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そちらも閲覧よろしくお願いします。
※この作品に関係はありません。同じシリーズの別作品というだけです。
本郷拝祢。『全知』の異能者。異能リビドーは『神経過敏』。
対象を一目見ただけで、対象の記憶、感情、能力をすべて読み取ってしまう、そんな効果の異能を彼は使いこなしていた。攻撃はすべて回避、受け流し、確実に相手の急所に攻撃をヒットさせる。初見の魔術式もすぐに記憶し、戦いながらその略式を作成、改良してまた相手に繰り出す。『前回』の俺が、黒守刹那と実力が同等以上ではないかと戦っていて思った魔術師だ。
そんな彼は情報屋として働いていて、今のところは、殺すことを楽しんでいた『前回』よりも話ができるように感じた。やはりまだ『前回の』丈凪怜と彼が出会った時期だからだろうか。しかし、夕映の話をそのまま信じるなら、本郷拝祢という男が世界を滅ぼす根本的原因らしい。
充喜が俺の異能を封じて、俺が異能を封じる魔術を維持できなくなるように仕向けた際は背筋が凍るような思いだったが、何とか乗り切った。
しかし、充喜はまるで『初見』のような反応をしていた。仲間なら面識はあるはずだが。
思考にふけっていたが、充喜の一言でその疑問は解決した。
「何だよあいつ……『前回』では見たことないんだけど」
「……はあ?覚えてないのかよ」
「覚えるも何も、本郷?そんな奴知らない。むしろどこで知り合ったわけ?」
「いや、そりゃ……『軍』の推薦任務だよ。お前たちを殺せって話だったが、仲間にカウントされてたから倒したんだ」
「ええ?僕の仲間は最初から二人しかいないよ。汐宮と一条の二人だけ」
何言ってんのこいつ、とでも言いたげな顔で俺を見る充喜に、俺はさらに質問を投げる。
「いや、でもお前、このメモの年月は仲間と出会う時期だって」
そう言って俺は懐から、三年半前に充喜から渡されたメモを見せる。充喜は奪い取って流し見した後、
「そう言ったけどあくまでも、汐宮と一条と出会い普通に友達になって、汐宮が完全に殺人鬼に代わってしまって二人とも人格が豹変する時期を書いたんだ。あんな奴と出会う時期なんて知るわけない」
とそのメモを捨てた。
「二人が豹変するって」
「『前回』は汐宮が犯人だったんだよ!もう人を殺さないって約束したのに、あっさり裏切られたんだ!」
そう俺の言葉をさえぎって、さらに続けた。
「僕の時は普通に高校に通えなかった!秘密結社のようなものは作ってたけど、後ろ盾なんかなかった!汐宮は常に理性で殺人癖を抑えて、一条がなんとか彼女を支えていて、それでも汐宮は壊れたんだ!魔術師のせいで!」
「……」
「戻らなくなった。一条が先に壊れたから。そして見境なく人を殺した。僕は許容した。するしかなかった。魔術師が本当に憎いものでしかなくなった。彼らを壊したのはそいつらだから、彼らが壊しても、それに僕が便乗してもいいだろ。そういう覚悟をしたうえでの行動だったんだろ。でもどうだ?君に仲間は殺されたし、僕も何もなせず死ぬだけだ!そんなの納得できるか!」
「……そんなに違っているのか」
宥の殺人癖が暴走したのは中学一年の時だ。
教会とやり取りして有希に干渉しないようにセッティングしたのは中学三年の時。
『殺さない殺人鬼』の件、充喜は汐宮を疑った。当たり前だ、まさか俺のところに『軍』『教会』が押しかけてきているなんて思ってなかっただろう。そもそも『前回』同じ歴史をたどったなら、『軍』の時点で、ただの異能者でしかなかった『丈凪怜』は死ぬしかなかったはずだ。
普通に高校に通えているのも、俺が普通に生活できているなら当たり前だとも思っていたかもしれない。
前提が何もかも違うことを、『充喜暁』の人格が『丈凪怜』の人生をなぞるという状態が崩壊していることを、自覚できてはいないが、しかしどこかで分かっていた。
明らかに宥の手口とは異なる手法。相も変わらず高校に普通に通っている俺たち。感情豊かな、感覚器も何の異常も抱えていない有希。
答え合わせが目的なら戦う意味がない。するまでもなかっただろう。だが、こいつは戦おうとした。戦う理由を欲して、宥に濡れ衣を着せた。
……色々ごたごた考えてみたが、よくわからんな。もっと単純に考えよう。本郷の言葉をそのまま借りるのがいけない。金をもらわず出す情報を信用できない。
そもそも『殺さない殺人鬼』の話とこの戦闘が関係あるのか?
