>(場所)で視点変更されます。
れんloop③
>???
時間がたつのは早いもので、高校生活も三年目の夏に突入した。
深月は学業の遅れを取り戻し、宥、日向とは仲良くなったらしい。文化祭で三人でバンドを組んで演奏するようになったし、それに対抗して充喜が俺を誘ってまで有希と三人でバンドを組みだした。おかげで『John』は生徒会執行部の末端機関のような扱いになっている。実に普通の青春漫画にありそうな生活である。
夕映の話が本当なら今年世界が滅ぶらしいが、そんな兆候はない。本郷が世界を滅ぼすのだという話も、本郷に何の変化も見られない以上、俺としては何の措置もとれない。
夕映はまだ帰ってこないし、有住から『教会』を掌握したというニュースが入るわけでもない。『教会』はむしろさらに動きがきな臭くなっている。日本で活動することが多かった中学時代もなかなかおかしかったのだが、ついに白昼堂々、東京の往来を彷徨う組員までいた。そいつはさっさと撃退したが、薄気味悪いのは確かだった。
そんな中、本郷に呼び出しを食らったのだが。
「……本気で言ってんのか、それ」
「ああ。マジだぜ?むしろ助かる話だろ」
そう言って俺の前で吞気に紅茶を口にする本郷に、俺は
「いや、」
と否定する。
「……今の『教会』に協力関係持ち出すことのどこが俺らに得なんだよ」
本郷はオブザーバーであり、こちらの損になる行動はしない、こちらが後ろ盾となる代わりに互いの行動に不干渉でいるという契約のはず。後者のせいであまり口を挟めていなかったが、さすがに『教会』と協力関係に至ると前者に違反するはず。
「落ち着けよ。あくまで『教会』の司令部に潜入するって言ってんだよ」
「司令部で作戦指揮だろ?その作戦がどういう内容かはともかく、ろくなことをするはずがない」
「まあな。最近やっと情報をつかめたが、ろくなもんじゃねえな」
情報を知りたいが今それを聞いて対処に行けるかは怪しいので聞かない。それより今はこいつの真意を探りたかった。
「じゃあこれは何だ。説明しろ」
「作戦には参加しない。裏方としてあくまでサポートだけだ」
「……」
「で、有住汰絃は軟禁状態だから、もう既に交渉して、オレの補佐にしてる」
「マジか、軟禁で済んだのか。裏切り者には死を、みたいな活動理念してただろあそこ」
「死にゃあせん。殺したって無駄。そういう力があんだよアイツ」
「……だから裏切り者として処分される可能性はない、と」
「いえす」
本郷はうなずき、話の続きをする。
「で、オレ本人の仕事はあくまで作戦指揮だ。通信手段もあるから、適当な頃合いで有住が作戦指揮を乗っ取る。まあ、有住の力をちゃんと使えばいうこたきくだろ。聞かんかったらそれはそれで対応可能だ。これで『教会』を内側から変えられる。無理でも場を多少はかき乱せる」
「……『John』のオブザーバーになってやりたかったことはそれか?」
「ああ。フリーの情報屋としてはオレはそこそこ有名だが、そこに『院生室』オブザーバーというネームバリュー、異能者とのコンタクトも含めれば、多少情報漏洩などリスクがあってもオレを雇いたがるだろうからな。追加条件の分交渉すれば余裕だわ」
紅茶を飲み終え、本郷は席を立つ。
「ま、そんなわけで。明日頑張れよ。オレいねえから」
「別にお前に用事なんかない」
「そういうなって。あれだろ、充喜に決闘申し込まれるんだろ」
本郷のその言葉に、
「……まあそうだな」
と肯定した。
明日は『前回』俺とあいつが殺し合った日だ。何も動きがないとは思えない。
俺はこの誘いを断らない。断言できる。
「オレの審判いらねえ?」
「……いらない」
「だよなあ」
本郷はつまらないと言いたげに髪を少しいじり、その場を去っていこうとしたが、途中で引き返して俺に耳打ちした。
しょうもないことか、と思いきや、割と重要な情報だったので、俺は本郷の服のポケットに10万をとりあえず突っ込んだ。
