…本来登場しないはずだったが急遽追加したキャラクター。罠の天才、教会の代表の息子、革命者、いきのいい海パン野郎と属性多め。
「改めて、おれは有住汰絃。生徒会長をやってる」
有住の自己紹介からミーティングが始まった。
「生徒会長ってことは三年の生徒会長を決闘でボコったか?」
「ボコったというか、おれが回避タンクしてる間にとおるがぶちのめしてた。あとは書記と会計をあおった」
「うわあ……」
『前回』とさほど変わらない戦闘スタイルと性格にげんなりしていたら、
「ああ、そういやとおると丈凪?が入れ替わってんだっけ。つまりおれと関わったことはあったってことだよね。『前回』のおれってどうだった?」
と上機嫌で尋ねてくるので、
「イキのいい海パン野郎。あと爆殺卿」
とだけ返したら爆笑していた。
「そんなに面白いかよ」
「うん、めっちゃ。それにいい考察材料もできた」
「はあ?どうせまともな考察なんかしないだろ」
「ちっちっち、実はそうじゃないんだよなあ」
と指を振りながらニタニタとみてくる。無意識にあおる、それが有住クオリティである。
「じゃあなんだよ」
「並行世界に逆行してるのかただ巻き戻しただけなのか知らないけど、その割には人格に大差ないんだなあって。並行世界だとしてもいろいろずれがあると思ったんだけど」
「まじでまともじゃん。俺はそれ二択だと思う」
ちなみにソースは夕映。同じ世界軸で巻き戻しているから、異なる並行世界ではあるが酷似しているかの二択だが、十中八九前者だろう。夕映は大事な情報をぼかすが、本当にこういうところで案外貴重な情報源になったりする。つまり俺の『循環』こそ同じ世界軸という前提で巻き戻す手段なのだろう。
「ほえー。なんだかんだとおるより情報持ってそうだね?」
「そりゃあ逆行者身近にいたし」
二人もな。主な情報源は夕映一人だけど。
それはおいといて。
「で、こっちがひなたさん。まあみんな知ってるっぽいけど」
「は、初めまして?それとも久しぶり?」
日向が言葉に詰まりつつそう挨拶する。
「よせや。俺に対しては初めましてでいい。確かに『前回』面識あったかもしれんが、それはそれ、今回は今回だ。初対面なことに違いないんだから前回を前提に話するのはやめだ」
「……そう、だね」
そう話していると、有住が今度は意味深な顔で見ていた。
「また今度は何だよ」
「……べっつにい?」
「……なんだそれ」
「いやあ。それ是非とも、君から深月ちゃんに言ってあげてくれないかなあって。一番この件を気にしてんの彼女だし」
そんなことを言われた。それって、前回は前回で今回は今回、みたいな話のことだよな。逆行に関係ないだろうに何をそんな気にしてるんだ。
それに、
「深月って誰だよ」
問い返すと、
「『前回』会ってないんだね。深月育。ほら、顔色悪かったあの子です」
と日向が答えた。充喜にやけにかばわれていたあいつか。そんな名前だったのか、へえ。
「……その子の母親って深月命?」
「確かそんな名前。保護者だけど。なに、知ってんの?」
「……逆に汰絃は知らないの?教会に提供されたDNAの……元々の持ち主らしいけど」
「マジで?えー、『否定』っしょ?」
「うん……」
「おれはてっきり、深月ちゃんのDNAと思ってた。だって異能『否定』だし」
俺の考えている間に、衝撃の事実が有希と有住の会話で飛び出した。
「……ちょっと待て。は?親子共に『否定』持ってんの?」
「らしいね。異能って一人一つ、内容の被りはあり得ないんじゃなかった?」
と有住も半ば困惑気味だった。今まで静かに会話を聞いていた宥が声を上げる。
「……怜くん。たしか、記憶が正しければ、深月命って怜くんの保護者じゃありませんでしたか」
「……あ、そういやそうだった。……そういうこと?」
と有希も宥の言葉で感づいた。
宥のナイスフォローで俺も思うところがあった。
