弱くなってニューゲーム   作:桜油

26 / 56
そだちdeny⑤

翌日の昼。

 

 

 

俺が徹夜した分寝ようと思って机に突っ伏していると肩をたたかれた。

 

俺がクラスメイトとまともな交友をしたためしはない。宥は別のクラスだし、有希だろうな、と思って顔を上げる。

 

 

 

「ん、やっぱ有希か。どうした」

 

「……起こしてごめん。やっぱ眠たかった?」

 

「いや、平気だ。どうしてもって用事なんだろ」

 

「えっと。……まあ」

 

なんか煮え切らない返事をするので、

 

「なんだよ。はっきり言ってくれ」

 

というと、有希は

 

「……深月さんが、怜に用事だって」

 

そう廊下を指さし、見れば確かに深刻そうな顔をした深月の姿がそこにある。顔色は相変わらずそんなに良くないのだが……俺に用事って何なんだろうか。

 

 

 

本当は寝ていたい、が充喜からあんな話を聞いた手前でこんな顔をしている深月を放っておけるはずもなく、俺は席を離れる。

 

「深月?どうした」

 

「……ちょっと、こっちに来て」

 

と強引に手を取られ引っ張られる。抵抗するのも、とそのまま向かっていくと、魔術科の校舎の廊下まで来た。普通科の制服と魔術科の制服が全く異なっているので、一人普通科の制服を着ている俺がひどく目立ち、ひそひそ言われている。

 

……いや、よく聞くとそれだけじゃなさそうだ。

 

 

 

『見て、でくの坊が男連れてる』

 

『似てるけど兄弟か何か?』

 

『うわー、普通科か。おそろいの兄弟だ』

 

『でもかわいそう。最近はあざとか多いじゃん』

 

『虐待までされてんの?やば』

 

『え、でも今なくない?』

 

『バケモンじゃね』

 

 

 

……深月は孤立しているのかもしれない。

 

そんなの気にするわけでもなく、やがて人目のないところに出て振り返った彼女は、

 

「ごめんね、呼び出して」

 

と頭を下げた。

 

 

 

「いや、問題ないぞ」

 

「……お願いが三つあるの」

 

そう彼女は切り出した。

 

 

 

「かなえられる範囲なら」

 

「一つ目。……私を『いく』って呼んで」

 

「……?」

 

 

 

深月の名前はみつきそだちのはずだが、なぜそう呼ばせるのだろうか。いや、難しいことじゃないからいいけど。

 

 

 

「いく。これでいいのか?」

 

「……うん。次はね、抱きしめて。こう、家族を抱きしめるってイメージ」

 

目を閉じて頷いた深月は、そう言って腕を広げる。

 

 

 

家族って……そんなのやったことがないからいまいちわからない。

 

夕映相手ならある……かな?夕映をイメージして抱きしめてみる。

 

 

 

「……あはは。君、好きな人のイメージでもしたでしょ。思ったのと全然違うや」

 

深月は俺の胸の中でそう言って、離れた。

 

 

 

「うん、ありがとう。……最後に、質問に答えてほしいんだ」

 

「あ、ああ」

 

「たとえ話。実の兄がいることは知らされてるけどここ十年かかわりがない。そんな時……実の兄が、別人と入れ替わってて、それを知らずに別人のほうに恋したとする」

 

「お、おう?」

 

なんともずいぶん具体的というか、限定的な話というか。

 

 

 

「それで、……その入れ替わりを知った時、『私』はどっちに恋をした、って誇ればいいのかな」

 

「その別人の体のほうだろ」

 

即答した。

 

 

 

「お前が知っているのはその別人の体のほうだろ?いずれ元に戻る気があるのか知らないが、でもそれなら、その別人をその別人という個人として好きになったんじゃないか。昔は昔、今は今。もとの肉体での関係に固執してもいられないだろ」

 

俺なりの考え方だけど……でも、誰の話をしたいのか、なんとなくわかったから。

 

 

 

深月はその言葉に目を見開いて、

 

「そっか、……そうだよね。それでいいんだよね」

 

と笑いながら涙を流していた。

 

 

 

「……これでよかったか?」

 

「うん。おかげで覚悟決まったよ。ありがとう、急用に行ってくる!」

 

と俺とすれ違い駆け出して行った。表情はどこか明るかった。

 

