
声は出してないけど、榛名とのおしゃべりにも一区切りがついた。頭の中で会話するって不思議な感覚だよね……しかも周りは見えないから注意は疎かになるしで……そういえば悠助が考え込んでいる時もこんな感じに黒龍のコア人格である武蔵と話をしていたのかな。少し疲れた私はふとため息をつく。
「——なにやら色々考えに耽っていたようだな」
「ッ!?」
気を抜いていたところに突如としてかけられた声。突然のことに身体が強張る。声のした方に目を向けるとそこにいたのは
「ああ、すまない。驚かせるつもりはなかった」
あの千冬姉さんと思わしき人物だった。やはり目の前の人からは嫌な気配とかそんなものは感じられない。でも、どうしても昔の記憶が呼び起こされてしまいそうになる。そのせいか手が自然と震えてしまう。
「い、いつからそこに……?」
「つい先程だ。部屋に入ったら考え込んでいるようだったから話しかけられずにいた」
「そ、そうですか……」
例えそうだったとしても一声かけて欲しかったと思うのは私だけなのかな? 榛名と話していたときは頭の中で喋っていたような感じだから、多分声には出てないはず……。
「とりあえず、お前からは色々と話を聞きたい。どうだ、コーヒーでも飲むか?」
「あ、ありがとう、ございます……」
そう言って千冬姉さん(仮)は私にカップを渡してきた。中には湯気が立つコーヒーが入っていた。あったかい……なんだろ、前にもこんな感じのことあったなぁ……あ、そうだ、悠助と初めて会った時だ。確かあの時、悠助の家に連れて行かれて、起きた時に缶コーヒー渡してもらったっけ。懐かしいなぁ……あんな風に優しくしてもらったのも久しぶりだったしね。
(悠助……)
でも、悠助のことを考えてしまうとどうしても寂しさに襲われる。なんでこんなことになっちゃったんだろう……訳のわからないことばかりで頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。
「どうした? コーヒー苦手だったか?」
「い、いえ! そういう訳じゃないんですが……では、いただきます」
コーヒーを軽く啜る。苦い。きっとこれブラックコーヒーだ。私、あんまりコーヒーは飲まないからね……苦いのがちょっと苦手だし。でも、やっぱり懐かしい……苦いけど、あったかい。私の人生が変わるきっかけとなった時を思い出す。懐かしさのある苦さだった。
「とにかく、話を進めよう。ああ、私は織斑千冬、ここで教師をしている者だ」
千冬姉さん(仮)は雰囲気こそ少し違う感じがするけど千冬姉さんそのもので間違いないようだ。でも、いくら雰囲気こそ違うとはいえ、千冬姉さんは千冬姉さんだ。私にトラウマを植え付けた本人ではないとしても、私にとっては恐怖の対象。一瞬身体がまた強張ってしまった。
「先ほどから私を見たりしては怯えているようだが……やはりお前はこの学園に危害を加えるつもりなのか?」
そして聞こえてきたのは目の前の対象を全力で警戒するような、低い声。怖い……でも、私にそんなつもりはないし、今がどんな状況なのかだってわかってない。違う、と答えたら何かされてしまうのかもという不安もあって中々声が出せない。
『おい、大丈夫か?』
そんな時、ふと脳裏に声が聞こえた。私にとっては忘れられない、大切な人の声。あの心配になってかけてきてくれる声が私の心を落ち着かせてくれる。思い出しただけで安心するなんて……本当、悠助の声ってすごいよ。
(大丈夫……私は大丈夫だから……)
心の中で自分を落ち着かせるように声をかける。私は勇気を振り絞って口を開いた。
「い、いえ……私にはそんなつもりはありません」
確かに怖かった。どんな風に言ってもきっと信用なんてしてもらえない。どんなことをされるのかわからない。でも、伝えなきゃ何も変わらないから……震えながらだけど、私はちゃんと答えた。
「その言葉に嘘偽りはないな?」
静かに頷く私。しばしの間、静寂がこの部屋を満たしていた。
「……どうやら本当の事のようだな。ひとまずはその言葉を信じるとしよう」
どうやら私の事を信じてもらえたらしい。その事に私は安心し、胸を撫で下ろした。……もしも信じてもらえなかった場合はどうなっていたのかわからないけど、考えるのはよそう。考えたっていいことなんてないと思うから。
「そういえば名前を聞いていなかった。それくらいは言えるだろう?」
千冬姉さんは私の事を全く知らないようだ。……通りで私に対して何もしてこないわけだし、他人と触れ合うような感じで接してきているわけだ。そう考えたら、なんだか張り詰めていたものが解けて、少し気が緩んできたような感じがした。
「えっと、私は……一夏、織斑一夏、です」
その瞬間、突然千冬姉さんは机を叩き、私の方へ飛びかかろうとする勢いで立ち上がった。
「そんなわけあるか! 一夏は私の
「ひっ……!」
あまりの剣幕に私は思わず腰を抜かしてしまって、座っていた崩れ落ちそうになってしまった。突然の事だし、いきなり自分のことを否定されたようで、涙が出そうになる。……でも、今千冬姉さんは『一夏は私の弟』って言ったよね……? つまり、私が男になっているって事……? でも、私も『一夏』だし……どうなってるの……?
