弱くなってニューゲーム   作:桜油

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やっと東京事変編終わりです!

終わりも近くなってきましたねー
日常回全然かけてないけどどうしよう……?


そだちdeny⑩

>伊灯高校上空

 

戦いはまだ終わらない。

 

 

 

魔術で無力化しても、異能で再起不能に追い込んでも、どんなに倒しても兵が次々と現れる。

 

それどころか、再生して、修復して、頑丈になって帰ってくる。だから、全く攻撃がやむことがない。

 

もうろくに私の記憶や感情は残っていないのに。魔力も咲のバフがあっても足りなくなりそうなのに。私が動ける猶予は残っていないのに。

 

 

 

炎で焼き払い、血液を『否定』して失血させても、『魔装』剣で切断しても、存在を『否定』しても、魔術を『否定』して落下させても……それでも、数分後には何事もなかったかのように復活する。再び私の居場所を壊しにかかる。

 

『魔装』剣を大量に生成して、残っている兵に向かって放つ。何人かは刺され、何人かははじいた後に『魔力撃』の爆発で重傷を負い、何人かが残る。後三割を数分でつぶさないと。

 

 

 

そうしないと、……大量の兵が守っている、グラウンドの端に隠蔽された結界にいるであろう現場指揮官……医務官をつぶせない。戦いながらも気づいていたけど、攻撃を加える余裕がなかった。気づいた後のほうが攻撃が熾烈になったから、少しでも意識を他にずらせば、高校が破壊されるであろうことは目に見えていた。

 

だから全員を無力化したかった。そうすれば医務官のほうへ攻撃ができる。

 

 

 

そして、今が一番数を減らせている。

 

 

 

あと二分。

 

『身体強化』『重力否定』『空気抵抗否定』『魔装』で槍を構えて、一人一人薙ぐ。時間稼ぎに手いっぱいなのか、回復魔術を使ってくる。回復魔術を『否定』しながらさらに薙ぐと、あと一人になった。今しかもうチャンスはない。

 

剣を切る。剣を再生する間に腕を折る。腕を再生する間に足を砕く。足を再生する間に腕をちぎる。腕を再生する間に右目をつぶす。右目を再生する間に頸動脈を切る。頸動脈を再生する間に歯を溶かす。歯を再生する間に全身をやけどさせる。やけどを回復させる間に魔力を『否定』する。魔力が即座に復活する。

 

きっとこの人は序列持ちで『大罪』を持ってる。多分『虚飾』か『嫉妬』。咲が通信魔術で教えてくれた。ついでにバフの質が上がった。彼はしかし戦闘に関係ない部分を再生することもあるから、きっとこのような激しい戦いには慣れていないんだろう。私と嫌なところで似た人だと思う。咲がこの最前線に来なくてよかったとも。

 

咲は『教会』関係者だったから詳しい。けど、こんな命を軽く見るような人と戦ったら駄目だ。まともに勝負してはいけない。まともに関わったらいけない。

 

その点、私なら自分の不都合をすべて『否定』できる。だから私は大丈夫なんだ。

 

他の生徒が起きてきても、私しか戦えない。

 

 

 

あと一分半。

 

ついに私の二年間の記憶を犠牲にせざるを得なくなってきた。

 

だから、ただでさえ少ない私の記憶はするすると虫食いになり、私が私の記憶、感情を信じられなくなり、私の自我に私を疑われ、宝物が消えていく。

 

それでも力を振るう。高校が、私の居場所が壊されるバッドエンドを『否定』する。

 

守りたい。勝ちたい。絶望には負けたくない。

 

心と一緒に体を壊しながら斬撃、刺突を組み合わせて最後の一人を追い詰める。どこをどうしても再生されてしまうけど、諦めず攻撃し続ける。薙いで、蹴って、『紅蓮』で攻撃を相殺する。その度に再生速度が低くなる。これなら倒しきれる。

 

……勝ったら、暁くんはほめてくれるかな。

 

 

 

あと一分。

 

煙を急に敵が出し始めた。死にたくないと喚いている。逃げるつもりか。

 

安心して、私は君を殺せない。そう思うと同時に、じゃあなんでそんなに弱いんだって、そんな組織に入った時点で君の末路なんてバッドエンドしかありえないんだよって、そんな思いがこみ上げてきて、その時だけ攻撃の威力が過剰になってしまう。倫理観というか私の価値観……記憶を失っても揺らがなかった部分が消えてしまっている事実に空しくなった。煙を『否定』する。学校に流れる煙も『否定』する。そろそろ潮時だ。

