弱くなってニューゲーム   作:桜油

44 / 56
会話文多めです。


はいねunderstand②

俺と夕映以外の全人類が洗脳されて敵になった。

 

とは言っても手をこまねいていたわけではない。

 

魔術無効化さえしてしまえばあっさり解けるので、俺と夕映は洗脳を解きながら、仲間を探していった。

 

 

 

最低限、充喜さえ復活すれば問題ないのだが、バフが欲しいとか、攻撃をいなすのが面倒で回避タンクが欲しいとか、変に暴走されて自我を失くされると困るとか、感覚を失った状態になられても困るとか、放置しすぎると逆に手に負えなくなるとか、まあそういった理由で気づけば仲間全員を助ける話になっていた。

 

 

 

異能者、魔術師、一般人問わず洗脳状態になっているのだが、基本的に一度洗脳を解けば二度とかからないのがありがたい。無駄撃ちはできないから、放置しても行動にあまり支障のない一般人やフリー魔術師は放置する方針である。

 

 

 

そうやって仲間を探すこと一時間、ショッピングモールにてようやく仲間の姿を発見。なんとか有住、日向、深月、有希の四人を救出した。で、エレベーターに滑り込んだのだが。

 

 

 

「た、助かった……危なかった」

 

「みんな無事?ちゃんといるの?」

 

「……ああ、大丈夫だ。ちゃんと六人」

 

「いや待て。六人?五人しかいないだろ。ちゃんと数えろって」

 

「いや大丈夫っしょ。おれ、れんれん、真白、深月、ひなたさん。そして、ゆうき。ほれ、六人だ」

 

「ちげーよ馬鹿!有希いないだろ!有希ノットイコール制服のジャケットおおおおおおおおおおお!」

 

「いやれんれんこそ何言ってんだよ。ゆうきって制服のジャケットだろ?」

 

「そうじゃねえよ、有希が制服のジャケットしかねえって話だろ!」

 

「怜、冷静になってよ。一条って言うて制服のジャケットでしょ?」

 

「夕映も正気になれ!有希が『ここは僕に任せて先に行け』的なこと言ってたのまで忘れるな!」

 

「……えっと、それってもしかしなくても死亡フラグだから、形見的な意味で有住さんたちのほうがあってるんじゃ」

 

「いや深月、お前はもっとまともであれ。本当、騙されるな」

 

「アッハイ」

 

「くっそ、やっぱ助けに行くべきじゃ」

 

「それはちょっと厳しいんじゃない?今から言ってもこんがり上手に焼けるだけな気がする。全滅はやばいって」

 

「それによく考えなって。これ、ぶっちゃけゆうきっしょ」

 

「どこをどう見ても制服のジャケットだろ!」

 

「いやあ、現実逃避なんかするなって。これとあそこに取り残されてるホムンクルス、どっちがおおよそゆうきだろうね」

 

「おおよそってなんだよ!?間違いなくお前らが現実見ろ!」

 

「あれはただの制服のジャケットかけじゃないの」

 

「制服のジャケットかけ!?ハンガーでいいだろ!?」

 

「ジャケットかけってことでいいよね?一条」

 

「おけ」

 

「薄情者は黙ってろ!」

 

「丈凪くん、でも心配いらないんじゃないかな?洗脳は再びかかることないし、一条くん強いもん。暴走しても私が対応できるよ」

 

「深月、そうだけどそうじゃない。……お前も黙っとけ」

 

「アッハイ」

 

「丈凪君。昔から人の心はどこにあるかというのはポピュラーな議題だったよね」

 

「日向。何だ藪から棒に」

 

「人の心は心臓?それとも脳?私は違うと思う。それはきっと、」

 

「「「制服のジャケット」」」

 

「お前ら人間じゃねえ!」

 

「えーと、それは私も……みたいだね、なんかごめんなさい」

 

「もういい。俺が助けに行く」

 

「怜……やめて。君が死んだらシャレにならないんだ」

 

「ほかのだれが死んでもハッピーエンドじゃねえけどな?」

 

「大丈夫、君が生きてたらほかのだれが死んでもハッピーエンドの可能性まだあるよ」

 

「そういう問題じゃねえ」

 

と会話していたところ、エレベーターが止まった。

 

 

 

「でも助けに行くなら、今ちょうど止まって開くし行けばいいんじゃね」

 

「……それって外に人いるんじゃん」

 

「「「「あ」」」」

 

