弱くなってニューゲーム   作:桜油

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たいとfake④/そだちdeny⑨/ゆうきbreak⑧

>東京某所・ビジネスホテル室内

 

おれは撤退作戦指揮を開始した。

 

パソコンのGPS反応を見ながら、考えた作戦を口に出す。

 

 

 

「いくぞー。手始めに助けるやつを厳選する。それ以外はここで見捨てる。自力で脱出するんだ」

 

「おれの命令に従えない奴、おれの作戦でヘマをする無能は、助けはするがそこまでだ。助かった後は首になっていると思って行動してね。まあ作戦は指示するからそれで頑張って」

 

「まず。『教会』の制服……ああっと、白いローブと『教会』のロゴの入った神官服のことね。それを隠せる状況にある奴。あ、凶悪な顔してる人は除く。一般人に紛れて避難所に行って。多分『伊灯高校』以外の公共施設なら避難所になってるはず」

 

「紛れ込んでも油断せず『エッ教会怖い戸づまりすとこ』みたいな雰囲気してりゃ問題ない。堂々とおびえてろ」

 

『堂々とおびえるって……』

 

 

 

おっさんがげんなりとしていたが無視する。

 

 

 

「避難所行ける人はGPS切ってくれない?」

 

『あー。GPS切るなら携帯ぶっ壊すしかないわ』

 

「あっそう。でも捕まるか携帯のデータが消えるか、さすがに優先順位はわかるよね」

 

「携帯くらいデータ復旧と弁償はしてやるよ。親父が」

 

『無責任すぎじゃね』

 

半分冗談だ。おれも手伝いはする。……あくまで俺の専門は魔術関連の道具だからなあ……。

 

 

 

そう言っている間にGPS反応が少し減って、減少が止まった。

 

「よし。続きだ。次、制服を隠せそうにない人。まあ全員当てはまるっしょ。もしくは凶悪な顔してるから避難所に行くにも行けなかった人」

 

『いや、……うん?』

 

「おっさんその他、『ガチになった時の親父より凶悪な顔してない』とか思った人は自己申告制で減給」

 

『ウゲーッ』

 

「いや、自己申告制だと誰も言わなくておっさんだけ損するか。じゃあ全員減給」

 

「まあそんなのはどうでもいいんだ。残りは騒ぎが収まるまでトイレの個室で待機してくれないかな」

 

「簡単に一人になれて、内側から施錠できて、覗かれないし言い訳もできる。簡単だろ?騒ぎが収まったタイミングに、おれの方から回収に向かう。楽でしょ」

 

「じゃ、トイレが近いやつだけGPS切って……おけ、クリス以外ではあと五人な」

 

「で、誰か車を持ってたりは?」

 

『俺は回収できるぞー』

 

「お、ナイス。じゃあ場所を指示するから頼むよ。まずはね―」

 

 

 

これなら無事に作戦も終わるだろう。

 

おれはそう思いながら、パソコンの画面とにらめっこしていた。

 

 

 

 

 

 

 

>伊灯高校上空

 

思えば、私はいつも誰かに支えられていた。

 

 

 

記憶喪失で自分が何者かわからず不安だった私に、説明をして寄り添ってくれた咲。

 

会った当初から心が温かくて、困ったことがあれば私にいつも手を差し伸べてくれた暁くん。

 

一か月しか交流がなかったけど、それでも私が学校で普通に過ごせるように環境を整えてくれた有住さん。

 

私の実の兄だけど、関係を強要するでもなく、適度な距離感で見守っていてくれた丈凪くん。

 

私を誘ってどこまでも『普通の青春』を追及し、いつでも私の味方でいてくれた汐宮さん。

 

私の境遇を考えたうえで、丈凪くんに訓練をお願いしたり、勉強も熱心に教えてくれた一条くん。

 

 

 

どうして私のそばにはこんなに優しい人がいてくれるのか。

 

どうして私にとてもよくしてくれているのか。

 

どうして私の大切な人たちが、自分なりに大事な何かを抱えながら、背負いながら私を守ってくれるのか。

 

守られるばかりではいたくない。いつか私が守りたい。皆の期待に応えたい。だから誰よりも強くなりたい。

 

 

 

みんなが何かを背負っているのはわかっていた。皆私の前ではそ知らぬふりをする。けれど、どこか遠くを見ているようで。一番それが強かったのは丈凪くんで、その次が暁くん。汐宮さん、一条くん、咲、有住さんは同じくらい。

 

一条くんだけ一言、「君は十分頑張ったから……帰りを待っている存在であってほしいんじゃないの」と話していたけど。

 