 

 

 

あと五十秒。

 

「さあ、そこをどいて。大人しくそこの指揮官までの道を開けて。さもなくば、殺す」

 

そう言って、その一人に急接近した。『魔装』槍を番えて。

 

 

 

あと四十八秒。

 

苦し紛れに放たれる魔術をすべて『否定』する。

 

 

 

あと四十七秒。

 

兵士が後退りをする。逃がさない。彼の移動を『否定』する。

 

 

 

あと四十六秒。

 

「なんだこいつ」

 

 

 

あと四十五秒。

 

「あれだけ攻撃しても無傷で、全員守り切って」

 

 

 

あと四十四秒。

 

「すげーよお前!バケモンだわ、いっそうらやましい!」

 

 

 

あと四十三秒。

 

「お前はいいよなあ!異能者のくせに、恵まれやがって!」

 

 

 

あと四十二秒。

 

「その才能少しでもほしかった!」

 

 

 

あと四十一秒。

 

「この、誇大妄想者め!お前が死ね!……おれを、殺すなあ!」

 

「私は人を殺さない主義だよ。でも、」

 

私は槍を大きく振りかざす。

 

「君の人生なんか知らないけど」

 

思いっきり、心臓目掛けて刺突を繰り出す。

 

「人の大切なものを壊しておいて、慈悲があるなんて思わないほうがいい」

 

槍の穂先が体に刺さり、

 

「今度は君の番。君が死ね」

 

思いっきり、心臓を貫いた。

 

即座に死を『否定』して仮死状態になった男を雑に捨て、医務官がいた方向に『稲光』を展開する。

 

そして放ったが、『防壁魔術』に止められた。

 

 

 

「いい時間稼ぎをしてくれました」

 

もはや何の感情もわいてこなかった。

 

……まだ猶予があったのに、もう復活していた。

 

 

 

でも、絶望だけはしない。

 

もう一週間しか記憶は残ってない。だから『否定』を使えない。正確にはすべてを捨てる覚悟もできるけど、それをしたら動けなくなるってこと。動けなくなったそのあとは?きっと地獄絵図だ。

 

魔力が微塵も残っていない。後五分もあれば全回復するけど、その五分が遠い。

 

体術も護身術もこの状況では使えない。集団戦など私は弱い。

 

ないないづくしだ。でも、戦う。諦めない。

 

 

 

そうだ。有住さんとはかかわりが薄かったけど……回避タンクの戦い方なら今でもできる。身体強化も浮遊もできないけど、なけなしの魔力でおとりになることだけはできる。そんな魔術式がたしかある。

 

 

 

咲が必死に通信魔術で声をかける。やっぱり前線に出たい、休んでてほしい。その思いはうれしい。

 

けど。

 

 

 

「ごめんね。私が囮になるから。皆を連れて逃げて」

 

『いや!』

 

「……二年間、楽しかった」

 

それだけ言って通信魔術を切る。即座に囮魔術を展開し、浮遊魔術も切った。

 

 

 

『身代』。

 

 

 

私は落ちていく。屋上から。

 

普通なら落下死させるだろうけど、『身代』のおかげで私に攻撃が集中する。焼けて、凍えて、痺れて、潰れて、折れて、砕けて、貫通して、壊れて。何の感覚もないから、意識を保つことさえできればこの効果は持続するから、意地で耐える。

 

 

 

走馬灯が流れる。

 

夕焼ける空。五時に流れる夕焼け小焼けのメロディー。

 

暁くんが差し伸べる手。一緒に帰ろうって笑って、夕焼けに映えた君の横顔がまぶしくて。

 

 

 

―すべて忘れて、自分の名前すら思い出せなかったけど、暁くんが好きなことだけは覚えていた。

 

 

 

「また明日」って言って別れて、次に君に会えるのが待ち遠しくて。自分で前髪を切って、ちょっと切りすぎて、少し恥ずかしくて、でも君はその前髪を優しくなでて、似合ってると言った。

 

 

 

―友達でも妹でもありたくなかった。以前の私に恋をしていた彼を見て苦しかった。記憶を失っていないふりをしたことを悔やみ、でもそれも切り出せなかった。

 

 

 

