弱くなってニューゲーム   作:桜油

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ゆうきbreak②

そんなわけで来ましたお祭り会場。

 

夕映の意見に反論する理由も特になかったし、そろそろ気になっている案件もある。

 

 

 

一条有希の件だ。

 

 

 

一条有希。一昨年の年末に教会から脱走したホムンクルスの一人。

 

『前回』の生まれた経緯は知らないが、今回は夕映が教会と交渉して提供したDNAで作り出されたらしい。

 

俺としてはホムンクルスの実験に関してあまり肯定的になれないが、それで生まれたホムンクルスを差別的にみる気はないし、そもそも俺の仲間になる可能性が高かったり彼の不在によるバタフライエフェクトが予想できる範囲だけでも大きかったりといろいろ事情もかんがみると、夕映のDNA提供は致し方ないことといえよう。

 

 

 

……やっぱり叔母の目的がいまいち見えないよなあ。

 

 

 

そんな彼は異能の内容が不明だが、異能リビドーは『感覚喪失』であることがわかっている。五感消失ならまだかわいいもので、感情とかも消えるようで、『前回』あった時にはすでに感情などかけらもなくなっていた。一度消えたら一生ものらしい。俺がとどめを刺すときだけ泣きながら笑ってたんだが、感情がわずかに残っていたか、もしくは感情が少しだけ戻ったんだろうか。そこがよくわからない。

 

何はともあれ、できるだけ早い段階に感覚喪失だけは止めておきたい。『前回』の日向咲の仲間というべき人でもあるので余計。

 

 

 

そんなわけで、夏祭りに誘われはしたが早々にわざとはぐれて気分転換ついでに情報収集を行っていたのだが、ある出店の前を通りかかると、人だかりができていた。

 

 

 

「どうしたんです、アレ」

 

 

 

と近くの人に声をかけると、

 

 

 

「ああ、アレ?なんかもめてるっぽいんだけど、なんでもめてるのかわかんねえな」

 

 

 

そんな話だった。

 

ちょっと近づき、人の山をかき分けながら近づく。

 

どうやらその露店は焼きそばやのようだったが、確かに一人の少年と店主らしき男性がもめていた。

 

曰く、

 

 

 

「焼きそば勝手に食ってんじゃねえ!売りもんだろ!」

 

「……?だって、目の前にあったから」

 

「そりゃ商品だから並べるだろ!金出せ!」

 

「……金?金って何?」

 

「はあ?ふざけてんのかこのガキ、料金出せって言ってんだよ。売りもんだからただ飯なんかやるかボケ」

 

「……えっと、よくわからないけど持ってない……」

 

「いい年こいて非常識かよ、親の顔見てえわ」

 

「親は……いないかな……」

 

「ああ?じゃあ誰かいねえのかよ」

 

「……それは、」

 

 

 

あっこれ異能者だわ。

 

そう思った瞬間俺の足は動いていた。

 

少年の隣に立ち、口を開く。

 

 

 

「あー、すんません。こいつ俺の連れです。世間知らずだから俺から離れるなって言ってたんすけども、すぐはぐれやがりまして。これいくらっすか」

 

 

 

少年が一瞬訝しげに俺を見たが、すぐに思い直したのか、

 

 

 

「あ、……やっと来た……」

 

 

 

と話を合わせる。よしよし、さすが異能者。だてに世間にもまれてない。空気はすぐ読めてるな。……その割には世間知らず過ぎている気もするが、炊き出しとかでうまく生き残ってきたんだろうか。

 

 

 

店主は俺と少年を見比べ、

 

 

 

「あー。その黒髪のガキはまともそうだな。ダチは選べよ?300円だ」

 

とかったるそうに言うので、1000円支払う。

 

「ついでに二つください。釣りは迷惑料ということでここはひとつ」

 

「へいへい。おい白髪のガキンチョ、こういうのを客っていうんだからな、見習えよ」

 

 

 

と小言も入れながら焼きそば二つを袋に入れて俺に差し出すので受け取る。

 

 

 

「まいどあり」

 

 

 

と店主の機嫌が直ったのを確認して俺は少年とこの場を離れ、人気のない場所へ移動する。

 

 

 

「……ほれ、焼きそば」

 

 

 

と到着した神社の階段にて差し出すと、

 

 

 

「……くれるの」

 

 

 

と尋ねられ、

 

 

 

「まあ。どうせ満足に食えてないからあんな目立つ真似をしたんだろ?俺はこれ以上目立つ気もないが放ってもおけない。というわけで食え」

 