 

 

私も何かを背負いたかった。きっと前の私も何かを背負っていて、それを放り出したか達成したのか、はたまた深い事情があって手放す、……否、託さざるを得なかったかはわからないけど、そうでありたかった。

 

 

 

……今ならわかる。けど、その時はわかっていなかった。

 

 

 

背負っていることは知っていたけど、知らなかったのは、その重さなんだと。

 

 

 

 

 

 

 

学校へのダメージを『否定』する。

 

学校への接近を『否定』する。

 

『教会』兵の魔術式を『否定』する。

 

 

 

悉く否定して、その度に自分が欠け落ちていく感覚がする。いや、自分にとって今いらないものをそぎ落として力に変える。

 

恐怖。躊躇。嫉妬。怠惰。強欲。傲慢。信仰。暴食。剛毅。憤怒。公正。

 

その度に『否定』の効果が増していく。身体能力も向上する。

 

それでも魔術や影縫いで動きを封じられて、魔術をこれでもかというほど放たれる。だからまた感情を一つ消す。

 

 

 

爆炎。吹雪。雷。毒。土塊。

 

 

 

学校を守らなきゃ。みんなの居場所を守らなきゃ。

 

そして笑顔で、登校してきたみんなを出迎えるんだ。何事もなかったように。

 

 

 

それだけを考え、無理やり動く。ぶちぶちと筋線維が千切れて、そのダメージも『否定』して、爆炎も吹雪も雷も毒も土塊も『否定』して、動けない事実も『否定』する。

 

 

 

並みの『軍』の兵に勝てるくらいじゃ足りないから、禁じられていた『否定』で感情と記憶の一部を燃やす。味覚も嗅覚も痛覚もいらないからそれも糧にする。

 

刻一刻と自分が消えてなくなる。それでも淡々と力を使い続ける。私の居場所を守りたい一心で。

 

 

 

光線。停止。即死。斬撃。圧壊。精神操作。

 

 

 

振るわれる得物を『否定』して薙ぎ払う。

 

放たれた魔術を『否定』して相殺する。

 

『大罪』の効果を『否定』して打ち消す。

 

援軍も呼ばせないように、通信機器を『否定』する。

 

伝達魔術は顔を把握していないと使えないから、これで通信手段はほぼ絶たれたことになる。

 

 

 

そうやって力をふるううちに、糧にする感情が、感覚が少なくなってきた。

 

視覚は失いたくない。互いを認めること、美しい光景を目に焼き付けることができなくなるから。攻撃を見ることができなくなるから。

 

聴覚は失いたくない。思いを聞くこと、伝えることができなくなるから。攻撃を見極めることが難しくなるから。

 

触覚は失いたくない。大事な人と手をつなぐこと、一緒に歩くことができなくなるから。攻撃を『否定』できなくなるから。

 

恋愛感情も、幸福感も、希望も、失いたくない。

 

消せるのは記憶だけ。

 

 

 

私は別に死にたいわけじゃない。笑顔でまたみんなの前に行って、出迎えなきゃいけないんだ。

 

 

 

魔術で対抗できるなら『否定』を頻繫に使う必要はないけど、魔術じゃ今はかなわない。

 

存在を否定して無力化してもいいけど、きっとそれをすればするほど私の存在が薄れるんだろうって思うから。

 

 

 

……記憶を犠牲にするしか。

 

 

 

『育』

 

 

 

伝達魔術が脳内に響いた。咲の声。

 

 

 

「さ、き」

 

『これ以上はやめて』

 

止められた。けど、そんなのお構いなしに私は構える。

 

 

 

『やめて。これ以上やったら、育が育じゃなくなっちゃう』

 

「わかってるよ。でもね、やめるわけにはいかないんだ」

 

『……』

 

「大丈夫。私も戦える。だから、みんなが背負ってるものを背負わせてよ」

 

『だからって……。ねえ、育。大人に任せよう。『院生室』に助けを求めたんだよ?きっともうすぐ来てくれる』

 

「そのもうすぐっていつなの?」

 

私の言葉に咲は黙り込んだ。

 

 

 

「大人に任せてどうにかなる問題でもないはずだよ。私はここを守れたらそれだけでうれしいんだ。戦わせてよ」

 

私がそういって通信魔術を『否定』しようとした瞬間、

 

 

 

『待って』

 

 

 

と制止がかかった。

 

 

 

