弱くなってニューゲーム   作:桜油

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とおるaccept①

>国会議事堂跡地

 

僕は充喜暁が嫌いだ。

 

 

 

家族に愛され、友人に慕われ、世間に認められている。

 

僕が死に物狂いで作り上げた居場所を壊すし、何なら仲間も殺すし、裏切らせたのか裏切られたのかは判断できないけど、あれやこれやと僕の行動を『殺人ほう助をして異能者を同じ低みに陥れるろくでもなし』みたいに見てる。

 

 

 

なんだよ、『魔術師全員が悪い奴でもない。誰でも駆逐するのは間違ってる』って。

 

そんなの、わかりきってたよ。

 

少なくとも、お前はそういうやつじゃないってことくらいは。

 

 

 

まったく。仲間をぶっ殺されたからどういうやつかと思ってみてみれば、精神的にすごい疲れきったような表情しやがって。人殺しをしなくていい環境に生まれて、さぞかし幸せだったんだろうな。そんな顔されちゃ、むしろ僕の仲間……正気をほぼ失ってたやつを止めてくれたのかな、とか僕までセンチメンタルになっちゃったじゃないか。

 

 

 

で?僕の考えていることを知ってたか知らなかったかはともかく、僕が道連れにしようと引きずり込んだら、あっさり諦めやがって。『浮遊魔術』の存在くらい僕でもわかる。伊達に魔術師を殺してないんだぞこの野郎。『John』は明白に嫌われた正義の略だよこん畜生。そんな二つ名ついた時点で察してよ馬鹿。諦めてないで、その無駄に残った魔力で浮遊魔術使って僕を見捨てればそれでいいじゃん。僕より幸せだったくせに、そんな簡単に自分の命を捨てるなよ。僕と二人のことを背負ってこれから生きてみろよ。

 

 

 

だから、僕は充喜暁が嫌いだった。

 

 

 

僕は丈凪怜が嫌いだ。

 

 

 

僕と同じ人生をたどるはずなのに、保護者ができて、異能者であることが露呈しなくて、僕が死ぬほどあこがれた魔術をあっさり、異能を応用して使いこなして。

 

家族に愛されはしないものの、大切にはされたし、友人も真白夕映って協力者ができるし、『院生室』なんて後ろ盾ができるくらいには世間に認められている。

 

有言実行して、二人の仲間も普通の友達みたいな関係で、普通に学校生活を謳歌してる。僕が手を伸ばしても決して届かなかった平穏をあっさり手に入れてる。

 

 

 

なんだよ、『俺の人生を体験してもなんのいいこともない』って。

 

そんなの、十分思い知らされてたよ。

 

何の価値も重みもなくて、何もせずにいると気が狂いそうだった。

 

 

 

まったく。よほど幸せだったんだろうって高を括ってた『前回』の僕を本気でぶん殴りたい。魔術師業界は泥沼で、日々が社会的な殺し合いだった。物理的なほうがずっとましだったよ。だって勝ったほうが正義だってわかりやすいから。両親も進んで僕をおい詰めに行くからさ、逃げ場所がどこにもなくて、現実から逃げようとまでしちゃったくらいさ。

 

 

 

で?育にそこを助けられた後もさ、まだまだ苦難は続いたんだけどどういうことなの。一回『教会』と一回一触即発の空気になってたんじゃん。君は咲を救えなかったみたいだけど、でもそれはつまり殺したってことでしょ。人を殺した経験があるのに『前回』あれだけ疲弊してたのってなんで?正当化できるかどうか?いや違うだろうけど、君は精神が潔癖すぎるんだ。こんなんであの泥沼のような魔術師業界にいったところでつぶれて終わりだったんじゃないの。なんでしょうもなく才能を自分からつぶしにかかるかなあ。馬鹿じゃないの。きっと僕を殺すのも躊躇するんだろ、あんな条件つけやがって。

 

 

 

だから、僕は丈凪怜が嫌いだった。

 

 

 

……でも。

 

僕が彼を嫌いな理由はもっと別。

 

諦めが早いとか、妬ましいとか、才能を自分から無駄にしていくスタイルとか、そんなことは本当に些細な理由だ。

 

 

 

僕は、彼がいつも、大事なことを何も言わないでいるのが大嫌いだ。

 

彼が、数人殺しただけでこの世の終わりのような顔をする豆腐メンタルのくせして、人の荷物も自分の荷物も自分一人で背負い込もうとする姿が見ててむかつく。

 

 

 

