弱くなってニューゲーム   作:桜油

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れんloop⑥/くりすevolution

>国会議事堂跡地

 

深月命は手始めに『稲光』の弾幕を多数放って、俺のほうへ『縮地』で距離を詰める。『魔装』で剣を二つ生成して両手に構え、縦横無尽に剣を振るう。

 

俺は『身体強化』をかけて、左、右、下、側転で回避するが、途中で異能無効化術式が展開されて『循環』が無効になった。魔力量が少ないので『身体強化』を維持できず、それでも紙一重で体をそらして切っ先を避ける。壁に追い詰められたところで影を狙うように弾幕が俺の周囲の壁に命中し、俺は身動きをとれなくなった。

 

 

 

深月命は夕映に狙いを定めた。

 

夕映は『土遁』で柱を複数本飛ばし、『確率操作』で追尾システムを強化したが、深月命は飛んできた柱を悉く剣で斬って薙ぐ。『魔力撃』も飛ばしつつ柱に乗って、柱を捌きながら前進する。

 

夕映は『魔力撃』を躱しつつ『発光』を使用し、それを利用して影縫いから抜けた俺がナイフを懐から出す。深月命は『魔装』で鞭を生成し、俺へと伸ばす。毒の棘、返しがある。かすっただけでも致命傷だ。ナイフで二、三発捌いたが四発目でナイフをはじかれた。

 

 

 

このタイミングで深月命が夕映に『魔装』の剣を投げたが、俺がとっさに『防壁魔術』の略式を即時展開、座標指定したので『魔装』の剣は砕け散った。

 

攻撃はやまない。深月命は今度は鞭に剣を結び付けた。更に異能無効化術式で『循環』を封じた。夕映が『魔装』で剣を生成し、軌道を『操作』しながら俺にその剣を投げ渡した。俺はつかみ取り、さらに夕映に『魔力撃』『身体強化』を付与された状態で鞭、剣の攻撃を正面、左、左、右上、下にはじく。鞭を切って射程を短くした後、深月命に切りかかるが『防壁魔術』で阻止され、『魔装』が砕ける。

 

 

 

そこで夕映が『土遁』を俺の足元に座標指定、『浮遊魔術』、軌道『操作』の併用で飛んで移動する柱を俺の足場にする。

 

俺は先ほど折れた『魔装』の剣を手に構え、深月命に突進する。深月命は避けようとするが夕映がナイフを投擲して影縫い、魔術無効化術式も使って深月命が身動き取れないようにした。大きな爆発が発生し、煙が立ち上がる。

 

俺は深月命にまたがって、折れた切っ先を首に向ける。魔術無効化術式を展開するのも忘れない。これでチェックメイト。

 

 

 

深月命は生殺与奪の権を握られているにもかかわらず平然としている。

 

 

 

「……ここからどうするつもりかな」

 

「どうするも何も。洗いざらいはいてもらう、それしかないだろ」

 

「洗いざらい、ね」

 

彼女は鼻で哂った。

 

 

 

「何が可笑しい」

 

「だって、私が情報を吐いたところでもう世界は救えないんだ。ばかばかしくってさあ。ま、そこまで知りたいなら教えてあげようか」

 

「……」

 

「カタストロフはもうすぐだ。具体的にはもう一か月後には世界が終わるね」

 

カタストロフ。夕映の言っていた世界の破滅の話。もうすぐというのは分かるが、一か月後とはまた急な話だ。

 

 

 

「時期は決まってないでしょ。今年度なのは確実だけど、そんな一か月後だなんて」

 

夕映がそう反論したが、深月命はそれにゆがんだ笑みを浮かべた。

 

「いや、時期は特定できるよ。『前兆』があるんだ」

 

「『前兆』?」

 

「東京事変。『教会』が『軍』本部を襲撃する事件だ」

 

 

 

……はい?

