弱くなってニューゲーム   作:桜油

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※充喜視点です。


高校一年
そだちdeny①


日向咲との邂逅以降、僕の生活に変化はさほどなかった。

 

 

 

一時期は僕や深月に対してあたりの強かった日向は、しかし割とあっさり和解することができた。

 

クリスマスの日、なんとか約束を果たすために日向を連れだしたら一条有希と会ったのがそのきっかけ。

 

 

 

まだ丈凪怜に出会っていないようだった彼は切羽詰まった生活をしていて、家庭に恵まれない僕や深月では保護は難しかったのだ。日向でさえ廃墟をなんとか家らしく仕上げて、戸籍も深月の異能を使ってどうにかしたけど、深月の異能は多用できるもおのでもないから。

 

 

 

深月の異能は『否定』。日向咲の一件で僕が知るに至ったけど、本人は前から自覚したうえで、深月の保護者……深月命の忠告に従って使用を控えていたのだとか。その効果は強く、対象を『否定』することで存在を消し去る、事実を置き換えるものらしい。だから一晩行方をくらませていた僕の居場所にあっさりたどり着き、僕がクリスに試されているときは僕にかかっていた思考誘導をなくすこともできた、と。

 

 

 

その代わり、異能リビドーも負荷が大きい。『自傷癖』。文字通り、自傷行為に走ってしまうだけならいいのだが、『否定』の性質上、自分の記憶や感情を糧に『否定』の効果をより大きくすることがあるようだ。つまりやりすぎると深月の感情、記憶が消える。その辺は一条と似ているかもしれないけど、関連性ってあっただろうか?

 

 

 

そんなわけで保護は諦めたが、日向と一条の二人でどこか消えたと思ったら戻ってきていた。……その時にはすでに僕に対して、クリスとの話以前の態度に戻っていた。

 

……何を話したのかは確かめていない。

 

 

 

そして中学を卒業するまでは平和に過ごしていたのだけど、その間に分かったこともある。

 

 

 

僕の異能。日向の異能リビドー『食人癖』を受け付けず、『昇華』は受け付けた力……と思しき何か。『充喜暁』が異能を持っているなんて話は聞いたことがなかったけど、僕がまだ『丈凪怜』だったころ、彼との殺し合いで『循環』を使おうとして効かなかったことがある。あくまで僕に対して使った異能で有害なものだけ無効化する力と考えれば、すべてにつじつまが合う。彼が異能者だと露呈しなかった、自覚できなかった(クリスに言われていたら自覚していたかもしれないけど、その辺の考察は割愛する)のは異能の内容が自発的にわかるものではないからだ。

 

僕はこれを『受容』と名付けた。異能リビドーはわからない。しいて言えば『前回』同様『パラノイア』かもしれないかなあってだけ。ほかにも効果があるかもしれないし、まだ考察する余地はある。今の『丈凪怜』にも勝てるかもしれない。

 

 

 

本当は『拒絶』という名前もよかったけど、日向曰く、「兄弟にこれを持っている人がいた」らしい。兄弟というと日向と同じDNAから作られたホムンクルスだろうか……うん、この名前はやめておこう。

 

 

 

中学校も卒業し、僕、深月、そして日向の三人でそろって入学したのは、伊灯高校魔術科。偏差値はそれなり、自由度の高い公立高校だ。ここまでいくと僕の親も放任主義の極致だったけど、僕にとってはむしろありがたい話だった。これで『充喜暁』とのリベンジマッチがやりやすくなった。

 

 

 

そして僕、深月、日向だけで話せる空間が欲しくて、ちょうど生徒会執行部が部活動のような扱いになっていたので迷わず入部。

 

 

 

どうせ入学早々好きで生徒会に入るもの好きなんていない、そう思ったゆえの行動……だったんだけど、予想外なことにもう一人入部志望者がいた。

 

魔術科主席、有住汰絃。翠色の髪色、碧眼で新入生のわりに既に制服を着崩している彼は、日向と顔を合わせた瞬間に

 

「お、17103(ひなたさん)じゃん。おひさ」

 

と軽く手を振って、そこに日向が飛びつくという状態に。

 

