僕が充喜暁としての人生を過ごす中、一つ考えたことがある。
僕には手出しができなくて、結果壊れてしまった仲間は、彼と関わった際はどのように変化するのだろう、と。
汐宮宥は殺人鬼になってしまった。透明人間な彼女を僕が見つけられず、見つけてもらいたがった彼女は異能を制御しきれず周りを殺して、もみ消そうにもあたり一帯の記憶を書き換えたから、宥の望んだまともな生活はできなかった。
一条有希は何も感じない空虚な兵器になってしまった。教会に追われていた彼の前でピンチに陥り、唯一の仲間だった僕が死ぬのを良しとしなかった彼が暴走し、今までの記憶も感情を犠牲にすべてを破壊した。残ったのは彼の人格を装った人擬きだった。
丈凪怜は仲間が三人いるといったけど、もとより僕の仲間は二人だ。あと一人がもしかしたら僕の仲間を偽っていたかもしれない。
何はともあれ、今の『丈凪怜』は彼ら二人に何を思い、何を行うのだろう。
僕と同じ道を歩んで壊してしまうのか。
僕とは違って救う道をとるのか。
有言実行な彼のことだ、きっと両方殺したりなんてしない。
もしかしたら出会い方も変化しているのかもしれない。
……僕と同じように壊してしまえと前は思っていたけど、今は逆。彼にこそ僕の仲間を救ってほしい。僕の後悔はそれできっと晴れる。本当は僕が助けたかったけど、僕は無力で、自分勝手な人間だったから。
僕の初恋の少女、汐宮宥と僕の親友になるはずだった少年、一条有希が幸せでいたなら、僕が『丈凪怜』である未練はもうない。
そう思っていたけど、やっぱり僕は自分勝手で、一つまた失念していたことがあった。
丈凪怜と出会ったときに彼はヒントをくれていた。
『トラウマだけはいっちょ前にあった』のだと。
まさか僕が『誰かを救えるか』を試される日が来るとは、夢にも思っていなかったのだ。
中学校生活も慣れてきて、一年生なのか二年生なのかよくわからない春休み。
僕が終業式を終えて帰路につくと、いつものように、自然と深月が隣によって並行していた。
「飽きないよね。僕なんかと毎日いても深月には何の得もないのに」
「いいじゃない。私は充喜くんといる時間は楽しいよ」
「お世辞をどうも」
ともはや日常茶飯事と化した会話を交わす。
深月は小学校の卒業式からの一件以来はずっとこんな感じで、何かと僕のそばでたわいもない話をしたがる。優等生で、品行方正で、とても美人な彼女は相も変わらず学校の人気者、万年学級委員長である。それを自覚しているのかしていないのか、いつもクラスカースト最底辺な僕にくっついているから、僕への妬みの声も大きいのだ。おかげでいつも胃薬や回復魔術の世話になっている。
それでも拒否しないのは、『前回』の妹、丈凪育であることを確信しつつあるからだ。
正確にはこの子は逆行なんてしていないのだからそう見ることが間違いかも知れないけど、どうも『丈凪育』という妹としてみてしまう僕がいる。もっとも、どうせ彼女も僕に対して恋愛感情はないだろうから支障はない、よって認識を改める気はない。
今日もいつも通り彼女につかまってしまったので、帰り道に延々と彼女の話を聞くことになった。
けれど、今日はそこまで退屈じゃなかった。
教会がホムンクルスを完成させたけど二体脱走した、とか、最近は教会の組員がそのホムンクルスを狙っている、とか、最近はけが人や病人が極端に減っている、とか、行方不明者が多発している、とか。
間違いなく一条有希に関しての話題だ。彼はそんなことできないだろう、と冷静になっても、それでも彼の関係者であることに間違いなかった。
彼女は情報源は母親だと話していたが、僕はそんな情報どころではない。
彼女と分かれ道で別れ、玄関で鞄を雑に投げて、最近僕が公立中学にいったことで期待はずれに感じたのか放任主義になりつつある母親の罵声を背中に受けながら、自転車で走り出す。