 

 

と押し付ける。少年はありがとうと礼を言い、焼きそばを食べ始める。

 

どうも箸の使い方が絶望的になっていないが、深く気にせず俺も食べ始めた。

 

 

 

「……ねえ、なんで助けてくれたの」

 

「ああ、なんかただ非常識な人間なら放置しただろうが、訳ありに思えてな。違ったか」

 

「……いや。ありがと」

 

「ふうん」

 

「……ねえ。この赤いの何」

 

「紅しょうが。これ食ったことないのか」

 

「うん……この辺のものは全部初めて見る」

 

「そうか。どこから来たんだ」

 

「……」

 

「あー。言いたくないならいい」

 

「……ごめん」

 

「仕方ねえことで謝んな」

 

 

 

と雑談をする。時々箸の使い方も聞かれてレクチャーしたりすると、こんな質問が飛んできた。

 

 

 

「……名前、なんていうの?」

 

「俺?丈凪怜だ。たぶんお前と同い年の中学三年生。……で?お前は?」

 

 

 

そう聞き返すと、一瞬言いよどんだのち、

 

 

 

「えっと。……待って、名前思い出す」

 

 

 

と考え込み始めた。

 

 

 

「思いだすって」

 

「……僕の仲間とつい最近、名前の付け合いをしたんだ」

 

「へえ。仲間がいるのか」

 

「うん。……はぐれちゃったけど、あの子はあの子だけの味方を見つけたから」

 

「そうなのか。そしてお前にはまだ仲間ができてないってことか」

 

「……でも、安心してる」

 

「いい仲間だな」

 

 

 

と会話するうちに、花火が上がる時間になったのかアナウンスが入る。

 

 

 

「……うん、思い出した」

 

 

 

と彼も笑ったので、俺は「そうか。お前の名前ってなんだ」と聞き直す。

 

 

 

「えっとね、僕の名前は……」

 

 

 

その瞬間花火が上がり、今まであまり見ていなかった少年の顔がはっきりと見え、俺が目を見開いた。

 

 

 

全体的に白く襟足とメッシュだけが黒い髪、灰色に近い瞳にはハイライトがあり、ぼろぼろの服はよく見れば神官服のそれである。

 

気付かなかった。記憶では彼にハイライトはなかったし、こんなに感情豊かではなかった。ましてや赤の識別なんてできないはずだった。

 

俺はまた油断していたのだろう。早めに会いたいとは思ったが、同時にまだ会えないのだろうとも思っていたから。それをゲームのプログラムのように決して覆せないとすら感じていたから。

 

 

 

花火が上がる。

 

ようやく彼の名前が俺の耳に入った。

 

 

 

「一条有希。一つの条件に希望がある、で一条有希」

 

 

 

 

 

偶然助けたのが俺の仲間候補とか何の冗談なんだろうか。

 

 

 

いや、助けてよかったんだけど。早めに会えたし、色覚異常すらなさそうで大変結構なんだけど、よりによって論文で詰まってるこの時期に教会とドンパチできるわけがない。

 

一条有希は教会で作り出され、逃亡したホムンクルス。教会が今大絶賛追ってるはずなのだ。

 

どうしよう。今関わらない選択肢は消えてるし元からないようなものだったけど、論文しながらこいつを教会からかくまうとか可能なのか。そも、こいつは素直にかくまわれてくれるのか?どう話せば納得してくれるというのか、コレガワカラナイ。

 

 

 

俺が混乱している間に一条は俺の反応を疑問に思ったのか、

 

 

 

「……僕と前、あったことあったの?」

 

 

 

と聞いてきた。

 

正直な回答は、

 

A.はい。それはもう勿論、なんなら殺したこともありますよ。『前回』ね。

 

なのだが、言えるわけない。殺したといわれて気分良くするやつなんぞいるわけない。むしろ事情を打ち明けた時の汐宮がおかしいんだぞ、『でも貴方は理不尽に殺しをしない方でしょう?赦します。その私を止めてくださってありがとうございました』とか聖人にもほどがある。

 

かと言って今更『いや知らない』って言っても教会の平くらいに思われかねないよなあ。

 

うーん、どうごまかしたものか……。

 

いや、もう一つ答え方がある。落ち着け俺。俺は必死につじつまが合うように考えながら口を開く。

 

 

 

「日向咲と会ったことがあって、彼女にお前のことを聞いた」

 

 

 

嘘ではない。『充喜暁』として出会い、彼女の境遇を知り、人を食べないと生きられない性質も知ったうえで、教会の幹部に二択を突き付けられ、彼女を『救った』。

 

ただ、彼女を救える選択肢に後から気づいたから絶望……自分に失望した。

 

だが、あれはよくよく考えると、思いつかないのがおかしいほどヒントを与えられていたのだ。思考が誘導されていたのではないだろうか?

