いつか、きっとどこかで   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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第6話「……まるで本当の姉妹みたいだな」

私と榛名は千冬姉さんの後を追って寮の方へと向かっていた。すでに夕方付近になっていているのか、辺りは日が落ちて暗くなりつつある。夏場なら少し眩しいすぎるくらいの街頭が今はちょうどいい明るさだ。

 

「それにしても変な気分だよ」

「どうかしましたか?」

「いや、初めて来た場所なのに見慣れた光景と道があるってのがなんか不思議な感じだなぁって」

 

実際、半年は過ごした場所だから見慣れた場所といえば見慣れた場所だ。おかげで道に迷うことはなさそうだけど、こっちの世界では初めてきた場所なのに知っているという既視感のよりはっきりしたみたいなものを感じてるせいで不思議な気分になる。

 

「わかります。なんというか、初めて来た気がしないみたいな、そんな感じですよね?」

「そうそう、そんな感じ。多分、ずっとこんな気分で過ごしてくのかな……」

「大丈夫ですって! なんとかなる時はなんとかなりますから!」

「そうだといいんだけどね……」

 

実際のところ、この変な既視感以外にも問題なんてものは山ほどある。それこそこれから私達がどういう風に扱われていくのかっていう事もそうだ。暫定的に千冬姉さんのお手伝いをする事になってしまったわけだけど、それだってちゃんとした形で許可されているわけじゃないし。いつここを追い出されるかなんて事もわからないから。そういう事を考えてしまうとどうしても不安が押し寄せてくる。

 

「そうは言っても、そればかりは私達ではどうにもできません。でも、なるようにはなりますから。いい方向に転がる事を祈ってましょう」

「うん……励ましてくれてありがと。あと、ナチュラルに人の心を読むのやめて」

 

榛名、というかコア人格全般の特技、割と簡単に人の心の声を読んでしまう事。おかげで余計な事を考えてしまうと、それもコア人格に筒抜けになってしまう。よほどのことがない限り口出しなんてしてこないけど、心の中で呟いたのとかを知られてしまうのはなんとなく複雑な気分だ。こんな風に助けてもらうこともあるけど、それ以上にからかってくることだって多い。本当、人間よりも人間っぽいと思うよ。

 

「こればっかりは私にもどうしようもないですね。コア人格は一度決めた操縦者のことをよく知ろうとする癖がありますので、つい聞き耳みたいなものを立てることがしばしば」

「自分でそれ言っちゃう……?」

 

少なくとも私はこれからも榛名に内心を読まれ続ける羽目になるって事は決定事項らしい。本当、迂闊なことは考えられないよ。

 

「それはともかく、こうして一夏と並んで歩いている事が私には嬉しく思います」

「そうなの?」

「はい! 大体は機密保持のためコアの中にいるだけでしたので、一夏と同じ景色を見て歩くなんて事は夢物語みたいなものでした。だから、偶然とはいえこうしていられるのが嬉しいのです」

 

そういう榛名は本当に嬉しそうで、いい笑顔をしていた。そういえばいつもは待機形態だったもんね。時々部屋で具現化していることはあったけど、外でとなるとそれこそ前に行った夏祭りの時くらいかな……榛名からしてみたらやっぱ外に出られるっていうのはよっぽど嬉しいことなんだと思う。まぁ、そういう事態になる要因を作ったの、榛名がコアに戻るタイミング見失ってしまったからなんだけどね。

 

「そっか。でも、具現化して出てきたかったのなら、一言声かけてくれればそんな事いつでもしてあげたのに」

「……そのいつもが、大体悠助さんと一緒に手を繋いでいたんじゃないですか。それじゃ出るに出られませんよ……」

 

えぇ……まぁ、確かに悠助と二人っきりというのはすごい嬉しかったけど、別に榛名が混ざったとしても悠助は特に怒ったりしないと思うんだけどねえ。

 