深月命は、歴史改変者だ。つまり異なる世界軸の深月育が深月命を名乗っても何ら不思議はない。
同一人物が同じ世界軸に二人いることが果たしてあり得るのかはわからないが、しかし入れ替わりとか逆行とかいろいろあるし、異能の内容が異能リビドーで変化していることもある。あとで夕映も込みで考察したいところだ。
有住や日向が首をかしげているので、
「深月命は確か逆行者だ」
と話すと、二人して同じ結論にたどり着いた。
「てか逆行者って何人いるわけ?」
「俺、充喜、深月命、……後二人は確定でいるな」
「いすぎだろ」
閑話休題。
俺、宥、有希の自己紹介も終えたところで、今回の依頼内容の説明に入る。
有住が言うには、事の発端は日向が襲撃を受けて逃げおおせたことらしい。
日向からその話を聞いた充喜は怒り心頭で生徒会室に飛び込んできたんだと。
「有住うううううううううううううう!」
「有住うううううううううううううううううううううううううう!」
「有住うううううううううううううううううううううううううううううううううう!」
と叫びながら生徒会室の扉を魔術で吹き飛ばして現れた彼は、開口一番に、
「見ろよ咲のこの傷!」
とがなり立てたので、有住はまず注意した。
「ああもう。今のこの時間は罠の新作を考える時間だっていうのに、設備をぶっ壊して騒いで。おれのとこに早速クレーム一件来てるんだけど、対応そっちがしてくれない?」
「それどころじゃないから早く」
「そこまでして見せたい女の子の傷ってなんだよ全く」
と有住が振り返ると、日向が充喜に引っ張られて首が締まっているのか完全に失神していた。明らかにそっちが重傷だが、最悪それは深月がいれば何とかなると考え、傷のほうに注目する。どう見てもかすり傷だ。
「ああ、随分しょうもない傷で盛り上がってるもんだねえ。まあどうでもいいけど」
「どうでもよくないよ、最近の都市伝説の殺人鬼にやられたんだ」
「殺人鬼?にしてはまた甘々だけど」
「『殺さない殺人鬼』!最近巷で流行ってるじゃないか」
「ああ、あれ」
確かにそれならありえるかあ、と有住は思った。
『殺さない殺人鬼』。都市伝説としてまことしやかに最近語られることの多い話で、なんでも夜中に仮面をつけた女に襲われて失踪、存在していた痕跡がなくなったりするようだ。物理的に殺すわけじゃないから『殺さない殺人鬼』。
「でも、そんな都市伝説を本気にするなんて珍しいね」
「逆行者だから気になるんだよ。『前回』だって似たようなことがあったんだ」
「へえ。ちなみにそれはどんな事件だった?」
「肉塊だけでも生きている状態とか、臓器、心臓がなくても生きてたりとか、首と胴体が分かれているとか」
「全然違う手口じゃん」
「そうだよ。でも、『前回』と今回で違う手口になったっておかしくないでしょ。幸い犯人はちょうどこの学校にいる。行くよ」
その理屈じゃ犯人が違ってもおかしくないはずだけど。
そんな有住の話は耳に入らないようで、充喜は生徒会室から出ようとするがその際に深月とすれ違う。
「ちょうどいい。育、ちょっと手伝ってくれないかな」
「えっと。おはよう……何の話かいまいち見えてないんだけど」
「ごめんな、朝から殺人鬼とかひなたさんが襲われたとかうるさくってさあ。今からその犯人に殴り込みに行こうとしてるんだよね」
「えっ」
深月は最近はあまりよくなかった顔色をさらに悪くして、
「……し、心配だけど。殴り込みは行かなくていいんじゃないのかな……」
と充喜を止めようとしたが、
「はあ?」
とにらまれ、
「う、うそだぴょーん……」
とらしくもなく冗談で返した。
そして突撃する羽目になり、今に至ると。
「ちなみに日向。どんな姿だったんだ、そいつは」
「たしか、灰色の髪、薄い青緑の瞳、黒いローブ、仮面の、私たちと同年代くらいだったよ」
「で、どんな奴が襲われやすいんだ」
「それはいまいち特定できなかったな」