本郷は破顔して、ほくほくと帰って行った。
そしてすぐに充喜が物陰から姿を現した。
「よくわかってんじゃん」
「まあ、六年前から言ってたしな。で?やるのか?」
「勿論」
充喜は即答した。
「国会議事堂跡地。まあ前と同じ場所だからわかるでしょ」
「おう。時間帯は指定なしか」
「……そこもこだわっていいならこだわるよ?」
「ん、じゃあそれでいい」
とんとん拍子で殺し合いの約束が進んでいく。
時間循環なし、魔術使用可能、異能を封じるのはなし。粗方内容を決めたところで、充喜が、
「……あっさりこの誘いに乗ってくれるとは思わなかった」
とぼそりと呟いた。
「馬鹿。そりゃあお前、今はただの生徒会長だろ?俺も秘密結社にいるが普通の異能者だ。あんなガチな殺し合いじゃないから別にいいんだよ」
「殺し合いの理由がないとか言ってもめそうだからさあ」
「じゃあそれいったら引き下がるのか」
「……ないね」
「だろ?譲れないだろうから俺が譲歩してんだよ。それともなんだ。殺し合いになる理由は『前回』と似たようなもんなのか?」
そう俺が茶化し、充喜が、
「違うよ、僕はただ僕の価値を証明したいだけだ」
と言ったので、
「じゃあそういうことでいいだろ。俺も俺の価値を証明する。それだけだ」
と話を締めた。
「明日、例の場所で会おう。寝不足とかやめろよ」
「そっちこそゲームしすぎて寝坊とかやめてね」
そんなやり取りで会話が終わった。
>国会議事堂跡地
そして当日。
時間通り国会議事堂跡地で対峙していた。
国会議事堂跡地は『軍』が結成されて立法機関たる国会が形骸化したために、国会議事堂が使われなくなって風化した廃墟である。
防音も耐久もしっかりあり、人目にさらしたくない取引、戦闘を行うにはうってつけの場所である。
そこに入念に防音処置、耐久処置を施していく。これで万が一にも、倒壊が原因で決着がつくとか、誰かが侵入してくるとかはなくなるはずである。
そうして改めて向かい合わせに立ち、互いの姿を見据える。
この日をずっと待ち遠しく思っていたのか、充喜の体はうずうずして、緊張した様子でもなかった。
充喜が口を開いた。
「あのさ。僕の言葉を、覚えているかな」
「覚えているぞ」
前の決戦で話していた、『丈凪怜』と『充喜暁』の入れ替わりを前提とした言葉のことだろう。
「そう。……僕の人生はなぞれたかな?」
「まあ、全然違う物事があったが、それでもおおよそできていたかもしれないな。少なくとも環境はそうだ」
全くそんなことはないのだが、様式美でそう言っておく。
充喜もそれはわかっているのだろう。あっさり流して、さらに続けた。
「許す気になれたかな」
「無理だな」
俺はそれに即答した。
そして、『前回』の彼の言葉をアレンジして戦いの開始の合図とする。
「ああ。そうだ、赦せるわけがないだろう」
「俺がお前のように、人を殺さなければ生きていけない苦しい環境にいたためしがない。俺はいつだって、お前のような人にはなれなかった、悪役でもなかった、最高の仲間に囲まれた充実した生涯を送った人間だったから」
そう言ってナイフを思い切り振る。衝撃波が発生し、充喜は咄嗟に防壁魔術でガードする。その衝撃波で周りの壁が爆発した。
「だから同じ言葉を返してやる。お前に俺のことなどわからない。
思い返すほど誰かに愛されたことも、寄り添っていいほど心を許しあえたことも、分かり合えるほど言葉を話せたこともあった、居場所を自力で作り上げた俺のことなんざ、」
「誰もに愛されず、寄り添えるほど心を許せる相手もできず、分かり合えるほど言葉を重ねる機会に恵まれなかったお前にわかるはずがなかった」
充喜が魔術で弾幕を作り出し、大量に配置して構える。そのままにらみ合う構図になる。今から殺し合うというのに、互いに笑顔を浮かべている。
「……ただ、今のお前にはきっとわかる。
仮に分からないというなら、……今からでも、それを証明してやる」
