弱くなってニューゲーム   作:桜油

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長かった高校1年編もこれにて終了です。


たいとfake①

深月育の件から一か月経過後。

 

 

 

有住汰絃は誰もいない生徒会室で、下校間近のBGMがアナウンスされる中、書類の整理をしていた。。

 

そこに一人の男子生徒が入った。

 

普通科特有の制服。黒髪に赤の混じった黒い瞳、体術をたしなむもの特有の足運び。

 

「よ。邪魔するぞ」

 

そう言って声の主、丈凪怜は生徒会の副会長の席に座る。自然と向かい合うような配置になった。

 

 

 

「邪魔するなら帰って」

 

「それはできない相談だな」

 

と冗談を言い合い、丈凪から本題に入る。

 

 

 

「……もう行くのか」

 

「そうだね。生徒会長の仕事の引継ぎは終わったし、休学の手続きも終わった。深月ちゃんの話も終わり。なら、おれはもうおれのやるべきことをしに行く」

 

 

 

先日、生徒会選挙があった。

 

成績も生徒会としての経験も申し分無かった充喜暁が何の問題もなく生徒会長になった。この時初めて充喜は有住が学校を去る気でいるのを知ったらしく、殴り合いの喧嘩が勃発していたのは蛇足である。

 

そして深月もそのころちょうど復学した。この件に関しては事情を完全には知らない充喜に代わって丈凪が教師陣に決闘を挑み、深月の成績を一年間不問にすることを要求。勝利したため、深月は日向が勉強を教えることとなった。

 

そんなごたごたが終わったので、確かにあと二年後、充喜が丈凪に戦いを挑むまでは大した出来事はないだろうと、それが生徒会と『John』の共通の認識である。

 

だから問題ないと思い、予定通りに有住は『教会』に戻って内側から改革の準備を進めるつもりだった。

 

 

 

「本当に行くつもりなら……有住に頼みたいことがある」

 

丈凪がそう切り出す。

 

 

 

「聞こうか」

 

「充喜と俺の入れ替わりをたくらんだのは、真白夕映という女の子だ」

 

「……『歴史改変者』の一人?」

 

「ああ。世界を救うためにそんなことをしたらしい。どんな繋がりがあるかはさっぱりだが、でも逆行でいろいろ苦労していた時に隣にいてくれて世話になった」

 

丈凪は穏やかに笑い、言葉を紡ぐ。

 

 

 

「俺も協力するつもりではあるんだが、……彼女も彼女で色々大変でな。ある人物に命を狙われて、現在は自由に動けない」

 

「なるほど」

 

「……あいつには保険がある。だが、いろいろ改変したし、歴史改変者は三人もいる。何をたくらんでるのかわからないやつまでいる始末だ。」

 

そこで言葉を切り、視線を右往左往させ、丈凪は口を開く。

 

 

 

「……できれば、助けてやってくれないか」

 

「……自力では助けられない?」

 

「ああ。動くわけにはいかない。この時期、本来は俺はまともに高校すら通えていないはずだ。どんなバタフライエフェクトがあるかわからない。俺が行動した結果、これ以上に誤差が生じて、あいつの計画を壊して世界が破滅することだけは避けたいんだ」

 

歯がゆいし、やりたいことを諦めずやる俺としてはらしくないんだがな。

 

そう話す丈凪の拳から、血がにじんでいた。

 

 

 

有住は、「……分かった。必ず、見かけたら助けよう」と答えた。

 

「助かる。……無事に、『教会』の代表として帰って来い」

 

「もちろん。その辺は抜かりなく」

 

「そして、敵が何者であろうと殺すまではするな。追いかけない理由を作るか、足止めをするかの二択でいい」

 

「……追いかけられるまでが決まった歴史?」

 

「少なくとも、敵が歴史改変者になって以降はそのはずだ」

 

「……情報をどうも」

 

そう有住が締めて、戸締りを始める。すでに最終下校時間は過ぎている。

 

 

 

「しかし、れんれんも大変だな。ひどく生きにくいとか思わない?」

 

「まあな。でも、生きにくいのは世界の破滅を乗り切るまでだ。それ以降はとびっきり普通の人生を謳歌するつもりだ」

 

「普通って、異能者には難しいんじゃない?」

 