 

 

 

「待て。そんなの『前回』なかっただろ」

 

「そりゃあ、条件を満たしていないからさ。いずれ満たすんだけど、今回は特に早かった。東京は今大パニックさ」

 

「……」

 

 

 

宥や有希が危ない。あの二人に、確かに『教会』がきな臭いからって『軍』本部前の偵察を頼んだ。深月命の言葉が真実なら、二人は今頃威力偵察をしているかもしれない。平ならいい、序列持ちでもなんとかなる。だが、クリスがいたら……。

 

 

 

「……その条件って何なの」

 

夕映が尋ねる。深月命はそれに頷き、あっさりと答える。

 

「そうだね。まず、『否定』『受容』のDNAをクリスが所持していることだ」

 

「それはおかしいだろ」

 

その返答に疑問を呈したのは今まで静観していた充喜だった。

 

 

 

「『前回』はよくわからない。けど、『今回』はあり得ないはず。僕はクリスにDNAを渡してなんかないし、本格的に争ったわけでもない。育も少なくとも『今回』は捕まってない。だからあり得ない」

 

「ははは、私もそのつもりだったんだけど。それこそ真白夕映が邪魔したのさ。ねえ真白夕映」

 

そう名指しされた夕映は青い顔でおもむろに口を開く。

 

 

 

「……私、一条くんと日向さんがちゃんと生まれるように、『否定』のDNAを深月育から採取したんだ。それに、『受容』は『前回』の君から採取した」

 

「……」

 

「……ごめ」

 

「謝るな」

 

俺が言葉をさえぎる前に充喜が遮った。

 

 

 

「謝られても、……一条も咲も生まれたならそれでいい。一条が壊れなかったならそれでいい。もうそういうことでいい」

 

「充喜……」

 

まさかこいつと意見が一致するとは、と感心する俺を尻目に充喜は顔をそらして話の続きを促した。

 

 

 

「で、二つ目は『循環』『操作』『投影』など、逆行に関する情報をクリスが得ていること」

 

「……」

 

これも夕映がやったことだろう。露骨に視線をあさっての方向にやってるし。……まあそれが最善策と信じてやったんだろうから何とも思わない。言及しないでおく。

 

 

 

しかし……

 

「さっきからやたらクリスクリス言ってるな。クリスって『神父』相当の発言力があることは確かなんだが、そんなに重要なのか」

 

「『神父』相当?冗談は大概にしてくれないか。クリスは正真正銘の『神父』だ」

 

「ファッ!?」

 

衝撃の事実に思わず奇声を上げた。

 

 

 

つまり有住汰絃はクリスの息子ということになる。そりゃあ反射神経えげつないはずだった。

 

 

 

深月命は続ける。

 

「そんな訳で東京事変が発生する。東京事変で『軍』は『教会』についた本郷の指揮もあって壊滅状態。『教会』は本郷があるきっかけで音信不通状態になって以降は撤退。そこらへんは有住汰絃が頑張るから大抵逮捕者が少ないね」

 

「そして、そのきっかけが本郷を世界滅亡へ走らせる。そういうことか」

 

「そうだね。少なくとも、私の知ってる歴史ではそうだ。この歴史でも大筋はあっているはずだよ」

 

と深月命はここまで話して口をつぐんだ。

 

 

 

だが、疑問はまだある。

 

 

 

「……情報量が夕映とお前で違いすぎる。内容もそうだ。だから、別々の世界軸から来た可能性がある。その差異はなんだ」

 

「差異は人類の本郷に対しての対抗手段だよ。もっと言うとそのあとの行動が違ったとも言おうか」

 

「……私の知ってる歴史では、本郷に対抗して『運命操作』を行った黒守の異能リビドーが暴走した」

 

「私の知ってる歴史では、丈凪怜が……ううん、正確に言えば『循環』をコピーした充喜暁が、本郷と黒守を倒した」

 

「こ、コピー!?」

 

驚愕の声を上げたのは充喜だったが、俺も内心驚いていた。夕映は知っていたようで、特に動じることもなかった。

 

 

 

「そうさ。『受容』は、殺した相手の異能を自分のものとして使う力がある。……殺しにトリガーを限定できるかはわからないけれどね」

 

他のこともトリガーに設定できるかもね、と深月命は、まだ生殺与奪を握られておいてけたけたと笑う。

 

 

 

「でも、本郷も黒守も死んだなら、世界の危機なんて来ないんじゃ」

 

「そこでクリスがくる。クリスはその戦いを通して世界を消すという結論に至る。世界を消されたら、それを修正できないと終わり。ちなみにこれは『循環』で巻き戻しても無理だよ。ゲームで言えばセーブデータを壊されたようなもので、そこにロードしたって無駄なんだ。精々リセットするが関の山なわけ」

 

私は本郷とクリスの引き起こすカタストロフをそれぞれ、『混沌』『秩序』と呼んでいる。

 

