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「いきなり!!」
「「「おしえて!くぬどん〜〜〜!!!」」」
「やぁ!僕くぬどん!この椚ヶ丘中学校の旧校舎には七不思議があるって知ってる?」
「「「しらな〜〜〜い!!!」」」
「夜中に動く人体模型とか、夜な夜な教室から聞こえるテレビの音とか、ありきたりなものもあるけど、今回話すのは『椚ヶ丘村の噂』だよ!」
「「「なにそれ〜〜〜???」」」
「夜に男女二人で裏山を歩いていると、どこからか太鼓の音が聞こえてくるんだ!そのまま歩いているといつの間にか石でできた鳥居があって、そこをくぐるとお祭りをやっている村に入っちゃうんだ!」
「「「おまつり〜〜〜!!!」」」
「その村は椚ヶ丘村と言って、村の人達はとても親切にしてくれるんだけど、もし村の人に『もう今日は夜遅いから村に泊まっていきなさい』と言われても絶対に泊まっちゃいけないよ。なんでって?そりゃあ……」
「おーい、そこのどんぐりさん」
「え?あ、僕ですか。えっとあなたは…?」
「私はこの村の世話役です。もう夜遅いですから今日は家に泊まっていってください」
「あ、そりゃどうも。ということだからみんなばいばーい!」
「「「ばいば〜〜〜い!!!」」」
───────
とある真夏の夜、僕らは一ヶ月前から殺せんせーに「この日は予定を空けておいてください!絶対ですよ!ドタキャンとかされたら先生自殺しますからね!?」と言われ、何があるかを特に聞かされずE組の教室に集まっていた。
「本日皆さんに集まっていただいたのは他でもありません。真夏の夜といえばそう!肝試しです!」
「いやまぁそうだけどよ…随分と急だな」
「前原君!入りを考えるのがめんどくさくなってこうやって強引に入ることだってあるんだよ!」
「そういうのはやめようね、不破さん…」
不破さんのメタ発言を咎めつつ雑談していると、殺せんせーは死装束を纏っていて、手書きであろうパンフレットが配られた。
「ゴールまでのルートを書いた地図です。途中に御堂を作りましたので、小さい御堂を二つ、大きい御堂を一つ経由してゴールへ向かってください。それぞれの場所にお札が置いてありますので、それをペア毎に一枚ずつとっていってくださいね」
「随分本格的だな…」
「何事も全力でやらなきゃ楽しくないでしょう!ということで今回のペアを発表します!!!」
ペアは事前に決められてて、僕は茅野とだった。多分修学旅行の時の気になる子ランキングとか日頃仲良さそうなのをくっつけようとしてるんだろうけど……
「8時20分になったら一番目のペアは出発してください!それ以降は5分毎に出発を!それでは!!!」
殺せんせーは言いたいことを言い終わると、マッハで窓から出ていった。怖がらす準備でもしにいったのだろう。
「……よし、行ったね。律ー頼んどいたやつ出来てる?」
『もちろんです!ところで渚さんは肝試しが行われるのを知っていたんですか?』
「なんとなくはね。イベント好きの殺せんせーが真夏の夜に集まりたいって言ったら花火か肝試しかと思ってさ」
『なるほど…』
「おい渚、律に何頼んでたんだ?」
『これです!』
律が機体の横からバラバラと頼んでいたもの一式を出し始める。律は特殊な樹脂を加工して色んなものが作れるので、今回はろくでもないことを考える殺せんせーを懲らしめるために色々作ってもらった。
「なんだこの布切れ……ってこれ、よくお化け屋敷の幽霊役とかが着てるやつか?」
「こっちは…のっぺらぼうのマスク?これまさか…」
『はい!渚さんの言う通りお化け屋敷で使われる物を一式作ってみました!特殊メイクも施せますので本気で殺せんせーを驚かしちゃいましょう!』
