弱くなってニューゲーム   作:桜油

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ゆうきbreak⑤

一条が『教会』に誘拐される可能性自体は、一応考慮していた。

 

 

 

一条が『教会』に自分の意思でついていく可能性は考えていなかったが、どちらにせよただで殺されようとはしないはずだとあたりをつけ、俺は保険を作っておいた。

 

 

 

俺の『循環』だが、実は解釈を広げることで適用できる範囲も広がることが分かった。

 

その結果、『意識を巡らせる』から『意識を循環させる』……いわば憑依、無機物操作などができるようになった。

 

これを使って町中のあらゆるものに意識を巡らせ、いざというときに千里眼擬きができるようになった。……完全な千里眼を再現するのは難しいが、探知魔術や汐宮、俺の地理的な感覚を駆使すれば、対象の人物が町中にいる限り特定は難しい話じゃない。

 

汐宮と電話中、ところどころそれをやっていたが、ついに特定に成功したので汐宮は留守番、夕映にも交渉準備をお願いする旨のメールを入れ、相変わらず千里眼擬きを使いながら現場へ向かっていた。

 

 

 

一条は案の定『教会』と交戦中だ。何かしら弾幕をグミ撃ちしているが、その弾幕に当たった組員が灰になっていくが、そんな魔術はないので異能を弾幕状にしているものと思われる。そんなこともできるのか、一つ勉強になった。かすっただけの組員も血が全く止まらないので、彼の言動を合わせて考えると、異能は『破壊』、さっきは止血の概念を破壊したんだろうか。

 

 

 

そして安置で戦況を眺めるクリス。何を企んでいるのか、ぼそぼそと平らしき人物に指示を出していて、組員が攻撃ではなく回避に専念するような動きになる。

 

 

 

……これは。クリスの作戦を察したが、取り返しがつかなくなるかもしれない。……一応、俺が何とかできなくもないかもしれないが……汐宮にも頼んでおくべき、か?メールで例の場所を伝えておく。

 

 

 

到着した現場を見るとクリスが前線に出てきていた。

 

「……やっぱりすごいですねえ。『破壊』を使いこなしていますう」

 

と乾いた拍手をするが、当然一条はにらみつけるばかりだ。

 

「止血の概念、魔術の概念、電波の概念、破壊の弾幕。合理的な戦い方をする君はまるで戦闘アルゴリズムを搭載したアンドロイドですう。これってえ、勲章ですよお?」

 

「……彼から学んだから」

 

「彼、ですかあ。よく彼彼言いますがあ、誰なんでしょうねえ?」

 

と首をわざとらしく傾げるクリスに構わず一条は弾幕を放ち続ける。クリスはあっさりよける。

 

 

 

「彼って、まああの女の仲間ですよねえ?大した人と思えませんけどお」

 

「……僕の、仲間を馬鹿にしないでくれる」

 

「仲間ですか!あんな平和ボケを!」

 

「ふ……ふざけるなああああああああああああ!!!」

 

 

 

激高した一条から破壊の力がクリスに次々と迫る。それもむなしく回避されてしまう。そして懲りずに、

 

「教えてもらえませんかねえ」

 

とへらへら笑っていた。

 

 

 

「……いうバカがいると思う?」

 

「言わせます」

 

「……」

 

「君は異能を封じませんでしたあ。それは抵抗する手段が消えるからですよねえ?」

 

「……」

 

「でもお、ぼくの前ではそれ、悪手なんですよお?『言うな』……ってねえ?」

 

「……っ!」

 

 

 

クリスがまた『背向』を使った。だが、一条は口を開かなかった。

 

「……おや。めんどくさいですねえ?何か破壊しようとしてますよねえ」

 

そう嗤い、クリスは続けて「まあ、もうそろそろタイムリミットですけど」と、話さないように抵抗する一条にナイフを投げる。一条はよけようと動くが、

 

「『動け』」

 

といったことで動けなくなってしまった。

 

そのままナイフが足に刺さり、激しく出血する。もう血は止まらない。

 

 

 

「れ……っ、まだ、効果が……」

 

「ええ。誰も『同時に一つしか使えない』なんて言ってませんしねえ?しかしなかなか粘りますねえ」

 

 

 

クリスが感心するが、一条の表情が苦悶のそれから覚悟を決めたものになった。俺もクリスもわかっただろう、自分の『喋る』概念を破壊する気だ。

 

 

 

それはいけない。止めないと、そろそろ、

 

 

 

「あっとお、そこな観客さんはまだ見ててもらえますかねえ。『戦うか逃げるかなさい』」

 

「っ!」

 

 

 

ナイフを投げられ、割とぎりぎりで避けた。脳天に突き刺す気満々だったなこいつ……っ!しかも動けないし、どうするよこれ……!