「お気遣いありがと。でも、榛名も一緒にいた方が賑やかで楽しかったと思うかな。それに、武蔵なんて結構出てきてたし」

「武蔵の場合、良くも悪くも大雑把ですからね……私もあのくらい大雑把の方がいいんでしょうか?」

「そんな事はないよ。武蔵には武蔵の良さがあるわけだし、榛名には榛名の良さがあるから。その気遣い上手なところとか好きだよ」

 

榛名はちょっと子供っぽいところもあったり、強情なところもあったりするけど、でも何よりも気遣いが本当に上手なんだよ。そのおかげで何度助けられてきた事か。

 

「え、えと……と、突然そんな風に言うのは卑怯だと思いますぅ……」

 

しかし、私が言葉をかけた相手は何やら顔を赤くしてボソボソとなにか呟いてる模様。しかも、ちょっと顔を逸らされた。ちょっと待って。今のところに何か引っかかる事でもあった!? いつになく小さい声で喋ってるから何を言っているのか聞こえない。

 

「榛名?」

「わひゃい!? ななななんでしょうか!?」

「いや驚きすぎでしょ。それよりもさっきはなんて言ったの?」

「べ、別になんでもありません!」

「ふーん。その割には顔赤いよ?」

「て、照れてなんかいません!!」

 

「むぅ〜ッ!」とでも効果音が付きそうなくらい頬をむくれさせている榛名。とりあえず、なんか照れ隠ししてることだけはわかった。こういうところはすごく子供っぽいというかなんというか、可愛いと思ってしまうほどだ。これを素で出しているのだから榛名はある意味で恐ろしい。

 

「本当、仲の良い双子の姉妹みたいだな、お前達は」

 

榛名とじゃれつくことになっていたら、ずっと黙って前を歩いていた千冬姉さんがそう言ってきた。そういえば榛名と話すことに夢中で千冬姉さんの存在を少し放置してた感はある。とはいえ中身は違っても見た目が千冬姉さんだから、なんとなく声をかけにくいというかなんと言いますか……苦手意識は抜けそうにない。

 

「そう、ですか?」

「ああ。ただし、どっちが姉でどっちが妹かはわからんがな。双子の姉妹と言った方がしっくりくるか」

「双子……確かに私と榛名はすごく似てますけど」

 

千冬姉さんの言う通り、双子と言われても違和感のないレベルで私と榛名はとんでもなく似ている。初めて見たときなんてもう一人の私がそこにいるように感じたもん。違うとしたら髪の色と声の僅かな差。髪の跳ね具合に長さ、ヘアピンとカチューシャをつけている位置までもがぴったり合ってしまう程だ。これは偶然なのか、それとも必然なのかはわからない。けど、榛名は私と間違われる事が多いのはよくある事。初見の人は絶対間違える。そして榛名が拗ねるまでが一連の流れだ。

 

「……一夏、今すごい失礼な事考えてましたよね?」

「別にそんなことはないけど。だってよくある事だし」

「それが失礼なんです! それに私は拗ねたりしてません!!」

「いや、結構拗ねたりしてるじゃん!」

「してません!」

「してる!」

「しーてーまーせーん!!」

「……まるで本当の姉妹みたいだな」

 

 

「——で、落ち着いたか?」

「……お見苦しい姿、すみません」

「……大変失礼しました」

 

結局、千冬姉さんを他所に私と榛名による、榛名の拗ねてる拗ねてない問題の言い争いが起きてしまったのだった。それもだいぶ長々と。最終的にお互いが言い合いすぎて疲れたところで決着がついた。本当、榛名は変に強情なところがあるよ……全く、誰に似たんだろうか。

 

「見ている分には面白い物だったぞ。お前達、本当に仲がいいんだな」

 

そう言われて思わず私と榛名はお互いの顔を見合う。

 

「「大切な友達(戦友)ですから」」

 

出てきた言葉はお互い同じ物。口にしてしばらくしてからその事に気づいた。同時にくすりと笑みが溢れてしまった。なんだかんだ言って私と榛名は同じ気持ちでいるんだなあってわかったからなのかもしれない。