街中を自転車で走って探したが、僕はその追われている当人の特徴など全く知らない。一条なら僕も知っているが、能力からして一条有希ではない。当然、見つかるはずもなく、雨が強く降って、日も暮れて暗くなっていた。
でも明日から春休み。探す時間なんていくらでもある。
そう思って帰ろうとして、困ったことに道に迷ってしまった。あてもなく縦横無尽に探し回っていたバチがあたった。
よりによって携帯のバッテリーも切れていて、どうしたものか、と公園か交番を探して視線をさまよわせた僕の視界に、その少女は入った。
銀に輝く髪がグラデーションのように先だけ黒く染まり、灰色の瞳もどこか銀に輝くように見えた。どこか無表情で、教会のシスターのような服装を身にまとっているがボロボロだ。
そしてそんな少女が、雨に打たれながら血を延々と流している。刺し傷、やけどなどが何重にもあって、このまま放置すればまもなく彼女は死ぬだろうことが確信できる。
僕は思わず固まる。
少女は僕の姿が目に入ったのか、
「たす……け、……て……」
と、力を振り絞って、僕に手を伸ばす。
声もかすれて、ひゅうひゅうと首から空気が抜けている。ここまでになると、むしろ良く生きていたな、と感心までする。
僕はしばらく思考停止していた。彼女が僕の探し求めていた『一条有希の関係者』であることも気にせず、固まって、思わず後ずさって。
しかし、逃げようとした足は、止まった。
逃げる度胸もない。……見捨てる覚悟なんてない。
「畜生……」
そんなの聞いてないよ。そんな情けない言い訳が僕の口からこぼれた。
「畜生」
なんで僕は救う手段を持ってるんだよ。前の僕なら無理って回れ右して終わりなのに、今の僕には『魔術』が使える。
「畜生……!」
そして、僕は何で、こんな英雄志願者みたいな思考をし始めてるんだろうか。僕はせいぜいモブキャラもいいところなくせに!
「なんで、助けたいって思ってんだろうね、僕っていうのは!」
何物にもなれる命だから何も救えない、そんな情けない人生だったくせに、僕は気づけば前に踏み出していた。
救う手段を持ってしまったのがいけなかった。
彼女を見つけてしまったのがいけなかった。
前回の何も救えなかった自分を思い出したのがいけなかった。
何が悪いのか微塵もわからないけど、それでも確かに、僕は目の前の少女を救いたかった。
一条有希の関係者?どうでもいいさ、そんなの。
「おい、大丈夫か!」
「……ぁ、」
僕が大声で話しかけていたら、彼女は何とか反応した。
僕は人目も気にせず回復魔術を使用した。首の傷、刺し傷、やけど。それは回復できたが血までは補えず、彼女の命の灯が消えていくことに変わりがない。
「生きろばか!僕が治療してやってるのに死ぬとかふざけんな!」
とても自分勝手な願望を、涙交じりで叫ぶ僕の願いは通じて、通じてしまって、彼女は、かなりゆっくりと起き上がる。
「まだ安静にしててよ、血が足りない」
と寝かせようとする僕を手で制した彼女は、
「あり、がとう」
と笑顔で微笑み、僕が見とれて。
「いただ、き、ます」
と僕の首筋にかみついた。
「-------------!?」
僕が驚いている間に僕の首からどんどん血が吸い出され、そして、
僕の意識は暗転した。
目が覚めると、知らない天井だった。
廃墟ビルの中に寝かされていたらしかった。
僕が起き上がると、少し遠くの窓から外を眺めていた、昨日確かに僕が助けた少女がこちらに振り向き、安堵したような表情で僕に駆け寄った。
「へいき?」
「あ、うん……ここどこ?」
「わたしのいえ」
彼女が元気そうで何よりだ。僕が見た限り魔術で癒しても回復にはそこそこ時間がかかるはずだったんだけど。
そもそもなんで寝ていたんだっけ?と記憶を掘り返した。
少女を見つけて、いろいろ躊躇した末に回復魔術をかけて、致命傷とその他もろもろを応急措置レベルで治して、でも血が足りないって思ってたら感謝されて、そして、……首筋にかみつかれた?