 

 

よし、普通科に戻ろう。そう思って普通科校舎に足を向けたら、すぐ後ろに宥がいた。

 

「……そこで何してたんだ?」

 

「ご、ごめんなさい。でも、気になっちゃって」

 

「気になった?」

 

「私、怜くんに会うように深月さんに言った張本人ですから」

 

「あーなるほど」

 

「でもよかったですよ、深月さん。これで少し元気になってくれればうれしいですけど」

 

「かなり親身に接するよな」

 

「ええ、……どう接したらいいのかわからないって気持ちはわからなくもありませんから」

 

「いや、宥の場合は許す即答だっただろ」

 

「ええ、まあそれはそうですけど。そう言えるにも少しは悩みましたし、真白さんもちょっとわからないって悩んだんですよ?」

 

「うーむ、そんなもんなのか」

 

「はい。人生経験が既に違いますし」

 

そう会話しながら教室に向かった。

 

その翌日から、なぜか『殺さない殺人鬼』を見かけなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

一週間後。

 

 

 

部室でいつも通り駄弁っていると、今度は部室のドアがいきなり吹っ飛んだ。

 

そしてものすごい剣幕で充喜が入ってきた後、しかし今度は俺の胸ぐらをつかむでもなくどっかりと座り込む。今回は日向も有住も深月もいない、一人だ。

 

 

 

「充喜。どうしたんだ、そんなに怖い顔して。殺人鬼がわいてないだろ」

 

俺が話しかけると、俺をぎろりと睨みつけては机を強くたたいた。

 

「ふざけるな。殺人鬼は活動してたぞ。昨日、咲が重傷を負った!」

 

「……はあ?でも昨日、見かけてないって有住が」

 

確か当番は有住と日向だったはずだが。

 

 

 

「その見かけてない間に日向がやられてんだよ!一瞬で!!!今は有住が面倒見てる……!」

 

「……深月はどうしたんだ?」

 

「そう、僕が一番文句言いたいのは育のことだ!」

 

俺の質問に声を荒げて続ける。

 

 

 

「最近、『大丈夫』ばっかり言うんだ」

 

「……」

 

「クラスの仕事も、先生の手伝いも、生徒会の仕事も、全部やってしまうんだ」

 

「……それは、」

 

「育の気に言っていたものをわざと汚されても、大丈夫って笑う」

 

「いじめ、続いてるんだな」

 

「バイトもサービス残業をして、昨日なんか親に殴られたって言ってて、それでも大丈夫っていう」

 

「……」

 

「クマができても、あざが顔にまで増えて、傷跡も増えて、それでも、大丈夫って。そして、今日は来なかった。……こんなの、大丈夫なわけないだろ!」

 

そこで息をつき、充喜は切り出した。

 

 

 

「一週間前の昼休み後からずっとこうなんだ」

 

「えっ」

 

 

 

これに、今まで口を挟まなかった宥が声を漏らした。

 

そうだ。俺が深月と話したのはちょうどその昼休み。深月はそのあと急用があると言っていたが……。

 

 

 

そんなことは知ってか知らずか、充喜は宥と俺をにらんだ。

 

 

 

「もうわかってんだよ。昼休みにお前らが話したの。何言った。きりきり吐け」

 

「一応聞くけど。……お前、その昼休みは育と話したか」

 

「はあ?話してないけど」

 

そうあっけらかんと話す充喜だが宥は

 

「仲間のことなのにずいぶんと無責任ですね。何か、覚えてないんですか」

 

と珍しく怒っていた。

 

 

 

「何怒ってんのさ。何かって……咲と会話してたんだけど」

 

「何をですか」

 

「はあ……?咲に『今後の話』をされただけだよ」

 

「今後の話っていうと、『異能リビドー』のことか?」

 

俺も口をはさむ。有希は「……たしか、咲は食人だったっけ」とぼそっと呟いていたが、この場には冷静でない宥と日向の異能の内容を把握している人しかいないので問題ではない。

 

 

 

食人をどう対処するか。その答えを出せたから日向は今生きている。

 

そして、『前回』を思い出せばわかる。

 

 

 

「……お前の血を栄養として昇華するようにしてるから、おまえがいないと日向咲は生きられない。そうだろ?」

 

「そうだよ。でもそんなの育は知ってることだ」

 

