弱くなってニューゲーム   作:桜油

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ゆうきbreak④

魔術を義務教育である程度習うようになって以来、カリキュラムは割ときつくなっている。

 

 

 

週休二日制は週休一日制に戻り、魔術に関してのコマ数の分が必修科目として土曜に割り振られるようになった。

 

 

 

中学二年までならこれでいいのだが、問題は中学三年である。

 

受験対策などを考慮すると、どうしても魔術対策の時間数も多いし、だからといって必修科目を削るのも、日曜日まで休日を返上させるのも角が立つ。部活の都合もある以上、そのような強硬手段に出れないわけだ。

 

 

 

だから夏休みを削ろうという思考回路になった。夏休みに午前中だけでもコマ数を入れ、そこで重点的に魔術の対策をする。これで魔術のコマ数を平常時に増やさず、悲愁科目もなくならず、部活も引退している人がほとんどなので何も経歴が痛まない。

 

お盆以降にしておくことによって、家庭の事情も問題なくなる。まさに名案。

 

 

 

……ただし、それは魔術師志望に限る。

 

 

 

魔力を持たないものや魔力を持っているが事情があって魔術師という進路を取らない人だって少数派ではあるがいるし、そもそも高校に行く気すらない人だってごくまれにいる。そういう人は義務教育での魔術科目など歴史くらいで十分だし、それも普通の歴史と統合すればそもそも魔術歴史を学ぶ必要がないのだ。そんな人を補修に呼ぶくらいならその人だけ魔術科目は自習にして出席義務をなくせばいいと思う。通ってる時間がもう既に無駄だ。

 

 

 

魔力で人の質を図るというくだらない風潮もあって一般人と魔術師の対立も深まる世の中であるが、そんな中、無能政府は一つの決断を下した。

 

 

 

「一般志望も夏の魔術補修に参加させろ。魔術師のすばらしさを体験させ感想文を書かせるのだ」

 

 

 

……頭おかしいんかワレェ、と言いたくなるようなこの発表は魔術至上主義者を調子づかせるには充分なもので、おかげで俺のようなしがない一般人にも夏休みの真っ最中に呼び出しがかかる。

 

魔術師の戦闘見たところで、俺は鼻で笑うしかやることないんだけど。

 

……前文が長くなったが、つまりは今日学校であるということだ。

 

 

 

「学校に隕石落ちないかな」

 

 

 

夕映も珍しく登校しているが、やはり乗り気ではないので朝の雑談も物騒になる。今日登校しないと何としてでも退学にする!とおおよそ義務教育の意味を理解していると思えない発言が教師から飛び出したが、魔術師贔屓の酷いこのご時世、強権でこれすらありになりかねないから渋々行くことにしたようだ。

 

 

 

ちなみに汐宮は今日が親の命日らしく、喪に服すとかいって無理やり休みにしようとしたら別の日程に組まれていた。どんまい。一条は家で待機だ。

 

 

 

「重力操作したらいけそうじゃね」

 

「いや、さすがに範囲外かなあ」

 

「そういや異能って範囲はどのくらいなんだ」

 

「地球から飛び出さなきゃいけるよ?制御がちゃんとできてないと相当痛い目見るけど。主に異能リビドーね」

 

「そんな広いのか……」

 

「だから地球の密度を操作してブラックホール化することはできるよ」

 

「するなよ?」

 

「しないよそんなの。……昔やけになって、やろうとしたことはあったけど、止められたし。ダイナミック自殺未遂だよねえ……」

 

「うん、何としてでもお前の目標達成しなきゃダナ」

 

 

 

やろうとしたことあったのかよ。止めた人ナイス。

 

 

 

「ちなみにそれはいつの話だ?」

 

「『前回』かな。作戦思いついて実行しようとしたら、違う意味で詰んでることに気づいちゃってさあ。あれほど死にたくなったことってなかったよ」

 

「マジであぶねえ!?」

 

 

 

本当に止めた奴の顔が見たい。世界の救世主じゃないかそいつ。

 

戦々恐々としていたが、話は元の話題に戻る。

 

 

 

「しっかし。魔術師志望者なんて現実見てない人の演習見て私たちがどうしろっていうんだろうね」

 

「さあ?現場監督よろしく酷評でもすればいいんじゃね」

 

「えー?試合形式でやるな、とか、略式を導入しろ、とか、魔術だけ連打してないで普通の武器も使えとか?」

 

「あと、多重展開は常識とか、剣で魔術はじく練習もしとけとか、戦闘理論も叩き込めとか人の魔術式を書き換えろとかな」

 