「そのための部活動だぜ?それに、……」

 

「それに?」

 

「……いや、なんでもねえよ」

 

そう言いながら丈凪も荷物をまとめた。

 

 

 

そして、有住が先に扉に手をかけた。

 

「じゃあな、れんれん。とおるに伝えといてくれないかね、とおるが三年生になって、次の生徒会選挙が始まったら推薦枠は、……」

 

しばらく考え、有住は扉を開けた。

 

「おれにはいらない、別の子に挙げてってね」

 

 

 

 

 

真白夕映は困惑していた。

 

黒守刹那に追われるのは想定内。

 

だが、まさかもう一人追手がいるとは思っていなかった。

 

 

 

『軍』の平ならまだよかったが、よりによって深月命……丈凪怜の叔母を名乗っている、深月育の保護者である。彼女は『歴史改変者』であれば持っていて当然の異能をあまり使用しないが、それでも魔術の実力は相応であると真白は認識していた。一人ならまだ何とか対処できるが、黒守も一緒となると分が悪い。攻撃をさばきながら逃走するしかなかった。

 

 

 

黒守が飛ばしてくる弾幕を避けながら、黒守と連携しているような動きで真白を追い詰める深月に、何度したかもわからない質問を投げる。

 

 

 

「協力関係築いたじゃん!なんで狙ってくるの!」

 

「私の邪魔をしたから」

 

「何が邪魔だったの!」

 

「それを素直に教えるほど私は寛容じゃないぞ?」

 

そして追加で弾幕が張られていく。それを防御魔術、身体強化魔術を組み合わせて最低限の数だけなくし、異能無効化の魔術式を構築するが、重大なミスに気付く。

 

 

 

「やば、魔力もうない」

 

真白はそう小さくつぶやき、舌打ちする。

 

 

 

普通は魔力操作で、魔力循環をしている丈凪ほどではなくても魔術をほぼ使いたい放題にできるのだが、四六時中追い回されて大した休憩が取れていないこと、深月が異能無効化を現在使用しているから魔力が有限になっていること、それを知っておきながら魔力の計算がずれたことがあだとなった。

 

 

 

魔力がなければ身体強化が切れるのもすぐで、身体強化が切れれば、異能も封じられている今、素の身体能力で二人に追いつかれるのも時間の問題。追いつかれれば当然、結果など目に見えている。

 

真白は魔力を何とか絞り出す。身体強化の出力がだんだん下がる。差が詰まっていく。

 

ついに攻撃をはじききれずに爆風で転倒した。擦り傷ができて足から血がにじむのを、ハンカチを巻いて結んでごまかす。そのまま走ろうとしたが、足をねん挫したことに気づいた。回復魔術など使えない。

 

 

 

痛覚を無視して立ち上がろうとしたが、影縫いされて動けなくなる。

 

「捕まえたあ♪」

 

目の前まで迫った悪魔が真白を嘲笑った。

 

 

 

「待って」真白の口から命乞いの言葉が出た。

 

まだ死ねない。作戦が完遂していないから。

 

 

 

「待ってよ」「嫌だ♪」黒守が弾幕を周囲に張って囲む。

 

まだ死ねない。今自分が死ねば、黒守の思い通りになって、しかし世界は滅ぶから。

 

 

 

「やめて」「やめない♪」

 

まだ死ねない。丈凪怜に計画の全容を話していないから。

 

 

 

「死にたくない」

 

まだ死ねない。……必ず無事で帰るって約束したから。

 

 

 

深月がナイフを大きく振りかぶる。真白が涙を流した、その瞬間、

 

突然あたりが、影が消えるほどに激しく光った。

 

「「!?」」

 

深月と黒守がひるむ中、そこに隙を見た真白はその場から退いて投擲ナイフを地面から抜く。

 

 

 

そして視界が開けたころ、真白と深月の間を縫うように一人の男がそこに佇んでいて、乱入者は言葉を発した。

 

「あー、てすてす。そこの提督さんと深月ちゃんの保護者さん?どうも、おれです。鬼ごっこしてるって聞いてたけど、こんな近くでやってるとかさすがに予想外」

 

これならあいつも自力で行けたんじゃないか?それとは関係なく動けないってことかねえ?