 

そうしているあいだに一条はしゃべる概念を破壊していたが、同時に様子がおかしくなった。……平衡感覚を失ったのか、正常に立てなくなった。

 

 

 

意味が分からないといわんばかりの表情を浮かべた一条に、クリスは

 

「そうそう、これを待ってたんですよお」

 

と恍惚とした表情で語った。

 

 

 

「異能リビドーってご存じですかねえ?異能者ならだれもが抱えるデメリットなんですけどもお。君の場合は感覚喪失と言いましてえ、使っていくうちに色覚異常、五感消失、感情消失などがあげられますう。もとになったDNAの異能リビドーは『自傷癖』なんですけどお、それより軽めなんですよねえ。最悪意識、記憶、自我がなくなりますからねえ、アレ。まあ、つまり、」

 

「異能を封じようが封じまいが、君にはバッドエンドしかなかったってことですけどねえ」

 

「え?君に戦い方を教えた人?」

 

「ああ、知ってますよお?君がしゃべる概念を破壊したのは無意味なんですよねえ」

 

「君のもとになるDNA……本当は十年ほど前の次元地震で回収できたはずだったんですけども……逃がしちゃいまして。その後、歴史改変者の存在を知って、ある人が持ってきてくれたんですよお。逆行者の存在も教えてくれましたあ。……逆行者、でしょう?どうして日向咲も君も逆行者と会うんでしょうねえ。おかげで面白いからいいですけどもお」

 

「どれ、実はぼく、読唇術も使えますよお。そこの観客さんに遺言はありますかあ?……うん?無理で、無茶で、無駄だった?なにそれ、遺言じゃなくないですかねえ」

 

 

 

……俺としたことが情けない。仲間にこんなことを言わせてしまうなんてな。

 

俺は今も自分を束縛している忌々しい力をイメージする。

 

『逃げるか戦うか』。……なら、俺は逃げて、かつ戦う!

 

瞬間、体が動く。

 

身体強化の魔術をフルでかけて、さっき投げられたナイフを投げ、縮地。

 

クリスにはあっさりよけられたが、影縫いには成功した。

 

そしてクリスと一条の間に割り込む。

 

 

 

「……よっ、一条。さっきぶりだな?」

 

「怜……?なんで、ここに」

 

そう言って一条が口を抑えていた。そりゃそうか、喋れてたら疑問に思うよな。

 

「汐宮に話聞いたから、仲間を連れ戻そうと思ってな?しゃべれないと不便だから、この空間の時間を若干戻した」

 

「……あ、え……」

 

状況把握に戸惑っている一条をかばうようにして、俺はクリスに目をやる。

 

クリスはどこかうれしそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

「……なんだその顔」

 

「……君はもしかしなくても逆行者、ですよねえ?あなたが彼に戦闘のイロハでも教えたんですかあ?」

 

「いや。直接教えていない。日常会話を盗み聞きでもしてたんじゃないか」

 

「……へえ。あなたは、結構話が分かりそうですねえ」

 

「お前に言われてもうれしくないんだが」

 

いや、本当に。

 

何をもって話が分かりそうなどと思ったのか、と首をひねっていれば、

 

「まあ、ほめてはいませんものねえ。人を殺したことがありそうだなあってくらいでしてえ」

 

と言われ、こいつはやっぱり外道なんだと認識を改める。

 

会話の主導権をこいつにゆだねてはいけない。

 

「ああ、まあ殺したことはある。『前回』に限るが」

 

と返し、

 

「まあ、でも今回はできるだけ殺しはなしだ。俺や仲間に降りかかる火の粉は容赦なく払うけど、それは今じゃねえんだわ」

 

そう言って、俺は俺自身に影縫いをした。

 

 

 

クリスはにこにこしていて、一条は啞然としている。

 

「……話をしようぜ」

 

「……その覚悟は認めますけどお、飲むかどうかは別ですよお?」

 

「へいへい。絶対のます。のまれなかったら殺し合いだな」

 

 

 

俺の意図を組んだクリスは、さっきからずっと出し続けていた殺気をようやく抑えた。話をするなら、相手が動けない状態は基本として自分も対等になる覚悟を決める。その条件が整っていない交渉ははなから脅しか命乞いでしかない。裏の割と大真面目な交渉の鉄板である。

 

俺は話を始める。

 

 

 

「DNA提供者がいたと聞く。俺はそいつの悪友だ。丈凪怜っていうんだが、『真白夕映』から聞いたことないか?」

 

「……ああ、あなたがあの『充喜暁』さんなんですねえ」

 

と手槌を打った。

 

「『前回』から彼女に快く協力してくれていたみたいですねえ。おかげでこちらも研究がはかどっていますよお」

 

『前回』から?『前回』夕映と接点はなかったはずだが……いや、それは今関係ない。

 

