弱くなってニューゲーム   作:桜油

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れんloop①

私の『丈凪怜』という人への第一印象は『変な人』だった。

 

 

 

 

 

私は汐宮宥。『書換』の異能者。本名は忘れた。長いこと使っていないから。

 

いろんなことができる。いろんなことの結果や状態を書き換えることができる。けれど、私はこの力が大嫌いだった。

 

私は化け物、人間失格だ。

 

 

 

最初に異能のことを知ったのは四歳の時。

 

 

 

友達が目の前でけがをして、大きい擦り傷だった。

 

友達がかわいそうで、私は怪我が治るように願いながらその傷に触れ、瞬間その傷は治っていた。

 

 

 

友達は喜んでいた。もう魔術が使えるんだ、すごいとはしゃぐ友達に私も舞い上がっていたが、視界の端で幼稚園の先生はおぞましいものを見るように私を見た。

 

 

 

……後で知ったことだけど、魔術は使用した際、魔術式を必ず使う。魔術式の起動もなしに超常現象を引き起こせば、それはもう『異能者』であり、『異能者』は化け物のように、人権など一切尊重されずに過ごすことになる。

 

 

 

そうとは知らず、家に帰って魔術を使えたと報告しようとリビングへ走った私は、既に幼稚園の先生から連絡が入っていたのか、両親の化け物を見るような私への視線に口を閉ざした。

 

いつもはおかえりと笑って出迎えてくれるのに、様子がおかしい。

 

とうさん、とかすれた声で呟く私の前で、両親は話す。

 

 

 

「こんな化け物を四年も育てていたなんて冗談でしょ」

 

「だから子供を産むのは反対だったんだ」

 

「はあ?子供が欲しいって言いだしたのあなたじゃない!」

 

「いいや、おまえだ!」

 

「いいえ、あなたよ!というか、あなたは昨日さんざんかわいがってたじゃない。あなたが育てればいいのよ」

 

「こんな化け物じゃなきゃそりゃかわいがったさ、でもこいつは化け物だ!そんなこと言うならお前が育てろよ!」

 

「ふざけないで、誰がこんな化け物!」

 

 

 

とけんかになり、罵声は続き、ついには互いの首を絞めだした。

 

それでも続く罵倒。私は怖くて、何もできなかった。見ていることしかできなかった。声はとぎれとぎれ、顔は真っ赤、首にあざまでできて、それでも両親は喧嘩をやめない。二人はとうとう動かなくなった。息はしてなかった。

 

さすがに、ここまで見ていれば分かった。

 

 

 

異能者は生きていちゃいけない。

 

いるだけで周りが不幸になる。

 

 

 

……でも、と私は両親のそばに身を屈めた。

 

 

 

愛されたかった。紛れもない両親に。

 

もう異能者と知られたならそれでいい、異能者が化け物ならそれでいい、殴られても蹴られてもいい。

 

昨日までのように、「あなたが私たちのすべてだ」とさえ言ってくれればよかった。

 

 

 

……私は周りと違う化け物だ。

 

それを実感した。

 

 

 

そこから、家から逃げて、幼稚園ではいじめに遭うし友達にも裏切られたから居場所がなくて、殺人犯に仕立て上げられるというハプニングもあったけど、それでも何とか八年生きた。

 

 

 

戸籍を作った。適当に名前を作って、私がもともとそういう人間なのだと書き換えた。居場所を何とか作らないといけなかった。

 

 

 

学校に通えなかった。小学校の教科書をきれいなものに書き換えて、蛍光雪案。死に物狂いで勉強した。表面だけでも認められたかった。

 

 

 

金がなかった。惰眠を謳歌せず、ガラクタをきれいな状態に書き換えて換金した。身分証明は自分の母親の姿に自分を書き換え、身分証明書を拝借することで解決した。

 

 

 

何でもかんでも一人で解決してきた。異能者であることは私を不幸にしかしないけれど、だからって異能がなくなっても今更生きていけない。異能があるから異能者で、異能者だから普通の女の子としてすら生きられない、異能があるから何とか生きていけている。

 

 

 

異能に頼りっきりだけど、悩みもあった。異能を使うたびに殺人衝動がわくのだ。

 

最初は理性で抑えられたけど、そろそろ限界だった。

 

ホームレスには重宝されたこの力も、種が割れてしまえば、私を追い出す口実にしかならなかった。

 