落ちて、落ちて、悟っていく。

 

走馬灯が散る。地面が近い。まだ攻撃してくる。さすがに地面にたたきつけられたら死ぬよねえ、って、笑える。笑えない。

 

 

 

―いえばよかったな。記憶なんて残ってないけど、今の私なりに暁くんが好きだって。つまらない意地と私なりの独りよがりな考えで隠した、今だから遺せる本音を。今思えば、あの瞬間から自分で『幸せ』を拒んでいたのかな。

 

 

 

―いや、忘れたって正直に言っても、今の私なんか興味ないかもしれない。馬鹿だなあ、昔の私。今の私が嫌いになりそうだよ。いや、今の私の思い出は大切だから『否定』しないけど。

 

 

 

そうだよ。友達で終わりたくなかっただけなんだ。

 

涙が空に吸い込まれた。

 

「―」

 

勘違いでもなんでもいい。ずっと言いたかったから、『身代』を切って『通信魔術』をつなげて、出せる限り大きな声で言った。相手はたぶん『一番好きな人』。

 

 

 

そして、地面と私の頭が接触―する前に浮遊感。

 

 

 

「さよならとか、大好きとか。そういうのは飛び降り自殺しながらいうもんじゃないよ。まったく」

 

縁起悪いよ。そんな、どこか優しい声。何度も聞いた声。いつまでも聞いていたい声が上からした。

 

私はお姫様抱っこされているのだと気づき、私の顔が熱くなるのを感じた。

 

色覚がないからわからないけど―彼は間違いなく、私が一番会いたかった人だから。

 

 

 

「育。ありがとう、あとは僕に任せて」

 

「暁くん……」

 

 

 

彼は私の頭をなでて、回復魔術をかけて、『受容』される。さらに別の温かい感覚がして、今までの記憶が帰ってくる。

 

 

 

実の兄との日常。死んだ両親。兄の蘇生。叔母の重すぎた期待。笑わない少年。私の愚痴に笑った彼。初恋。彼の沈んだ表情。彼を笑わせたくて隣に寄り添って。自己満足だとわかっても幸せで。時を重ね、思いを重ねた。咲と出会い、暁くんが後悔しないように必死に声をかけた。さらに思いは重なる。逆行の真実を知り、散々迷って、実の兄と再会し、実の兄に自分の想いは正しいのだと理解し、でも告白できず、さらに壊れて、でも終わる間際に彼と両想いになった。

 

 

 

好きだ。やっぱり、大好きだ。過去を知っても変わらない。

 

 

 

彼は私を、私が守っていたいまだ無傷の校舎を守りながら、『教会』を圧倒する。あっという間に誰もいなくなって本部に攻撃を始める。

 

途中からは丈凪くん、青い髪の人―昔会って髪の毛を渡した少女で二人入って、さらに圧倒する。私を汐宮さんが助け起こし、一条くんが校舎から咲を連れて出て、咲が私に駆けよって抱きしめる。

 

「そだち……!ばか、ばか」

 

そのままぽこぽこ軽く殴られている間に、『教会』が全滅していた。

 

 

 

そして暁くんがこちらに来て、咲を止める。

 

「咲。育は疲れてるんだから刺激するなよ」

 

「でもとおる、このこばかだよ。しんだらもともこもないのにおとりになるし」

 

「……そういう咲も、吸血して、足りなくて死ぬ寸前だった」

 

「さーきー?」

 

「げ。ゆうき、ばらさないでよ」

 

と咲が有希に追い回されて、暁くんが止めて自分の血を咲に吸わせる。

 

というか、咲のバフが強くなったのって吸血に切り替えたからだったんだ。

 

 

 

いろいろ落ち着いたころに、有住さんが到着した。

 

「ごっめーん!本郷の糞に洗脳されてて寝かされてて、そっちの撤収指揮できなかった!」

 

「ええ?」

 

洗脳?本郷の糞?撤収指揮!??

