潮田渚は次こそは殺すと決意した   作:カルダリン

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今回の出来事は研究所までの山道で起こってる感じですね。ガードレールの先は崖って感じの場所です。


#9 イトナの時間 3時間目

 揺れてる。目の前がほんの少し見えた。ぼんやりして思考がまとまらない。なんだっけ…なに…してたんだっけ……ここは…?

 次第に視界と思考がクリアになり始め、状況が理解できるようになった。そうだ。白装束の奴に眠らされてそれで……イトナ君は!?

 体を起こそうとした途端、僕が目覚めたことに気がついた白装束が銃口を突きつけ僕の頭を押さえつける。

 

「おや、もう起きたのかい。薬の効きが甘かったかな?」

 

 前の座席にいるシロも気づいたようで余裕綽々といった感じで話しかけてくる。

 

「…イトナ君はどこだ」

「後方車両にいるよ。まぁそれを聞いたところで今の君にどうすることも出来ないだろうね」

 

 事実、こいつの言う通りだ。両腕両脚はキツく縛られて、手の指一本一本に至るまで厳重に枷がかけられている。おまけに変な動きをすれば、こいつは容赦なく部下に僕を殺せと命令するだろう。どうすれば…このまま奴の隙を見計らって…?いや、現在地がわからない場所からイトナ君を連れて逃げ切れる気がしない。

 

「どれだけ思案しても無駄だよ。私の作戦は完璧だからね。それに、はなからこの作戦は失敗しないと決まっているんだ…」

 

 こいつの言う完璧な作戦なんて存在しない…どんな優秀な殺し屋でも全てがプラン通りには行かない。だからこそ何通りもプランを用意して挑むんだ。こいつの作戦にだって必ず穴がある……頭を回せ…思考しろ……。

 

「……眠らせておけ」

 

 シロの言葉に僕の横にいる男は頷き、布を僕の鼻と口元を覆うようにして押し付ける。きっとこの布にさっき僕を眠らせたのと一緒の薬が染み込ませてあるのだろう。

 眠らされたらまずいので僕は布越しに男の指に噛みつく。

 

「いてててっ!離せ!クソガキが!」

 

 男が手を離そうとするので、僕は離すまいと躍起になって力をいれる。

 

「離せっつってんだろ!」

「っ!…げぇっ…ほ……が…か…」

 

 怒った男は僕の腹を殴りつける。拳は深くめり込み、その衝撃で僕は涎と胃液を吐き出す。

 けれどこれで布は使い物にならなくなったし、痛みで意識もしっかりしてる。眠らされたら終わりだ……なんとかして拘束を解いて逃げなきゃ…。

 

「まったく、健気だねぇ。………?…おい、どうして停まった?」

 

 突然乗っている車が停まった。シロは運転席にいる白装束に話しかけているが返事がないようだ。しばらくすると車に何かが落ちてくる音がした。ボンネットの方だろうか。続いてガラスが割れる音がする。

 

「暗殺失敗の腹いせにクラスメイト誘拐とか……随分ふざけたことしてくれんじゃん?」

 

 座席の隙間から見えたのは、バットを担いでボンネットにしゃがみこむカルマ君だった。

 

 

 ───2時間前(赤羽業視点)────

 

 えーっと……【ダニエル電池が充電できてボルタ電池が充電できない理由】?…殺せんせーの課題だけどさ、こんなんテストに出るか?中三の一学期期末テストにしちゃやりすぎな気もするけどな。ま、俺は出されても余裕だけどさ。

 午後七時過ぎ、俺は菓子パンを咥えながら机に向かって殺せんせーに貰った課題を潰してる。端的に言えば暇だ。そんな時、突然携帯が鳴る。何かと思えばモバイル律だった。

「どうしたの?律。随分焦ってんじゃん」

『業さん、落ち着いて聞いてください。渚さんとイトナさんが誘拐されました』

「…………は?」

『今殺せんせーや他の皆さんにも連絡しています!現在の位置情報と奪還作戦についてですが──』

「ちょっと待て律。待て待て、渚くんが誘拐?誰に?」

『分かりません。ですが渚さんのお宅に突然押し入った形での誘拐になります。業さん!どうかお力を!』

 

 まじか…殺せんせーをおびき寄せるために殺し屋が仕組んだ罠?それともただの誘拐?いや、可能性が高いのは昼間のシロって奴の仕返しか。渚くんに思いっきり邪魔されてたし…堀部イトナも連れ去られてるし。

 

「言われるまでもないよ、律。こんなふざけた真似する奴ぶっ飛ばすだけじゃ足りねぇよ…」

 

 そうして俺が外に出るために部屋のドアを開けようとしたとき、窓を外からノックする音が聞こえた。振り返ると殺せんせーが居た。

 

「今皆さんをマッハで先回りする位置に送っているところです。業君の了承が得られたと律さんから聞きましたので迎えに来ました。では行きましょう……」

 

 俺は殺せんせーの声色がいつもと違うことに気がついた。いや、声だけじゃない。顔色もだ。真っ黒、ド怒りって奴だ。

 

「おっけーせんせー。殺さない程度にぶっ殺そうか」

 

 

 ───そして現在(渚視点)───

 

 道の至る所からライトで照らされ、僕らを運んでいた車は完全に包囲されていた。

 

「赤羽業……どうしてここが分かった」

「これだよ」

 

 カルマ君はニヤニヤしながらスマホを取り出す。画面に映った律が頬をふくらませて怒った顔をしている。

 

「完璧な作戦とか思ってたんだろうけど、だめだよ目撃者の口は封じなきゃ」

「自立思考固定砲台…!」

『シロさん!もうあなたは完全に包囲されています!諦めてお二人を返してください!』

 