「なるほどねー…確かにペア見る限り、くだらねーこと考えてそうだし。肝試しよりこっちのが面白そーじゃね?」
「隙があればそのまま暗殺に移ってもいいし、みんなも協力してくれる?」
「いいなそれ!みんなで殺せんせーのことびびらしてやろうぜ!」
「ふふ……ミス肝試し日本代表と呼ばれた私の出番ね…」
「狭間がやったらガチで気絶しそうだな。俺暗い道で狭間にあったら死ぬもん。多分」
「あはは……ほどほどにね…?」
──────────
僕の準備が終わって、ふと周りを見渡すと狭間さんがいつのまにかリアルすぎる幽霊になっていた。律がメイクやらなにやらを完璧にやってしまったせいでとんでもないものが完成しつつある……。ちなみに僕はのっぺらぼうだ。
「茅野は何にしたの?って…」
「私ものっぺらぼう!二人で合わせた方がいいと思って!」
「確かにそうかもね。しかしこう見ると随分リアルだよね……マスクと軽いメイクだけでこんなのになるんだ」
「律ってば凄いよね!ってそろそろ時間だし出発しよ!」
「うん。行こっか」
出発してちょうど5分くらい経った頃だろうか。最初は順調に進んでいると思っていたが、なぜか殺せんせーが驚かしに来ないのだ。それに電波が繋がらずモバイル律も使えない。
目を瞑っていても歩ける自信のある裏山の道を間違えるとは思えないし…ていうかあんな岩…この裏山にあったっけ。
「うーん…地図のとおりに進んでるはずだけどな……」
「……ねぇ渚、なんかさっきから太鼓の音聞こえない?」
「太鼓?」
………確かに耳を澄ますと聞こえる気もしてくる。それに太鼓だけじゃなくて人の声?とかも聞こえる気がする。
「お祭りでもやってるのかな?」
「裏山で?仮にも学園の敷地内だしそれはないと思うけど……」
「とりあえず行ってみよっか……」
「……うん。もし人がいたら道を聞けるし僕も賛成」
今思うとどうして思い出さなかったのか不思議に思う。ここの生徒なら一度は聞いたことのあるはずの「椚ヶ丘村の噂」を………
道を進むにつれ、太鼓の音や人の声がより鮮明になってくる。名前は分からないけどよくお祭りで聞くような太鼓の音とか、人の笑い声や何かが焼ける音、ソースかな?いい匂いがする。本当にお祭りをやってるのかな?
「っと…そういえば今、僕らのっぺらぼうだ」
「あ、誰かが見たら驚かしちゃうよね」
「せっかく律がやってくれたけど…取っておこっか。まずは戻らないとだしね」
緩やかな坂を登りきると石でできた鳥居があった。紙垂のかかった灰色の鳥居は、なんだか不思議な雰囲気があって生き物の口のように感じた。
鳥居の先には焼きそばやわたあめの出店や「祭」や「椚」と書かれた提灯がかかっている。他にも浴衣を着た人がいたりして、本当にお祭りだった。
「これ…夢じゃないよね」
「ひゃんといひゃいひゃら…夢じゃないと思う…」
茅野が自分の頬をつねって夢かどうかを確かめている。目の前の光景が信じられず立ち尽くしている僕らに気づいたのか、男の人がこちらにやってきた。
「君たち、見ない顔だね。そしてどうやら困った様子だ」
「えっと…昼に携帯を落としちゃったみたいで探していたんですけど、道に迷っちゃっていつの間にかここに…」
咄嗟に嘘をつく。素直に話しても良かったのだが、肝試しで道に迷ったというのが少し恥ずかしかった。いや、携帯を探して迷うのも大概なのだろうが。
僕らの話を聞いた男はにこやかに笑う。
「そうか…ここら辺一体は道が入り組んでいるからね、君たちみたいには迷ってしまう人も多いんだ」
「そうなんですか…」
「しかし今から帰るにしても、もう夜も遅い…そうだ今日は村に泊まっていくといい。我が家へ案内しよう」