深月の話をしたとたんこの戦闘が始まったよな。つまり深月とは関係ある。けど深月が『殺さない殺人鬼』と決めるのは時期尚早だ。
「なあ充喜。お前、何のために俺と戦ったんだ」
「……その前に、『答え合わせ』だけさせて。『前回』と『今回』はどこまで違っているのか知りたい」
俺の質問に質問で返す充喜。戦いを意味するものではないことは、殺気から分かったので別に不満はない。要点だけ話した。
『前回』は深月育と会っていないこと。日向咲を殺さざるを得なかったこと。有住と生徒会を乗っ取ったこと。『今回』は夕映とともに深月命に保護され、宥が『軍』にスカウトを受けて殺人鬼として暴走したが『循環』でなんとか戻せたこと、有希が平穏に過ごせるように『教会』と交渉したこと。
充喜も話を聞きながら相槌で差異を話してくれた。
深月育とは小学生の頃出会い、正体を把握したこと―肝心な正体は教えられなかった―、日向咲とは『教会』との交渉の末に生かしたこと、有住と深月、日向と四人で生徒会を乗っ取ったこと。『前回』は誰にも保護されなかったし夕映とも出会わなかったこと、一人で生きているうちに宥、有希と出会ったこと、仲間としてその日ぐらしをしていたら『教会』と出くわしたこと、有希が主に戦っていたが大きく傷を負い、宥が戦うことを強いられて暴走したこと、それを打ち消そうとした有希も打ち消せずに壊れてしまったこと。
その中で深月についても知ることができた。
深月育。魔術師志望。異能は『否定』、異能リビドーは『自傷癖』。戦闘を好まない故に実技ではあまりいい成績を出せないが、攻撃以外は好成績の優等生。
そんな彼女は、充喜の逆行の話を聞いて以来、どこかよそよそしくなった。
いつ目の前からふっといなくなってもおかしくない。そう思わせるほどに、彼女は人との距離を置こうとし始めている。
自分が大嫌いで、自分にとって都合の悪いものを一切信じない、物分かりがいいのではなく物分かりがいい振りでしかない、そのように自分を表する彼女は一見かつての宥に似ているが、しかし宥と違って全く感情を表に出さないから厄介だ。
『前回』の話に深くかかわっている丈凪怜は、違う意味でも彼女にとって地雷で、そんな男と関わって万が一があれば、翌日にはきっと自分を『否定』してでもいなくなる。そう思ったから過剰に反応した。
最近体調が悪いのも、『否定』が関わっているからだろう。最近は病床に臥せている。学校には一応通えるようだが、最近は保護者の深月命がいないようだから心配だ。
そんな話だった。
……まだ伏せている情報は間違いなくあるだろう。だが、それさえわかれば十分だ。
世界が滅ぶという言葉の意味も聞かれたが、深月について伏せている情報と引き換えにしたら黙ったので、それだけ言いたくないって意味だ、と適当に話を流した。
これで暫くは充喜もおとなしいだろ。
俺は急いで帰宅した。
23時頃に有住指定の合流場所に足を運ぶと、
「お、来たなれんれん」
陽気にこちらに手を振る有住に、俺も軽く手を振る。
「れんれんってなんだよ。その呼び方やめろ」
「いや、これから深夜行動を共にするわけでしょ。おれの戦い方ってほら、れんれんはよく知ってるだろうけど基本他力本願、卑怯が誉め言葉なもんだから、会い方と親睦を深めとこうかなあと」
「やめろよ気色悪い。てかお前のそれって市街戦滅法ダメなのになんで最初のパトロール役を名乗り出たんだよ」
「それはあれだ。生徒会長として最初に危険な役目を追わないと」
「まともに生徒会長やろうって気はあったのか」
「と言ったら信じてくれる?」