『……覚悟してるのはわかった。一応言うけど、私は具体的な内容なんて知らない。丈凪くんが何か背負ってて、暁がそれを知ったうえで悩んでて、私たちは概要しか知らない。それでも重いのはわかる』

 

「……そっか。でも、関係ないよ」

 

それだけの覚悟をして今ここにいるから。

 

 

 

……でも。

 

「……私、一つだけわがままがあるの」

 

『何?』

 

「……今からは記憶を糧に戦う。そうしないとやられちゃう。何もかも失ってでも生きる覚悟は固めてる。でもさ、」

 

 

 

涙が少し流れた。

 

 

 

「私。……みんなとの楽しかった記憶まで消したくない」

 

『育……』

 

 

 

咲はしばらく考えて、少し時間が空く。その間にも自我が削れていく。

 

やがて咲の声がまた脳内に響いた。

 

 

 

『……私も手伝う。いただきます』

 

 

 

咲が液体を飲んでいるのが分かった。

 

 

 

「……?」

 

『私、相手の血さえ飲めば相手の能力を『昇華』できるから。昇華さえすれば育は魔術でも対抗できる。……この力で、守るよ』

 

「……ありがとう」

 

『……『昇華』、ブースト。対象深月育』

 

 

 

その声と同時に力がわく感覚があって、第二ラウンドがそこから始まった。

 

 

 

 

 

 

 

>『軍』本部最上階

 

血反吐を吐いてまた咳き込んだ僕に、

 

「おやおやあ。大丈夫ですかねえ。ほら、ハンカチですよお」

 

と跪いてハンカチを差し出す。払いのける力すらもう残されていないので、仕方なく受け取る。睡眠薬とかがあるでもなく、いたって普通のそれだ。

 

 

 

「……クリスのせいなんだけど」

 

「ええ?でも事実じゃないですかあ」

 

と困ったようにクリスが笑って続ける。

 

 

 

「いいですよお、複数の異能持ち。ぼくも元々はDNAをいじれば進化できる、くらいのものだった異能ですけどもお。手数が増えますしい」

 

「……そうだね、知ってる」

 

「弱点が減りますしい」

 

「……知ってるってば」

 

「様々な状況に対応できますしい」

 

「……知ってるから」

 

「戦法」

 

「取れる戦法が増えるとかだから知ってるってば」

 

 

 

そこまで言うとクリスは神妙な顔をして語り始める。

 

 

 

「……ところで、ある夫婦の話をしましょうかねえ。おしどり夫婦であった彼らは、社会不適合者に支援したりしてたんですけど、逆恨みされましてねえ?ある日、大勢の人が一般人の妻を殺そうとしたんですよお」

 

「……」

 

「夫もあわてて駆けつけて応戦しましたけどもお、異能をうまく使いこなせていなかったのでその実力者集団相手に苦戦しましてねえ。単純な算数ですよお、夫婦のところに三十人が襲ってきて、終わった時には夫だけがたってた。何人倒れてるか。……三十一人なんですよ」

 

「……それは、」

 

きっと怜なら『ありきたりな不幸』という一言でまとめるんだろうか。

 

 

 

「今なら勝てますよお。でも、今勝てても意味なんてないじゃないですかあ。過去で勝てなきゃ。……今のぼくが、その当時にいたなら。時間をかけずに駆けつけて、時間をかけずに倒せたはずです」

 

「……」

 

「まあ、そんなたらればなんて意味ありませんけどねえ」

 

「……」

 

「でも、時間を戻せる異能。それも『同じ世界軸で時間を巻き戻せる』異能があるならば、ぼくはそれだけが欲しい。だから逆行者の話に興味津々でしたが、結構当ては外れましたねえ。残念ですう」

 

 

 

神妙な顔をして語っていたのを表情を崩し、また空っぽな笑顔に戻ったクリスは

 

「そんなわけで、異能を複数持ってて損はないって話です」

 

という言葉で締めくくった。

 

 

 

うん、いい話だったんじゃないかな。問題があるとすればただ一つ、

 

「……そんな特殊な異能を持ってるのはクリスだけじゃないのかな」

 

「ははは、ご冗談を。一応もう一人いますよ。……不在みたいですけどね」

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

あたりを見まわしたクリスは、「しかし、」と口火を切る。

 

「それはそうと、いい加減脱出しないと死にますよねえ」

 

「……それなら、僕や宥の異能でなんとかなるはず」

 

合流しないとさすがに限界が近くて無理だけど、と続けた。

 

僕が今無理やり『破壊』したら自我が消えるんじゃないかな。

 

 

 

そういう意味ではクリスも何とかなるはずだけど、と僕が見ると、

 