「そんな!悪いですよ!」
「遠慮はいらないよ。というか君たちみたいな子供を夜の山に追い返すほうがどうかしてると、私は思うがね」
「それは…確かに……」
そうなんだけど……何か嫌な予感がする…
どうするか迷った僕は茅野にも意見を聞いてみる。
「茅野はどう思う?」
「うーん…泊まるにしてもとりあえず誰かに連絡したいよね。殺せんせーでもいいから誰かに伝えとかないと大変なことになりそうだし…捜索願とか出されても困るしさ」
「携帯使えないのってこんなにきついんだね…」
「あー…確かにここは電波悪いからねぇ。固定電話でいいなら家にあるからとりあえず寄っていきなさい」
「じゃあ…よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
しばらくその人について行くと少しボロ……ええと、古風な木造平家に着いた。
「ただいまー」
「「お邪魔しまーす」」
「ああ、おかえりなさい修二さん。あら?その二人は……」
家の戸を開けると玄関横の部屋から女性が出てきた。そして男の人…いや、修二さんの後ろにいる僕らを見て首を傾げている。
「ああ、道に迷ったらしい。今日はもう遅いからな、二人くらい構わんだろう?」
「私は構いませんけど…」
女性の視線が部屋の奥に移る。するとぬいぐるみ?を抱いた女の子がひょっこり出てきた。女の子はこちらを見定めるようにこちらを見ながら女性の服の裾をぎゅっと掴んでいた。
「こんばんは!」
茅野が明るく挨拶したので慌てて僕も「こんばんは」と続く。
「ああ、この子は私の娘の優香だ。ほら優香、挨拶しなさい」
女の子はこちらから目をそらすと、ぼろぼろのどんぐりのぬいぐるみを抱えたまま二階へ続く階段を駆け上がっていった。
「すまないね。あの子はすこしばかり人見知りなんだ」
「あのくらいの歳ならしょうがないですよ」
二階へ上がる階段に僕は何かが引っかかった。なんだ?何かがおかしい……まて、なんで二階があるんだ?ここは平家なのに。外から見た時二階なんて、
「どうシたんだい?」
「っ!?」
考え込んでいる僕に修二さんが僕を覗き込む。修二さんのギョロりとした瞳の中に僕が反射する。
「な、なんでもないです!そうだ!電話を…」
「…ァあ、電話は二階の階段を上がったところにある。好きに使ってくれて構わないよ。僕らは居間にいるから終わったら来てくれ」
「わかりました…」
「大丈夫?渚。流石の渚でもこんな状況だったら混乱もするよね」
「いや、僕をなんだと思ってるのさ?」
「………とりあえず電話しなきゃね!」
ごまかす茅野に背中を押されて階段を上がる。次の段を踏む度にギシギシミシミシと音が鳴るせいで、突然床板が抜けないかと不安になる。
階段を上がると、修二さんの言っていた通りすぐのところに黒電話が置いてあった。
「むむ、黒電話か…渚は使い方分かる?」
「なんとなくはね」
黒電話の使い方は昔テレビで見たことがある。確か数字のとこに指を入れて銀色の所まで回せばよかったはずだ。
……多分。
受話器に手をかけようとした時、服の裾が何かに引っ張られる。振り返るとさっきの女の子が僕と茅野の服の裾を掴んでいた。
「優香ちゃんだっけ?どうしたの?」
「………こっちきて。声出さないで」
僕らは優香ちゃんに引っ張られるまま奥の部屋に入ると、「待ってて」と言われ、そのまま優香ちゃんは窓から外へ出ていった。しばらくすると「こっち」と手招きされ、窓を出ると家の裏手に出た。2階なのか1階なのかまるで分からない構造に気味悪さを感じた。窓をくぐる時に服についたホコリや木くずを払っていると、急に優香ちゃんが急いだ口調で話し始めた。
「逃げて!早く!じゃないとこの村から出られなくなっちゃう!」
