せっかくの修学旅行なのに、班員は拉致られて俺も入院…どんだけツイてないんだよ。
「なぁカルマ」
「何?杉野」
「お前さ、もし俺らがいなくって一人であいつらと戦ってたら勝ててたのか?」
俺は少し考えた後、杉野の質問に返す。
「全員倒すのは無理だとしても、病院のベッドにいることは無かっただろうねー」
そう、全員倒すまでは行かないまでもあの場から無傷で脱出するくらいなら余裕だろう。多分俺一人ならなんとかなってたと思う。神崎さんたちが捕まって人質になったり渚くんたちが吹っ飛ばされてなけりゃ不意を突かれることもなかったから。
「まじかよ…そりゃあ悪かったな。気を引いちまったみたいで」
「気にすんなよ杉野、お前も渚くんも俺ほど怪我しなかったみたいでよかったよ」
「あ、渚といえばあいつ猫騙しなんてやってたぜ、あいつらもそんなことされるなんて思ってもなかったみたいでびっくりして硬直してたよ」
「へぇ!なにそれ、超面白いじゃん」
あの渚くんが猫騙し…ねぇ…ちっちゃい渚くんらしいっちゃらしいけど…喧嘩で咄嗟にそれを使う判断するなんて…面白いことすんじゃん。
「くしゅんっ!」
「大丈夫か?渚」
「うん…誰かが噂でもしたのかな」
「あーー、よく言うよな…で、好きな子ランキングどうなった?」
「よし完成。こんな感じだな」
「やっぱ1位は神崎かー」
「てか狭間に入れたやつは命が惜しくないのか?」
前と同じようなくだらない話をしている皆を見て少し安心する。そうだよね、ちょっと考えすぎてたかも…
「んで!渚は誰に入れたんだ?」
「え、僕!?」
「そうだよ!いいから教えろよ〜」
「あーーーー…」
えーーーっと…前はどんな返しで誤魔化したんだっけ…たしか杉野がなんとかしてくれたような…その本人は今いないけど。こうなったら…
「僕お風呂入ってくるね!」
「あっ!逃げんなよ!」
「ふぅ…危ない危ない…」
なんとか吐かせられるのを回避して僕はお風呂場に向かう。脱衣所につくと殺せんせーの服があった。どうせ泡風呂になってるんだろうな…シャワーだけでいいかな。
「殺せんせー!」
「おや、渚くんでしたか」
「お風呂まだだったからさ。シャワーだけでも浴びさせてよ」
「そんなこと言わずに湯船に浸かった方がいいですよ。ちょうど先生の粘液で泡風呂になってますから」
「ヌルヌルしそうだからやめとくよ…」
少し沈黙が続いたあと、僕は今日のことを謝る。
「今日は迷惑かけてすいませんでした。殺せんせー」
「いえいえ、大事に至らずよかったです。私の生徒に怪我を負わせた不届き者にもしっかりと手入れしましたしねぇ…」
「あはは…」
「…おや?渚くん、やっぱり湯船に浸かりましょう」
「え?なんで?」
「いいじゃないですか」
僕は渋々殺せんせーのいる泡風呂に入る。すると突然風呂の扉が開き中村さんと不破さん、岡島くんが入ってきた。
「泡風呂とか女子か!って渚!?」
そういえばこんなイベントもあった…殺せんせーが湯船に誘ってくれなかったら今頃全部見られていただろう。
「渚、お前のヌードならきっと売れる。一枚撮らせてくれ」
「嫌だよ!?」
「はぁ…渚がいるんじゃあ扉の前で待ってるわけにはいかないね。撤収撤収。聞きたいことは後で渚に聞けばいいしねー」
「…やっぱり渚!売ったりはしないから個人用に一枚撮らせてくれ!」
「もっと嫌だよ!?」
ごねる岡島くんを引っ張って三人が出ていった。そしてまた二人きりになる。
「そろそろ出ようかな。ありがとう殺せんせー」
「あのくらい気づきますよ、では湯冷めしないように気をつけて」
僕はシャワーで泡と粘液を流し、服を着替えて部屋に戻る途中ゲームコーナーにいる茅野と神崎さんと奥田さんを見かけたので一応話しかけることにした。
「あの、大丈夫だった?今日のこと…」
「あ、渚!うん!殺せんせーが助けてくれたし、渚が連絡してくれたんでしょ?ありがとね!」
「何もしてないのと一緒だよ…戦えてたのもカルマ君だけだし」
これは本当のことだ。これまで使用を避けていたクラップスタナーまで使ってあの始末…多少なり訓練を受けている男としては恥ずかしい限りだ。
「で、でも、相手は高校生ですし、しょうがないですよ!」
「だといいんだけど…」
「私は嬉しかったよ?杉野君と渚君が私たちを守るために戦おうとしてくれたこと」
神崎さん、雰囲気変わったな…前の時もそうだった。拉致事件も悪いことだけじゃないってことかな…
僕は三人と別れ今度こそ男子部屋に…
「捕まえろー!!!」
「殺せー!!!」
どうやら好きな子ランキングを殺せんせーがメモって逃げたらしく男子達は秘密を守るべく奮闘していた。僕は知られてもどうでもいいので部屋に戻る。廊下からは女子の声も聞こえ始め、前と同じ状況に僕は少し安堵した。このまま何事もなく平和が続いて、殺せんせーを殺せればいいのに。