「ウソかよ!感心したさっきの俺を返せ!」
ちなみに有住の戦闘スタイルは敵の攻撃をことごとくよけながら罠を貼りまくり、その罠にかかった瞬間に真綿を詰める戦法だ。手段を問わず勝ちを拾いに行く戦法だが、敵の攻撃で建物が壊れて罠が台無しになりかねない市街戦はこいつにとって一番得意な戦法を封じているようなものだ。がれきを使うこともできるが、そこまで有用性はない。
「まあ、一芸では務まらないだろ?魔術師なんてさ。おれは役立たずにはならないよ」
「実際どうなんだよ」
「勿論!サポートに徹するっ!」
「結局サポートかよ!」
「最初だったら言い出しっぺの法則で行ったやつが事故るとかあるけど、言い出しっぺは俺じゃないのでなんとかなるでしょ、多分、きっと、メイビー……!」
「しかもそんな無理やりな理屈かよ!」
そんなたわいないやり取りをしつつ、有住はエナジードリンクを一口含む。
「あ、それ俺にもくれね」
「百円。できれば枚数多めで」
「あーはいはい、十円玉十枚な」
「まいど」
未開封のエナジードリンクを投げ渡され、キャッチしてすぐ飲み始めた。
「あ、このエナドリうまいわ」
「だろ。魔術論文作る時には最適なんだなこれ」
「へえ。徹夜とかしょっちゅうするのか」
「あと『教会』の立て直し案とかね」
そうだった。そういやこいつ、『教会』の『神父』の息子だった。
ちょうどいい、『John』との協力関係を築いておこう。そう思い、口を開いた。
「……『教会』の立て直し。具体的にはどうするつもりだ」
「人体実験をやめさす。そこはマストだね」
即答された。結構いい回答だ。
「へえ。ほかになんかあるか」
「……数年後、具体的なことは全く知らないけど、大きな作戦があるみたいだ。それまでに『教会』に戻り、その作戦を阻止する。どうも親父の計画の一助になるとか言って、いいこととは思えなくてね」
「阻止するなら発言力を高めないとだろ。それに有希たちを逃がしたのもお前だ。どう警戒されてるか」
「そのへんは平気。最悪幽閉されるだけだから、余裕を持って次の生徒会選挙で会長をとおるんに譲る」
「……来月かよ」
何をもって処分される可能性はないとしたのかはわからないが、ここについては聞いたところで意味もないだろう。しかし来月って……割とすぐだよなあ。
話は続く。
「阻止できなかったら?」
「……作戦失敗にどうにか誘導するしかない。理想は親父が一時的に指揮権をとれない状況で指揮権を乗っ取ること。正当性はある」
「一時的でいいんだな」
「死んでほしいわけじゃないから。親父としては尊敬してるし、魔術師としてはあこがれてる。ただ組織の長としてはそんなプラスに見れないだけなんだ。そして、それでも、父親として生きて、幸せでいてほしい」
そう有住は語っていた。有住とは『前回』はここまで深く話さなかった。
日向を死なせた罪悪感と、父親に対しての中途半端な感情。互いに深く踏み入れない事情があるから立ち入らなかった領域。だが、今は互いに知っているし、立ち入ってでも知っていかないと、世界の危機とやらに立ち向かうために自分の感情を押し殺して最善を選ぼうとする夕映に失礼だ。
「……俺は異能差別を解消するための秘密結社の代表をしている。すでに『院生室』という後ろ盾もある。……協力することはできるが」
「いや。これはおれがけりをつける」
「そうか」
「でも……面白そうだ。だから、無事に済んだら『教会』も協力しよう」
「分かった」
そう俺が返すと、有住から尋ねてきた。
「……おれがやろうとしてることって結構厄介だと思うけど、おれがお願いって言ったら」