「……急に怒鳴ってしまったようですまなかった。だが、一夏は私のたった一人の弟なんだ。だから、名前を騙られてしまったと思い、つい感情的になってしまったようだな……」
「い、いえ……それなら仕方ないです。でも、私も一夏である事だけは確かなので……」
何か証拠になるものは……あ、ポケットの中に何か入ってるみたい。えっと、入ってるのは携帯電話と飴玉、あと学生証……って、これだ!
私は偶然にも入ってたIS学園の学生証を取り出し、それを見せることにした。
「あの、これでどうでしょうか……?」
「……どうやら、お前の事は『織斑一夏』で間違いないようだな。これなら納得する他ない」
「偽造とかそういうのは疑わないんですか……?」
「いや、この装飾を偽造するのは労力がいる上、偽造防止用と考えられる透かしがあった。これは学園の学生証なら必ずあるものだ」
どうやら、学生証のおかげで信じてもらえたみたいだ。
「だが、今度はこの学生証が問題の種だな。間違いなく私はお前と会うのはこれが初めてだ。学園の者でないことは確かな事になる。しかし、それでいて学園の学生証を持っていた。——お前は一体何者なんだ?」
……前言撤回。余計に怪しまれていた。でも、私が言えることはその学生証は私のものだし、元はちゃんと学園の生徒だったわけだし……何者かと言われてもなんて答えたらいいのかわかんないよ。再び沈黙が訪れてしまった。
「——遅くなりました〜。織斑先生、例のあの子は——って、な、なんですかこの重い雰囲気は?」
そんな静寂をぶっ壊してくれた、少しポワポワした声。私にも聞き覚えのある声だ。間違いない、これは山田先生だ。声のした方に目を向けるとそこには緑髪で眼鏡をして、あとはちょっと大きいものを持ってる小柄な女性……正真正銘、山田先生がそこにいた。でも、きっと千冬姉さんと同じような私の知らない存在だろうから、今は声をかけずにいた方がいいのかもしれない。
「ああ、山田先生。少し問題があってな……」
そう言うと千冬姉さんはここまでの事を山田先生に話し始めた。特に何処かを改変して伝えてるわけではなさそう……なんというか、本当ちゃんとした人だなぁって感想が出てくる。私の知ってる千冬姉さんだったらこんな事絶対しないどころか、私に非があるように伝えたりするからね……。
「なるほど……そう言う事でしたか」
「私としてはこいつが一夏である事を信じたいのではあるのだが、素性が分からなくてはな」
「ですが、あの光が消えた場所に彼女がいた事も事実ですからね……」
二人の会話を聞いていたら、ちょっと気になるところがあった。
「光、ですか……?」
「ああ。お前を見つける事にもなったものだ。蒼い粒子のような光だったな」
蒼い粒子……そう聞いて真っ先に頭に思い浮かんだのは蒼龍の事だった。あの機体はブースターを動かしたりすると蒼い粒子を噴き出して飛んだり、限界負荷機動を行えば辺り一帯に粒子を放出するからね。きっとその粒子は蒼龍のものである事は確かだ。でも、二人は蒼龍本体ではなく粒子しか見てないっていうし、改めて思い返すとこの学園は今のところどこにも襲撃された跡が見られなかった。私が覚えてる限りでは、テロリストが侵入してきて襲撃されてあちこち壊されてしまったって悠助も言っていたし。さらにいえばその時は九月の下旬になりつつある頃だったのに、目が覚めた時には三月になっていたということもある。訳のわかんないことがたくさんあるけど、なんとなく自分がどんな状況に置かれているのか、私にもわかってきたような気がする。でも、それを確かめるにはどうしたら……うん、一つだけ聞いてみたらいけるかもしれないってのがあった。前に悠助に教えてもらったことだけど、聞いてみる価値はある。
「あのー、質問してもいいでしょうか……?」
「ああ、構わない。答えられる範囲でなら答えよう」
「それじゃ、今世界中にある
私の質問に対して、千冬姉さんも山田先生も少し面食らったような顔をしていた。が、それもしばらくしたら何処か呆れを含んだ表情へと変わっていた。
「……何を聞くかと思いきや、そんな事も知らないのか。世界中にあるコアの総数は467個、それが絶対数だ」
千冬姉さんの回答を聞いた私は自分の考えに確信が持てた。間違いない、きっと私は今とんでもない事態に巻き込まれてしまっているのかもしれない。