 

「そこまで口を揃えなくても、お前達の仲の良さは十分伝わった。——さて、ようやく着いたな」

 

どうやらいつのまにか私達は寮の前まで来ていたようだ。見慣れた建物に改めて案内されるって本当に変な気分。

 

「改めて言うが、お前達には寮長室で過ごしてもらう事になる。こっちだ、着いてこい」

 

私達は千冬姉さんの後を追いかけていく。それにしても寮長室かぁ……初めて行くからどんな部屋なんだろう。他の部屋とほとんど同じだといいんだけど。

 

 

「「汚っ!?」」

「……口を揃えて言うな、口を揃えて」

 

寮長室に着いた私達だけど、その光景に思わず声が出てしまった。部屋の造りは大体同じみたいなんだけど、なんというか……素直に言ってしまうと汚い。まずゴミ袋がそのままだったり、脱ぎっぱなしの服だったり、お酒の缶の山だったりとあまりにも酷すぎる。こんなに汚い部屋は初めて見た。というか、片付けが出来てないっぽい感じ。私はどちらかと言えば綺麗にする方だし、悠助もそんなに散らかしたりする方じゃなかったしというのもあって、ここまで酷いのは見たことがなかった。あと、なんかちょっと臭う。絶対あのゴミの山だ原因。

 

「人間の住処とは思えないですね……ちょっと入るの躊躇ってしまいます」

 

流石のコア人格でもこれはきついのか、榛名も鼻を覆うようにして袖を当てている。困惑の表情がはっきりと出ていた。確かにこれはそうなるのも仕方ないとは思う。私だって今鼻を手で覆ってるわけだし。うん、早く片付けたい。そうしないと落ち着いて考える余裕もない。

 

「酷い言い草だな……これでもまだ綺麗な方なんだぞ」

「世間一般的にはこれ非常に汚い部屋ですよ……というかゴミ出しくらいちゃんとしてくださいよ……」

「……最近書類仕事が多くてな、気がついたら忘れてたんだ」

「この量を忘れてたというのもそれはそれでどうなんでしょうか……?」

「普通に寝泊りはできるんだがな……」

 

……話聞いてたら頭痛くなりそう。千冬姉さんはどうやらここでいつも寝泊まりしているようだ。しかしだ、問題はこのゴミ部屋。一体どこでどう寝てるのか気になるほどだ。あと、よく異臭騒ぎで問題視とかされなかったよね、これ。いろんな意味で私の知ってる千冬姉さんではないんだなぁと実感させられる。

 

「どう考えても寝泊まりは無理ですよこんなんじゃ……頑張って片付けますよ。榛名も手伝ってよ?」

「一夏の健康の為にもなんとかしなければなりませんからね」

 

私と榛名は掃除をする気に満ちている。そうしなければ私達が寝られる場所がない。こんなところで生活してたら人としてダメになってしまいそうな気がするし、一番は綺麗なお部屋で過ごしたい。きっと私じゃなくてもそう思うはずだ。

 

「しかしな、今からやるにも時間が——」

「「いいから、やりますよ」」

「……わかった。追加のゴミ袋を手配しておく」

 

千冬姉さんはなんだかやりたくなさげな雰囲気をしていたけど、こればかりは譲れない。偶然にも榛名と声が被ったからか、千冬姉さんも渋々といった感じではあるものの、やる気になってくれたようだ。現にゴミ袋を取りに行くと言って何処か行っちゃったし。

 

「とりあえず、私達だけでできるところまで片付けよっか」

「そうですね。では、榛名は向こうの方にある缶の山の方をやってきます」

「じゃ、服とかはこっちで纏めておくから、終わったら先に床掃除やっておくよ」

「では、こっちも片付きましたら床掃除お手伝いしますね」

 