「ああ、それで貸し一つだったんだろ。夕映は何も要求しなかったからな」

 

「ええ。そうですともお。つまりはその貸しを使いたいのですねえ」

 

「そういうことだ。この貸しで、俺の質問に答えろ」

 

 

 

俺がそういうと、クリスはぽかんとして爆笑した。

 

 

 

「あっははははははははは!そうきますかあ、仲間を逃がすとかじゃないんですねえ?」

 

「ああ、今切羽詰まってる問題が優先だ。長く話に付き合ってくれよ。お前にとっても無意味な話じゃないと思うぜ?」

 

そうどや顔で言い切ると、

 

「やはり同類ですねえ。いいでしょう、もっと話がしたくなってきましたあ」

 

と聞く体制になったので、俺は口を開いた。

 

 

 

「異能のエネルギー源についてだ」

 

「……ふむ、確かに面白そうな話ですねえ」

 

「だろ?まずはこれを読め。読み終えたら燃やせ」

 

と論文のコピーを手渡す。クリスは読み進め、終始にこにこした様子で読み終え、紙を燃やしていた。

 

「面白い考察でしたあ。院生室もきっと気に入るでしょうが、異能のエネルギー源が分かればさらに面白いでしょうねえ?」

 

「ああ。だがそこだけが思いつかん。お前の意見を聞かせろ、納得できるまでだ」

 

そういうと、「『教会』もそれは研究してるんですが、いまいちなんですよねえ」と前おいて、語り始める。

 

 

 

「あくまで僕の考えですけどもねえ、異能のエネルギー源はこの世界に存在しないものなのでは、と思うのですよお」

 

「あ、天国とか現世とかそういう話をする気はありませんよお?宗教団体とは違いますのでえ。……まあある意味宗教染みた話にはなりますけどねえ」

 

「異能を使うと異能リビドーの発動確率は高まりますう。これはあなたも知っていますよねえ?」

 

「はい。異能リビドーは人の一時的発狂、不定の狂気から発現してますねえ。つまり、異能はあなたの考察通り、人にとって良からぬ何かをエネルギー源にし、使い切れないときに異能リビドーとして発散されるというものではないかと思うのですよお」

 

「しかしい、なぜ狂うのでしょうねえ?もしかして、人が知るべきではない事実を知ってしまったから……ではないですかねえ?ああ、本人に自覚はできないでしょうけどもお、本能的に知ったって意味ですよお?」

 

「もしくはこうですう。異能はどこか別の世界、世界軸からやってきているという説はどうでしょうねえ」

 

「次元地震、多数の逆行者、歴史改変者。……これだけつじつまが合わなくなるような人がいれば、時間軸や世界軸がゆがんでも仕方ありませんよねえ?そしてその歪み、穴からエネルギーがわいてくるのか、そもそも歪みのエネルギーを使っているのかは知る由もありませんねえ」

 

「ええ?元から世界軸が歪んでいたわけないでしょって?……ぼくらが全くいない時代、全く関連性のない世界で似たようなことが発生したかもしれないじゃないですかあ」

 

「……そんなわけで、結論は一つですよお」

 

「かつてほろんだ世界の人々の絶望を糧にした力、それこそ異能または異能のエネルギー源です。それが一番僕好みってだけですけどねえ」

 

 

 

 

 

……。

 

「本当、性格悪いよな」

 

「『前回』でもお会いしてましたかねえ。さぞかし愉快なやり取りをしたに違いないですよお」

 

「いや、……まあ、どうだろな」

 

『前回』の俺はこいつの策にあっさりのっかってしまったから、むしろつまらなかったんじゃないだろうか。

 

まあ、気に入られたくないのだが。

 

話をしている間にポケットの中が振動していたし、問題はない。

 

「ありがとう。これで院生室に提出できる」

 

「いえいえ、久々に楽しい会話ができて何よりでしたよお」

 

とクリスは影縫いに刺したナイフを抜いたが、制止した。

 

「待てよ。話はまだ終わってない。……一条を、見逃せ」

 

「……」

 

瞬間、能面のような顔になったクリスは、ナイフを回し始めた。

 

 

 

「……それも交渉、でしょうかあ」

 

「ああ。交渉だ」

 

そう返すと、くつくつと笑っていた。

 

 

 

「……逆行者というから期待していましたが、これじゃあ去年の彼のほうがずっとましでしたねえ。あなたは今動けないんですよ?僕は動ける、この意味を分かっていってますか」

 

「ああ、命乞いに等しい状況だな。だからどうした」

 

「……死んでください」

 

とナイフを投げる。俺はよけられないし、一条もまだ動けない。このままいけば俺の脳天にこれが突き刺さり、俺は即死するだろう。

 

 