そりゃあ、僕は君をひどく憎んでたし、真白は違うことに今忙しいし、ほかのみんなはそもそも逆行者じゃないから背中を預けるには心許ないって気持ちもわかる。君が助けなかったら、僕はまだ間違えたままで、真白はもう死んでるかもしれなくて、汐宮や一条は理性が消えてたかもしれないし、深月はもうこの世に存在しない人格になっていただろうさ。有住も友人にはなれても、完全に心を開くことはなかったのだろう。

 

 

 

……でもさ。いい加減気づけよ。

 

毎日一人になった時に限って、真白や有住へ、何回もつながらない電話をして。

 

ノートには世界軸、異能、時間軸、正史の考察がびっしりあって。

 

『院生室』にも時折依頼を出して研究所を借りては自分を実験台にして異能を暴発させて。

 

ついには放課後の教室で一人、黄昏てたかと思えば泣いてて。

 

そのくせみんなの前では何でもないって顔をして。

 

そこまでやってて、なんで唯一頼れる可能性がある僕に何も相談がないんだよ。

 

 

 

さすがにわかるよ、僕も。僕が思ってるほどこの世界は平和じゃないって。正確には僕の思っている以上にこの世界は理不尽だって。『世界が滅ぶ』なんてヒントもあったのに何でまだ何も知らない前提で、僕を巻き込むまいと動いてるんだよ。

 

バカじゃないか。

 

一応汐宮や一条には話してるっぽいけど、それも概要だけだ。世界を救うって目標しか話してない。

 

やっぱバカ。

 

もう僕は君が思ってるようなボケじゃないんだぞ。ゲーム脳でもない。

 

 

 

たった一言でもいい。

 

「頑張ったな」「お前もそれができるようになったか」ってライバルの出現やら成長やら喜ぶ主人公面も、「お前ってすげーよ」って自分に出来てないことを僕がやってたたえるライバルムーブもやめて、「そっちは任せた」「手を貸せ」くらい言えよ。

 

僕も言える質じゃないけど、君は主人公じゃない。才能はあるけど、何でもできる完全無欠な主人公です、って感じで僕を保護対象にするのをやめてほしい。

 

 

 

だから、改めてこの決戦を申し込んだ。

 

六年前と同じ話だから、君は「まだ殺意あんのかよ」って呆れたかもしれないけど、でもそうじゃない。

 

僕は諦めきれないだけだ。ほかの人は彼をそういう人だって諦めて、頼られた時に力になろうとしているようだけど、それじゃ僕は満足できない。

 

自分を諦めるな。一人で戦っているつもりになるな。

 

僕という秘密兵器が、伝家の宝刀が君にはある。

 

僕に頼るという選択肢まで切り捨てるな。

 

もっと、僕を見ろ!

 

 

 

再び対峙した僕らだが、にらみ合いの時間はそう長くは続かない。

 

 

 

僕は『土遁』を発動して柱を何本も伸ばす。

 

丈凪は軽く跳ねて近くの一本に飛び乗り、たたたっと僕のほうへ奔っていく。更に柱を伸ばしていくけど、丈凪は柱を『魔力撃』を付与したナイフで切って、ついでとばかりに本物の柱を切って追尾システム搭載の最後の柱に倒れこませる。僕は『紅蓮』を座標指定して丈凪に偏差射撃したけど、わずかな動きで躱した丈凪は魔術式をナイフで切って壁に着地し、『身体強化』で大きく跳ねる。

 

空中で自由な動きが取れないとみて『稲光』を発射したが、ひらりと体をくねって回避され、もっと続く『稲光』や『循環』弾幕を意に介さず、『風来』で一気に距離を縮めてくる。煙が巻き上がる。

 

 

 

視界がかすんできた。魔力が残り少ない時に出る症状だ。冷や汗が止まらないし、眩暈が若干していた。

 

でも、負けは認められない。

 

 

 

丈凪は容赦がなくて、とびきり威力の高い『魔力撃』を放ってくる。

 

僕は迫ってきた『魔力撃』を『防壁魔術』で防ぎ、追うように放たれた『魔力撃』を、『土遁』で自分の足場を作って浮き上がることで凌ぐ。また『魔装』で剣を構え、その柱を滑っておりて、途中で『身体強化』を付与してジャンプする。そして三回転して剣を振り下ろす。丈凪にナイフで受け止められたので、後ろに着地して右、左と振り下ろす。右を受け流し、左はバック転でよけようとしたので、バック転の間にもう一閃したがナイフで軽く流される。そして左、右ときた彼の斬撃を丁寧に受け止め、剣を振り下ろすとそれに合わせて丈凪もナイフを大きく振る。そして『魔力撃』でチャージしているのが分かったので、それを阻止するために集中して連撃を叩き込み、大きくはじく。丈凪はそりながら着地して跳ねるので僕も『魔力撃』を付与して跳ねる。大きく衝撃があって、煙が巻き上がる。僕はその隙に丈凪を大きく蹴って離す。そこに距離を詰めながら僕は『縮地』を発動し、剣を大きく振る。