そしてこの傷の完治。
教会のシスターのような服を今でも着ている彼女は、間違いなく教会の関係者だ。しかし、教会はいつから吸血鬼みたいな子を作っていたんだろうか。
僕が彼女に聞こうとする前に、少女から口を開いた。
「きのうはごちそうさま」
「え、あ、……何を?」
「きみのち。おいしかった」
「あ、ありがと……?」
彼女はもはや自分から僕の血を吸ったと何気なく言った。彼女にとっては当たり前のことなのかもしれなかい。お礼を言うのも褒められるのも微妙な気分だけど、なんとなく適当に返した。
僕が『血を吸うのは普通のことじゃない』事実をどういうべきか悩んでいると、彼女は続けた。
「わたしは、ちをすうとつよくなるの。すこしのあいだ、きみのちをすいつづけたら、ひとりでもこわいひとたちにかてる。だから、わたしにちからを、きもちをかしてほしい」
「……怖い人?」
「うん。わたしのぱぱとまま。しんぷさん。にげてきたけど、わたしをおいかけるの」
「一人で勝てないならなんで逃げてこれたの?」
「ゆうきのおかげ」
僕が少しでも情報が欲しくて聞き込みをしていたら、やっと僕の知っている名前が出てきた。
「わたしになまえをつけてくれた。わたしのもともとのいえをこわしてくれた。おいかけてきたてきもこわしてくれた。ときどきわたしにたべものをくれた。おかげでわたしひとりでもたたかえるようになった。だから、わかれたあとはじぶんでしょくりょうちょうたつをしてた。きのうはみつかって、しかもつよくて、しにかけたらきみがたすけてくれた」
「……そうだったんだ。でも、全快してないんだ」
「うん。いままでのえねるぎーは、ぜんぶせいめいいじにつかいきっちゃって。きみのかいふくまじゅつとけつえきのおかげで、きずはかんぜんにかいふくしたけど、さいしょのじょうたいにもどっちゃった」
「だから僕の血がいる、と?」
「うん」
「……どのくらい通えばいいの?」
「にしゅうかん。ながいあいだこうそくするのももうしわけないし、ちぢめられるならそうする」
「……あー。うん」
情報はこれで全部だろう。一条有希の関係者で一条有希が何としてでも荷がしたかった少女であることはわかった。その時点で彼女の頼みを断る理由はほぼない。ないのだけど。
「わかった。とりあえず君を手伝うよ。けど、その前に少し準備をさせてくれないかな?」
「うん。いいよ」
と返事を受けて、僕は廃墟ビルから外に出る。すると、
「そこのお嬢様は、道を開けていただけませんかねえ?」
「断ります。ここには私の親友がいるんです」
「いえいえ、ぼくもそうと言われて引き下がるわけにはいかないんですよねえ。なんせぼくらの大事な令嬢がそこにいますのでえ、あなたの親友はただの誘拐犯ですよお?」
「令嬢?その人を連れ戻してどうするんです?」
「さあて。こちらの事情を赤の他人に語る意味がありますかねえ?」
「私も、親友を誘拐犯だと決めつけられるいわれはないですけど?なんせ私の親友はひねくれてはいますが、間違ったことはしませんので」
「いやはや。はたからそう見えるだけで彼はもしかしたらどうしようもない人物かも知れませんよねえ?それに、令嬢は外にいたとて幸せになれません。生きていくことすら難しいでしょうねえ」
「いえ、令嬢の年齢はわかりませんが、未成年ならサポートしやすいはずです。平和ですから、あなた方のイタリアよりは」
「平和だから余計無理なのですよお?」
……深月育と教会の人間が言い争っていた。
教会のはともかく何で深月がここにいるんだよ。