二人で意を決して部屋の中に入る。このゴミ屋敷も同然の寮長室が綺麗になるのかどうか、ちょっと不安になりながら掃除を始めた私達。ここまでの掃除はした事がないからね……というか、ここまで溜まるってのがおかしいのか。

 

(うわぁ……脱ぎっぱなしだったり、ちゃんと畳んだりしてないからシワシワになってる……)

 

服の山は多分一度洗濯し直したほうがいいレベルでシワシワになっていた。一応洗濯はしてあるんだけど、そのままの状態で放り投げたりしてたのか、丸まってたりぐちゃぐちゃになって纏められていたりで、それはもう酷いの一言に尽きる。よくこんな状況で生活できてたよね……。

 

「ひゃあぁっ!?」

「榛名!?」

「だ、大丈夫ですぅ。ちょっと転がってた酒瓶を踏んでしまっただけなので……」

 

いや、それ全然大丈夫じゃないから。普通に大怪我しそうになるほどのやつだから。いくらコア人格が頑丈とはいえど、さすがにあんな悲鳴を上げられてしまっては心配になってしまう。というか、榛名が転んだ衝撃でなのか、缶の山が崩れた音が聞こえてきたんだけど……向こうの方が少し大変そうな気がしてきた。

 

「けほっ、けほっ……埃っぽいですね、ここ」

「なんかもうもうと埃舞ってるし……」

 

どうやったらあんなに目に見える量の埃が舞うんだろう……ここで生活してた千冬姉さんに軽く引いてしまいそうになった。とにかく、衣類は全部洗濯する事が決定したわけだし、ゴミ袋の山と床掃除を始めよ。でも、出来るだけ纏めたいし、掃除機ここに無いしなぁ……。

 

「おい、ゴミ袋と掃除機持ってきたぞ」

 

それを待ってましたよ、千冬姉さん。という事で、すかさず大きめのゴミ袋と掃除機を受け取り、作業を再開する。細々としたゴミも纏まるし、何より掃除機だと作業がスムーズに進んでいい。まぁ、この量に耐えられるかどうかってのが気になるけどね……。

 

「ところで私はどうしたらいいんだ……?」

「それじゃ、この酒瓶と空き缶の山を捨ててきてくれませんか? これを拡張領域に入れてから捨てるのは嫌なので……」

「あ、ああ、わかった……まだそんなに溜まってないのだが」

「いいから! さすがの榛名でもこれは大丈夫じゃありません!」

 

あらら、榛名が大丈夫じゃないっていうあたり本当にきついんだね、この状況。叱られてる千冬姉さんという不思議な光景を見ながら掃除機をかけていたわけなんだけど——

 

「——あれ? もしかして……詰まった?」

 

 

この部屋に初めて来てからもう二時間が経過していた。必死なって片付けた結果、最初よりは圧倒的に綺麗になったと思う。ゴミも片づけられてるし、あちこち汚れも落ちてる。合計で大型ゴミ袋は10袋以上、掃除機に至っては5、6回ほど詰まって交換作業することになった。本当に大変だった……ちょっと私自身も埃っぽい感じするよ……なんか嫌だなぁ……埃とか付いてると昔の事を思い出しそうになっちゃう。

 

「こんなに綺麗な寮長室、見るのはいつぶりだろうな……」

「私生活がズボラすぎです……ちゃんとしてください」

「……返す言葉もない」

 

疲れ果てた様子の榛名から目をそらしてる千冬姉さん。みんなで協力して掃除したとはいえ、ここまで酷いのは予想外だった。私も気力的にも体力的にも疲れちゃったし。

 

「ちゃんとした生活を送ってくださいよ……今まではともかく、一応私達もここにいるんですから」

「……善処しよう」

 

千冬姉さん、善処するって言っても行動にしなきゃ意味ないんですよ……。

 

「では、榛名はそろそろコアに戻ります……なんだか戦闘よりも疲れました……」

「うん、お疲れ様。ゆっくり休んでてね」

「お心遣い、ありがとうございます。それでは」

 