 

 

そんな時、中学校のセーラー服が捨てられているのを見た。

 

 

 

そういえば私もそろそろ中学生。住所不定、拠点は公園の遊具の中、まともに学校に通ったためしがない。でも……セーラー服を着て、学校に通うという普通の生活ができないわけじゃない。最近安定してきたし。それに、もしかしたら、私の理解者がいるかもしれない。私の承認欲求が収まることを知らず、気づけば私は中学校への入学を決めていた。

 

 

 

入学を決めたはいいけれど、問題がまた浮上したので課題は二つあった。

 

 

 

一つは殺人衝動が激しいこと。これは異能を使わなければいい。だから簡単に解決するはずだった。

 

しかし、もう一つのせいで私の平穏なはずの、いい成績をとって人気者になれるはずの学校生活は、寂しいものになった。

 

 

 

異能が、勝手に発動する。

 

 

 

タイミングはなんとか選べた。それでも神出鬼没なんて言われている。理解者を求めて人と会話したいのに、四六時中透明になりかけるのを何とか抑えてそれでも休み時間中透明じゃ無理な相談だ。

 

しかたないから、せめて、嫌われないようにつくろった。

 

 

 

そんなある日、委員会を決めることになった。私は当初、誰にも迷惑が掛からないように委員会に入らないと決めていたけど、今度は気づかないうちに姿が消えていたようで、私は欠席扱いを受けていた。

 

 

 

どうしよう……。そう悩んでいると、私の隣の人が挙手した。

 

 

 

真白夕映さん。青い髪が鮮やかで、青い瞳が輝いて、ちょっと大人びているけれどそんなところが男女問わず人気ある女の子。彼氏が違うクラスにいると噂だ。

 

 

 

さぼりがちな彼女は珍しく今日出席していたのだけど、それは入りたい委員会があったからかな?

 

そう思っていたけど、真白さんは私を、透明な私の机を見て、一言はなった。

 

 

 

「汐宮さん、図書委員になりたいそうです」

 

「えっ」

 

 

 

誰もそんなこと言ってない!

 

 

 

そう抗議したいけど、残念なことに私は透明人間だ。誰も話なんか聞いてない。そのままあっさり図書委員に決まってしまった。図書委員の仕事なんか透明人間にできるわけない。

 

そう落ち込む私だけど、その時、机の上にノートの切れはしがおかれた。真白さんのほうから来た。真白さんを見ると、横目で私の席を見て、口に人差し指を当てて「しー」と小声でジェスチャーしていた。

 

 

 

この人、……見えてるの?

 

 

 

そんな私の疑問、疑念は、メモの中身で期待に変わった。

 

 

 

『残念ながら私は気配でしかわからない。けど『彼』なら見つけられる。『彼』とは図書委員で会える。君は誰にも迷惑かけたくないからどこにも入る気がないかもしれないけど、そうやって普通に過ごすのを諦めないで。……勝手に推薦してごめん』

 

 

 

私はメモを大事に胸ポケットにしまった。……そっか。諦めなくていいんだ。

 

そうだよね、まだ異能者ってばれてないもんね。

 

真白夕映さんがどうやって私がいるのを知っていたのか、気配だけにしてはやけに目線があっていたはなぜか、それはわからない。けど、そんなの関係なく、私を認識してくれたのがうれしくて、その日はいつもよりよく眠れた。

 

 

 

『彼』の名前は知らない。だから委員会初日にその人を特定することはできなかった。

 

 

 

当番は二人一組。私と組むのは同学年の男子だった。同じクラスではないし、私は透明人間のようなものだ。私は当番はさぼってしまうんだろうって思って、でもできるだけ参加したくもあって。ごめんなさい、名前の知らない人。私、君に苦労ばかりかけてしまうと思います。

 

心の中で謝罪と姿が消えないようにお祈りまでしたけど、神様は意地悪で、私が教室を出て少しして、私の姿が透明になった。

 

 

 

こうなるともう後は誰かに見つけてもらうか夜になるかまで待たないとダメ。それより前に自然に解けるかもしれない、自力で解除できるかもしれないけど、それをしても効果どころか殺人衝動が酷くなるのもわかっていたから、学校で暴走したら平穏な生活が一生手に入らなくなるから、透明な現状を受け入れることしかできなかった。

 