さすがに教会の人間がここにいる以上、戦えない彼女を残していくわけにもなあ。
と立ち往生していれば、二人ともこちらに気づいたらしい、
「「あ、誘拐犯」」
と何とも失礼な呼び方をしてくれていた。
「誘拐犯じゃない。僕はたまたま死にかけていた女の子を回復させてるだけだ」
「死にかけ!?」
僕の言葉に深月が絶句しているが、教会の男のほうは、
「ふむん。死にかけ、ということは彼のせいでしょうねえ。生け捕りを命令していたというのに、罰を与えねばいけませんねえ」
と冷静な分析をしていた。
その言葉に我に返った深月が、
「こ、殺そうとしてたんじゃないですか。それに生け捕りって……。誘拐じゃなくて立派な保護です。お引き取りください」
と改めて男性をにらむ。男は「ええ、感謝しておりますう。おかげで死なせずに済みましたあ」と笑みを浮かべて、
「では、このままあなたに回復を任せるとしましょうかねえ。令嬢は食事をあまり好みませんけどお、あなたのものなら受け取るんですよねえ?むしろあなたのほうで彼女を使えるものにしてくださいねえ。そうですねえ、そういう時期になったらまた引き取りに伺いますよお」
そう言って、男は帰っていった。……なんとか返せた。
どっと疲れが押し寄せるが、僕はそれでも深月に尋ねることにした。
「深月。どうしてここがわかったんだ」
「うーん。私が君の居所の近くにいないことを『否定した』からかなあ」
「はあ?」
全然意味が分からない。
僕がその詳しい意味を聞く前に、深月は食い気味に僕に問い詰めてきた。
「そういう丈凪くんこそ。なんで昨日から家に帰ってないの?」
「いや、それは」
「私の話した都市伝説のせいでしょ。で、実際に都市伝説のありかを見つけたけど、困ってる人がいてなんだかんだ放っておけなくて、躊躇しながら人を助けたらこんな時間とか、そんな感じでしょ」
「君って読心術の使い手か何かなの?心理学クリティカルでもしたの?」
「仕方ないなあ。親御さんも無関心すぎるから、私がいろいろ準備してきたよ。もう本当よかった。君が長期間いない可能性も考慮して、必要そうなの全部そろえたよ。ほら、この通り」
と大きい鞄を取り出して僕に中身を見せびらかす。話聞けよ。
でも確かにすごい。食料、水、ある程度のお金、テント、寝袋、折り畳み自転車、モバイルバッテリー、充電器、懐中電灯などなど、ほかにも必要そうなものがそろってる。僕の手間が省けた。
「……でもこれ、三人分あるよね?」
「うん。君と、女の子と、私の分だからそりゃ当然」
「……Pardon?」
「あ、宿題も持ってきたから。ちゃんと終わらせようね」
「いやいやいやいやそうじゃないし」
と話をしながら少女の所に戻ると、
「あ、おかえりなさい。……ふえたね?」
と首を傾げられた。
「初めまして。私、深月育っていうの。あなたの名前は?」
と深月がお姉さんぶって挨拶する。ある意味間違っていないけど、一応同い年だよ……。
「ひゅうが、さきです」
「そっかあ。きれいな名前だねえ」
と深月が褒めると、少しうれしそうに微笑む。自分の仲間が褒められているように感じてうれしいのかもしれない。
そうだ、僕も自己紹介はしておこうか。
「僕は」
「たかしきとおる。……学生証みたから、わかるよ」
「お、おう」
「……うん?でも、だとしたら、じょうなぎれんって」
「わー!わー!」
『前回』の僕をどこで知ったんだよこいつ!あれか!?僕の血を吸ったときか!?
「じょうなぎれん?……どこかで、聞いたことある、ような」
「だー!僕は知らないなあ!」
そして深月もなんで鋭いんだよ!