榛名も疲れてしまっていたのか、あとコアに戻るタイミングを見つけたのか、ゆっくりと粒子となって消えていった。まぁ、蒼龍の待機形態が軽く光ったという事は無事にコアに戻ったという事ではあるんだけど、相変わらず戻り方がひやひやする。本当に消えていくような感じで行くから、榛名を失っちゃうんじゃないかと思ってしまう。それだけは心に良くないからやめて欲しいんだけどね。

 

〔そういう仕様なので難しいですね……でも、榛名は決して一夏の元を離れはしませんから! 安心してください、榛名が保証します!〕

 

だから、そうやって人の心を読まないでよ……あと、そういう恥ずかしい台詞をすぐに出さないでって。私が恥ずかしくなっちゃうから。

 

「……コア人格はあのようにしてコアに戻るのか……なにも知らなければ恐ろしい光景だな」

「そうですね……最初に見たときは私も榛名が消えちゃうんじゃないかと思ってしまいましたから」

「心臓に悪いものだ……」

 

その意見には全く以って同意します。そう言い切れるくらいには心臓によろしくない光景だよ……とはいえ、こういう方法か、もしくは榛名が直接蒼龍を展開して自立稼働するかのどっちかしか戻る手段はないらしい。これに関してはもう慣れるしかなさそうだ。

 

「さて、そろそろ食事の時間といきたいところだが、お前はどうする? おそらく食堂の利用は可能だと思うが来るか?」

 

千冬姉さんは私にそう言ってくる。確かに時間を見ればもうそんな時間だ。でも……私は特にお腹空いてるわけじゃないし、なんとなく今は何も口にしたくない気分、かな……あの掃除終わりということもあって疲れてはいるんだけど、なんだか喉を通らなそうな気がする。

 

「い、いえ……私は遠慮しておきます。すみませんが、何かゼリー飲料みたいなものがあったら……」

「ん? ああ、わかった。そちらを持って来よう。では、私は食堂にいる。何かあったらいつでも呼びに来い」

 

どうせ今日も人はそんなにおらんからな、と言って千冬姉さんは寮長室を後にしていった。ドアが少し力強く閉まる音を立て、部屋一帯が静寂に包まれる。物音はほとんどしない。この少し広い空間にいるのは私一人だけ。

 

「うぷっ……!?」

 

それを自覚した途端、思わず吐き気に襲われその場に崩れ落ちてしまった。中身は出てこないが、込み上げてくる不快感はたまったものじゃない。……やっぱりダメだった。あの千冬姉さんがいくら中身が別人だからといって、外側が私の知っている千冬姉さんと同じだからどうしても心がうまく受け付けてくれない。私に見せてくれたあの優しい表情も貼り付けただけの仮面なんじゃないかって疑ってしまう。でも、確かに優しくしてくれたことは間違いないことだし、私に対して嫌がらせも理不尽な事もしてこない。それなのに疑ってしまう自分がいる事が嫌になってくる。けど、どうしても……どうしても、どうしてもあの姿が怖い。私をいじめてきたあの姿の人間が怖い。

私はこれからどうなってしまうのか……ああいう風に言われても、今になって不安が押し寄せてくる。そのどうしようもない不安が、過去に私の身に起きた出来事を全て思い出させてくる。学校の教室で、廊下で、体育館で、昇降口で、裏庭で、自宅の玄関で、居間で、台所で、自室で……思い出すたびに周りから浴びせられる悪意にさらされ、怯えていたあの頃の自分が蘇ってくる。その度に喉の奥から何かが込み上げてくる気持ち悪さがやってくる。……やっぱり私ってダメな人間なのかな……いちゃいけない人間なのかな……わかんないよ……どうしたらいいの……誰か答えてよ……

 

「……私って助かっちゃいけないのかな……悠助……」

 

歪んで見える部屋の景色から目を逸らし、膝を抱えて座り込んだ。嗚咽混じりの私の声だけが部屋に少し響いていた。




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