 

……今回の『充喜暁』はその思考誘導を破ったという意味でもあるが。

 

昔を思い出して憂鬱になっていた俺の顔をじっくり見ていた一条は、しかし疑うというわけでもなく、

 

 

 

「そう、なんだ……隣にいたのは別人だったけど……」

 

 

 

と聞いてきたので、

 

 

 

「そいつとも知り合いでな。動けないから俺に頼んだんだってさ。俺も動けないのに不思議なことを言うよなあ……」

 

 

 

とこれまたある意味噓とも言えない返し方をした。充喜暁とは確かに面識があるし、日向咲に『前回』彼を頼まれてもいるから。

 

そしてそのあと、「まあ、一応わかるんだけどな。俺、異能者をまとめる秘密結社立ててるし」と続けた。これであいつらが俺に頼んだ理由を説明できればいいが。

 

 

 

「……秘密結社?」

 

「そう、秘密結社。俺、異能者なんだけど、なんだかんだ普通の生活できてるし。異能者差別をどうにかしたいなあって思って秘密結社を作ったんだ。メンバーは俺含めてもまだ三人だ」

 

「……それって、」

 

「……お前って異能者だろ?あの世間知らずな感じ」

 

 

 

敢えて教会などの背景には触れない。触れたところで今解決できる保証なんかない。

 

俺がそういうと、本当に世間知らずなんだろう、教会から出て世間を知る機会が少なかったのかもしれない。

 

 

 

「……異能って何?」

 

 

 

と言う。

 

 

 

「異能すら知らないか、しょうがないよな。異能ってのは、魔術式とか魔力とかそういうの一切なく、物理法則ではありえない現象を引き起こせる力だ」

 

 

 

と一般的に知られている用語を交えて説明する。正直、これ以上にわかりやすく説明できる気もしていないが、日向咲という前例を考えれば通じるはずなのだ。

 

 

 

「……そういう力なら、持ってる」

 

「そうか。俺には言っていいけど、ほかの人にはやすやすと言ったり見せびらかしたりしたらだめだぞ。悪目立ちするし、最悪追いかけっこになる」

 

「……おいかけっこなら、慣れてる」

 

「経験済だったか。それとも現在進行形なのか?」

 

と笑い、すぐに真顔に戻して一条に提案する。

 

「……俺の秘密結社に入る気はないか?匿うこともできるし、いざとなったら俺も戦ってやる」

 

「……でも、危ないよ」

 

 

 

確定。まだこいつは教会と追いかけっこしてるようだ。

 

俺に引き下がる選択肢はもとよりない、俺は心配そうな表情で断る一条に対してさらに押し気味に言う。

 

 

 

「危ないなら余計だ。俺もメンバーも案外戦えるほうだぜ?『軍』幹部と戦って勝ったこともある」

 

「……でも、」

 

「ああもう、じゃあこうだ。体験入社にする。匿ってる間は衣食住のすべてを保証する。お前がどうするかはお前が決めろ、俺らは勝手にするから」

 

 

 

強引に手をつかむと、一条は若干抵抗した後に

 

 

 

「……わかった」

 

 

 

と俺の手を振り払うのをやめた。

 

よし、これでごまかせた。

 

安堵しながら俺と一条は俺の家に向かった。

 

 

 

 

 

帰ると既に夕映が帰ってきていた。

 

 

 

「汐宮は?」

 

「クラスの友人と合流したよ」

 

「そうか」

 

 

 

と俺が一条を家の中に招き寄せると、夕映の顔が若干こわばり、俺の脳内に声が響く。伝達魔術だ。

 

 

 

「……早くない?今年の十月じゃなかったっけ」

 

 

 

……そうか。だから夕映も一条について何も俺に言ってなかったのか。

 

俺も伝達魔術で返す。

 

 

 

「たまたま拾った。なんか悪目立ちしてる世間知らずを助けたら一条だった」

 

「確率論の膝が笑ってんじゃん」

 

 

 

やり取りを終えると、一条が自己紹介をした。

 

 

 

「……えっと、一条有希です。体験入社することになりました。……よろしくお願いします」

 

「体験入社、ねえ。まあ大歓迎だよ。私は真白夕映。ここの居候だよ」

 