全力でごまかしたから余計疲れて息も絶え絶えな僕に、二人はとどめを刺した。
「「じょうなぎれんって知ってる?」」
「知らねえよバーカ!!!!」
かくして、僕の春休みは始まった。
その日の夜。
ひゅうがが吸血鬼?であることを理解した深月も然程引いていなかった。
深月に対してどこかよそよそしいさきも気になるが、何はともあれ、誰も脱落せずに、僕らは深月の持参した食料を分け合って夕飯をとっていた。
さきは一向に口をつけず、深月ばかりちらちらと見ている。
「食べないのか?」
「……ねえ」
さすがに心配で僕が聞いたのだけど、逆にひゅうがに質問された。
「これがふつうのしょくじ?」
「……え?いや、そうだけど」
カップ麵とおにぎり。普段より貧相かもしれないけど、ホームレス体験のようになっていることを思えば、ずっとましな食事のはずなので、肯定した。
吸血鬼は血以外受け付けないとかだろうか?いや、それなら普通とか何とか言わないか。
質問の意図がよくわからず首をひねっていたけど、
「そう、なんだ」
とゆっくり食べ始めた。ラーメンの食べ方が絶望的に下手で、深月が隣から食べさせたり教えたりしている。なるほど、見たことがない料理だっただけかな。確かに教会のモルモットじゃあ、ラーメンなんて食べる機会もないか。
ぼくも納得できたところで食べ終わって、血を吸わせて、就寝したのだけど。
物音がしたので起きたら、ひゅうがが深月の首元に今にもかみつこうとしていた。
「ひゅうが、ストップ」
「……とおる」
ひゅうがが僕の声に反応して振り返る。少し目元が赤い。
「……深月の血を吸おうとしただろ」
「ちがう、えと、これは」
と慌てるひゅうがは図星だったようだ。足りなかったんだろうか?と思って首を差し出す。
「僕のじゃだめか?」
「……え」
「深月は確かに協力的だが、でも、そういうのは僕一人にしてほしいんだ」
「で、でも、たおれちゃう」
なるほど。ひゅうがは最初の吸血の際に僕が倒れたのを気にしたみたいだ。アレは貧血だし、最悪なんとかなるはずだ。構わず首を差し出したが、ひゅうがはしばらく迷って首をぶんぶんと振った。
「ううん、ううん。これはとおるのじゃだめ。とおるもおいしいけど、これいじょうはきょうはしんじゃう。……そだちにはだめ、なんだよね?」
「だめだ」
そう言うと後ろ髪を引かれるように深月を一瞥し、ひゅうがが「じゃあ」と僕に提案する。
「そとにさんぽにいきたい。わたしひとりでいい」
「……教会の連中が危ないんじゃないのか」
「それ、は……」
と言い淀んでいた。仕方ない。僕はため息をついて、小石を拾う。
防壁魔術、結界機能を付与して、条件付けもしっかりと。これで五回はしのいでくれるはず。
そしてその小石をひゅうがに渡す。
「ひゅうが。この小石があれば五回は敵の攻撃を防いでくれる。だから、その効果が切れてひゅうがが傷を負う前に絶対ここに戻って来るんだ。なくさないんだよ。その約束さえ守ってくれるなら、ひとりで散歩してきてもいい」
「とおる……ありがとう」
とひゅうがは出かけて行った。……最悪、小石には『持ち主が傷ついた場合は僕の脳内にアラートが鳴る』という機能を付与してある。これでなんとかなればいいけど、と僕はまた眠りについた。
因みに、翌朝になって戻ってきた彼女は、少し流暢に話せるようになっていて、魔力も僅かに復活していた。あと小石の魔力が尽きていた。
無茶をしたのは間違いないので怒ったけど、そうしないと深月が吸血されそうでもあるから散歩に行かせるのは変わらないのであった。
また、こんなことがあった。
深月吸血未遂事件以来、日向咲(ひゅうがさきの漢字がこうだと最近知った)は僕らの日常生活に興味があるのか、ぼくの私物や周りの人を見ては色々尋ねてくるようになった。
