弱くなってニューゲーム   作:桜油

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ここから新章です。


VS『混沌』
はいねunderstand①


東京事変から一か月弱が経過した。

 

 

 

東京事変の後日談としては、いろいろある。

 

 

 

まず、俺と充喜の決戦は見送りになった。世界の危機を何とかしてから再戦することにした。夕映の話を聞く限りどうも俺と充喜の異能がカギのようだから、役割を終えるまでに殺し合って片方死んで世界が詰んだんじゃ話にならない。

 

 

 

黒守死亡や『軍』本部倒壊に関しては、『教会』との戦いで『軍』本部が攻め込まれ、黒守が殉職したが『院生室』と『John』が共同で『教会』に勝利したということになった。情報の根回しは異能と『院生室』の権力、新しく『教会』代表になった有住汰絃の協力があったので問題ない。

 

 

 

『教会』元代表のクリスが不在だったが、実の息子であり戦闘能力も回避面問題ない上にカリスマもあった有住汰絃が後釜として正当性が最も高かったので、

 

 

 

有住汰絃が総合指揮の立場として停戦を指示したのも大きい。異能者回収ストップもあって、『軍』の実権を『院生室』と『John』で握っている以上、異能者差別に該当する行動の規制は容易になった。精神面ではまだまだだが、それは長期戦を覚悟しているから問題ない。要は俺が生きている間に実現すればいいのだ。異能者の立場、社会的地位、信用、異能そのものの再現性さえそろえば、次世代、その次の世代が中心になるころには異能差別は落ち着いていると見た。

 

 

 

伊灯高校に関しては、翌日は臨時休校になったもののその翌日からは平常通り学校が始まった。被害が全くない上に東京事変の裏で発生していたから世間にあまり認知されていないからだろう。深月が『否定』を多用したが、目撃者がいないし、充喜の『受容』『書換投影』で二年前以前の記憶も取り戻したので、深月と充喜は今楽しそうにしている。

 

 

 

ちなみにその臨時休校の間にまた俺と充喜で殴り込み……もとい決闘を申し込み、夕映の編入と有住の三年生としての復学を認めさせた。夕映は「今更いいよ」と遠慮していたが、これに関しては俺がやりたいことなので折れてもらった。

 

 

 

そんな訳で世間ではあまり話題にされていない東京事変だが、俺たちにとっては大きな意味があった。

 

 

 

世界滅亡の話が真実味を帯び、明確なタイムリミットも判明し、誰が敵なのかもわかりやすくなったこと。

 

 

 

世界中に秘密結社『John』が強く認知され、『軍』の立場を引き継げたことで、何でも屋とか部活とか異能差別解消とか以上に、日本の国防を担う部分も出てきて忙しくなったこと。

 

 

 

そのついでで、有住汰絃がスポンサーになり、充喜、深月、日向が俺の秘密結社に加入し、夕映が復帰した。

 

 

 

おかげで仕事が忙しくなったと言っても、シフト制で回せている。『院生室』様様だ。日米同盟を本格的に検討し、国防を一時的にアメリカに依存せざるを得ないだろう。魔術黎明期まで日米同盟があった為、第二次日米同盟とでもいおうか。

 

 

 

そういうわけで、割と万全な体制でカタストロフに臨めるようになったのだ。

 

 

 

話は変わって。

 

 

 

一か月前、東京事変が終了してみんなが一堂に会し、役者がそろった。

 

生徒会室に全員が集まり、会議の初めに改めて自己紹介をする運びとなった。

 

自己紹介といっても互いに知り合っていないのは有住と夕映、夕映と日向だけなので、異能の解説がメインだが。

 

 

 

対象を『循環』させることで様々な効果をもたらし、『感情の噴出』も発動すれば、『決意』の強さ、内容に応じて効果が変化する異能を持つ俺。『決意』の異能リビドーも変わらず『感情の噴出』。戦闘中に冷静な判断ができなくなることを除けば、もはやデメリットではなくメリットでは?と思うのだが、夕映曰く危険らしい。

 

 

 

「異能を、あまりにも世界に大きく影響を与える形で使用すると、良くて異能を今後使えなくなるし、最悪死ぬよ。異能によって違うけど」

 