「……確かに、私も知っている
コアの数と種類。前に悠助が教えてくれたオリジナルコアと擬似コアの違いについてを思い出した。本来のコアより性能は落ちるけど大量に作ることができる擬似コアはとにかく数が多い。ただ、一般的にはあまり知られていないと悠助が言ってた。けど、この二人はISについて一般人よりも多くのことを知っているはずだ。
「そんなバカな話があるか。そもそもの話、あの馬鹿以外にコアを複製できた者はいないんだぞ」
「私にも貴方が嘘をついているとは思えませんが、そんな話は聞いたことがないですね……」
だが、この二人ですら知らないと言う。……こうなったら私の予想らもう疑いようのない事実になりそうだ。
「しかし、いきなり何故そんな話を持ち出した?」
「これで確信しました……きっと私は、私がいたのとは違う世界に飛ばされてしまったのかもしれません……」
自分でもなんでこんな考えにいきついてしまったのかはわからない。でも、擬似コアの話を持ち出して理解してくれなかったという事は、そもそも擬似コアが存在していないという事かもしれない。そうなってしまうと、私の知っていることと二人が知っていることが違うのにも納得がいく。
「そんなわけあるか——と言おうにも私とお前とではコアに対する認識が違う。その可能性もないとは言い切れんな」
「私も織斑先生と同じ意見です。もう少しあなたの話を聞かせてもらえますか?」
「はい……少し長くなるかもしれませんが……」
そこからは私がここに来るまでの経緯を話していた。学園がテロリストに襲撃されたこと、なんとかみんなで敵を追い払ったこと、悠助と合流したこと、そのあと特攻兵器に襲撃されたこと、私が特攻兵器の爆発に巻き込まれたこと、そして目が覚めたらここにいたこと……一通りを話し終えた私は少し顔を伏せた。悠助の事を思い出しちゃうとどうしても涙が出そうになるから……ずっと一緒にいたから、悠助のいない世界なんて考えられなかったから……寂しさがより一層心を締め付ける。
「そうか……私達には想像ができないような厳しい経験をしてきたんだな……」
「そんな辛い思いをしたのに、こんな事になってしまうなんて……あんまりな話ですよ……」
「……もう過ぎてしまった事だからいいんです。過ぎてしまった事ですから……」
それ以上、二人は言葉をかけてこなかった。そうだよね……こんな経験なんて普通の人は絶対ないもん。自分で言ってても悲しい事しか起きてないとしか言いようがない。こんな事言いたくないけど、ここまで来ると自分が悲劇のヒロインなんじゃないかなって……そう思わずにはいられなかった。
「……一先ず、お前の事についてはある程度知ることができた。我々にとって害を与えるような存在ではないのは確かな事実だ。だが、お前の身柄は学園の方で預からせてもらう事になる」
「……なんとなく予想はしていました。いくら違う世界から来たと言っても、無断で侵入した事には変わらないから、ですよね……?」
「それもあるが、一番の理由としてはその首から下げているものが大きい」
首から下げているもの……目線をそこに向けると、目に入ってきたのは剣をあしらった蒼いペンダント——待機形態の蒼龍だった。
「……申し訳ありませんが、所持品の中で一番危険性がありそうと判断したそちらを簡単にですが検査させていただきました。検査については特に反応せず、また詳細については殆どわかりませんでしたが、外見からISの待機形態である事だけは判明しました」
「流石に正体不明機をみすみす放置しておくわけにはいかないからな。こちらの手で預かる事ができない以上、その保有者ごとこちらで預かるほかない」
そう言われてしまうと納得するしかない。私にとっては知っている機体だったとしても、向こうからすれば知らない機体。警戒されることは間違いないはずだ。でも、榛名は特に検査されたとかそんなことは言ってなかったような……あ、山田先生がそもそも検査しても何もわからなかったって言ってたね。それに、今の私には行くアテなんてきっと無いし……。
「……わかりました。そちらの決定に従えばいいんですね……?」
「理解してくれると助かる」
少なくともIS学園なら大丈夫、なはず……だと思いたい。千冬姉さんも私の決定に対して満足そうな表情をしていることだし、きっと大丈夫。