そんなことを考えていたら、腹の虫が夕食を食べ損ねていることを知らせる。どうしよう…
「お困りのようですねぇ」
突然目の前に黄色い頭がにゅっと出てきた。
「うわっ!?殺せんせー!?いきなり出てこないでよ…」
「せんせーこれから会食なんですがね、夕食を食べていない渚君もよければ一緒にと思いまして」
「いいの?僕まで」
「ええ、珍しい職業の方ですから。社会見学ついでにね」
ニヤニヤと笑う殺せんせーの顔と、その言い草…多分殺し屋だ。殺し屋に会えるなら会ってみたいと思っていたし、お腹も満たせるならちょうどいい。僕は急いで準備を済ませた。
俺の名はレッドアイ。名前の由来は俺のスコープに目標の血が映らなかったことがなかったことから。簡単に言えば凄腕のスナイパーってことだ。
だが、今日のスコープに目標の血は映らなかった。別に今日が休日だったわけじゃない。殺せなかったんだよ…絶好のポイントを用意してもらって、堅気の中学生にも支援してもらって、そこまでしてもらったのに俺が放った弾丸は、目標を貫ぬくどころか受け止められ、俺の心も折れかけてる。
「俺もそろそろ…足を洗うべきか?…」
「そうですね、殺し屋なんてやめて写真家になってはどうですか?」
独り言を言ったつもりが、聞かれていたようだ。それにしても写真家ねぇ…確かにスコープとカメラなら似てるしそういう仕事なら……………って誰だ!?そう思い振り返るとそこに居たのは…
「にゅやにゅや…」
「あ…あんた…!?」
「今日は随分とお世話になりましたからねぇ。ご挨拶に伺いました」
「あ…ああ…」
殺そうとしていたマッハ20の超生物が目の前に…!俺ももう…おしまいか…
気づいたら湯豆腐を食っていた。店の雰囲気も味も良くなかなかいい店だ…
「ってなんで湯豆腐なんだよ!俺を殺しに来たんじゃないのか!?」
「だから挨拶に伺ったと言ったでしょう。生徒たちは私を殺すために京都について沢山調べたでしょう。それはこの街の魅力をより多く知るいい機会になりました。なので、お礼を言いに来たのです」
なんつー考え方だ…でも、立派に先生してやがる…
「全部教育の過程にされちまってたってわけか…しかもおまけにお礼まで言われるとはね…で、そっちのガキはなんだ?」
俺はいつの間にか超生物の横にいる中性的な子供に尋ねる。
「あ、潮田渚と言います。僕のことは気にしないでください。夕食を食べ損ねてついてきただけですので」
「まぁ、ふー、二人よりも、ふー、三人で、ふー、食べた方が、ふー、食事はより美味しいですからねぇ、はふはふ」
「殺せんせー猫舌なの?」
「あ、分かります?」
中学生と世界を滅ぼす超生物がこんなに呑気に会話してる絵あるか?確かに目の前でそんなことが起こってはいるが…
「それでレッドアイさん。殺し屋を辞める決心はつきましたか?」
「え?殺し屋辞めちゃうんですか?」
辞める…か…中東のアジアで砂嵐の中2km先の標的を仕留めたこの俺が現役引退を考えるなんて、笑っちゃうね。
「まぁ、考えとくよ。どのみち心は折れかかってるからな。あんたの言う通り写真家にでもなるかもしれねぇな」
「赤色だけでなく、この世界には様々な色がありますから、それらを見ていつか絵葉書にでもして送ってください」
「あんたに?マッハで飛べば実物見られんだから必要ないだろ?」
「実物と写真では感じるものは違うんですよ。特に人からもらったものなら尚更ね」
「そうかい。さて、俺はもう行くとするよ。お代はこれで足りるか?」
「おお!そんな悪いですよ!」
「いいんだ。奢らせてくれ。考える機会をくれたあんたへの礼だ。それとお前、修学旅行の残りはしっかり楽しめよ」
「残りは明日だけですけどね」
不思議な奴らだ…この教師も、その生徒も。暗殺の目標と殺し屋の関係なのに、普通の先生と生徒の関係でもあるなんて、普通じゃない。でもこいつらはそれを受け入れて普通に過ごしてる。本当に不思議だよ。
俺はあいつらと別れたあと烏間さんに電話をする。明日の作戦の最終確認かって?違うさ…
『暗殺を辞退…』
「ああ、この街を観光したくなった。赤だけにこだわらず色んな色を見て回るよ。いつか、絵葉書でも送るから楽しみにしててくれ」
『絵葉書?』
「じゃ、すまないな、烏間さん。後は頼む」
俺は電話を切り、京都の夜景を橋から見渡す。なんだよ、赤以外にももっと色々あんじゃねぇか…これまでの時間、勿体ないことをしたな…。
最後まで読んでいただきありがとうございます。平和回が少し続きます。アニメ1期の内容はほのぼのしてて好きです。
試しにセリフの間を1行開けてみました。少し見やすくなりましたかね。
ではまた。