一応図書室に入り、書庫のさらに奥まで進み、本を読んで時間をつぶす。ここなら万が一人が来ても本の山でわからない。自然に溶けても見られにくい。

 

 

 

そう思っていたのだけど、急に書庫の扉が開いて、人の急いでいるような足音が、私に向かって真っすぐとくる。

 

少し驚いたけど、どうせ透明なんだからわからない、そう悠長に構えていた私をその足音の主は呼んだ。

 

 

 

「おい汐宮。なに初日から仕事さぼって書庫にいるんだ。出て来いよ」

 

 

 

……彼は、確かに私を見つけた。

 

 

 

私は透明人間じゃなくなった。真白さんもそうだけど、彼はどうやって見つけたのだろう。魔術関連の教師ですらわからないのに。

 

そう思い尋ねても、そこにいるから、と登山家のような理由を言われてしまった。

 

 

 

もしかして、この人が真白さんのいう『彼』なんだろうか。

 

同じ当番になることまでわかっていたっていうこと?

 

 

 

いや、それよりも仕事しなくちゃ。……ちゃんと仕事できるんだ。普通に仕事できるのがうれしくて、お礼を言った。見つけてくれて、なんて彼には変に聞こえたかもしれないけど。

 

 

 

そういや、彼の名前はしかし知らない。まさか同じ当番の人に見つけてもらえるなんて思っていなかったのだから。名前をどう呼ぶべきか迷っている私に彼は『丈凪怜』だと名乗った。

 

 

 

そして、名前を憶えていないことを追及された。さすがにそこは異能の話になってしまうから、本当の理由なんて言えない。どう伝えたものか。

 

思い浮かばなくて、「私、仕事いけないと思って」と小声になってしまった。

 

余計変と思われたかな、と不安に思っていたけど、丈凪君は、しばらく思案するような顔をした後、にやにやとし始めた。

 

そして、こういった。

 

 

 

早く見つけ出して無理やり仕事に連れて行ってやる、と。

 

 

 

彼の言葉がどうにもおかしくて、そのフレーズがひどくうれしくて、私は久しぶりに笑えた。

 

 

 

 

 

この後、私は丈凪くんに異能や殺人癖……『異能リビドー』を受け入れてもらえ、真白さんにも助けてもらえて、異能差別の撲滅に協力することになった。

 

 

 

彼の話を聞いて驚いたのは、彼が元々、異能を持たない魔術師であったこと。

 

魔術師は一般人より差別的なイメージがあったのに、自分が異能者になってもへこたれるどころか異能者に献身的になるだなんて、聖人か何かなんだろうか。

 

そう反応した私に、

 

 

 

「そっちなの?逆行した話に驚かないの?」

 

 

 

って真白さんが言ってた。そういや真白さんもそうなんだっけ。

 

でも二人とも大人びているから、私からすれば納得なんだけどなあ。

 

そして、秘密結社を立ち上げる打ち合わせ。私の異能リビドーを何とかしないと異能者へのマイナスイメージがぬぐえないって話になって、今まで制御できていたのもよくわからなくなってたからどうしようって、一人では何も解決策を思いつかなかった。

 

 

 

けど、二人はやっぱりすごくて、頭の回転も発想力もずば抜けていた。

 

私が透明人間になっていたこと、異能を使用した際は殺人衝動がわくけど透明になっている間は全くそんなことがなかったこと、透明化を解除すると一気に殺人衝動がわくことを踏まえて、『異能リビドーを、異能を用いて透明化に上書きできる可能性』について考察し始めた。その考察時間もあっという間で、『人格が置き換わるリスクもあるので、せめて殺人衝動を上書きして透明化にする』という結論に至った。

 

これなら、自分で上書きするまでのちょっとした時間だけ殺人衝動を理性で抑えればいい。実際にやってみたら成功したし、運用上全く問題がなかった。

 

 

 

あっさり私の最大の問題が解決した。三人寄れば文殊の知恵っていうけど、これは真白さんと丈凪くんさえいれば何でもできるんじゃないかな。私いる意味あるの???