目の前にいたんだから、と言って続けた。

 

 

 

「どうするんだ」

 

「僕は咲と仲間として協力する気はあるけど、伴侶とか関係ないって言った。咲からアイラブユー、って言ってきたんだからそうかえしたけど、僕が振るのはわかってたから笑い話だった」

 

「……そのあとは」

 

「ああもう、なんでそこまで……育とはどうなのって言うから、正直に『妹としてしか見れない』って」

 

 

 

充喜の言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 

宥がビンタしたのだ。充喜を。

 

あまりにも驚いたのか充喜は顔の向きを直してもぽかんとしていた。が、宥はそんなのお構いなしだった。

 

 

 

「ふざけないでください!」

 

宥は涙を流していた。本気で怒っていたのだ。

 

 

 

「……汐宮、」

 

「最初からずっと思ってましたが、あなたは人の心を踏みにじる天才ですね!濡れ衣着せるし、人が本気で悩んでるのに微塵も気づかないし、その帰りには自分の勝手な都合で人を襲って、いじめられてると気づいているのに何の対応もしません、人が勇気を振り絞って話をしに行こうと思えば、妹としてしか見れません!?バカなんじゃないですか!人を馬鹿にしてますよね!」

 

「……」

 

「おかしいでしょう、しかも人を疑って話を聞かないって、自分にとって不都合なことは全部見て見ぬふりでもしていたいですか!人を攻めるしか芸がないですね!」

 

「それは、」

 

「あなたが話を聞かないなら私もあなたの弁明などききたくありません!そもそも、『前回』と『今回』のどちらを生きてるんです!?『今回』の咲さんとはそういう関係になれない、けど『今回』の育さんは『前回』の妹だからって、『前回』がどうとかじゃなく、第三者からすれば今のあなたは充喜暁さんじゃないですか!『前回』とか『今回』とか、そんな自分勝手な話に、逆行者でも何でもない人を巻き込まないでください!」

 

「……」

 

「全然大丈夫じゃない?ええそうでしょうとも!むしろなんで笑ってられるのか私が聞きたいです!人の感情も意思も踏みにじられてますもの!よりによって、あなたという幼馴染に!!!」

 

「……」

 

「人の気持ち、もっと考えてくださいよ!!!」

 

 

 

そこまで言うと宥は口を閉じて顔を伏せ、

 

「……日向さんのところ行ってきます。もう、深月さんに私から何言ってもだめかもしれませんが、なんとか情報を得て探りたいと思います」

 

そういって部室を飛び出した。

 

有希も後に続き、俺と充喜だけになる。

 

 

 

「……お前、ばかだろ。もっとそいつを見てやれよ。『前回』とかそんな普通人に通じないようなフィルター通すんじゃねえ」

 

「……そういう君はどうなんだよ」

 

「俺は、……初恋が咲だったんだ」

 

「……」

 

「今回生きてる。前回死んでたけど、今回は生きている。でも、だからって告白する気にはならなかったな。俺の前回の初恋は、咲が死んだその時に終わったんだ。今回は……もう、既に大切な奴がいるんだ。悪友みたいなもんだけどな」

 

そう言い残して、俺も部室を去った。

 

 

 

 

 

 

 

日向の傷は、有住が回復魔術を使い続けているのに治る気配がなかった。

 

「……何か原因があるのか」

 

「あー。うん、どうにも回復魔術の効果がはじかれてる感じでさー。汐宮っち、ちょっとひなたさんの状態書換とかしてくれない?」

 

「わかりました」

 

そう言って状態書換を行う。これで原因がわかるはずだ。書換と魔術の違いは元の状態との差異が追加効果でわかるということだ。

 

「んー……これ、魔術の効果がでないようにされてますね。原理は全く分かりませんけど。これで回復魔術が入るはずですよ」

 

「お、さんきゅ」

 

そう言って回復魔術を再開すると、確かに効果が出て、あっという間に日向の傷が癒えた。……一応そんなことをしなくても充喜の血を吸うとか食事をとるとかすればいいらしいけど、異能を使う体力がなさそうなので仕方ない。

 

 

 

「……ん」

 

日向の意識が戻ったので、様子を確認していくが特に問題はないようだった。

 

 

 

俺としても殺人鬼の正体は知らないといけない……いや、予想はできてるけど、確証を得たいというか。

 