「あまりにもって、生死とか時間とかいじくっても問題なかっただろ」

 

「うん。その辺なら別にどうってことないけど、『運命』を対象にするのはだめだよ。黒守とかまさにその例。暴走状態になって自我が死んだパターンだね。あと深月ちゃんもその辺割とピンチだったよ。原理は違うけど」

 

「だから『運命操作』とかしないんだな」

 

「うん。私の場合は死ぬだろうね。君の場合は異能を二度と使えなくなるくらいで済むと思うけど」

 

それができたら世界はパパっと救えるのだが、そうは問屋が卸さないらしい。

 

異能因子みたいのがDNAにあって、やりすぎると異能因子が焼き切れる、そんなイメージだと話していた。

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

次に異能の解説が入ったのは、東京事変で異能の謎が解決された充喜だ。

 

 

 

対象の異能の効果や異能リビドーを『受容』することで無効化し、さらに異能者を殺すなどのトリガーを実行すると対象の異能を『受容』、コピーできる。この効果で黒守の『投影』、以前『投影』された中で唯一無効化されていなかった『書換』が使用可能になっているが、できることの範囲はあくまで対象が死ぬまでに対象が使用したのを自分が見た技だけだそう。異能リビドーはいまだに謎。ただ、『パラノイア』ではない可能性が有住の言葉によって浮上した。

 

 

 

有住曰く、異能は三系統に分かれているらしい。

 

 

 

一つ、汎用性が高いもの。『決意』『循環』『操作』『投影』『書換』『欺瞞』などが該当する。

 

一つ、攻撃性が高いもの。『否定』『破壊』『拒絶』『背向』などが該当する。

 

一つ、防御性が高いもの。『受容』『昇華』などが該当する。

 

 

 

そしてそれぞれ最上位が『実現』『呵責』『容赦』なんだと。どれもその次に強い『決意』『否定』『受容』をさらに強めることで現れる。そしてクリスはそれができる異能『進化』を持ち合わせている。

 

既に『否定』『受容』は持っているが、『決意』だけでなく『操作』まで求めている理由は定かでない。逆行が目的である説が濃厚だが、ほかにも目的がありそうな気がしている。ただコレクションしたいだけならいいが……まあ入手させないほうがいいだろう。

 

 

 

さて、話は戻って、次に解説されたのは『欺瞞』である。有住が異能者とは誰も把握していなかった―夕映も把握していない。おおよそ計画に関係ないのだろう―ので、連携をとるならできることを把握しておくべきだという話だ。

 

 

 

結果、確かに汎用性が高めだ。『教会』に処分を食らう心配がないとは、クリスもこれを把握してるから殺しても意味がないのと、実の息子なのが関係しているだろう。

 

 

 

さらに続けて深月の異能の解説。これは使いすぎると本人が危ないからだ。常に充喜がそばにいるとは限らないので。

 

 

 

そして一番お世話になりそうな、バッファーの日向の『昇華』。体液を摂取した対象のみらしいので、全員の血を摂取させた。俺の魔力もかさましできるので、万が一異能が使えなくなったら真っ先にお願いしようと思う。俺の戦闘面における異能への依存度は高すぎるから。

 

 

 

そして『破壊』『操作』『書換』。この辺は特筆することがない。

 

 

 

そして次の議題が現状の整理。

 

 

 

改めて『前回』『今回』の差異、世界軸や時間軸の話、歴史改変者の狙いを説明する。

 

 

 

黒守の世界軸では、充喜が言うには、『本郷拝祢が東京事変で覚醒してしまい、汐宮宥と共闘した充喜暁と相討ちになって、二人だけが生存した』という結末だ。汐宮はその後に死亡し、黒守も『今回』死亡したので、もう生存者はいないことになる。

 

 

 

ここで気になったのが、夕映の以前の話だ。

 

 

 

「夕映。確か、逆行者が死亡した後に逆行が他人によって行われた場合、その世界軸のは何もかも知らない奴なんだろ?その世界軸に死ぬ以前の逆行者が介入している可能性はないのか」

 