詳しく事情を聴きたかったけど、ほかの生徒会役員もいるから僕がそれを黙ってみていたら有住が僕を見てこう言った。

 

 

 

「やあ、そこの君。ひなたさんの仲間と思っていいんだよね」

 

「まあそうだけど」

 

「内緒話をゆっくりしたいとき、中々そういう場所がここにはないよね。部外者に見聞きされそうで、困ったものだよ」

 

「そうだね」

 

「しかし、それにうってつけの場所があるんだ。密室、部外者はノックが義務付けられていて、防音で魔術を使用しても問題ない空間。現在の問題はそこに部外者も入り込めてしまうことだ」

 

「あてはあるんだね」

 

「Exactry。……ソースは校則10条」

 

「……乗った」

 

「話わっかるー♪じゃ、君はアタッカーでおれは回避タンクね」

 

と話していると、生徒会長が僕と有住のこそこそ話に腹を立てたのか、

 

「何を話している、はやくミーティング始めるぞ」

 

と着席を促すので、僕も有住も自分の椅子を蹴飛ばした。

 

 

 

「かいちょー。おれとこいつ、……えっと、」

 

「充喜暁」

 

「そうそう、とおるが、校則十条に則って『決闘』を挑みまーす」

 

 

 

瞬間ざわついた。深月も日向も僕の計画を先に話していたから、僕の意図を察してか無反応だったけど。

 

唯一反抗したのは生徒会長だけで、条件を聞いた。

 

 

 

「……何を賭けるんだ」

 

「えー。わかるっしょ?生徒会への立ち入りの権利ですよ。負けたほうが今後一切立ち入り禁止。生徒会っていう役職も剝奪、……ああいや、退部です。まあ、生徒会戦挙って思えばいいんじゃないですか」

 

「……デメリットがそちらにないだろう」

 

「いや、かいちょーがわかってないだけで充分おれらにもデメリットありますよ?ここが使えなくなるのが何よりの損失です。部活の要請もないからおれが使えるのは教室だけ。おれらが内緒話できなくなりますぜ。情報を得られないのも痛いですね」

 

とケラケラ笑う有住に会長はため息をつく。

 

 

 

「新入生から決闘挑まれるのなんか二回目なんだが……しかも普通科だし、変な動機で部活作ろうとするし、顧問の先生なしとかいうし。なんで今年の新入生は皆血の気が多いんだ……てかそいつも強かったなあ……はああああああ……」

 

「へー、そんな面白そうな奴いたんです?ちょっとその話詳しく」

 

「有住、僕は心当たりあるよ。勝ってから申請の紙を見ればよくない?」

 

 

 

話題が大きくそれそうだったので本題に戻す。十中八九『丈凪怜』だろう。同じ高校に行ったなら間違いない。逆行者がそんなごろごろいてたまるか。

 

 

 

有住は「おっと、たしかにそりゃそうだ」と頷き、

 

「じゃ、よーいすたーと」

 

と決闘を早速始める。動揺していたとはいえ流石会長(と立ち直りかけていた副会長)、即座に魔術式を立ち上げた。……けど、

 

「遅いなあ」

 

僕は真っ先に魔術式を書いている副会長に『魔力撃』を繰り出す。衝撃波で副会長が吹っ飛んですぐ壁にたたきつけられる。ついでに『浮遊魔術』を相手に付与して、重力のかかる向きを変更する。魔術式をちょっと書き換えただけの代物だけど、汎用性が高くて愛用している。壁にたたきつけられている間に魔術式をまた構築しようとしている副会長のために、発動した瞬間にその攻撃魔術が会長に当たるよう射線を調整した。正確には座標だけど。

 

 

 

「か、会長危ない!」

 

「うおっと!?」

 

会長が体勢を崩したが、同時に構築していた魔術式が発動して弾幕がそこにできていた。有住に向かっていったが、有住は密度が割と高かったそれを素早い動きで回避し、会長の背後に迫る。会長が背後に気を取られた瞬間に僕が雷系統の魔術を撃つ。会長は『結界』で防ごうとしたが間に合わず直撃、感電して倒れ込んだ。

 

ちなみにその隙に副会長に『影縫い』してあるので、二人とも無力化されたことになる。

 