閉じようとする暇もなく、扉が開いたが、先には充喜が有希を引きずってきていた。

 

襲い掛かる様子はない。

 

 

 

「び、びびらせやがって」

 

と有住がおどおどしている中、深月が嬉しそうに抱きつく。

 

「暁くん!無事だったんだ。しかも一条くんを助けてくれてたんだね」

 

「すげえ!充喜、お前やるじゃん!」

 

「なんだとおるん、本当人が変わったようじゃないか」

 

と言いながら、有希をエレベーターまで運ぶ。

 

 

 

「しかし充喜、よく無事だったな?『受容』か?『受容』って無意識でも発動するはずだし」

 

「うん……まあ?」

 

「夕映、なんで疑問形なんだよ」

 

「なんかひっかかるなって」

 

「……確かにそうだけどなんだろうな……」

 

「そっか。『受容』で無効化されてるから平気なんだ。よっ、無敵君!洗脳魔術が再発動されたらみんなをよろしくね!」

 

と楽しく盛り上がる深月だが、おかげで違和感の正体に気づけた。

 

 

 

ので、そっ閉じした。

 

やや遅れて深月の悲鳴が聞こえた。

 

俺は最低だ。だが、仕方なかった。

 

 

 

『受容』が無効化するのってあくまで異能までなんだぜ、深月……。

 

 

 

して。

 

多分、これから起こることも予想ができる。

 

 

 

「有住」

 

「言うなれんれん。深月の死を無駄にするな」

 

「死んでないけどな。そうじゃなくて……充喜が連れてきたということは、」

 

続きを言う前に有希は立ち上がり、戦闘態勢をとった。

 

 

 

「洗脳またされてるー!」

 

「洗脳再付与ありか!」

 

「最悪のパターン!」

 

何をされてるかわからないと思ったが、ここまでになるとさらに事態の収拾がつかない。無理やりにでも充喜に魔術無効化をぶっぱしとくべきだった……!

 

 

 

「……ば、バフ貼るよ!なんとか魔術無効化をしないとこっちも全滅しちゃう!」

 

「え、え、でも魔術無効化なんて術式さっぱりだけど!?」

 

と有住が慌てるが、容赦なく有希が襲い掛かる。動きがひどく俊敏で、普通の状態の有希より強い。

 

 

 

「や、やっべえ……!」

 

と有住がやっとの思いで避けたが、有希は弾幕をその隙に有住にぶつける。

 

 

 

有住の動きが止まり、ぼうっとしだす。これは前兆なので慌てて魔術無効化を有住にする。……が、魔術無効化が発動しない。

 

 

 

「魔術の概念を破壊してる……!」

 

「じゃあさっきのは理性を破壊したってこと!?」

 

「ヒエッ」

 

抵抗手段がないことに気づき戦々恐々としたが、幸いにもまたエレベーターが開いたので、間を縫って抜け出した。

 

その際に夕映が俺をかばって洗脳され、俺目掛けて攻撃をしてきたが、なんとかショッピングモールを出て洗脳を解除し、また逃げ始めた。

 

 

 

仲間を辻斬りならぬ辻解除するのも命がけというか、ミイラ取りがミイラになりかねないという問題があるから、態勢を整えるまで逃げの一手しかありえなくなった。

 

洗脳を解いても、ある行動で再び洗脳される場合がある。正直これがあるせいでキリがない。本郷の影響を受けているのか、戦闘アルゴリズム的なものが搭載されているのではと疑うほど戦闘に最適な行動ばかりとる。真っ向から相手をしても限界が来るのは速いだろう。というか異能やら魔術やら変に無効化されたら詰む。

 

 

 

どこで何を見られてるか分かったものじゃない。『決意』を使用するわけにもいかないので、俺もただの『循環』の異能者だ。そして『循環』でできることは限られている。

 

『結界』をかなり強固に張ったが、えげつない勢いの攻撃が襲ってくる。

 

 

 

「やべえこれすぐ割れる。夕映、次の結界用意できるか」

 

「あー。さっき洗脳を受けたときに怜への攻撃で使い切っちゃってるね。サポートに回るよ」

 

「……『稲光』とか魔力消費量えぐいのを使いまくってたしな。マジで魔術無効化使われなくてよかった」

 

「異能無効化は使ったけどね」

 

「あれマジでファックだわ。魔力足りねえって一瞬焦ったけど魔力消費5で略式作っといてよかった」

 

「コスパ最強だね」

 