 

 

 

ナイフと剣の刃がぶつかって、大きく火花が上がった。

 

『魔力撃』の衝撃で大きく爆発し、大きく吹っ飛ぶけど、吹っ飛びながらも剣戟が続く。

 

一回振り下ろし、ナイフで受け止められる。

 

大きく距離を取り、更に勢いをつけて剣を振り、ナイフで流される。

 

その繰り返しの中に更に体術も混じって、最終的には殴り合いになる。

 

 

 

『ははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!』

 

 

 

戦っている間は確実に僕を対等にみている。僕は対等に戦えている。それがひどくうれしくて、純粋に戦いを楽しんでいる丈凪の笑い声と僕のそれが合わさる。

 

やってることは殴り合いっていう原始的なことなのに。

 

 

 

僕が『循環』で丈凪を壁にたたきつけ、そこに『土遁』で大きい柱を飛ばす。

 

紙一重でよけた丈凪に『循環』弾幕を大量に放ちながら距離を詰める。丈凪も避けながら距離を詰める。

 

 

 

まだ足りない。まだ届いていない。

 

もっと、もっと、

 

「もっと!」

 

 

 

僕が剣を横に薙ぐと丈凪は後ろに跳んで避けて、『縮地』で再び距離を詰めてくる。そしてナイフを大きく振りかぶり、僕はそれを剣で受け流しながらもう一本の剣で切りかかる。後ろに避けられても二連撃を入れて、丈凪が背後に着地したので向き直る。そして上、下と剣とナイフが衝突し、僕も丈凪も『風来』をつけて勢いをさらに付ける。その後暫く切り合い、少し距離を取って、さらに早く、上下左右にがむしゃらに振る。丈凪が笑った瞬間背後に気配を感じ、『縮地』で移動して今度は僕が彼の背後に回り込み、思い切り剣を振る。

 

爆発でまた吹き飛び、丈凪ががれきを伝って移動しているのを見つけたので、『風来』を付与して彼のもとへ飛び、剣で薙ぐがナイフで受けられる。『循環』をすかさずかけて別の瓦礫にたたきつけ、僕は別の瓦礫へ着地。

 

 

 

まためまいがする。頭痛がする。思わず眉間をつまむ。……でも、まだ舞える。

 

 

 

僕はさらに『循環』で彼の体をいくつもの瓦礫にたたきつける。丈凪は受け身を取って、『魔力撃』で斬撃を飛ばす。僕が飛ぶと、僕が足場にしていた瓦礫が消し飛ぶ。さらに別の瓦礫を駆けながら四つ斬撃を飛ばすので、僕は『防壁魔術』を展開して『浮遊魔術』を魔術式に付与、魔術式に乗って斬撃を躱していく。追尾システムはしっかり搭載されていて、どんなに複雑なルーティングをしても追ってくるので、方針を少し変更して逃げ続ける。

 

丈凪が瓦礫を渡りながら僕との距離を詰めにかかるが、僕もあえて彼に接近し、すれ違う。見事に追尾してきた弾幕が彼に命中したが、彼は『防壁魔術』を使っていた。

 

 

 

……やっぱらちが明かない。なら、アレを使うしかない。その舞台造りをしないとな。

 

 

 

そう悟って僕が縦横無尽に飛ぶ中、丈凪は『稲光』の略式を複数展開して、瓦礫をすべて消し飛ばした。煙が大きく出る。

 

これでは煙でどこにいるかわからない。

 

しかし上から気配を感じてそちらに向くと、丈凪が大きくナイフを振りかぶっていて、僕は急いで跳んだ。足場にしていた魔術式が切られ、制御者を失った魔術式が暴発して爆発する。その間にも丈凪は別の瓦礫を足場として着地。ちょうど僕に背中を見せるような構図だ。

 

僕は瓦礫に着地し、『魔力撃』を略式で付与、さらに威力の増した剣を構えて突進する。ナイフで剣自体は受け止められるが、略式の『身体強化』『風来』『縮地』を使用した突進の勢いは殺しきれていない。そして地面にその勢いでたたきつけ、すかさず『影縫い』をする。そして、ついに今までずっと脳内で構築し続けていた魔術の略式を展開、起動する。

 

 

 