瞬間、俺は駆け出した。
『縮地』。身体強化の魔術の効果を足、特に移動に使う筋肉や骨に特化させたもの。
普段なら細かい調整を要さない場合『循環』を使うが、今回の決戦ではそれは禁止している。
そう。今回の決戦では規定がある。あくまでも殺しあいだから手加減をしないことを前提にしているが、禁止事項が数点あり、俺は魔力循環以外に『循環』を使用しないこと、充喜は『受容』を使って『循環』を封じないという縛りになっている。これで極力『前回』の決戦に近づけたわけだ。
ちなみに、異能の魔術による再現は充喜のみしていい。これによって、俺も充喜も完全に『前回』の戦い方に今回の経験をプラスした戦い方ができることになる。
ほかにもいくつかあるが後述する。
そんな訳で、縮地で距離を詰めにかかる俺だが、充喜は張っていた弾幕を一つにまとめ、俺に向かって投擲する。投擲されたそれは俺の前で弾幕がばらけ、俺を囲むように広がって一つにまとまる。方向循環の応用だ。俺はその弾幕に囲まれ閉じ込められる。そのまま浮くが、内側から『紅蓮』―――爆発系統の最大火力魔術で破壊する。
そしてすかさず『魔力撃』。魔力の衝撃波を複数飛ばす。
充喜は『身体強化』を付与して左、右と回避し、さらに飛ばした『魔力撃』を上に跳んで躱す。『魔力撃』が地面に当たった煙に紛れて俺は『風来』―――風系統の魔術で自分に突風を吹き付け、上昇して距離を詰め、ナイフを構える。充喜は咄嗟に『魔装』で魔力でできた剣を二つ生成し、ナイフを受け止める。
が、俺の攻撃はここで終わっていない。『魔力撃』を使って弾き飛ばした。
充喜は衝撃を和らげるため受け身を取り、ある程度吹っ飛んだところで『循環』で自由落下速度を緩和し、壁際に着地する。
俺はさらに突風を飛ばし、一気に充喜に接近する。
「早々にここまで追いつめられるなんて、やっぱ強い。……でも、僕は負けない!」
そう叫ぶ充喜は『暗術』―――煙幕で姿をくらました。
『探知』を頼りに探そうとしたが、背後から気配を感じてそちらに振り向く。時すでに遅く、充喜が俺の体に『循環』を使用。俺の体は反対方向に吹き飛ばされた。
ナイフで固定を図ったが、それは読まれていたのだろう。俺の体は途中から激しく回転し、柱にたたきつけられた。受け身はとったのでダメージがないが、動けない。
充喜はさらに『循環』を使用。追加で『稲光』―――雷系統の最大火力魔術を俺に付与し、超電磁砲のように柱に何回もたたきつける。変に抵抗せず『防壁魔術』と受け身でダメージを軽減することに専念する。充喜は続けて俺の体を壁に擦り続け、最後に俺の周りに弾幕を張って俺にぶつける。
俺はナイフで弾幕を切り、『魔力撃』で相殺し、残りを『防壁魔術』で防ぐ。『循環』が切れたのを確認し、『縮地』で距離を詰める。
振りかぶったナイフを『循環』で回避され、煙が上がる。その煙の中から『魔力撃』を三つ放つが、これは充喜にあっさり躱される。
その後充喜は『土遁』―――土系統魔術を床に使用し、剣を何本もはやす。俺にその剣が迫り、さらに追うように『魔力撃』が迫る。
『縮地』を使いながら間を縫うように、反復横跳びで避ける。助走をここでつけ、大きく横に跳ぶ要領でさらに縮地。『魔力撃』を付与し、ナイフの攻撃範囲を広げて地面を切り裂く。
地面が大きく砕けるが、充喜は『循環』で重力を反転させて『防壁魔術』を使って威力を半減させつつ回避した。
思わず笑みが出る。ライバルとはこういうものなのだろうか。『前回』はもっとあっさり終わった戦闘が現時点で三倍も長く続いている。殺しあいの途中に笑うのも何か不謹慎だが。
「……楽しい」
そんな言葉が口からこぼれた。
「ほざくなよ。今までの攻撃効いてないじゃないか」
「まあな。でも、ウォーミングアップだろ」
「……ああ、そうだよ。だから、もっとだ!」
充喜がそう叫び、魔術式を複数展開した。