と会話している間にビキリと音が響く。見ると、結界にもうひびが入っている。

 

 

 

「ぎゃああああああ!?夕映、そろそろ『結界』きれるって!罅やっばい!」

 

「頑張れ☆頑張れ☆」

 

「魔力切れてるからって余裕か!魔力分けるからなんとかしろ!」

 

「魔力分けて平気?私が洗脳されたら異能無効化を間違いなくするよ?怜はそうなったら死ぬよ?」

 

「いや魔力なくても同じだろ!『時空間操作』まで使いやがって畜生!異能無効化術式を展開してなかったら終わりだったわ!」

 

「そして世界も終わるねえ」

 

「だーくそ、じゃあせめて結界術式複数やっといて!」

 

「でも守りばっかりじゃいつまでたっても本郷の攻略できないよ」

 

「わかってるから!世界規模の魔術無効化術式展開に今忙しいんだよ!」

 

「え、あんなクッソでかいのを一人で展開しながらあんな強い結界維持してるの?会話もできるとか脳内リソース凄い」

 

「じゃあ黙って結界展開してくれませんかねえ!?」

 

「えー。私も頑張って攻撃そらすのに割と忙しいんだよ」

 

「その割に攻撃の密度高すぎねえ?」

 

「そりゃやばいのだけそらしてるし」

 

「……ちなみにどんな」

 

「魔術無効化、異能無効化、洗脳系統、影縫い、その他今の状況が詰みそうなやつ」

 

「……あの攻撃の中からそれ見つけ出してそれだけ的確にそらすとか、夕映も脳内リソースばけもんじゃねえか」

 

「常日頃から思考速度を加速してるから、並列思考くらいできないとすぐ戦えなくなるよ。今正直戻しそう」

 

「戻すな戻せ」

 

「戻した」

 

「それにしたって人員足りねえ!やっぱ仲間いるわ!回避タンク来いやあ!あとバフも!」

 

「二人とも一回洗脳解いたのになあ。贅沢言えば全員助けたいとは最初に決めたけど、これじゃあ難しいね」

 

そんな会話をしながらヒイヒイ攻撃をしのいでいたが、急に攻撃がやんだ。

 

 

 

というかあたりが急に暗くなった。特殊な結界をどうやら俺を囲うように張られたらしい。隣にいた夕映は結界からはじき出されたようで、姿が見当たらない。

 

致死攻撃のオンパレードだったが、夕映は無事なんだろうか。一刻も早く結界を破らねば。

 

「その心配はいらねえぜ?」

 

背後から声がして、俺は反射的にその声の方向にナイフを投擲する。が、あっさりよけられた。

 

「おっと。ずいぶん物騒じゃねえか。お前んとこのオブザーバーにこの仕打ちってひどくね?」

 

声の主は嗤いながら落ちたナイフをつまむように持ち上げて続ける。

 

 

 

「まあ、しゃあねえか」

 

そう言い、ナイフをそのまま手先でくるくるとまわす。

 

 

 

「やっと悟ったぜ。お前、なかなか『全知』使わせてくんねえからさあ、まじで困ったもんだわ。おかげで理解するのが遅れた」

 

 

 

そしてナイフを構えて切っ先を俺に向けた。

 

 

 

「お前、知ってたっしょ。オレが世界ぶっ壊すって」

 

「……そうだな。詳細は全く知らなかったが、最終的にそうなることは理解していた」

 

 

 

俺の返事に、男―本郷は哂う。

 

 

 

「そりゃあ警戒するよなあ!オレがいくら人類を愛してようと、世界を滅ぼすのが確定事項だから、手札晒せねえよなあ!オレだってラスボスが目の前にいたらそうする!あー、おもしれえわ!」

 

と一頻り哂う。腹を抱えて、片腹痛いと言う。

 

かと思えばすんっと真顔に戻った。

 

 

 

「……おかげで、人類がクッソ嫌いになった」

 

「……」

 

 

 

俺はただ静かに聞く。

 

 

 

「……して、その理由は?」

 

「おいおい、やめてくれよ。お前さんも心当たりあんだろ。クリスから聞いてたんじゃねえの」

 

「なるほど……『世界軸のゆがみ』の話か」

 

「ざっつらいと」

 

 

 

三年前。

 

有希を処分しようとしていたクリスに、俺は夕映が渡したDNAを貸しとして質問をした。異能のエネルギー源のことだ。クリスはこんな考察を残していた。

 