 

情報が一文に色々詰まってるから困惑していたら、丈凪くんが目の色を変えて、有住さんの襟をつかむ。

 

「おい有住。その話詳しく」

 

「あ、私も。ついでに話したいことあるんだよね。生徒会と『John』の共同の取り組みってことで、生徒会室に今日集合ね」

 

「……あ、僕も聞きたいことがある」

 

「え、おれなんかやった!?」

 

と三人に拘束されて、有住さんがドナドナされていった。

 

 

 

咲は私と暁くんを交互に見て、

 

「……あー、なるほど」

 

と手槌を突いた。

 

 

 

「安心して、育。吸血は今度から注射か輸血にする」

 

「ええ!?」

 

「そうですね。日向さん、それがいいと思います」

 

と汐宮さんも笑って返し、暁くんを睨みつけて、

 

「充喜くん。わかってますね???」

 

と言った。暁くんは頷き、

 

「当たり前だよ。今度こそ、僕は間違えない」

 

と見つめ返す。汐宮さんは納得したように咲と先に行ってしまい、私と暁くんの二人が残された。

 

 

 

……そういう、ことだよね。

 

ついさっきまで死ぬ覚悟してたのに、今じゃ真逆の心配をしているなんて。

 

不思議なこともあるなあ。

 

 

 

暁くんは何を言うでもなく、夕焼けを―色覚も戻ったのできれいな茜色に見える夕焼けを見ていた。

 

 

 

「あ、あのさ」

 

 

 

ついに勇気を振り絞って私が言葉を紡ぐ。

 

 

 

「……何?」

 

「えっと。……暁くんも、みんなも、いろいろ背負ってるものがあって、きっと次の戦いはもっと激しくなるのかなあって思うんだけど」

 

「うん、そうだね」

 

「その戦いが終わったら、話があるの。とっても大事な」

 

「……」

 

 

 

暁くんは黙って聞いていた。私はやっぱり勇気が出なくて、

 

「い、今言ったら死亡フラグみたいになるね。うん、やっぱやめとく」

 

とのどまで出かかった言葉を押し込める。

 

 

 

暁くんはしばらく何も言わなかったけど、やがて私のほうを見る。

 

「僕、育のことが好きだ」

 

「……、……。……えっ」

 

唐突に言われた言葉に私は思わず向き直った。

 

あまりにも唐突で、私が話を途中まで聞いてなかったのかと焦る。

 

 

 

「ん?もう一度言おうか」

 

と口を開きかける彼の口を慌てて抑え、「き、聞こえてたよ」「あっさり過ぎるからつい」なんて漏らす。

 

 

 

「そう。僕は我慢したよ」

 

「が、がまん」

 

「数年も話せばさすがに記憶喪失はわかるって。周りも少し不自然だったし……記憶を失っても失う前でも変わらない部分はあったし、そこが好きなんだけど、また拗らせそうだから記憶を書き換えて、投影したんだ。つまり今は両思いって解釈してもいいけど、僕からエゴを押し付けることだけはしたくないから、ゼロから関係をやり直そうと思ってさ」

 

「……」

 

だから記憶が戻ったんだ。そう場違いに納得しつつ、口角が上がるのが抑えられない。嬉しくて右手で口を塞ぎ、恥ずかしくて何度もはにかむ。耳が熱い。

 

 

 

「育。返事は?」

 

「うぇ、えっと、聞こえてたんでしょ……通信魔術」

 

答えなんか聞かなくてもわかってるんだからずるい。明らかに暁くんは聞こえていたはずだから。

 

 

 

『さよなら、大好きだよ』って。

 

 

 

「そうだけど、改めて聞きたいんだ」

 

「……ばか」

 

 

 

私でいいのかとか、これは夢じゃないのかとか、色々抑え込んできた感情が私の意思を超えて揺れる。悲鳴をあげる。わしゃわしゃと暁くんの髪をぐちゃぐちゃにする。心を何とか落ち着かせて、私も答えを言う。

 

 

 

「……好きだよ。十年くらい前から」

 

「そっか。僕は六年位前からだな」

 

「そ、そうなんだ」

 

六年も両片思いしてたんだ。互いに不器用なのかもしれない。

 

 

 

……しばらく沈黙が続く。

 

心地よい沈黙。学校のチャイムが鳴り響く。

 

 

 

「……さ、生徒会室に行こうか」

 

「……そうだね」

 

と校舎に足を向け、少し立ち止まる。

 

「どうした?」

 

と暁くんが私を待っていてくれる。

 

「……ううん。文化祭、楽しみだね」

 

私は思ったことを胸の中にしまい、彼の手を取った。

 

 

 

……一番好きな人の一番好きな人になれたから、私はもう迷わない。

 

私はやっと私を好きになれる。

 

 

 

それだけ。




次からは視点変更あまりないです
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