「あー。ぼくもそう思ったんですけどねえ、なかなかそうもいかないみたいなんですよお」

 

と頭を搔いた。

 

 

 

「……?」

 

「今から異能を使うと、さすがにいきなり火が消えますから目立ちますよねえ。記憶をいじることも考えましたが、異能の弱点は対象をしっかり意識しないといけないことですよお。今から記憶をいじるとなると不特定多数を指定することになりますがあ、こんな大きな事件をだれが見てるかもわかりませんのでえ、完全に消したつもりでも漏れがあって不自然になるかもしれません。そうなると範囲指定することになりますよねえ。しかし、範囲指定しても今度は国全体、下手すると世界中にしないと漏れが発生して結局意味がありません。ここまですると何が問題かってえ、異能リビドーが怖いんですよねえ。現実的じゃあありません」

 

「……そっか」

 

 

 

僕はクリスの説明に納得しながら、力を振り絞って立ち上がり、窓を開けた。

 

もうすぐそこまで燃えている。『軍』本部だから危険物もそこそこあるだろうし、時間的猶予はきっとない。

 

 

 

「……クリス。何はともあれ一度外に出ない?」

 

「そうですねえ」

 

「だから、」

 

僕はクリスの腕をつかむ。

 

 

 

「ここで死ぬか一緒に出て僕に殺されるか……選んで?」

 

 

 

「それって結局死ぬんじゃないですか」

 

「大丈夫……後者は勝てる可能性ある……何が何でも壊すけど」

 

「……仕方ありません。いくらほしいでしょうかあ」

 

「……金で解決しようとしないで」

 

「今ならこの飴ちゃんもですねえ」

 

「いらないしその大阪特有の言い方をクリスがしてると気持ち悪い」

 

そう言い争っているうちにわずかに残っていた体力もなくなって、窓にもたれかかる格好になった。

 

 

 

「……限界みたいですねえ」

 

「……」

 

 

 

しゃべる気力すらない。クリスを目で追うと、僕に異能を付与して窓から僕を無理やり出す。

 

墜ちるわけでもなく僕の体は重力に逆らって浮く。

 

 

 

「『反転』の異能ですう。この空間から出してさえしまえば、生き延びることはできるでしょうから」

 

「……」

 

「そんなに睨まないでくださいよお。ぼくはあくまで君に興味がないから逃がすんですう」

 

 

 

相も変わらずヘラヘラ嗤うクリス。僕はもう屋外。魔術を使えない空間からは出たことになるので、回復魔術を使用して、声を出せるくらいには回復した。

 

 

 

「……なんで『教会』に勤めてんの」

 

「どういうことでしょうかあ」

 

「いや……魔術師として強いんだから、まっとうな仕事を選べたんじゃないのって」

 

 

 

僕の言葉にクリスはくすくすと笑う。

 

 

 

「無理ですよお。ぼくにはぼくの目的がありますし、それに……遺志は継がねばなりません」

 

「……」

 

「責任というものもありますしい。ねえ?」

 

「……やめる気はない、と」

 

「はい」

 

「……馬鹿な話をした」

 

僕は自分で何を言ってるんだろう、って自分を哂った。

 

 

 

そして、

 

「……今度こそ、僕が勝つ」

 

と言うとクリスが微笑んで口を開き―爆音。

 

 

 

クリスの背後で爆発が起こった。爆風に僕は飛ばされ、ビルから遠ざかっていく。

 

あれじゃクリスは。

 

 

 

「いいことを二つ教えてあげましょうかあ!」

 

 

 

クリスの声が遠い。

 

 

 

「一つ、ぼくは魔術を使えるほうが実力をいかんなく発揮できます!元が魔術師ですからねえ!ふたーつ!」

 

 

 

といったタイミングで物が飛んできて僕は反射的につかみ取った。

 

ロケットペンダントだ。

 

開閉できるらしい。開くと小さい写真が収まっていた。

 

親子の写真だ。クリスと、女性と、その女性によく似た少年。……でも、それより重大なことに僕は気づいて、思わず飛んできたほうを見た。

 

 

 

煙で霞んでよく見えないけど、クリスが僕にまだ微笑んでいた。

 

 

 

「……ぼくの息子、『有住汰絃』を頼みますねえ!」

 

 

 

そして、ビル全体が爆ぜた。




有栖汰絃(ありすたいと)
…元々今作プロットにはなかったものの、急遽追加した登場人物。
色々設定を追加したけど、海パンやろうとかマイムマイムとかは日常回にて反映する予定。
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