立ち上がった丈凪は鼻血を出していたのを雑に拭って、『影縫い』を解除すべく発光魔術を使用したが、発動しない。

 

 

 

「これで終わりにしよう」

 

僕はそう口にした。

 

 

 

もう魔力は底をついている。次の攻撃を耐えられれば、僕は勝ちがなくなる。

 

でも、絶対に勝てる自信があった。

 

 

 

「動きは封じた、魔術も封じた」

 

 

 

異能は封じちゃいけないが、魔術を封じちゃいけないなんてルールはない。

 

そう笑いながら、僕は、構えられるナイフを『稲光』で弾き飛ばす。

 

やっと丈凪は焦った顔をした。

 

 

 

「これで、もう取れる行動はない」

 

「……!」

 

「どうせ、ほっといたらまた無駄に一人で頑張るんだろ」

 

「なら、少しでもそのしょうもないプライドを、へし折ってやる」

 

 

 

そう言って僕は、なんとか脳内構築を済ませた百個すべての魔術式を同時展開し、起動した。

 

普通、魔術式の同時構築は四つが限界というが、僕は不思議なことに、『受容』を自覚して以来、一時的に構築した魔術式を待機状態にして起動直前の状態で脳内においておけるようになった。

 

不発弾を受容している、と僕は解釈しているけど。

 

彼は二十の『土遁』で柱に体を刺され、三十の『紅蓮』で業火に焼かれ、五十の『稲光』で消し飛んだ。

 

 

 

大きく爆発した後、煙が大きく巻き上がっていた。

 

……最後、何も抵抗しなかったのは彼の悪癖かな。まあ手段を失くしたとは言うけど、『決戦』のルールを使えばよかっただろうに。まあ、それも嫌でしたっていえば仕方ないんだけど、まあ意趣返しはできた。

 

僕は最後のなけなしの魔力で『時間循環』を構築する。彼の蘇生目的だ。僕も本気で殺したかったけど本気で死んでほしいわけでもないし。

 

しかし、本当に疲れた。

 

でも、勝てた。あとは蘇生してから彼に話をすれば―

 

 

 

「何を安心してるんだ」

 

 

 

僕は目を見開いて、魔術式を見る。

 

まだ起動していない。というか構築が終わってない。

 

と、いうことは。僕が煙が立ち上っているほうを見る。

 

人影がよろよろとナイフを拾い、煙を薙ぐ。たしかに丈凪の姿で、表情を見るに、僕の知っている丈凪怜そのままだ。

 

 

 

「まさか、俺がここまで追いつめられるとは思わなかった」

 

と回復魔術を使用する。無傷になり、普通に元気そうに歩き始める。

 

 

 

「な、……んで……」

 

「なんで、か。ルールの穴をついた、そんなところだ」

 

「は……?」

 

呆然とする僕に、丈凪は解説する。

 

 

 

「昨日、本郷と話してたら最後に重要な情報を言われた」

 

「俺は『異能リビドー』を発動したとき、異能の内容が若干変化するんだ」

 

「時間循環、体力循環、行動の結果の効果増大。全部『循環』のなせる業か、と思っていたんだが、これは別の異能に該当するらしい」

 

「その名も『決意』。あらゆる理不尽を超える力。異能リビドーは変化なし。まあ意志力が強くないとどうしようもない、むしろ弱体化するらしいが、さすがに俺もここで死ぬ気はない。存分に使わせてもらった」

 

「『循環』を使ってはいけない。この縛りには逆らっていない。だろ?」

 

 

 

……なんだそりゃ。余計心配になる異能じゃないか。

 

 

 

「……」

 

「反論しないとか珍しいな……」

 

「いや。言いたいことはたくさんあるけどね。ハア……」

 

「……?」

 

僕の気持ちなど本当にわかってなさそうに丈凪は首を傾げ、

 

「まあ、いいや」

 

ともはや気持ちがいいレベルで早く諦めた。

 

 

 

もう、こいつはやっぱりそういうやつなんだ。死んでも変わらないんだろう、きっと。

 

でも僕は諦めない。諦めが悪いのが僕の長所で、誇れるところだから。

 

 

 

「じゃあ、俺の番だな」

 

『縮地』『魔力撃』『風来』『身体強化』の略式をすべて使用して、彼は消える。気づいたら僕の背後にいるから振り向き、なんとか対応しなくては、と後ずさる。

 

丈凪はそんな僕の胸ぐらをつかみ、ナイフを振りかぶる。

 

魔力のない僕に対抗策はない。詰みだ。

 

ナイフが近づいてくる。それに対して僕は。

 

僕は―。




戦闘描写全然できない系女子です(白目)
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