「活動範囲と活動時間は」
「あくまでこの高校周辺で夜中のようですね」
これに関しては宥が答えた。パソコンで調べていたのだろう。
逆に今まで高校生に被害がなかったのが奇跡だろ、むしろ意図的に避けたんじゃねって邪推したくなるわ。それとも夜中だからなのか?深夜徘徊するやつくらい何人かいそうなんだけどな……。
「夜中にパトロールをすればいいのでは?そうすれば確実に犯人に遭遇できるでしょうし。範囲も絞れるのですから、やりやすいはずです」
という宥の提案に全員納得した。それが妥当だからな。
「しかし、犯人はどんな異能を所持してるんだろうね」
「異能者であるのは……確定?……魔術で再現はできないの……?」
「「絶対無理」」
俺と有住の言葉が重なる。
「存在した痕跡を消す、そんな物事の有無までいじるような真似は魔術では現時点できない。理論的にできるが実現が難しいともいうがな」
「まあ、だからこそ有無をいじれる異能者が化け物扱いを受けるんだろうけど」
俺と有住の交互にした説明に有希が首をかしげる。
「……?でも、魔術や異能を封じる手段はあるよね?」
「あれは封じてるんじゃなくてあくまで阻害してるだけだ」
「え、なにそんなのあんの。後でそのスクロールほしい」
「じゃあ情報一個あとでよこせ」
「取引成立―」
そんなやりとりとともにスクロール……魔術式のデータを先ほど交換した連絡先に送信した。
「有無をいじる……言いえて妙だよね。私の『昇華』は本来存在しない記憶をDNAの摂取というトリガーで得る。有希の『破壊』は本来存在していたものを破壊してなかったことにする」
「そうですね……怜くんも有無に干渉することができてしまいますし」
宥が言葉を濁したのは俺の『循環』と異能リビドーの関係性についてだと思われる。教会関係者に俺の異能に関して情報を出したくないからだろう。どうせあちらも情報を出す気はなさそうだからそれでいい。現に深月に関して言及してないし。
「……でも宥は無理なはずだ。一番魔術に近い異能で、有無をいじれない」
「『書換』ですよね。たしかにあくまで書き換えるだけで元からないものを作り出すとかは無理ですね」
「そうそう。魔術は現実の書換であり、宥はその上位版。だから魔術から異能を再現するとっかかりは絶対『書換』なんだよな」
厳密には夕映の『操作』もとっかかりやすいのだが、あえて言わないでおく。
「えー。何そのすごく面白そうな研究。おれもちょっと参加したい」
「ちょっとそれは」
「ケチだな」
以降たわいもない雑談が続いたが、今夜俺と有住がパトロールすることが決まったので無意味な時間ではなかった。
帰り道にて。
徹夜することになるので準備しようと思っていたのだが、充喜暁にばったり出くわした。
「げっ」
思わず蛙がつぶれたかのような声が口からこぼれる。
普通なら別にどうもなかったが、周りに誰もいなくて、ほかの仲間や生徒会のはすでに帰宅していて、彼がとてつもなく殺気を発しているからだ。戸締りをしていたから仕方ないとはいえ、それでも帰るのをちょっと待ってもらえばよかったかなあ、と遠い目になる。
「……えーと、充喜さん?なんか怖いんだけどどうした……?」
「気のせいってやつじゃないの」
「あ、えー。そうだ。深月の体調はどうだ」
最後まで言い切れなかった。余計に殺気が膨らんだからだ。あー。これ爾来踏んだ臭い。
「……丈凪怜。覚えているかな」
「な、なんだ」
「ほら。……今から二年後に決闘を申し込んだよね」
「おっそうだな」
「あれ、……撤回」
「え」
「今殺す」
瞬間、いつの間にとりだしたのかナイフを軽く振った。魔力撃がゼロ距離ともいえる超近距離から猛スピードで迫ってくる。
「あっぶねえええ!?」
なんとか左に避け、身体強化を使用する。そして間近に接近して、充喜に対して『循環』で重力の向きを変更……できない?!