 シロは周りを見渡して、顎に手を当てる。少し考え、やがて手を下ろして息をつく。

 

「まったく…またイレギュラーか……記録しておこう。赤羽業、自立思考固定砲台、そして潮田渚…今回は完全に手を引くこととしよう。ではE組の皆、また会おう」

「また会おう?それは逃げるという意味ですか?シロさん」

「……やぁ、殺せんせー。ほんの少し生徒をお借りしようと思ったんだがね。でも残念だよ。目的を果たせず帰る羽目になるとはね」

「…逃がすと思いますか?」

「逃げるよ。ここで私は捕まらない。それは決定された未来だからね」

 

 シロはそう言うと崖を飛び降りる。

 

「っ!待ちなさいっ!」

「待ってよ殺せんせー。昼間あいつの服じゃ触れないって分かったでしょ?それにあいつの事だ。死のうと思って崖から飛び降りたわけじゃないと思うんだけど。目的は渚くんとイトナくんの救出なんだ。そっちが先なんじゃね?」

 

 シロを追おうとする殺せんせーをカルマ君が止める。確かにあいつが崖から飛び降りたくらいで死ぬわけじゃないだろうし、追っても得はなさそうだ。どうせこっちから探さなくても懲りずにまたやってくるだろうし。

 

「大丈夫か!?渚、すぐ外してやっからな!」

「杉野、それにみんなも!」

 

 気づけば周りにいた白装束もいなくなっており、杉野達が近くまで来ていた。

 

「ったく、とんでもねーなあいつら。イトナの方も寺坂達が行ってるから安心していいぞ」

「そっか…よかった…」

「律から攫われたって聞いて文字通り全員すっ飛んできたんだ。家の事情で来れなかったやつもいるけどな」

「それでも……嬉しいよ」

 

 縛っていたものがやっと解かれて、手足を軽く振って解しながら車から出る。後方では寺坂君たちにおぶられるイトナ君がいた。

 

「こいつまだ寝てやがる。こんな騒音の中でよくもまぁすやすや寝てられるな」

「寝てるんじゃなくて、僕もイトナ君もガスみたいなので気絶させられたんだよ」

「じゃあなんで渚は起きて、この子は寝てんのよ」

 

 狭間さんが呆れた顔でこちらに尋ねる。

 

「…さぁ?吸った量が少なかったとかかな?」

「ん……俺は…何を…?」

 

 寺坂君の背中の上でイトナ君の意識が戻る。まだぼんやりとしているのか目を擦り、目をぱちぱちさせる。

 

「あ、起きた」

「おいイトナ。起きたんなら自分の足で立て」

 

 寺坂君は雑にイトナ君を背中から下ろす。まだフラフラなイトナ君は膝をついて周りを見る。皆の姿を確認するとギリッと強く歯噛みした。

 

「俺は…また助けられたのか…?……なんで俺を助けた?お前らが俺を助ける理由なんて…」

 

 イトナ君の声は嗚咽混じりで、潰れてしまいそうだった。事情を考えれば無理もないだろう。人に裏切られて、次は助けられて、混乱してるんだ。

 

「お前らは……どうして…何度もなんども…」

「クラスメイトだからだよ」

 

 声の主は、磯貝君だった。やっぱりこういう時に頼りになるのは磯貝君だ。

 

「イトナ君が俺らのことをどう思ってるかは分からないけど。俺は立派なE組クラスメイトだと思ってる」

「ふざけるな!俺はお前らとつるむ気なんてない!お前らみたいなのうのうと生きてきた奴らと一緒にいたって、何も持ってない俺自身が惨めに見えるだけだ!」

 

 イトナ君の泣き腫らした顔が、誰かの持っているライトに照らされてはっきり見える。

 

「助けてくれたことには感謝する。お前らのクラスに誘ってくれたのも、多分嬉しかったんだと思う。だけどもう…俺に関わらないでくれ……もう分かっただろ。俺に関わったってろくな事──」

 

 パシンッ!と高い音が周囲に響いた。凛々しい顔をした片岡さんがイトナ君の前に立っていて、その音の正体は彼が平手打ちされたのだとすぐ分かった。

 

「ふざけないでよ」

「っ!?」

「さっきから話聞いてれば…助ける理由だとか…関わるなとか……イトナ君は本気でそういうこと思ってるの!?」

「俺は…」

「こういう時は素直に『ありがとう』でいいの!で、助けてもらったんだからその恩はちゃんと返す。わかった?」

「……はい」

 

 あのイトナ君が…「はい」だって。こういう時の女子ってやっぱり怖いや。

 そんなことを思っていると片岡さんからバトンを受け取った殺せんせーが話を続ける。

 

「イトナ君。君は今後もこのようなことに巻き込まれかねない。ですがE組の生徒であれば、国に対して正当に君の保護と権利を主張できます」

「………」

「昼間は考えるって言われちゃったけどさ、今ここで答えを聞いてもいい…かな…イトナ君…」

 

 磯貝君は屈んで手を差し伸べる。

 

「……でいい」

「え?」

「…イトナでいい。……よろしく頼む」

「それじゃあ…!?」

「根負けだ。お前らのお人好しには」

 

 イトナ君の顔は、憑き物が落ちたように、一周目に僕達とE組の教室で共にすごした顔になっていた。

 こうして、晴れて僕らE組にイトナ君が加入した。

 このまま良い方向に進んでくれれば、きっと殺せんせーを殺せる。前よりも早く…政府よりも…柳沢よりも……

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
オヒサシブルィデェス。すっかり春ですねぇ。今回でとりあえずイトナ君編は終わりです。次から他のお話に入りますよ。そう!球技大会編!………ええ。球技大会です。みんな大好き鷹岡先生はもうちょっと待っててくださいね。
ではまた。
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