「あー、それはね、ちょっと複雑な原理してるんだけど。逆行した時点でその世界軸は固定される。それには違いないんだけど、それ以外の世界軸は逆行していること前提で人格が設定されてる。複数回逆行した場合はその分も固定で入る。で、死んだ場合はその後どの世界軸に行ってもそのデータは消える。少なくとも私と黒守はその手法で繰り返してるから、どの世界軸に行っても逆行者同士出会うことは可能なんだ。逆行というプロセスを踏まないとデータの共有はされないけどね」

 

「なるほど」

 

 

 

つまり、逆行する際には元の世界軸の運命は決定され、それ以外の世界軸には自分の体、アバターに自分の記憶と自我が入る。そしてそれを知っている前提の行動が行われる。そしてその世界軸から違う世界軸に移動する場合、またデータが全自分に更新されるわけだ。

 

 

 

で、深月命はそれとは異なる原理でやっているからか、逆行し始めたのがつい最近なのか、あったこともないし実在した試しもない。深月育は次元地震のタイミングで『教会』につかまり幽閉されるのが基本らしい。夕映はこれに関しては世界云々にあまり影響がない―と思っていた―上に、こちらから手を出して『教会』と敵対したくもなかったので放置してたらしい。

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

続いて夕映の世界軸。『同じ手順で覚醒した本郷を黒守が討伐したものの、『運命操作』で暴走した黒守が世紀末になるくらい滅ぼし、夕映と充喜が共同で討伐した』世界である。夕映の『大きなことに異能を使用するのは危険』という話の重要なソースだ。その暴走状態など使いすぎた際の問題は異能の強さでわかるようだ。『決意』『受容』なら『異能を二度と使用できない』。『否定』は確認が不可能だ。異能リビドーの発動によるそれとこれは原理が違うが、深月の使い方だと異能リビドーが常に発動してしまうようだ。効果が強いので死ぬことだけはないと思いたい。

 

そして弱くなると『自我の消滅』『死亡』と変化する。『操作』は最弱の部類のようだ。割と強いと思うのだが、『循環』でいくらでも代用できるからだと。

 

 

 

そして深月命の世界軸。わかっている情報をまとめるなら、『黒守と深月が殺し合いをしている間に本郷が討伐され、クリスが、何らかの事情で暴走した深月とともに世界を滅ぼした』ことになる。その詳細を知りたかったが、本人がいないんじゃ仕方ない。

 

 

 

つまり何物も介入しない場合、本郷が世界を崩壊させる。充喜が相討ちになることで阻止できる。これは本郷に有効打を与えられるのが『循環』と『受容』しかないこと、練度がその世界軸では不足しているのが問題らしい。

 

 

 

正史では充喜暁が丈凪怜を殺すことで『循環』を『受容』し、練度が全くない状態で本郷が覚醒する。異能の練度、つまり適用範囲の広さは使用率と『強い感情』で上昇する。『循環』の進化系が『決意』であり、本郷が解決策を見いだせなくする、詰ませるには『決意』で『解決策を見出される』理不尽を回避するしかないわけだ。『決意』まで読まれないようにするために『受容』も必要となる。『受容』は『決意』を封じきれないので、これで本郷を攻略できるんだと。

 

 

 

なので夕映の狙いは、『本郷が覚醒した際に、『循環』『受容』を所持している人物が、充分に練度を上げたうえで戦える状況にもっていくこと』である。

 

だから、『循環』の練度を上げるために、五歳から『循環』を所持している丈凪怜の体に、異能リビドーが『感情の噴出』になる充喜暁の人格を入れる必要があった。

 

そして成功したが、まさか最初から『決意』を発動させるとは思っていなかったと夕映は話していた。

 

これに関しては俺もよくわからない。夕映にとってはうれしい誤算だっただろうか……いや、『決意』を読まれてしまう可能性が増えたともいえるからむしろ困った話だったのか?