「あー。居候とかいうが夕映はこの組織のナンバーツーだから」

 

「やだなあ、それ中間管理職じゃん」

 

「ほざけ発案者」

 

 

 

とやり取りをしていたが、一条が噴き出した。

 

 

 

「なんかおかしかったか?」

 

「……ううん。ただ、……異能者は差別を受けてるっていう割に、楽しそうだなって」

 

 

 

そういって、「うん。……ごめん。少し、僕の追手の仲間じゃないのかって……疑ってた」と苦笑いも浮かべた。

 

「ああ、大丈夫だ。すぐ信用できないよな」と言いながら、思案する。

 

この時期に遭うのは本当に想定外だった。

 

早めに会えた以上、『前回』よりも彼の感情は残せるかもしれない。面白いとか疑わしいとかそんな感情は残っているようだし、感覚も今のところ異常がない。しかし、それは教会の連中を追い返している数がそれだけ少ないって意味でもある。

 

どうやって教会を追い返そうかなあ。

 

そう考えていると、汐宮も帰ってきて

 

 

 

「え、あれ。新人さんをスカウトしてたんですね。どおりでいないと思いました。……私は汐宮宥です。よろしくお願いします」

 

 

 

と自ら自己紹介して、少しこちらに目配りした。

 

伝達魔術で要件を確認する。

 

 

 

「どうした」

 

「あ、いや。この人って、たぶん普通の新人じゃないですよね。どこまで内部情報って話していいんでしょうか?私がフォローをすることになりますし、そこだけ把握したいなと」

 

 

 

とのことだった。

 

 

 

……俺と夕映はこの人を知っている。知っているから不自然な対応も迫られる。しかし、汐宮は初対面だ。予備知識すらない。だから本人も彼のフォローができるのは自分しかいないと判断したのだろう。予備知識があると、どうも『前回』の記憶という名の固定観念を抱えて接することになるし、そこからどんなほころびが出るかわからないから。

 

俺としては、せっかく感情を喪う前に彼に出会えたのだから、感情を喪わざるを得ない状況は避けたい。それでどこまではなすか、と言われると、しかし判断に困る。汐宮の話し方次第で彼の受け取り方など代わるだろうから。

 

 

 

「そうだな……お前の判断に任せる」

 

「……えっと」

 

「ああ、そういわれても困るか。いいか、こいつに聞かれたら何でも嘘をつかず答えろ。俺は若干嘘をついたが、無理に合わせる意味はない。俺らの誰か一人でも信じてもらえればそれでいい。だから、汐宮だけが信用される状況になっても致し方ない。最悪ピンチに陥った時に俺らの誰か一人に助けを求めてくれる、そんな関係ではありたいんだ」

 

「……そんなに危ない状況なんですね?この子は」

 

と汐宮に返されてどきっとした。嘘だろ、俺の言葉だけで、一条有希の立場が不安定だということもわかるのか。察し良すぎだろ。

 

「……ああ」

 

「わかりました。私はこの人だけの味方を演じます」

 

「……頼んだ」

 

 

 

そこで伝達魔術が切れ、汐宮は一条に、

 

 

 

「一番新人な私が新人教育担当です。わからないことはなんでも私に聞いてくださいね」

 

 

 

と微笑んで、目線の高さをわざわざ合わせて言う。

 

本当に、優秀な部下を持ったもんだ。

 

そうしみじみと思うのだった。

 

 

 

 

 

「……『LastOrder』が異能者と接触、ですかあ」

 

「構いませんよお。彼の追跡は続けてくださいねえ」

 

「日向咲を逃がした件、ですかあ?」

 

「あなたにそれを知る意味はありますかねえ」

 

「ああ、教えてもいいんですよ?神に殉じてもらうだけですからあ」

 

「うん?聞かないんですかあ、つまらないですねえ」

 

「えー。それに関しては『受容』が相応の覚悟を示しましたしい、」

 

「そもそも彼女の『昇華』はすでにいりませんからあ」

 

「え?いえいえ、『時間遡行者』にもらったのは『呵責』のもとの『否定』だけですよお?『容赦』なんてもらってませんしい」

 

「でもお、まあ」

 

「『容赦』のもとの『受容』も『時間遡行者』がくれそうですしい、『循環』『書換』を少しいじめればあ、いいんじゃないでしょうかねえ?」




一条有希(いちじょうゆうき)
…教会から逃げ出したホムンクルス。日向咲とは面識がある。常識に疎く、物静かな少年。
ある意味、初期プロットから一番設定が改変されたキャラ。
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