 

 

やり合ってる間に深月、日向も書記と会計に攻撃されていたようだけど、自力で乗り切っていた上に有住も回避タンクをしていたようなのであっさり無力化していた。そりゃそうだ。

 

 

 

「なんでだ……!今年の新入生は強すぎやしないのか……!」

 

と嘆く会長に僕は見下ろして言った。

 

「さあ?戦闘経験の差じゃないの?」

 

「たわごとを……!」

 

「あながち間違ってないんだけどなあ……」

 

「とおる、申請の紙見つけたよー」

 

有住は無関心に書類をあさって、目的の書類を見つけたのかぼくに声をかけてくる。手渡された申請の紙にはたしかに、丈凪怜、汐宮宥、一条有希の名前が記載されていた。真白は高校に入学すらしていなさそうだけど、彼は本当に有言実行したということなのだろう。仲間を救うというあの絵空事を。……二人が入学できているのが何よりの証拠なのだから。

 

 

 

「心当たりあんの?」

 

「うん。……僕の『同類』だった」

 

「どんな奴?」

 

「一言でいえば『主人公』。どんな敵にも打ち勝って自分の仲間にしちゃうとんでもない人。たとえばほら、一条有希は日向のもう片割れだ」

 

「じゃあ親父とやり合ったんだ」

 

「親父?」

 

「んや、こっちの話」

 

「ふざけるな……!我々のほうが先輩なのにそんなことありえるか、不正だ!」

 

 

 

副会長が僕と有住の雑談を遮ってそうわめく。これには深月も腹を立てたのか、

 

「不正って、決闘を挑んでもない私たちに攻撃してきた時点で不正行為に当たりますよね、どの口でそんな厚かましいこと言ってるんです」

 

と口を出すが、その後に有住がにやにやいやらしい笑みを浮かべて続けた。

 

 

 

「そういうことだけど書記と会計さん?そこの二人に魔術仕掛けたのは一体どういうことか端的に説明してもらえます?」

 

「い、いや。それは……攻撃魔術じゃないから」

 

「攻撃魔術じゃない?へえわざわざ対象と追尾と威力が設定されている指向性攻撃魔術独特の魔術式が攻撃魔術じゃないの?何言ってん。じゃあどこのどの魔術組織が開発したどんな魔術なのか教えてくれない?秒で習得するからその魔術組織の連絡先と名称、情報源に効果を全部3秒以内に言ってねはいすたーとお」

 

「そ、それは忘れ」

 

「はい3秒!どうした、普通こんなん余裕で言えるよね?じゃあわかったよ100万歩譲ってそれが攻撃魔術じゃないってことでいいからさあその魔術式を解析に回していいよね?いやあよかったわあおれ実は全部ここから動画とってたんだよね、ミーティング内容の記録に使いたかっただけだけどまさかここで役立つとはねえ。攻撃魔術じゃないんでしょ、攻撃魔術であるって判定になるわけないよねえ?ねえさっきからずっと黙ってるけどどうした?本当に攻撃魔術向けてないんだったらここはよどみなく反論するところですけど?何か言ってみなって」

 

「し、仕方ないじゃない!仲間なんでしょ、だったら決闘でも敵同士でしょ!」

 

「へえ今度はそっち?でも残念だなあ校則十条では決闘はタッグバトルだけで団体戦なんかないんだよ。まあ?可哀想だし決闘を君らもあの二人とやったって認識にするにしてもさあ、上級生って下級生に決闘しかける権利ないんだぜ?そしてひなたさんたちも決闘しかける意味ないんだよ、だっておれらと考えてること一致してて別に要求あるわけじゃないし。で?対価もなく決闘しかけたん?それとも決闘関係なく仲間だから魔術ブッパしてたん?どっちにしろ校則違反なんだけど生徒会でこれって平気なん?ないわあ」

 

「ぐ、ぐぐ……」

 

「カーバンクルかっての日本語しゃべってどうぞ。「ぐ」じゃなくて「愚」だよ意味わかるかね、愚かって言ってんだよ何自分からぼろ出すのやめようやそういうの録音しといてよかったよこれで再生数稼げるわあ」

 