 

そう独り言をいう男。真白は全くその男を知らないが、

 

「……『教会』の総領息子がどういうつもりだ」

 

という黒守の一言で、一気に警戒心が上がった。

 

 

 

「まあ確かにおれはそういう身分だし?その身分を使って今から交渉したいことあるんだけどさあ」

 

と男は話すが、真白は『教会』まで狙ってくるとかこの世界軸おかしい、くらいにしか思っていない。

 

 

 

なので、

 

「んー。そこのお二人さんや。言っちゃ悪いけど、そこの青髪のお嬢さんを見逃してやってくんない?今から二年間不干渉って感じで」

 

「……はい?」

 

男のまさかの提案に真白は間抜けな声を出した。

 

 

 

「どした?おれがこれいうの想定外?やだなあ、惚れっぽい性格だから困ってる女の子ほっとけないだけだぜ?」

 

と大真面目に返すので、ふざけているが少なくとも敵でないことだけは真白は理解した。

 

 

 

「惚れたってのがそんなに信用できない?口説けばいいかね?」

 

「い、いやいいよ口説かなくて」

 

「ン、ンんっ。へーいイエス、マドモアゼル。美形モテモテ魔術師とはおれ、有住汰絃のことだぜ。恋のお悩み相談ならいつでもどうぞ?ベイビーチェケラッチョ」

 

「だからいいって」

 

「いやあ、ひなたさんも外に出たいって言うから外に出したり、深月ちゃんも自分を『否定』し始めてたから介入したけど、君もなかなかいいね。さすがおれの悪友、いい女を相棒にしてるじゃんか」

 

「……?」

 

有住と名乗った男の言葉に、真白は違和感を抱く。

 

 

 

『否定』?自分が相棒?

 

その言葉から、真白が「この男は丈凪怜か充喜暁の関係者」という答えを思い浮かべるまでそう時間はかからなかった。

 

 

 

深月の顔がさらに険しくなる中、有住はさらに続ける。

 

「そんなわけで、そこの『軍』の提督さん。おれが惚れて、悪友が大事にしてるから見逃してくれない?」

 

「……それは無理だ」

 

「じゃあ言い方変えようか。数年後には『教会』は『軍』東京本部を襲撃する用意がある。噓じゃないぜ?おれは何とかそれを阻止したいが、そこのお嬢さんが殺されたら……阻止する気失せるかも、ねえ?」

 

「……知るか」

 

「あっちゃー。歴史改変者ってその辺ドライなのかな?まあいいや、まだこちらにも交渉材料あるし」

 

頭を掻きむしる有住に、黒守は「何を言うつもりだ」と身構えた。

 

 

 

「いやいや、『歴史改変者』様には全然興味ない話かもしれないけどさ。『教会』が『軍』に襲撃かけるじゃん?どっちに結果が転がっても、日本はその間、下手したらそのあともしばらく無防備になるっしょ?したらさ、……『汐宮宥』が戦って、血にまみれて、壊れて……まあそうはならずとも死ぬかもよ?それで世界救ってどうすんの?」

 

「……」

 

黒守がとたん黙った。有住がにやりと笑った。

 

 

 

「あれ?知るか!って即答しないんだ?命の価値はみな平等じゃん、知るかの一点張りで来ると思ったけど?」

 

「……彼女は関係ない」

 

「へー!関係ないって言っちゃう!『教会』はそれこそ関係ないって知ってるでしょ?そもそも異能者のDNAなんかいくらでも欲しい組織だ。あんなことやこんなことをされてもおかしくないと思うんだけど、そこもわからない?君って想像力が足りないねえ!」

 

そういうと、黒守は殺気を有住に向け、

 

「……その条件をのむ。破ったら貴様を殺す」

 

とだけ言って去った。

 

 

 

「……うそ」

 

黒守が交渉を受け入れると思っていなかった真白は息をのんだ。

 

 

 

驚いている真白に有住が魔力を分け、残った深月に目をやる。

 

深月は口を開いた。

 

 

 

「……君のことは知っているよ。『教会』の革命を狙っている君だが、残念ながら君はその作戦に間に合わない。正確には、実行には間に合わないけど、その作戦中に指揮権を奪うことはできる、というのをね」

 

「へえ。さっきの交渉は無駄と。その割には止めないんだ」

 