 

 

「日向、病み上がりにすまんが質問に答えてくれ。殺人鬼に関する話だ」

 

「……なんでも、きいて」

 

 

 

栄養不足なのか片言気味だが、構わず聞く。そんな時間の猶予が残されているとは思ってない。

 

 

 

「まず一つ目。外見に変化はなかったか」

 

「だんだんしらがになって、めがもっとあおくなっていってた」

 

「次。戦闘スタイルは?」

 

「とちゅうまでよくわからないうごきかたしてたけど、だんだんようしゃなくなったよ。まるでさいしょはきずつけたくなかったみたい」

 

「……他には?」

 

「そうだね、まじゅつをつかってもうちけされたかな」

 

「……最後。何か言ってたか」

 

「……いえない。いいたくない」

 

 

 

俺の最後の質問だけ日向は返答を拒んだ。でも、それが答えのようなものだとはわかっているようで、日向はしばらくしてから再び口を開いた。

 

「……『ごめんね。もう大丈夫、もうすぐ終わるから』」

 

これで確信できた。

 

 

 

「ありがとな。質問は終わりだ」

 

そう言って俺は病室を出ようとするが、有住に呼び止められた。

 

 

 

「……結論は出たのか」

 

「ああ。お前もわかっただろ。多分、宥も、有希も」

 

「まあ。そんで、猶予もそんなないってことも」

 

「……探さないといけませんね」

 

「……僕も探す」

 

そういう三人を制止する。

 

 

 

「そこで日向を守ってろ。日向が万が一狙われたら、もう人を食わないと生きられなくなる。それに、見つけたらどうするのかわかってんのか」

 

「そりゃあ止めるんだろ」

 

「ちげーよ」

 

「はあ?」

 

 

 

殺人鬼は今頃どうしているかわからない。しかし、間違いなく充喜とは顔を合わせる。無理でも『あの男』が動く。面白半分で。

 

そして、俺にできることなどない。これはあの二人の問題なのだ。

 

 

 

「……下手に首突っ込めばバッドエンドだよ。『前回』とか『今回』とか、そんな個人的事情も今回絡んでる。そういうのは俺達逆行者の責任だろ!」

 

そういって駆け出し、探知魔術を使う。

 

……屋上にいるらしい。反応は二つだが、戦闘音は聞こえないので戦闘は行っていないと推測できる。

 

 

 

ああ、もう。反吐が出る。

 

人の不幸は蜜の味、とかほざくサイコパスがやっぱりこの件に首を突っ込んだ。こうなるとどう状況をかき乱されるかわからない。しかもどうでもいい理由でしっちゃかめっちゃかにするのだからたまったものではない。早く屋上に向かうことにする。

 

「そこで首を洗って待ってろ、余計なことをするな、本郷!」

 

 

 

 

 

「……僕は誰だ」

 

「そう、丈凪怜。異能者としてごみのように生きざるを得なくて、せっかくできた仲間も魔術師に台無しにされて、それでも幸せでありたかった、異能者。僕にとってのハッピーエンドが欲しくて逆行した決意の塊」

 

「……いや、充喜暁だ。その決意が砕けかけた時、育に救われた。咲を前に正しい選択ができたことが自信になった。有住なんて友達までできた、僕の価値を示すために決闘を望む、そんな魔術師」

 

「……僕は誰で、育は……」

 

「おい、充喜」

 

「……本郷?何の用だよ」

 

「深月育を救いたいってか?それとも仮面の殺人鬼を探したいか?」

 

「……その通りだけど」

 

「その二つが今日中に達成できるいい方法があるぜ?」

 

「ほ、本当?」

 

「ああ。いい近道を知ってるんだ。代金も今回は特別いらねえ」

 

「え、……本当に言ってるのそれ」

 

「マジ」

 

「……そこまでする理由は?」

 

「えー?理由なんか特にねえな……あ、じゃあこういうことでどうだ」

 

「人助けの理由なんか『面白そう』で十分、ってな」

 

「……頼むよ」

 

「へいへい、まいどあり。……こっちだ」

 

「……昇降口とは逆じゃないか。学校中探しても見つからなかったのに、凄いな」

 

「そりゃあ、オレは何でも知ってるからな」




次は大半が暁視点です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。