 

そう聞いたら二人とも、「いや、汐宮が仲間になるのは当たり前で、汐宮には汐宮にしかできないことがある」って。

 

この二人、いい人だなあ。

 

 

 

しかも、私も結構腕が立つと思ってたんだけど、真白さんに全然勝てない。

 

 

 

技を『確率操作』で外されるし、それを書き換えても『異能操作』で異能を封じてくる。魔術も使ってくるけど、その魔術を書き換えて発動者を私にしたら、発動者は変えずに『方向操作』してくるし、しまいには『重力操作』まであるから、勝てる気が全くしない。

 

 

 

真白さん曰く、「結構怜の戦い方を参照してるとこある」って言ってたけど。

 

「じゃあ丈凪くんが師匠なんですか?」

 

って尋ねたら、

 

「私の方が人生経験多いはずなんだけどね……さすが戦闘センス抜群なだけあるよ」

 

って苦笑いしてた。

 

 

 

なんでも魔力がなくても『循環』で永久回路作ってるから実質魔力無限らしい。魔術理論と戦闘理論を組み立てて、時には自分の直観に従った合理的な、いわば詰め将棋をしてくるから質が悪いらしい。今はまだ舐めプが目立つけど、とも言っていた。

 

 

 

魔術の書き換えができたから勝てるかも!くらいに思ってたけど、その後に真白さんと丈凪くんの試合で丈凪くんが『影縫い』で瞬殺してたのを見て、やっぱり勝てないよねって認識を改めた。真白さんの顔もどこかひきつってたし。舐めプしてないじゃん。

 

 

 

飽くまでも試合形式なだけで、本当の殺し合いになったら戦闘という概念すらないらしい。えっこわっ。

 

 

 

さすが一流の魔術師だっただけあるな、とか、メンタル強い人だ、とか、そういう風に、丈凪怜っていう人を『強い人』だと思ってた。

 

 

 

 

 

それが変わったのは中学二年のクリスマス。

 

 

 

中学一年の時は三人で祝っていたんだけど、今年は丈凪くんが用事があって参加できないって言って、真白さんは「あー。そういやその時期だったね」と仕方ないって感じで流していた。

 

私には何のことかさっぱりだった。いくら逆行の話を聞かされているとはいえ、『前回』に何があったかは詳しく語らなかったから。

 

 

 

その後真白さんに、「怜のことよろしく」と頼まれてしまって、

 

 

 

「真白さんはいかないんですか」

 

 

 

って聞き返したら、

 

 

 

「これについては、私じゃだめ。『前回』を知らない君が聞くべきだ」

 

 

 

とやんわり断られた。

 

 

 

どうすればいいかわからなかったけど、クリスマス当日。

 

家でコンビニで買ってきたケーキをつついていたら、丈凪くんが今にも死にそうな顔で帰ってきた。

 

 

 

何事なんだろうか、と私が駆けつけたら、

 

「あいつ、すげえよ」

 

とか、

 

「俺が助けられなかった奴が生きてた」

 

とか、言ってた。

 

 

 

全然わからなかったけど、私にはこれだけじゃわからないと丈凪くんも思ったのか、詳しく聞かせてくれた。

 

 

 

魔術師に興味はあったけど、元々は親の勧めで褒められることが目的で、そこまで目的意識がなかったこと。

 

 

 

中学二年生の春にある少女と出会ったこと。

 

 

 

その少女は『昇華』の異能保持者で、ひどく心優しかったこと。

 

 

 

その正体は教会で開発されたホムンクルスであり、教会から脱走して日本に潜入していたこと。

 

 

 

彼女に恋をしていたこと。

 

 

 

クリスマスを共に過ごす約束をしたこと。

 

 

 

殺さざるを得なくなってしまったこと。

 

 

 

本当は生かす方法があったかも知れなかったこと。

 

 

 

それ以降は魔術は好きでも魔術師は大嫌いになってしまったこと。

 

 

 

彼女の約束で、『人を助ける』魔術師になりたくて、『軍』の推薦任務を受けたこと。

 

 

 

実際は情状酌量の余地があるような人も殺さざるを得なくて精神的に限界だったこと。

 

 

 

そんな中、標的の一人に背中を押されたこと。

 

 

 

そうして挑んだ標的最後の一人との戦闘中、入れ替わりを果たしたこと。

 

 

 

……全部、黙って聞いていた。

 

 

 

自分がその標的だったのかもしれないと彼の態度に思うところがあったけど、彼を見てると、何か文句を言う気にはならなかった。

 

だから、最後まで聞いて、

 

 

 

「それでも、私にとっては今目の前にいる人こそ丈凪怜ですし、今私が知っているこの世界こそが正しい歴史ですから」

 

 

 

とだけ言った。

 