「うおっ」
その隙に蹴りがきたのでその足を何とかキャッチし、投げ飛ばして落としたナイフを影目掛け投げたが、光の反射をいじる魔術を使用されて影が消え、効果が発揮されることなくただ地面に刺さる。それを拾い上げ、再び突貫する充喜。俺は護身用のナイフを取り出し、振りかぶっていたナイフをはじくように打ち込む。直前で角度を変えたので、真っ向から鍔迫り合いをする構図になった。
「どういうつもりだ」
「どうもこうもない。やっぱ今殺さないとだめだ」
「今殺す意味ってなんだよ」
「それは関係ない」
「いいから言えよ!お前の都合だけで濡れ衣着せられたうえに二年後って話を覆されても俺は迷惑なんだ」
「問答無用!」
ナイフをはじかれ、俺が防御魔術と創造魔術を同時構築して状況の打開を狙っていたが、
「その通りだぜ?そこな物騒な生徒会君」
という言葉とともに充喜めがけてお茶のペットボトルが飛んできて、ふたが開いていたのか充喜はお茶まみれになった。
「……はい?」
充喜はさっきまでの鬼のような形相が、なんということでしょう。鳩が豆鉄砲を食ったような顔になったではありませんか。
俺がお茶の飛んできたほうを見ると、そこには男性がいた。
全身ジャージ、最近開発された完全遮音性のヘッドホンを装着し、金に赤のメッシュの入った髪はぼさぼさである。長身瘦躯で、高校生とは思えない、そんな老け顔気味な男。きっと、俺も初見なら間違いなく年上だと判断しただろう。
……そう、知っている。俺はこの男を知っているし、何なら一番今出会いたくなかった男、彼こそは本郷拝祢。
「誰だよ……僕の邪魔しやがって」
とイライラした様子で睨む充喜だが……どこか違和感を抱いた。
なんというか、想定していた反応じゃない。
本郷は続ける。
「いや、それが邪魔じゃねえんだよなあ。なんせ昔の仲間に濡れ衣着せてそれを戦う理由にしようってちょっと乱暴なんじゃねえかなってさあ。どうせ本心でもないくせに、よくやるよ。なあ『丈凪怜』さんや」
「……は、」
充喜が本郷の言葉に固まる。くそ、やっぱこいつはもういろいろ把握してやがる。
本郷がこちらを見るので慌てて異能を封じる魔術を施す。重ね掛けできるように四つは待機状態にしてある。
「そりゃそこの『充喜暁』さんもキレるわ。……ん、これは……面白い。異能を封じる魔術とかおもしれえわ。ま、解けなくはないけどいたちごっこっぽいし、異能がなくても話できねえわけじゃねえんだからそういうことでいいや」
けたけた笑った後ウソ泣きを始め、
「しかしひでえなあ。一応初対面なんじゃねえの?前に遭ったことあったっけ?それとも誰かから聞いてんの?青髪ちゃんの仕業?困ったなあ」
と空々しい態度だった。
「さあ、どうだか」
「つれねえなあおい。せめてそこの丈凪怜を見習ってくれねえ?」
「ふざけるな。それよりどういうことだ?やはり本心じゃなかったのか」
と最初の発言に話を戻すと、本郷は
「そうだぜ?でも素直には教えてやんねー。情報料払えよ」
と言った。話から置いて行かれている充喜など構う余裕がないので、何も言わないのをいいことに金を支払う。
「これでいいか」
「うひょー、大金じゃん。流石『院生室』とも同盟組んだ今裏で注目の組織のリーダー」
「そんなに有名か?」
「モチのロン。あの『院生室』がニッコリな研究の相方ってどんな奴だよってなってるぜ。むしろ知らん奴は相当の潜りってね」
「……まあいい、早く理由を言え」
「へいへい。実はさ」「言うな」
本郷が話そうとしたタイミングで充喜が遮った。
「……その情報を買うから、誰にも言うな。代金は、そこの男の異能無効化魔術を切るために異能を封じること」
そしてとんでもない内容で交渉を持ち掛けた。
「おいふざけんな。こいつに情報漏らすのだけは論外だ」
「そっちこそふざけないでよ。僕の内心を聞き出すなんてそんな土足で人の領域に踏み入るような真似して自分の情報を漏らされたくないとか何言ってんの?」
『わかった、この取引はやめるから黙れ。世界が滅んでもいいんか』
伝達魔術に切り替えてそういうと、
『世界が滅ぶ……ちょっと待って。どういうこと?』
と混乱していたがとりあえず黙った。……本郷に遭ったのは最悪だが、充喜と殺し合うのを回避できたのが不幸中の幸いだな。
まあ、俺もらしくないことをした。情報量は渡したしあいつの性格上返さないだろうから、別の質問でもしてごまかすか。
「……あー、別の質問に変える。情報代はお前のものでいい。自己紹介しろ、こいつのためにな」
「つまんねえなあ。まあいいや、耳をかっぽじってよく聞け。俺は本郷拝祢。しがない情報屋だ」
そう、『全知』の情報屋は名乗った。
本郷拝袮(ほんごうはいね)
…フリーの情報屋をしてる異能者。「前回」は主人公に丈凪怜の仲間とみなされ処分された。真白も世話になっているが、真白は主人公の情報を出さない前提で関わっていた。主人公が「前回」本郷と会っていることは真白は知っているが、本郷と戦って、(主人公が生きのびている=)勝利したことまでは知らなかった。
……ん?これ、真白の設定補足になってない?と思ったそこの貴方。勘のいい読者は嫌いじゃありません。