「ああ、協力する気だった」
「なんで?」
ストレートに聞かれたそれに、俺は、
「さあ、なんでかな」
と答えた。
「適当か」
「ああ、いや。人助けに理由なんかいらないんじゃねえのって。しいて言えばそうだな、面白そうだから」
叔母の受け売りだけど、という言葉は伏せた。
「おれの言葉そのままじゃん」
と苦笑いして、否定するのもあほらしいので俺は聞き流した。
そんなことを話して何時間たったか。空が白み始めた時、一般人の悲鳴が聞こえた。
駆けつけると、情報通りに仮面女が一般人を襲って、ちょうど人を消したあたりだったが、接近に気づかれ、大量の弾幕が先を走っていた有住めがけて来た。
有住は体をねじらせて一つ目を回避、二つ目をナイフで切り、三つ目を防御魔術で防ぎ、四つ目を起動させた攻撃魔術で若干角度をそらし、五つ目は懐の十円玉を指ではじいて先に暴発させたあと、風煙をナイフで薙ぐ。
裁ききっている間に、俺は女の懐に縮地で超接近し、足に身体強化と雷系統の魔術を付与して脇腹に素早くけりを入れる。女が足を受け止め、しゃがんで足を突き出すので飛んで避け、着地の際に飛び蹴り、さらにねじった勢いで左、右とけりを放つ。防壁魔術で防がれるのは想定内で、首元に指をあて、雷魔術を撃ちこむ。
「―っ」
反応したのは一瞬だけで、そのあとは何事もなかったかのように右、左と拳を入れる女。あえて大げさに飛ばされてダメージを無くしている間に女は再び弾幕を有住めがけて放ち、着地した俺のもとへ向かう。
「れんれん、これすっごくよけにくい!無意識でやったら避けた方向にくるんだ!そっちにレールガン」やってる場合じゃなさそ!」
「そんなにか!」
右、左とくる蹴りを腕で咄嗟にガードし、腹部を殴りつけた後に背負い投げするが、それもあっさり解かれる。そしてそのまま距離を取ってくる。
「……超戦いにくいな、たしかに。なんだこれ」
普通の人がとるような戦闘行動のパターンを組んでその対処法を考案したのが所謂戦闘理論なのだが、そこから外れた動きをするうえに、確実に落としたと思っても落とせていない。よくわからない動きをする。
しかも、得意の『存在した痕跡を消す』とか『行方不明にする』とか一切してこない。そういうそぶりがない。
これには首をひねったが、しかし一般人に女が触れた瞬間たしかに人は消えていたのだ。
どういうことだ……と思いながら仮面の女に対峙するが、女はとたんに戦闘態勢を解いて姿を消した。
「まだ余裕あっただろ、マジでどういうこと……?」
その疑問に返答できる人はいなかった。
「し、汐宮さん」
「……?深月さん。私に何か用でしたか?」
「その。……丈凪くんは、あの、二回目……なんだよね?」
「……そうですね。それが何か」
「教えてほしいんだ。……どっちで見てるの?」
「どっち、とは」
「怖くないの……?殺されたんでしょ」
「いえ、彼はそういう人ではありませんし……それに」
「それに?」
「『今回』の彼しか私は知りませんから。『前回』どうだろうと私が彼を恐れる理由足りえません」
「……」
「納得できないのでしたら、本人と直接話すのはいかがでしょうか」
「いいの……?」
「?断る理由はないはずですよ。彼は誰にも優しい人ですから」
「でも、暁くんが」
「彼も色々考えてあの態度になったのでしょうし、怜くんがもう既に解決した、とも。深月さんなりに、色々整理してから話すといいのではないでしょうか」
「……そっか」
「……私にはよく、深月さんが何に悩んでいるのかわからないですけど。頑張ってください」
「……ありがとう」