その言葉で話を締めくくって、不気味に口を三日月のように歪める。

 

 

 

「……ね。世界は詰んでるでしょ」

 

「真白夕映。私は悪くない。君が悪い。何をどうしたって結局どうしようもなく君が悪くて、いい気味だよ。これで私が望んだ景色は一生見られない」

 

「君の努力は無意味で、無価値で、無責任。無理で、無茶で、無駄だった」

 

「ふざけるな」

 

深月命の言葉をさえぎった。

 

 

 

「勝手に諦めるなよ。まだ世界は救える。試していない可能性がある。お前もその景色を見られるかもしれない。俺の夢に勝手に幕を下ろすんじゃない」

 

「ふふ、殺そうとしておいて何言ってんだか」

 

深月命は馬鹿にしたように嘲笑った。俺は構わず続けた。

 

 

 

「もしかしたら、今まで俺たちがハッピーエンドを目指して立ち回ってきたのは、世界滅亡にむしろ近づく、それだけの話だったのかもしれない。でも、俺にとっては決して無意味じゃなかった」

 

 

 

夕映と出会って魔術談義を繰り返したのも。宥を『軍』のスカウトから説得して秘密結社を設立したのも、有希と出会ってクリスと交渉して平穏を手に入れたのも、深月育を充喜が受け入れたのも、有住が有希と日向を逃がしたのも、夕映が『否定』『受容』のDNAを提供したのも。

 

全部、大切な歴史だ。

 

 

 

「逆行者のエゴで、この世界軸の人に迷惑をかけるのは、この世界軸の結末を勝手に決めつけるのは驕りが過ぎる。お前は神か?俺は神か?どっちも人間だろ?」

 

「……」

 

「時を戻さなくていい。誰も理不尽に苦しまなくていい。そんな先のある世界に、俺達で変えよう」

 

「……」

 

俺の言葉に深月命は暫く考え込み、そしてくつくつと笑う。

 

 

 

「なんだよ。急に笑い出して。おかしいことでも」

 

「ありまくりだよ。こんなのが本当にできるとでも?」

 

「やってみなきゃわからない」

 

「無理だよ。これで私を拘束できたとか思ってるところが片腹痛いって」

 

何を言ってるんだろうか。魔術は使えない、動きは封じている。これのどこが拘束できていないというのか。

 

 

 

俺が首を傾げていると、深月命は言う。

 

「本当。君って、昔から自分優位にしかものを考えてない誇大妄想者だね。そんなだから、」

 

瞬間、手を伸ばされる。俺はそれを手で払おうとして、しかし飛びのいた。

 

そのまま立ち上がる深月命。拘束が解けたが、その手先で掴んだ『魔装』の剣を消し去っていたことが判断の正しさを物語っていた。

 

 

 

「……こうやって、あっさり拘束を解かれるんだよ」

 

 

 

……失念していた。

 

深月命は別の世界軸の深月育。なら、『否定』を所持しているはずである。

 

なぜ一度も使っていなかったのかは彼女の姿に今までなかったノイズが走っていることで察することができた。あらゆる対価を支払って、現在は使用するごとに自分の根本的なものが損なわれるのではないか?

 

 

 

深月命は自分の手を見てまた笑う。

 

「うわあ、多用できないなあ。ま、どうせ世界が滅ぶんだし、いっか。……真白夕映の存在を腹いせに『否定』するくらいはどうってことないよね?」

 

と戦闘態勢に入るので、俺が間に入る。

 

 

 

そして戦闘に入ろうとした瞬間、深月命の腹部に大きな槍が刺さった。

 

 

 

「……こふっ」

 

 

 

その槍は引き抜かれ、大量の血液を迸らせてその場に倒れこむ。さらに下手人は深月命に触れて、その瞬間、腹部の痛みに痙攣していた深月命の動きが止まる。

 

 

 

その姿には見覚えがあった。

 

 

 

「……たとえ協力者だとしても、自分の獲物を横取りするつもりならば、容赦しない」

 

 

 

『軍』提督、黒守刹那は、味方だった深月命を裏切った。

 

 

 

 

 

>『軍』本部内部

 

早く戻らないといけない。

 

自分にはまだやるべきことがある。

 

 

 

一条有希にロケットペンダントを渡した後、再び大きく爆発している中、クリスはそう思った。

 

 

 