「……まあ、それくらいしないと魔術師とは言えないただの茶番だもんねえ」

 

「ついでに異能者を本当に殺すつもりがあるんなら、時空捻じ曲げられるとか概念破壊されるとか自分の手の内をすべて読まれてるとか想定しとけよな」

 

 

 

と学生どころか恐らく魔術師の大部分が無茶ぶりと感じる要求のオンパレードになっているが。

 

 

 

「……手の内を読まれるって誰に?」

 

「あれ?知らないっけ、本郷拝祢。俺が戦った異能者集団の一人」

 

 

 

あいつはなかなか厄介だった。何でもかんでも読まれて碌に攻撃が当たらず、範囲技もそらされ、逆に確実に攻撃を当てられるから。影縫いしてもなかなかうまくいかず、最終的には最適解を絶対出せない状況に追い込むしかなかった。それでも死亡確認ができなかった強敵だ。

 

 

 

「そう……」

 

夕映は俺の言葉にしばし考え込んでいたが、やがてはっと顔を上げて、

 

「ごめん、やっぱ休む」

 

と学校とは反対方向へ駆け出していく。すかさず追いかける。

 

 

 

「え、夕映、どうしたんだよ!」

 

「いや、なんでもない!」

 

「なんでもないとか噓つくな!」

 

と俺が追いつき手を取る。震えているし、冷汗がひどい。

 

 

 

「……放してくれないかな。私、急用を思い出したから」

 

「放さない。手伝うって約束したから、そんな様子がおかしいのに放っておけるか」

 

「……」

 

 

 

しばらくにらみ合いが続いたが、観念したのか夕映は手の力を緩めた。

 

 

 

「……あはは。君はぶれないよねえ。いつも」

 

「それはどうも?」

 

「……急用ってのは嘘じゃないんだよ。君の話聞いて、少し私の計画が変わりそうって話。たぶん中学卒業できなくても問題がなくなったけど、調整は長引きそうだね」

 

「本郷がそんなやばいのかよ」

 

「……うん。だって、世界が滅ぶのって彼のせいだもん」

 

「……パぁ」

 

 

 

まじかよ、まじですか、まじなんですか。

 

いや、まあどんなふうに滅ぶとか知らないんだけど。あくまで夕映の話を聞いてるだけだから真実かどうかも知らないけど、でもここまで震えてるのを見てると強ち噓でもないだろう。

 

 

 

「えー。ちなみに原因がわかったりは……?」

 

「わからない。ある一定の時期に覚醒するとかその辺は知ってるけど、具体的な条件がわからないの。だから倒すしかないかなって」

 

「で、世界が滅ぶのが高校三年生?」

 

「うん」

 

「倒すための作戦が俺とあいつの入れ替えからの逆行?」

 

「そう……」

 

 

 

ただ一つ言えるなら、と夕映は前置いた。

 

 

 

「できるだけ関わらないようにして。あの人はすべて見通すから。私はすでに情報屋としてあってるし異能を使う様子も見られてるけど、君の手札まで見せられないよ」

 

「わかった。でもほかにもあるだろ」

 

「……ばれたか」

 

「当たり前だ。そんな重大な話で他からそらそうとしたんだろ」

 

 

 

と話す。……夕映は本郷の話からしばらく考え込んでから飛び出そうとした。つまりは何か感じるものがあったということで、焦っていたのもそれが緊急性が高いからだろう。本郷の話は緊急性もなかったから。

 

一番あり得るのは敵の存在だ。そんな理屈で探知魔術を使ったが、三人しか周囲に反応がなかった。……三人もいるのが異常なのだ。

 

 

 

「私を狙ってると思うの」

 

「……『軍』の代表か?」

 

なんとなく、以前の人生ゲームの一件からそう推測した。

 

「そうだよ。毎回私を追っかけて殺そうとする……いや、実際死にかけて仮死状態にするか時空間操作するしかなかった」

 

「ひえっ」

 

 

 

だからあんなに代表の戦い方に詳しかったのか。

 

 

 

「でも早すぎるよ。中学校を卒業するくらいの猶予はあると思ってたんだけど」

 

「……俺が一緒に戦う選択肢はないんだな?」

 

「当然。ここで代表が死んでもそれはそれで後々が困るよ」

 

「驚いた。俺が勝てない前提で動いてると思ってたんだが」

 

「勝つよ」

 

 

 