 

だが、問題ない。

 

 

 

「ちょっと。人の話最後まで聞いたらどうなのかなあ」

 

 

 

瞬間、ナイフが逆流してクリスの手に刺さった。

 

痛がるでもなく、「……はい?」と驚いていたクリスに俺は言葉を続けた。

 

 

 

「まだ終わってねえよ。何のために長話をしたって、次の報酬を用意するためだ。焦るなんてらしくない行動だな?」

 

 

 

俺は異能を使っていない、否、使えない。なぜなら、まだ近くに潜んでいるであろう『代表』に手の内を知られるわけにはいかなかったから。

 

そう、俺のピンチに介入したのは夕映だ。俺が頼んでおいたDNAがすぐそこにある。

 

 

 

まだ呆けているクリスに構わず話し続ける。

 

「はい、これ『受容』ね」

 

「……これでいいのか」

 

「うん、今喉から手が出るほどほしいはずだから。じゃ、撒いてくる」

 

「おう。頑張れ」

 

そう言うと夕映は姿を消し、代表の気配も消えた。

 

 

 

「おい、いつまで呆けてんだよ」

 

俺も影縫いのナイフを抜き、今度は手に自分でナイフを刺す。

 

まだ止血の概念は破壊されたままだが、汐宮もすでに近くにいるようなので問題ない。破壊された概念を書き換えてもらえばいい。

 

 

 

「……交渉の続きだ。これをよこすから、一条有希、汐宮宥、そして俺を見逃せ」

 

「……前言撤回ですう。あなた……面白いですねえ」

 

 

 

そう言ってクリスは、教会に撤収命令を下し、そして一条に向き直った。

 

「しかし、ただでは帰れません。……『LastOrder』、覚悟を示しなさい」

 

「……覚悟?」

 

「そうです。……化け物が普通に生きるならば覚悟を示せ。日向咲は、否、充喜暁は覚悟を示した」

 

「……」

 

「その時は日向咲が覚悟を示せる状態になかったから、彼に覚悟を示させた。……でも、君なら自力で覚悟を示せる」

 

 

 

そこまでクリスが言うと、一条は立ち上がった。

 

「……わかった」

 

「おい」

 

「大丈夫ですよお。戦いにはなりません」

 

咎めた俺にそう言った声色はひどく優しかった。

 

 

 

「教会は、君を殺したい。なんとしてでも。それを止めたいならば権力が必要です。ぼくは教会で発言力が『神父』並みに高いのです。ですが、タダでとはいきません」

 

「……」

 

「『君の右足をください』」

 

間違いなく『背向』を使った。しかし、一条はどう従うつもりなのか。

 

 

 

一条は口を開いた。

 

「……覚悟を示せば、僕はあの暖かい空間に、いられる?」

 

「ええ。約束しましょう」

 

そういうと、一条はクリスに歩み寄った。

 

「待て、一条。意味は分かってるのか」

 

「……大丈夫」

 

一条は、初めて笑った。とてもさわやかに。

 

 

 

そして言葉を紡ぐのだ。

 

「……怜たちと、一緒に同じ道を歩きたい。だから、足はダメ」

 

「……怜たちと、互いに認め合っていきたい。だから、目もダメ」

 

「……怜たちに、挨拶とか、思いを伝えたい。だから、口もダメ」

 

「……怜たちと、手をつなぎたい。だから、手もダメ」

 

「……でも」

 

「……怜たちとであって、もう十分暖かい感情を知れたから」

 

「……これを、あげる」

 

そう言って、心臓を引きちぎった。

 

 

 

どば、っと血液が出る。でも、一条は倒れない。

 

死という概念を破壊したのだろう。ずっとそのままでいられるわけでもないだろうに、それでも彼は、俺らと一緒にいることを選んだ。

 

 

 

クリスは、「……しかと受け止めました。しかし、こんなに要りません。髪の毛で十分です」と微笑みながら、心臓を返して髪の毛を一本だけ取った。

 

 

 

「……いいの?」

 

「ええ、まあ。異能の可能性をまた一つしれましたし、十分です。では、さようなら」

 

 

 

と撤収すると同時に、汐宮が真っ青な顔して駆けつける。

 

まあ、片や手が血まみれ、片や胸に風穴あいて心臓がちぎられてるしなあ。

 

そのまま汐宮の小言を聞きながら、ふと、これだけは言いたくて一条に声をかけた。

 

 

 

「なあ一条」

 

「……?」

 

「お前のあがきは、無理で、無茶かもしれないけど。……無駄じゃ、なかったぞ」

 

「……」

 

 

 

一条は俺の言葉に目を見開いた後、なんとも照れ臭そうに、

 

「……うん」

 

と、また笑った。

 

 

 

夏の夕日がまぶしかった。




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