「え、どういうこと?」
「ここは椚ヶ丘村!あなた達椚ヶ丘中学校の人でしょ?なら聞いたことあるよね!?」
「私は今年から来たからなぁ……渚は聞いたことある?」
「うん…旧校舎の七不思議の一つだよ。でもあれはただの噂で──」
「噂じゃない!早く逃げないとみんなと同じ
優香ちゃんの目と声はとても真剣でとても嘘をついているとは思えなかった。
「渚…」
「逃げよう。嘘を言ってるようには思えない。優香ちゃん、君も──」
「嬉しいけど私は無理……でもあなた達はまだ間に合う。早、むぐ!」
「ちょっ!渚!?」
「しーっ…静かに。人が来る」
足音がしたので優香ちゃんの口を手で押さえ、僕らも息を潜める。そうしていると村人のものと思わしき会話が聞こえてきた。
「そういやさっき新しい子供が来たらしいな」
「ああ、中野の家にいるよ。いいなぁ……俺も家族が欲しいぜ」
村人の声が遠ざかり、他に足音が聞こえないのを確認して優香ちゃんから手を離す。
「ごめんね。足音が聞こえたから…」
「ううん、大丈夫。でも早く行った方がいいよ。絶対捕まっちゃダメだからね」
「うん。絶対」
「近くにはいないみたい。行こ!渚!」
村人達に見つからないように隠れながら進む。しばらく進むと見覚えのある通りに出た。最初に僕らが鳥居をくぐって最初に出た場所だ。鳥居は…あそこか!
「おい、そコでなにをしている」
「っ!?」
見つかった。修二さんだ。
「電話は済んだのカい?それともトイレかな?案内しよう。ついてきなさい」
「あの…私たち帰ります!お世話になりました!」
茅野の帰るという言葉に反応して、「ああ、そウカ…そうだね…ぁア…」とぶつぶついいだした。
「だめだ。帰ろう。危ナいからね」
なんなんだこの人…クラップスタナーを使いたいけど、意識の波長がおかしい。波長がずっと揺れずに一定なせいで当てる音が見つからないし、多分効かないやつだ。こうなったら仕方ない…こういう時は……
「走れ!!」
「捕まエろ!」
男の声に応えるように他の家や茂みから村人がわらわらとでてきた。こいつらも同じようにクラップスタナーは効かなそうだ。
明かりの消された提灯と人のいない不気味な出店達を全速力で横切って、先程見えた鳥居をくぐる。振り返ると、鳥居の手前で十人近くの村人たちが縄や鍬を持ってこちらを睨んでいた。僕は怖くなって、茅野の手を掴んで思い切り坂を駆け下りた。
茅野の手を引いて夢中で走った。走り続けて息が切れそうになって少しスピードを緩め、視線を前に移すと見るといつの間にか旧校舎の目の前に来ていた。
「はぁ…はぁ…帰って……きた?」
「そう……みたい」
しばらく立ち尽くしていると、教室から窓越しに僕らを見つけた杉野と前原君が窓を開ける。
「あれ?お前らまだ行ってなかったのか?」
「早く行かねーと殺せんせーに怪しまれるぞー」
僕は急いで携帯で時間を確認する8時22分…ってことはまだ僕らが出発してから2分くらいしか経ってなかったってこと?
息を整えながら茅野の方を見ると、目が合った。
「…なんだったんだろ、あれ」
「わかんない…とにかく無事でよかったよ…」
「とりあえず…行こっか。多分次は大丈夫でしょ」
「…うん」
結局あれはなんだったんだろう。あの村は、あの祭りは、椚ヶ丘村に囚われてしまっていた優香ちゃんはどうなったのだろうか。
僕らが体験したことは茅野と話し合って二人の秘密ということにした。誰かに話したって冗談だと思われるだけだろうしね。
そして、きっとあの鳥居は、今も他の誰かが村に迷い込むのを大きな口を開けて待っているのだろう。
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