と夕映は自信満々に言うので、少し恥ずかしく照れ隠しに顔をそらす。

 

 

 

「……まあ、なんだ。……俺が呼んだら絶対来いよ。お前がやるっていった仕事もあるんだから」

 

「もちろん。約束したしね」

 

 

 

そう言って俺の手を払って夕映は再び駆け出して行った。今度は魔術も付与しているようだったが、その後一陣の風が夕映を追うように吹いた。代表はっや。

 

 

 

……夕映に関して先生にどういおうかねえ、と俺が学校に再び向かうが、電話が鳴った。

 

 

 

ポケットに入れていたので取り出そうとするが、なんせ今日の荷物はえらく重い。宿題と教科書と暇つぶしのゲームと論文がぎっしりと入っているし、その荷物をよりによってポケットと同じ右側に持っていたので、とるのに手間取ってしまう。

 

やっと取り終えたころには電話が途切れていて、メールが代わりに届いていた。

 

汐宮からだった。

 

 

 

『有希くんがいなくなりました。白いローブの人たちと一緒に出て行ったんです』

 

 

 

 

 

汐宮にすぐ電話をかけなおしたが、汐宮の説明は長かった。

 

よっぽど悔しいのかえぐえぐズルズルいっている汐宮を俺がなだめながらの会話だったので致し方ないともいえるが。

 

 

 

汐宮曰く、教会の連中が押し掛けてきたらしい。

 

 

 

自宅にて、俺と夕映が出かけた後に汐宮は十回忌の準備、一条は家事をしていた

 

インターホンが鳴る。汐宮は宅急便と思って受け取ろうと扉を開いた。

 

 

 

その次の瞬間に汐宮は男の腕の中にいた。こめかみにピストルが向けられ、汐宮は即座に人質にされたことを悟った。何とか抜け出すためにピストルを無害なものに書き換えようとしたが、ピストルの引き金に手をかけたので動きが止まってしまった。

 

 

 

「ああ、忘れていましたあ。あなたも垢抜けましたねえ、自分の状況をすぐ理解して最適な行動に入るなんてえ、えらいですよお」

 

「でもそれえ、悪手なんですよお」

 

 

 

そう不気味に哂う男は、

 

「『抵抗しなさい』」

 

と言葉を発した。汐宮は力が使えないのを肌で感じ取った。

 

 

 

「あ、効きましたあ?これは『否定』のDNAをもとに作ったホムンクルスの一人の異能ですう。題して『背向』。私の持つ『大罪』とも言いますねえ?まあ厳密には『大罪』ではありませんけどもお」

 

 

 

と言われたが、教会の事情に疎い汐宮にとっては意味不明だった。わかったのは男も実力派の異能者であることだけ。

 

一条が汐宮の様子を見に玄関に顔を出し、硬直する。

 

汐宮を人質にとっている、自分の天敵がすぐそこにいる。

 

悪状況を前にどう打開するのかを考える一条に、にんまりとした男が声をかける。

 

 

 

「ああ、来ましたねえ?『LastOrder』さん」

 

「……よく言う。……僕がたまたま最後に生まれたからそういうだけのくせに」

 

「あらあ、いけずですねえ?ご機嫌斜めですねえ?あ、髪でも切りました?切ってない?あらそうですかあ」

 

 

 

そんな軽い応酬を終え、先に口を開いたのは一条。

 

 

 

「……何が目的?」

 

「さすがに君ならわかりますよねえ、『脱走者』さん。『昇華』を逃がした罪は大きいですよお、アレのおかげでだいぶ騒ぎになりましたし、ぼくは見逃すことにしましたけどお、君はさすがに殺さないと、ねえ?」

 

「……そこに宥さんは関係あるの?」

 

「いいええ?ありませんけどお」

 

「……」

 

「強いて言えば、君の捕獲の際に邪魔だからですよお?殺そうと殺すまいと問題ないですけどねえ、君がおとなしく殺されてくれれば、この人も開放しましょうか」

 

「……」

 

 

 

その言葉にひどく考え込み、一条が一歩踏み出したので汐宮は必死に止めた。

 

 

 

「だめです、有希くん!私に構わず逃げてくださいっ!」

 

「他人に生殺与奪の権を握らせておいて何綺麗事宣ってるんですかあ?『言葉を話しなさい』」

 

「-ッ」

 

 

 

その瞬間、汐宮の口から言葉が出なくなった。

 

それでもジェスチャーで必死に訴えようとする汐宮に、男はピストルで手を打ち抜いた。痛みを堪え切れす、しかし声も出ない絶叫をあげる。

 