「止める義理もないからね。ところで二つほど質問、いいかな?」

 

「ちなみに、その返答で交渉の余地あり?」

 

「ああ、一応あるさ。噓をつかない、そのうえで私が納得する答えであれば、殺すのは変わらないけど、今は夕映を見逃すくらいしてあげよう。君のおかげで獲物を横取りされる心配がなくなったから」

 

「お、それはどうも。約束を守れそうで大変結構」

 

真白が必死に状況整理や魔力の回復に専念する中、二人の質疑応答が始まった。

 

 

 

「一つ目。深月育は元気かな?」

 

「あー。体は元気だけど、精神面は最近まで怪しかったかな。とおるがその辺うまくやれてなくてさあ」

 

「具体的には?」

 

「恋愛のいざこざ。まあ保護者ならわかってんじゃない?何が問題だったとか」

 

「……ああ、まあ入れ替わっているからこその問題か」

 

「そうそう。んで、自我も消えかけてたんだけど、とおるは最後の最後に何とかしたらしくて、今は記憶が全部消えてるけど感情は残ってる。あと恋愛感情をとおるに抱いたまんまっぽ。まあ本郷?とかいうやつとれんれんも頑張ってたかな」

 

「へえ……少し計画の変更の必要はあるかな。納得したよ」

 

「じゃ、次の質問は?」

 

「君は……誰に頼まれたんだい」

 

深月の言葉に、有住は少し眉をひそめた。

 

「それ、関係あるの?おれはほれっぽいから」

 

「約束とはなんだろうね。思うに、その約束さえなければ君は万全の状態で『教会』に行けて、全く問題なく革命を遂行できたはずだが」

 

「……」

 

瞬間、有住は真白に『隠蔽魔術』を使用した。効果が発揮され、真白の姿が消える。

 

 

 

「おや、納得した答えを返せそうにないのかな」

 

「いや。どうやらおれは見逃す気なさそうだから、さっさと逃がしとこうと思ってね」

 

「賢明な判断だ。しかし、こうは思わなかったかな?私が夕映共々君を殺すとか」

 

「無理だから安心しろ。……もうこの場に真白夕映はいない」

 

「気配を感じるんだけど?」

 

「はは、こうするんだよ」

 

と有住は姿が消えた状態の真白に、手を当てて呟く。

 

瞬間、真白は本当にこの場から気配が消えた。

 

「……何をしたのかな」

 

「内緒。じゃ、今から答えようか」

 

と有住は話を戻した。

 

 

 

「確かにこんなことをする義理はない。けど、……あんなに悔しそうに、真剣に頼まれたら、断れない。それだけだよ。納得してもらえたかな」

 

「……いいや。質問の答えになってない。だから、君を殺して探し出す」

 

「おれは殺せない。できるものならやってみろ」

 

そして戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

戦闘時間はそこまで長くなかった。

 

有住が回避を得意とすることを知っていたから、深月は回避されることを前提に弾幕を張って攻撃したら、少しはそれでも避けたがそこまでだった。

 

 

 

有住が傷だらけの血まみれでピクリとも動かず、まるで屍のようになっているのを蹴飛ばす。

 

「手ごたえないねえ。……どんなトリックを使ったか知らないが、探し出してやる」

 

とそのままその場を後にした。

 

 

 

しばらく沈黙が続き、白いローブの男がそこに来る。

 

 

 

「いやあ。見事に傷だらけですがあ、大丈夫なんですかねえ。汰絃」

 

「……うっせえ。これも『欺瞞』の効果だって知ってんだろ」

 

「そうですねえ。そして、これこそあなたが寿命で以外死なない理由。……ぼくが罰しても意味がない理由ですねえ」

 

「……どうするつもりだよ」

 

「連れて帰りますねえ。暫く軟禁しますがあ、まあ殺しませんよお?後継者の有力な候補ですからあ、勉強だけしてもらえればあ」

 

「……その代わり、おれは作戦に参加させるな」

 

「ええ。無論そのつもりですよお」

 

と会話をして連れ去られる有住を背後から眺めていた少女が一人。

 

真白夕映だ。

 

 

 

「……怜。ありがと」

 

そうひとり呟き、真白はまた動き始めた。




次回は高校3年、「東京事変編」です。
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