「何の再生数だよ……」

 

「「うわあ……」」

 

 

 

容赦もなく言葉で敗者を追い詰めに行く有住にしびれないあこがれない。僕がげんなりしていると、会長がこちらをにらんでいた。

 

 

 

「……やめろ、なんでこんな鞭打つんだ、敗者に!」

 

「はい会長の制止入りましたーいや元会長だっけ?負け犬ほど吠えるってマジなんだねざこっぱすぎでしょ、頭悪い癖になんで生徒会やんの?こっちが恥ずかしいから笑わせてくんのやめてくれない?」

 

 

 

ここで会計も書記も副会長まで泣き出したので、僕は追い出しにかかる。有住もとどめを刺しに行く。

 

 

 

「はいはい泣き落としとか効かないからさ、懺悔とか学生指導部への自首とかは勝手にやっといてね、そこの会長も追い出そう」

 

「待て、不正はあったのかという質問がまだ」

 

まだそんなことをわめいていたので、僕は会長を締め上げた。

 

「な、にをす、る!」

 

「……校則十一条、『決闘の勝者の指示に従わないものは命令を履行するまで武力行使に出ていいものとする。』会長が作った制度ですよね?僕がそれに従ってあれこれ指図される筋合いはないですけど」

 

「不正があったなら無効だろう!先輩が後輩に負けるわけが!」

 

「大概にしろよ」

 

 

 

思わず殺気が漏れた。会長はそれで黙った。ちょっとしか漏れてないのに、弱いなあこの人。『軍』の平でも動じないよ?

 

 

 

「さっきから先輩とか後輩とかいうけど。……じゃあ、『軍』『教会』と命がけの鬼ごっことか、命のやり取りとか、したことあんの?僕のやったことは正直、『軍』ならだれでもやってることだよ?交渉してみたことは?ないよね、だから自分に都合が悪いことの一切を信じない、自分に理解できない範疇はすべて不正にする。……にわかは相手にならないんだよ、この世界は」

 

「……そ、」

 

「あ、殺人罪とか傷害罪とかひどくしょうもない話はもっとやめてね。仮にそうだとして証拠なんかないし、どうせ『軍』がもみ消してる。魔術師のこういういざこざに法律は介入しないともあったでしょ」

 

そこまで言うと会長は、何も言い返せずに生徒会をすごすごと去った。

 

 

 

「……誰が会長やる?」

 

「あー、じゃあ有住で」

 

「いいのん?」

 

「うん。僕はこのスペースを使えれば役職なんかどうでもいいよ。邪魔者もいないし、情報交換しよう」

 

そんなやり取りをし、

 

「じゃあ私書記」「では、会計で」

 

と深月、日向が書記、会計の席についたので、僕は副会長になった。

 

 

 

情報交換ははかどった。

 

僕が逆行者であることやこれからたどる歴史。

 

有住が『神父』の息子であり、『教会』を変えたいと思っていること。

 

ほかの逆行者や異能に関する情報。

 

『教会』の三つの異能者のDNAを集める計画や今までの動向。

 

全て聞き終えたとき、有意義な会議ができたと思ったけど。

 

深月だけ様子がおかしくて、生徒会室を飛び出していった。

 

連絡が一切つかず心配したのも束の間、翌日には彼女は何てことなさそうに登校していたけど……この謎がわかるのは、およそ半年後のことだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……、」

 

「……。」

 

「…………」

 

頭が痛い。

 

思い出すべきでない記憶が、甦ろうとしている。

 

「どう、しよう」

 

「……私にはお兄ちゃんがいる」

 

「それはきっと大した存在じゃない。蘇生はしたかもしれないけど……名前も忘れてるし何をしたかも覚えてない」

 

「……うん。きっと、私にとって大した人じゃなかったんだ」

 

「……私は、誰?」

 

「この思いは、間違っているの?」

 

「隠さなきゃ」

 

「そうだ。会わなきゃ、元々のお兄ちゃんに」

 

「そして、結論出さなきゃ」

 

酷く気持ち悪い。

 

耐えろ、私。




医療事務の訓練学校楽しすぎて逆に辛いです

執筆の時間どこ……ここ……?
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