「当面は私の監視下にあると思って欲しい。何かあった場合については私か山田先生に聞くといい」
「山田真耶です。よろしくお願いします」
千冬姉さんがそう言うと、山田先生は私に対して簡単にだが挨拶をしてくれた。
「織斑一夏です。こちらこそよろしくお願いします」
「あれ? 織斑一夏って、先輩の弟さんと同じ名前……」
「彼女は違う世界から来たと言っていただろ? そちらでは私の弟はこいつと言う事になるのだろう」
「た、多分、そうなんでしょうか……?」
流石にそこまでは言えないが、私が織斑一夏である事だけは確かな事だ。でも、本当に不思議だ……私はずっと千冬姉さんに対して『怖い』とか『恐ろしい』ってばかり思っていた。けど、この世界の千冬姉さんは厳しいかもしれないけど、ちゃんとした優しさがある。ただの暴力とかそういったものはない、ちゃんとした人だ。だからなのかな……少しだけ甘えたいなって思ってしまったのは。どこか一秋兄さんと似たような雰囲気だし……気を許せる相手であることは間違いないと思う。
「まぁいいさ。それよりも山田先生、そちらの方の準備はできているか?」
「はい、言われた通りの用意はしてあります」
「わかった。すまないが先に行って準備をしておいてもらえるか? 私はこいつと後から向かう」
「わかりました。では、また後ほど……なんだかこのやりとり、先ほどもしてたような……」
「……気のせいだろう」
私が考えに耽っている間、千冬姉さんと山田先生は何やら話をしていた。一体なんの話をしていたんだろ……気になってしまうけど、あまり気にしない方がいいのかな……? そう思っているうちに山田先生はこの部屋を後にしていった。
「さて、織斑——そろそろ私達も移動するとしようか」
その後のことだった。千冬姉さんは突然そんな事を言ってきた。
「移動、ですか?」
「ああ。急な話だが、これからお前の持っているISの起動テストと性能確認を行う。最初は他国の機体と思っていたが、よもや違う世界の機体ときた。より一層迂闊に外部へ出せる物ではないが、確認はしておきたい。さらに言えば学園に身を置く上で必要なお前自身の能力を測るためでもある。安全保障上の考えだ」
どうやらこれから蒼龍を動かす事になるそうだが……本当に大丈夫なんだろうか。後で榛名から確認を取らないといけないかも。これだけは私だけじゃ決められそうにない。それに学園に身を置くっていうことは、私はここの生徒として暮らす事になるのかな……? まだよく理解してないからなんとも言えないし、答えも出せそうにない。けど、今は千冬姉さんに従うしかないっていうのも事実だ。
「どの道拒否権なんてないですよね……」
「こればかりは仕方ないと思って受け入れてくれ、織斑。いやしかし、それにしてもだな……」
「どうかしました?」
「あ、いや、お前の事を織斑と呼んでいたのだが、今度私の弟もここに来る事になっている。同じ織斑一夏だからどう呼べばいいのかと思ってな」
千冬姉さんはそう言うと考え込み始めた。うん、やっぱりこっちの千冬姉さんはとても優しい人だ。私は改めてそう感じた。私の事でこんな風に悩んでくれてるなんてどこか新鮮な感じがする。私の千冬姉さんもこんな感じの人だったらよかったな……こっちの世界の私が羨ましいよ。
けど、名前かぁ……確かに被るのは何かと面倒な事になりそうだもんね。せめて名字を変えるくらいなら、千冬姉さんは呼びやすいようになると思うけど……どうしよ。正直な話、私はあまり織斑の性にこだわりとかもうないし、一秋兄さんは別としてあんな人達と同じ性は名乗りたくない。それに、あの名前を大事にしたい。だとしたら——
「——それじゃ、名字変えてもいいですよ、私」
「……なんだと?」
「こういうのもなんですが、あまり今の名字は好きになれなくて……だから、もう一つの方を改めて名乗らせてください」
私は深呼吸をし、気持ちを整える。これは私なりに考えて決めた事。私は決して忘れないという意思を込めて、いつも近くにいてくれるって信じて、この名前を名乗ろうと思う。そうだよね、それならきっといつもそばにいてくれるよね……? 気持ちも整った。私は口を開いて名前を改めて告げる。
「——私は一夏、紅城一夏です」
感想、誤字報告等お待ちしております。
これからも不定期更新ですが頑張っていく所存です。
では、次回も生暖かい目でよろしくお願いします。