潮田渚は次こそは殺すと決意した   作:カルダリン

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ちょっと遅れました。どうぞ。


#6 雨と暑さと寺坂の時間

 梅雨に入ったからか最近は雨の日が多く、朝のランニングに行けなかったり洗濯物が外に干せない事が増えて、家でゴロゴロしてる時間が増えた。勉強したり家の中でもできる運動とかで時間を潰してるけど、それでも時間が余って暇で仕方ない。

 それだけならまだしも気温も高くなっできたせいで蒸し暑いのなんのって。保冷剤や氷枕で冷やしたりして過ごしてるけど暑いことには変わりなかった。

 

「……暇だ…しかも暑すぎ………何とかしてよ律えもん〜………」

 

 自室のベッドに突っ伏しながら、最近スマホの画面をつけてなくても話しかけたら勝手に起動するようになったモバイル律に助けを求める。

 

『しょうがないな〜なぎさくんは〜…って何言わせるんですか!もう!』

 

 律は青いタヌキの着ぐるみパジャマを着ながらノリツッコミをした後、フードを取って頬をぷくーっと膨らませる。

 一周目より僕が頻繁に頼ったりこうやって喋ったりするからか、距離感がやたら近い気がする。

 

「ごめんごめん。でさ律…この暑さ何とかする方法ない?」

『平年と比べればまだ気温は低い方ですが、そんなに暑いですか?』

「うん……前より暑さに弱くなるとかそんなことあるのかな」

 

 一周目はこの時期にここまで暑く感じたことは無かった気がする。律の言う通り気温が変わってないんだとしたらきっと気のせいだろう。

 

『暑い時は手首や首などの皮膚が薄いところを冷やすと効果的ですよ!あとは…クーラーをつける…とかですかね?』

「さっきからやってるけどそれでも暑いよ…仕方ないからクーラーつけるか………あれ?」

『どうしました?』

「………つかない」

 

 いくらリモコンのボタンを連打してもエアコンはうんともすんとも言わない。テレビのリモコンと間違えてる訳でもないし、電池が切れたのかと思って試しに替えてみたがそれでもつかない。ということは……

 

「壊れた?」

『そのようですね…』

「…………終わった」

 

 一周目の時はエアコンが壊れたことなんてなかったのに………肝心な時に壊れるとは本当に運がない。

 仕方なく修理業者に連絡したらこの時期は客が殺到するようで、修理に来れるのは一週間後と言われてしまった。

 

「律助けて」

『えっと……他の部屋で過ごす……とか…』

「昼はそれでいいかもだけど寝る時はベッドじゃないとなんとも……」

『お母様の部屋で寝ればいいのでは?』

「母さんの部屋…香水臭くって……」

『あー……扇風機で代用するとかは……』

「うち扇風機ないんだよ」

『あらら……これ以上は私にはなんとも…』

「ごめんね律…………さすがに暑すぎて死ぬ………ちっちゃいのでいいから買いに行こうかな」

 

 いくらなんでも死因が「暑かったから」は悲しすぎるので、それを回避するためにも近くの店に買いものに行くことにした。小さめでもいいからクーラーの代用になるものがあれば上出来かな。幸い外は小雨程度なので傘を持っていけばさほど問題は無いと思う。

 僕は急いで身支度を済ませて熱気のこもった家から飛び出した。

 

 

 

 買いものを終えて家に帰る途中、寺坂君がいた。もちろん一周目はこの時買い物に行かなかったのでこの光景を見るのは初めてだ。なにやら道を行ったり来たりしながら時折何かをチラチラと見ている。

 その視線の先にあるのは………メイド喫茶?ああ、そういえば竹林君に誘われてハマったんだっけ。様子から見るに、中に入りたいけどまだ一人じゃ恥ずかしいって感じかな?

 僕はちょっとした悪戯心から彼に話しかけてみることにした。メイド喫茶の方に気が向いていたおかげで簡単に背後を取れたから肩を叩いて話しかける。

 

「何してんの?寺坂君」

「うおおっ!?って渚かよ!い、いきなり出てくんじゃねー!!」

「あはは…で、メイド喫茶の前で何してんの?なにか用事?」

「は!?ち、ちげーよ!メイド喫茶じゃなくてそそそっちの店に用があってだな」

 

 寺坂君はそう言ってメイド喫茶の右側にある本屋を指差す。よく見ると店のガラス扉に紙が貼ってあって、その紙には[本日、都合により臨時休業]の文字が見えた。

 

「そのお店、今日は臨時休業だってさ」

「え!?あ……………」

「で、なにして──」

「おい渚!俺がここにいたこと…誰にも言うんじゃねーぞ!」

 

 恥ずかしい秘密がバレて顔を赤くしたと思ったら、次の瞬間には胸ぐら掴んで脅しに来るなんてね……寺坂くんらしいっちゃらしいけどね。

 

「入るのが恥ずかしいの?雨の日にわざわざ来て?」

「……いつもは竹林と来てっからな」

 

 寺坂君はこれ以上隠しても仕方ないと諦めたのか僕の服を掴んでいた手を離して、バツが悪そうに頭をポリポリかきながら話し始めた。

 

「今日は一人なんだ?」

「誘ったんだがよ…今日は用事でこれねーって……でも今日は……その……」

 

 人に言いづらい理由なのだろうか。でも、こんな雨の日に一人で来るってことはよっぽど大事な理由があるんだろう。まぁ家に帰ってもどうせ暇だし……それにあのイベントを一回目で潰すつもりなら寺坂君にも手を打たないといけなかったしちょうどいいか………

 