 

 

『そのエネルギー源から人が知るべきではない事実を本能的に知ってしまうから、異能を使いすぎた場合や制御できない場合に狂う』

 

『別の世界、別の時代で世界軸がゆがむような災害が発生し、その歪みからエネルギーが生じて異能になっている』

 

そして、締めにはこうだ。

 

『かつてほろんだ世界の人々の絶望を糧にした力、それこそが異能』なんだと。

 

 

 

「あれはクリスの持論だろ。真実とは限らない」

 

「いや、真実だぜ?正確には絶望した人々の痛み、苦しみ、トラウマを糧にしてるってえ寸法。……全く関係ない奴のことを背負わされ、それが原因で苦しみ、野垂れ死ぬ。バカみてえだろ。世界を救うにしたって、滅んだ世界のやつの絶望で希望を作るとか皮肉だわ」

 

と鼻で笑い、続けた。

 

「それは抜きに世界は糞だって思うだろ?魔術師は自分がすげえって驕って見下す。一般人は魔術師マンセーするくせに異能者は化け物、一切努力しねえ。異能者は抗う奴なんか一握りで、勝手に諦めるか自分も同じ穴の貉だ。くそしかいねえ」

 

「だからなんとかしようと抗っているんじゃないか」

 

「逆行者は世界の危機とか知らなかったらゲーム感覚で自分の目的のためだけに生きて世界を詰ませただろ。違うか」

 

違わない。何も言えなかった。

 

充喜が死んだ時点で問答無用で世界は詰む。それを知っても殺し合ったし、夕映の乱入が遅れてたら間違いなく殺してた。……蘇生手段は一応あったが。そして書記はゲーム感覚でいたから余計。

 

 

 

「歴史改変者は自分の世界軸の都合を持ち込んで、それこそいい迷惑だわ」

 

黒守のことだろうか。夕映の説得すら聞かなかったから。

 

夕映のことかもしれない。俺はそう思っていなくてもはたからそのように見えることもあるかもしれない。

 

 

 

「普通の奴は世界の現状に気づくことすらねえ。ゴミ、役立たず」

 

そこまで語った本郷は、更に語る。

 

「オレの目的はただ一つ。人類を抹殺して、一度地球をさっぱりさせたい。それだけだ」

 

「何も得るものがないぞ」

 

「ああ、それでいい、それがいい。オレは何も得ることなく、すべてを失いたい」

 

「自分勝手だな」

 

「人間は元から自分勝手だろ」

 

「……」

 

「さっきの話然り、環境問題然り。問題を解決しようにも、便利さを追求してまた同じ結果になる。悪化したりする。キリがねえよ。だから、一回掃除してえの。そのくらいの自分勝手、今までの人類に比べりゃかわいいもんよ」

 

「歪んでんな」

 

「あざす。それ、最高の誉め言葉だわ」

 

「……なるほど。言い分はわかった。が、俺は認めない」

 

俺はそう言って、魔術式の展開を始める。本郷も若干遅れて展開を始めた。

 

 

 

「そうだろうなあ。お前は認めらんねえ。だから『循環』……『巡らす者』でいるんだろ。『LOAD』所持者はそういうもんだ」

 

かかかと嗤い、本郷は口を三日月のように歪めた。

 

 

 

「だから、オレも含めて掃除したい。『洗脳』をお前にかけないのは、お前しかオレを殺せないからだよ。もっとも、お前を殺せるのもオレしかいねえんだけど。後は全人類洗脳して互いに殺し合えばそれで目的は達成できる」

 

「じゃあ。俺も自分勝手に止めて、自分勝手に生き延びてやる」

 

俺の返事に本郷はうつむいて笑う。それでこそ、と嗤う。

 

顔を上げると、食えない性格を思わせる本郷らしくない、改まった表情に切り替わっていた。

 

 

 

詩を詠うように、本郷は言葉を紡いだ。

 

 

 

「オレは『混沌』。絶望し、暴力と恐怖と混沌ですべての生物を壊し、秩序を取り戻す存在」

 

「だが、お前はこのゆがみを正す者。うまく廻らなくなったこの世界を再度『LOAD』し、『巡らす』者。きっとオレをこの絶望から解放してくれる」

 

「証明しろ。お前は『人類の希望』足りえると。『正しい歴史』の『決意』だと」

 

「精々頑張って、オレを殺すがいい」

 

 

 

そうして、戦闘が始まる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。