 

 

「不遇な境遇を自慢してぴいぴい泣くだけの虫けらなど滅べばいい」

 

 

 

そう、男は汐宮をにらみつける。より一層顔を青くした一条が深呼吸をして言葉を発した。

 

 

 

「……わかった。わかったから、宥を放して。……その人に赤は似合わない」

 

「あらあ?意外ですう。君はそういう人ではなかったはずですけどお」

 

「……」

 

「合理的な判断をする化け物だからあ、ここで彼女を生かす意味もないと切り捨てるのかと思ってましたあ。つくづく人は予想を超えますねえ」

 

 

 

「まあ、たしかに彼女は争いごとには向かないでしょうねえ」と汐宮を放した男だが、もはや興味すらないようで視線をやることも、汐宮が実際に立ち上がれることもなかった。

 

勝てない、足手纏い、そのように判断した。

 

悔しくて、動けなかった。

 

 

 

無事に解放されたのを見届けた一条が、一つ条件を出す。

 

 

 

「……ただ、僕を殺すなら……ここ以外のどこかにして」

 

「はあ、それはまたなんででしょうかあ」

 

 

 

「……よくわからない人だったけど、嫌いじゃないし。なにより、……この暖かい空間を、血で汚したくないから!」

 

 

 

そして、一条は消えて、教会が後を追い、今に至る。

 

 

 

「ごめんなさい。ごめんなさい」

 

ひたすら謝っていたが、間違いなくその男はクリスだ。実力を考えてもおとなしく引き渡すしかなかっただろう。

 

「仕方ない」

 

で通そうとしたが、

 

「そんなわけありません」

 

と一蹴されてしまった。

 

 

 

「私、調子に乗ってたんです。自分はすごいって勝手に上方修正してて、真白さんと丈凪くんの異能者の戦いも絵空事、他人事のように思ってたんです。でも、違ったんです。私もそういう戦い方を瞬時にできる人であれば、彼は無事だったかも知れないんです……!私だけは味方だって、約束したのに守れなくて……こんなんじゃ、役に立てません!」

 

「役に立つって、俺たちはそんなの」

 

「私が嫌なんです!」

 

 

 

初めて汐宮が怒鳴った。

 

 

 

「……私を見つけてくれた人。素の私を受け入れてくれた人。私に普通をくれた人。……私は、大した目的があるわけじゃないけど……みんなは、世界を救うとか、差別をなくすとか、いろいろ背負ってます。重いんです。でもその重さをわかってなかったんですよ。……背負える人になりたい。そうでなきゃ、生まれた意味などなかったって苦しいだけ」

 

「……汐宮」

 

「今は敵いません。あんな特殊な戦い方なんてできません。でも、助けを求めることはできます。情報を提供することもできます。戦えない力ってわけでもない。……だから、仕方ないなんて言わず、怒ってください」

 

 

 

……汐宮の覚悟を聞き、俺はそう言おうか考え、でも割とすぐ浮かんだ。

 

俺が汐宮にしてほしいことは割と明白だからだ。

 

 

 

「……汐宮。たしかにそうかもな。もっと強くなってくれないと困る」

 

「……」

 

「そうでなきゃ、守れない。そうだろ」

 

「そうですね」

 

「汐宮に俺がしてほしいのは、戦うことじゃない。守ることだ」

 

「……えっと?」

 

 

 

ここで自分の認識がずれていることに気づいたのか、汐宮は疑問符を浮かべた。

 

 

 

「俺も夕映も殺し合うための力を持ってるけど、守るのは滅法苦手なんだよ。守ろうとしてもどうしても殺し合いになっちまう。でも、その点汐宮は違う。赤が似合わないといわれたとおり、異能リビドーの甚だしい殺人衝動ですら理性で抑え込める、すげー奴だ。俺を殺そうとしたこともあったが、俺の言葉だけで戻ってこれる。お前、俺らとは違うベクトルですげえんだよ」

 

「……あ、」

 

「だから、俺が、夕映が戦っている間、みんなを守れる力を身に着けてほしい。そんなわけで、強くなれ」

 

「はい……はい!」

 

「赤は似合わない。その通り、仲間も自分も一滴も血がこぼれないから赤が似合わない、そんな奴になろう。そして一条に短い付き合いで『暖かい』って言われたこの空間を守るんだ。俺も手伝う」

 

 

 

俺の話に汐宮が泣き止み、そして。

 

 

 

一条の居場所も見つけた。




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