学校生活のこと。
年間行事のこと。
衣食住のこと。
試しに勉強を教えたら知識の吸収はすこぶる早く、あっという間に僕より勉強ができるようになった。
特に興味を示したのはクリスマスだった。サンタとかプレゼントとかケーキとか、いろいろ気になったらしい。クリスマスには一緒に出掛ける約束をした。
教会の人間はこいつをモルモット扱いしているはずだから、クリスマス云々の約束は教会に負けたら果たせない。何としてでも教会に勝てるよう訓練はしないとなあ、と思っていた。
教会のせいで普通の生活ができてない彼女だから、余計に。
僕はできない約束をしない主義なのだ。約束が嫌いだともいう。
……そう、だから僕は。
「君を逃がす気がないって意味、わかってもらえたかな」
とぼこぼこにした教会の平を魔術であぶりながら話す。
事の発端は、いつもの深夜の日向の散歩。最近は自衛手段も身についてきたので、GPSがわりの小石だけ持たせていたんだけど、ぼくも忘れかけていたアラート機能がついに起動したらしく、やかましいアラート音に起こされた。
深月もたたき起こして向かった先で、教会の平らしき人物と日向が交戦していた。日向に大したダメージはなくあくまでもかすり傷だったが、ここまで回復するのに僕の魔力と血液がどんなに犠牲になったかと思うと、いてもたってもいられなかった。
僕がぼこぼこにし、あぶりながら僕が許せない理由を説明したのだけど、平は身じろぎ一つすらしない。深月は日向を保護しているので手を出していないが、不愉快と感じているのはわかる。
さすがに死なれても困る。僕は解放し、深月が『意識がないことを否定する』。
平は意識を取り戻し、涙と鼻水とその他もろもろでぐちゃぐちゃにしながらものをいう。
「こ、今回に関しては何もしてない!任務違反したから謹慎期間だった!ただコンビニにいたらコンビニ強盗に遭遇して、追っかけたらこいつがいただけなのに……。何も間違ってないだろ、なんでこんな拷問をするんだ!」
「皆、どう思う?」
「えっと。私たちの油断を誘うための演技だと思う。犬畜生にも劣る下賤な発想……。即刻首をはねたらどうかな」
「どこでそんな汚い言葉を覚えたの?咲ちゃん。いや、言わなくてもわかるよ。教会のせいだよね、ギルティ」
「なるほど」
「おいいいいいいいい!おれたちはそんな言葉教えてないし、そもそもどう見てももう動けないだろ!この足を見ろ、回復魔術を使っても治せないんだけど!?よくごみが取れるブラシと同じくらいバッキバキだ!」
「皆、どう思う?」
「うん、動けないんだったら捕縛して拷問にかけて、情報を引き出せばいいんじゃないかな」
「あ、ちなみに君の足が治らないのは私が君の回復魔術を『否定』してるからだね」
「なるほど」
「お前のせいか!おれより鬼で外道か!」
何はともあれ、本気で殺しにかかったわけでもないので解放する。ほら、これなら外道じゃないはず。にこにことことの顛末を見送る。
「絶対許さん、今度見かけたらぶっ殺す」
殺人予告をもらった。そんな馬鹿な。
因みにその後に彼がいまだ回復できずに横たわっていたはずの場所まで見に来ると、なぜか胴体がなかった。物騒だね、この辺。回復魔術がきかなくて動けない状態だった人を容赦なく殺すなんて。……深月には伏せておこう。
そうやって、最近はさらに行方不明者が多発している、というネットニュースを見て更に最近物騒だなあと思いつつ過ごしていたけど、その平穏な日常は終わりを告げる。
その引き金を引いたのは、意外なことに日向咲だった。
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