彼は暫く何も言わずうつむいていたけど、やがて顔を上げて、

 

 

 

「それもそうだな。……俺も、もっと頑張らなきゃいけない」

 

 

 

と言って、「話を聞いてくれてありがとう」と笑って出かけて行った。

 

もう死にそうな顔ではなかったので、静かに見送った。

 

 

 

丈凪くんも普通の人なんだって思った日だった。

 

 

 

 

 

「……夕映はここにいたのか」

 

「うん。……もう平気なの?」

 

「ああ。汐宮のおかげだ」

 

「ふうん。私の見立ては間違ってなかったね」

 

「やっぱ夕映の差し金かよ。……でも、詳しいこと話しているうちにやるべきことを改めて明確にできたから、立ち直れた」

 

「でしょ?詳細知ってる私じゃやっぱダメだったね。……で?『日向咲』はどうだった?」

 

「生きてた。あいつと仲良くしてたよ」

 

「……そっか。入れ替わりたいと思った?」

 

「いや、それはない。俺は俺、あいつはあいつだろ?あいつに今更なってどうすんだよ。俺は丈凪怜、それでいい」

 

「それは安心だ」

 

「……夕映」

 

「うん?なあに?」

 

「俺は……俺の初恋は……いや。これはまだいい」

 

「ええ?気になるじゃん。ほら、言ってみ?君の初恋は誰?日向ちゃん?汐宮ちゃんかなあ?それとももしかして:叔母さん!?」

 

「いや、言わない。そういうのは世界の運命とやらを変えてからでいい、そうでなきゃだめだ」

 

「そこまで言うなら仕方ないな。さっさと達成しますかね」

 

「ああ。俺も手伝うよ」

 

「ありがたいねえ」

 

「ところで夕映」

 

「今度は何?」

 

「教会との交渉って何を狙ってたんだ?」

 

「……日向咲が教会のホムンクルスなのは知ってるんだよね」

 

「ああ」

 

「実はもう一人いるの。君の仲間候補ね」

 

「そうだったな……」

 

「で、叔母さんが仕込んだことによって、その二人が開発されない状態になってたのね」

 

「ああ、だから」

 

「そそ。その仕込みをカバーしてた。これが調整」

 

「具体的には?」

 

「……ある異能者のDNAを寄付して、開発理論のデータを軽く提供した。これで開発されるまでの時間を縮められる。おかげでほぼ同時期に誕生してるみたい」

 

「なるほど。……さすがに殺してないよな?」

 

「当たり前だよ。DNA採取で殺してたら異能者として悪目立ちするでしょ」

 

「それもそうか。叔母さんと対立するかもってのは?」

 

「あー。そのDNAが叔母のお気に入りだっていうのと、なんかね、叔母さんは教会に異能者とかDNAとかあまり集めたくないっていうか、分散させたいみたいなんだよね。どういう意味かは分からないけど」

 

「割とがっつり敵対されそうな内容だったのか。ぼかしといてよかった」

 

「本当にね。……ありがと」

 

「どういたしまして。……今晩は冷えるぞ」

 

「『体温操作』してるから平気」

 

「へいへい。俺も『熱量循環』で平気だけど。……お、雪が降ってるな」

 

「ほんとだ。きれいだねえ」

 

「……そう、だな」

 

「でもさすがに濡れるのは勘弁だし、かえろっか」

 

「……よし、帰るか」

 

「先行ってるねー。あ、コンビニでケーキ買っといて!」

 

「お前も金出せよ」

 

「えー。今財布ないしパス!ショートケーキだからね」

 

「わかったわかった。気をつけて帰れよ」

 

「わかってるって!」

 

 

 

 

 

「……」

 

「『充喜暁』としての初恋は日向咲だが、」

 

「『丈凪怜』としての初恋は……夕映はわかってんのかな」

 

「あー。俺らしくもない。さっさと帰るか。ショートケーキ二つ、残ってるかね」

 

 

 

 

 

「なるほど、これは使える。私の邪魔をした以上、お仕置きしないと、ねえ?」




汐宮宥(しおみやなだめ)
…鋏を武器として扱う、普通を夢みた少女。
殺人癖を抑える手段を知ったことで闇堕ち回避。

気に入って頂けたら、お気に入り、感想、高評価などよろしくお願いします。
次から中学二年の話ですが、章管理の都合上、章の名前は中学一年のままにさせて頂きます。
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