 

他の人がどうするかという問題もあるが、バックアップしつつ本郷が開発した洗脳魔術への対処を任せる方針。イレギュラーへの対応もこの役目には含まれている。

 

 

 

クリスの話は夕映が何も情報がないし、有住もその辺は知るわけがないので、攻略については一旦放置することになった。

 

ガナビーオーケーである。

 

 

 

そんな感じに話し合ったが、結論から言えば現状こちらからは何もアクションが取れない。

 

 

 

というわけで、普通に文化祭準備やら依頼消化やら国防・外交やらドタバタしていたのだが、やっと文化祭前日のリハーサルが終わろうとしていた。

 

明日が文化祭。今いるのは生徒が催しをやる体育館ステージだ。あまりにも暑いのでエアコン、冷却魔術などフル稼働しているが、それでも熱気がすごい。エアコンが入っていないのではと錯覚する勢いだ。

 

 

 

ステージのトリは宥、日向、深月のバンド……正確にはDJユニットに近いのだが、そこに夕映を入れて、四人でのライブである。いろんなイベントに参加してきたからか知名度が高い。秘密結社『John』の宣伝までしているので、何でも屋としては商売繫盛につながって何よりだ。……一般人でも魔術を再現できるようになったら、一般枠も採用しよう。魔術師と異能者にこだわるのは人手、コンセプトの両面で良くない。事務員として一応採用枠は設けているが、執行部にいれるのもありかなと思っている。構想は実はすでにあるので、『院生室』と有住を頼るつもり。

 

四人が新曲を披露したのち、入れ替わりで俺と充喜、有住、有希が入場する。こっちはバンドだ。生徒会と『John』共同で出演するので、キリがよくなったら交代する形式になった。

 

そして俺たちのほうも新曲があるので、軽く流していく。

 

 

 

明日は高校生活最後の文化祭だ。是非とも楽しんでほしいし、俺も全力で楽しむ所存だ。

 

 

 

そんな思いでリハーサルを終えて、生徒が下校を始める。割と早く全生徒が下校する。やることがないからだろう。

 

 

 

生徒会の仕事も落ち着き、俺と夕映だけが残った。日直の仕事を完全に忘れてたからだ。

 

 

 

日誌の内容を考えながら書いていたが、夕映はあっさりと終わらせている。途中まで書いていたんだと。俺より登校してた期間少ないのに要領いいな、と思っていたら、人生経験の差だとどや顔された。ちくせう。

 

 

 

それはおいといて。

 

俺に戸締りを押し付けた夕映は、荷物の整理をしていたが、ふと手が止まった。

 

 

 

「どうした?」

 

「……」

 

俺の問いかけにぼうっとして夕映が応じない。

 

「夕映。本当に大丈夫か」

 

と目の前で手を振っても焦点が合わない。

 

 

 

……これって。

 

 

 

魔術無効化の術式を展開し、夕映に付与すると、やっと夕映は俺のほうを見た。ハイライトが戻っている。

 

「……怜。どうしたの?」

 

ときょとんとしていた。……やはりそうか。

 

 

 

文化祭前日にきやがったな、カタストロフが。

 

 

 

「洗脳魔術だな」

 

と一言だけ言えば、夕映も意味を理解したのか、顔を青ざめた。

 

 

 

さらに探知魔術を展開し、さらに顔を青ざめた。

 

「……噓。全員、洗脳されてるのかこっちに向かってきてる」

 

「かなり大規模な魔術式なのに一切その気配がなかったな」

 

と話していると、夕映が首を傾げていた。

 

 

 

「でも、怜はその様子を見るにかかってないんだね。なんでかな」

 

「俺だけ対象から外したとか?意味わかんねえけど」

 

 

 

少なくとも『決意』は意識した対象しか跳ね返せないので、今の洗脳魔術は跳ね返せなかったはずだ。俺の説が正しいとしてもその理由が全く分からないが。

 

同じ理屈で、夕映ですら引っかかった洗脳魔術を他の人が回避できているとは考えにくい。つまり異能者もかかっている可能性が高い。

 

 

 

つまろうがつまるまいが。

 

どうやら、俺と夕映を除いた全人類は洗脳されて、俺たち二人の敵となったようである。

 

イレギュラーの中では最悪。『受容』の充喜と共闘して本郷討伐という作戦はほぼ実現不可能となった、ということも意味していた。

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