「えっと……僕でよければ一緒に入ろっか?」

「あ?渚も興味あんのか?」

「いやそういう訳じゃ──」

「そうかそうか!じゃあ初めてが一人じゃ心細いだろ!経験者の俺が一緒に入ってやんよ!」

 

 なんか僕が入りたくて入ったみたいになってるけど……まぁいいか。

 この後、目的が果たせてご機嫌な寺坂君に肩を掴まれながら店の中に入ろうとした時、突然後ろで強い風が吹いた気がしたのは天気のせいだと信じたい。黄色いのが見えた気がしたのもきっと気のせいだ……………多分。

 

 

 

「おかえりなさいませ!!ご主人様!!!」

「ご注文はなにになさいますか?」

「萌え萌えきゅ〜〜〜〜ん!」

 

 うん。予想通りすごい店だ。

 

「うへへへ……やっぱり可愛いなカナちゃん……」

 

 あの寺坂くんが骨抜きにされてる……。店の雰囲気や他の客の様子から見るに、どうやら今日は寺坂君お気に入りのカナちゃんさんの誕生日だったらしく、それが理由でどうしても来たかったらしい。

 僕はスマホでだらしない顔でメイドさんを見つめる寺坂君を何枚か盗撮しておく。こういうのは交渉や脅しの材料になるから撮っておくべきってカルマ君と中村さんから教わった。まぁ教え方は口伝いじゃなくて直接だったけど………

 

「渚はオムライスじゃなくていいのか?」

「うん。さっきお昼食べたばっかだしさ」

「もったいねぇなぁ。せっかく来たんだから無理してでも食ってきゃいいのによ」

 

 まぁもしお腹すいてても、ここでオムライス頼んでハート書いてもらって法外な値段踏んだくられるくらいなら家に帰って自分で作るけどね……。

 ちなみに僕が頼んだ生クリームとチョコスプレーが馬鹿みたいにかかった甘ったるいチョコケーキは存外悪くない味だった。値段はふざけてたけどね。

 

 

 

「……なぁ渚、今日は…………その……ありがとな……」

 

 店を出て開口一番こんなにらしくないことを言うものだから、僕は心配になった。寺坂君に「ありがとう」なんて面と向かって言われたのは一周目でも無かったような気がする。

 

「え、なんか変なもの食べた?やっぱあのオムライスやばいもの入ってたのかな…」

「んだと!?渚のくせに生意気なんだよ!」

「あははっ!冗談だって!寺坂君らしくないなって思ったのは本当だけどね」

「くそ……なんか今日のこいつめっちゃうぜぇ…」

 

 話しやすい空気になってくれたので、僕は今日話しかけた目的を達成するために、彼にあるお願いをする。

 

「話変わるんだけどさ…………寺坂君に一つお願いがあるんだ」

「なんだよ急に。クソ真面目な顔しやがって」

「寺坂君は…殺せんせーのこと嫌い?」

「ああ?ああ……死ぬほどな。百億なんていらねぇから誰でもいいからさっさとあいつを殺して欲しいくらいだぜ」

「そっか……じゃあちょうどいいや。寺坂君もさ、みんなの暗殺に協力してみない?」

「はぁ?なんでそうなるんだよ」

「だってそうじゃない?協力する人が一人でも多い方が殺せんせーを殺す確率は上がるんだしさ」

「いやまぁ確かにそうだけどよ……」

「だからお願い!まぁ…もし断るなら今日のことクラスのグループトークでバラすけど」

 

 僕はさっき撮った寺坂君がメイドさんを見てニヤニヤしている横顔の写真をスマホの画面に映して笑顔でお願いする。

 

「それお願いじゃなくて脅しじゃねぇか!」

「それもそっか!」

「『それもそっか!』じゃねぇわ!ほんっと生意気だな今日のお前!」

「それで?答えはYES?それともYES?」

「YESしかねぇじゃねぇか!…………ったく…わぁーったよ。しばらくは協力してやる。弱み握られてちゃ仕方ねぇしな……」

「それじゃあみんなとも仲良くね?」

「んでだよ!」

「メイド喫茶?」

「ぐっ………くそ……」

 

 これで当面の間は寺坂君も協力的になってくれる……と思う。このまま彼がクラスの中で浮いたままになるのは面倒だし、放っておいて何をしでかすか分からない以上は、申し訳ないけどリードをつけておすわりしててもらうしかない。

 

 

 買い物帰りに思わぬ収穫を得た僕は、寺坂君と別れて家に帰る。結局買えたのは小さめの卓上扇風機ではあるが、それでもないよりはマシだろう。おかげでクーラー無しの家の暑さもいくらかマシにはなった気が……………

 

「いやいやそんなわけないから……こんな小さいので変わるわけないじゃん……暑すぎる……」

『考えたんですけど……』

「なに?解決まで時間がかからない案だと嬉しいな」

『私に改良を施せる殺せんせーならエアコンくらい簡単に直せてしまうのではないでしょうか?』

「あ」

 

 律のおかげで気付いた僕はすぐに殺せんせーに電話をかけた。食後に食べようと思ってた高級アイスで釣ったら、マッハで直してくれて、そのおかげで僕の健康は守られた。ありがとう律、ありがとう殺せんせー、さようなら食後のアイス。




最後まで読んでいただきありがとうございました。
え?お前の書く日常回つまらんって?いやまぁね……でもこういうの書きたかったんですよ…。なんかそれっぽいじゃないですか。まぁまだまだ文も未熟ですがね。でもこんな駄文読んでいただくだけでとってもとっても嬉しいですけどね。

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