魔術はまだ無効化されているし、自分の持つ異能もこういう状況に全く適さない。十中八九、詰みなのだが、しかしクリスはそんな結末を認めるわけにはいかなかった。

 

 

 

苦節十年。ようやく、自分の目的に関しての手がかりを手に入れた。

 

青い髪の女が、本郷拝祢という情報屋を仲介してまで自分に面会、否、交渉を求めた時は何かと思ったが、それを気まぐれで了承したら、思いの外かなり大きい情報を得た。

 

『否定』のDNAを無償提供されたのは正直どうでもいい。狙ってこそいたが、それよりも大きい話がそこにあった。

 

『逆行者』の存在。歴史改変する方法。それこそが待ち望んでいたものだった。

 

自分が逆行者になれたなら、自分にとってのあの悪夢を改変できるかもしれない。そう考えたことはいくらでもあったが、そんな力の持ち主はいなかった。その力の持ち主さえいれば、異能に関して知り尽くした自分ならばそこを利用して逆行できるというのに。

 

だから、夢物語、希望的観測でしかなかったのだが、少女の言葉でそれが一気に現実味を増したのだ。

 

もらった『否定』のDNAは彼女の希望通り何体か作った。逃げられてしまって追いかけてたら、彼女がさらに『受容』までくれた。

 

息子にまで逃げられたがそこすらどうでもいい。もはや彼女は天使か何かにでも見えるようだ。

 

そして最後にとっておきの情報が息子から抜き取れた。

 

『循環』で逆行した、『操作』で逆行した、と具体例までわかったのだ。

 

どうしても決まった地点までしか戻れないようだし、それでは困る。『受容』『否定』……そして長年求めている、すべての理不尽を超越する力『決意』を集める必要があるが、同じ世界軸で巻き戻す『循環』があれば巻き戻れるし、『投影』『操作』はあの悪夢を変えるのに大いに使えるはずだ。

 

 

 

……そう。だからここでは死ねない。

 

そんな思いとは裏腹に、煙が、火が、熱が、こちらに迫る。

 

 

 

走馬灯が流れる。

 

くだらない人生。一番愛した人。一生の後悔。純粋に愛せなくなった息子。非人道的なことだとわかっていても利用してしまう忘れ形見。

 

女性の幻覚が見える。

 

心なしか、大切だった人の面影をそこに感じ、近づく。

 

目的など達成せずともここで会えたのだと、内心幸福感に包まれたその時、建物が崩れたのか瓦礫がこちらに倒れてくる。

 

 

 

短い夢だった。そう思い目を瞑るが、思っていたような衝撃は来ない。

 

 

 

恐る恐る目を開けば、さっきまで抱きしめていた女性……否、クリスがさんざん利用しつくしたキメラが自分を柱からかばって、背中から柱が何本も貫通していた。

 

 

 

「……」

 

 

 

臨んだ存在ではなかった失望と、自分がキメラと女性を見間違えたことへの呆れと、なぜこのキメラが自分をかばうのかという困惑で絶句した。

 

キメラはクリスにわずかに微笑んで、寿命が来たのだろう、砂となって消えた。勢いを失った瓦礫は落ちた。

 

 

 

いろいろな感情を処理して、ようやくクリスの口から出た言葉は礼でも謝罪でもなく、

 

「……馬鹿ですねえ」

 

という罵倒だけだった。

 

 

 

本当にバカだ。さんざん利用して、おおよそ人間の自我を持たせておいて人間未満の扱いしかしなかったのに、未だに自分に従うとは。

 

なんとも、馬鹿なキメラだった。

 

 

 

……しかし、覚悟はできた。

 

 

 

「こんなバカなキメラすらあきらめなかった。いえ、諦め方を知らなかったのでしょうが」

 

立ち上がって、埃を雑に払い、神官服の裾を破ってマスク代わりにする。『昇華』で自分に身体能力強化のバフをかける。

 

「何はともあれ、ぼくがここで諦めるわけにはいきませんよねえ」

 

そう言って歩みを進める。

 

本気を出せば簡単に出口にたどり着いた。

 

 

 

クリスは最後に振り返って、

 

「……ありがとう、名もなきキメラさん。あなたが生まれなくてもいいよう、あなたの死が報われるよう、しっかり目的は達成します」

 

と、それだけ言って、姿を消した。

 

 

 

もう、有住汰絃の前に父親として現れることもないだろう、という覚悟を胸に秘めたまま。

 

 

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