『土遁』で地面から柱をはやす。『稲光』の魔術式をいつでも発動できるようにかまえ、更に『循環』の弾幕を張る。
充喜も、複数展開をするようになったか。また口角が上がる
。
俺が一歩踏み出すが、充喜は足をトントン、と二回打って、瞬間俺の前に『稲光』の魔術式が展開された状態で出現する。よく見ると追尾システムをしっかり搭載している。
「へえ……!」
咄嗟に『縮地』『風来』を展開して起動、蛇行することでシステムをかく乱する。先ずは『循環』弾幕。当たれば血流が逆転するのだろう。蛇行しながら紙一重、わずかに揺らぎを起こして避けて、『稲光』を、後退しながら『水流』―――水系統の魔術で相殺。残った『循環』弾幕に『魔力撃』をかすらせ軌道を調整。最後に俺を貫通するように伸びる柱を一つ、二つ、三つ、四つと体を回転させながら避けて、五本目の柱に着地して伝っていく。
まだとんでくる柱を乗り継ぎ、目の前に現れた『稲光』は柱を盾にして再び違う柱に着地。追尾システムもあったので、『物体固定』で『稲光』の雷に乗れるように変換して更に乗り継ぎ、距離をある程度詰めたところで雷をナイフで八つ裂きにした。
『稲光』の魔術式を今度は咄嗟に軽く崩壊――魔術式の法則に沿わない構成に書きかえて無力化した。
両サイドからの柱を『防壁魔術』で防ぎながら勢いを落とさないように『風来』を再び自分に付与。ひねり回転と『魔力撃』でこちらの勢いを止めようとする柱に対応して壁に着地。『縮地』を略式で展開、壁を蹴って跳躍する。
充喜は『稲光』を地面に向けて複数発動し、地面が二つに避ける。俺の足元まで到達した罅から『土遁』。ナイフで無力化を図ったがこれはブラフ。足元からも『土遁』が発動して大きく打ち上げられ、更にもう一つの柱で壁まではじかれる。
その途中で『循環』を使った充喜に背後に回られ、蹴られる。その時に『循環』が付与されて、あちらこちらに落ちていく。怒涛の『土遁』が打ち出され、『魔力撃』やナイフで角度調整をして当たらないようにしつつ飛ばされていき、最後に大きく地面へたたきつけられる。
俺はすぐ立ち上がり、『風来』『縮地』で大きく浮上。まっすぐ充喜に墜ちていく俺に『魔力撃』を投擲され、振りかぶっていたナイフで相殺。更に『土遁』で作った柱を大量に周りに配置されたが、それも『魔力撃』ですべて相殺、並行して『身体強化』を使用する。『循環』の弾幕を再配置した充喜が『魔装』で再び剣を二つ装備し、『土遁』を並行して複数回使う。
柱を乗り継ぎながら『循環』の弾幕をさばいていたが、途中で横から『魔力撃』を付与した魔剣できりつけられかけ、ナイフで咄嗟に防ぐ。『循環』の弾幕のせいで変にはじけないので、俺がナイフを振りかぶっては充喜が防ぎ、充喜が剣を振っては俺がナイフではじく攻防、剣戟が展開される。
『循環』でまた遠ざけられた後、『土遁』が何本も飛んでその度に足でけって軌道をわずかにそらす。
互いに着地したが俺のほうにはまだ大量に柱が振ってきている。『縮地』で避けながらナイフで切りかかる。充喜は剣でそれを受け流す。
俺が足を狙い、跳んで避けた充喜が俺の首を狙うのでひいてよける。
そして左、正面、下、正面と打ち合って拮抗状態になり、ついに魔剣が切れた。
上がった煙を俺がナイフで払い、『縮地』で勢いをつけて振りかぶったが、充喜は『土遁』で防ぎ、俺がその後ナイフを通じて起動した『魔力撃』の衝撃波を読んで後ろに下がった。俺は柱を切って再び『風来』を使用、『魔装』で再び二刀流になっていた充喜にナイフを振り、右、左下、右上と打ち合った後、足元にきた剣を側転で回避して右から来た剣をナイフで受け止める。
俺は口角が上がっている。充喜は真剣な表情だが、まるで楽しんでいるかのように顔の筋肉は緩んでいる。
そのまま互いにはじいてやっと初期位置に戻る。
戦いはまだ続きそうだ。
具体的にどこが誰なのかという解説は次回のあとがきに回します。