USBが壊れてデータオワタので初投稿です
(この作品は別サイトで完結してるし、他作品も途中まではスマホにデータ保存してたので一応支障はないけど、モチベは死んだ)
ショッピングモールにて。
洗脳されていた暁くんに追い詰められた私だったけど、命さんが助けてくれた。
東京事変以来連絡が一切つかなくなっていた命さんは、体に所々ノイズが走っていたけど、颯爽と私の前に現れては彼の洗脳魔術を無効化してくれた。
「やあ、育。楽しそうなことになっているね。面白半分で様子を見に来たけど、護身術も教えたのにあっさり諦めるとはどういうつもりかな」
「え、なんかごめんなさい?」
ものすごい形相でにらまれてつい謝った。一旦諦めれば死ぬことはないって気持ちでいたけど……確かにだめだよね。仲間に攻撃したら迷惑になっちゃう。むしろ今のまま対応策を考えていたほうがずっとみんなのためになる。
私は現状を把握すべく『探知魔術』を使った。どうやらあの後、はぐれてしまったようだ。まとまって行動しているのは二人。一人に向かって大人数が集中していて、もう一人は……なんだか反応がおぼろげだ。探知を阻害されている感覚。もう一人がすぐ近くにいて戦っているみたいだけど、そのもうひとりまで曖昧な反応。曖昧な反応になる原因を『否定』しても全く効果がない。
多分、真白さんと丈凪くんかな。戦っているもう一人はもしかしたら『混沌』かもしれない。
でも、真白さんの作戦って、丈凪くんと暁くんがそろっていないとできないのでは?そうなると丈凪くんが『混沌』に異空間に閉じ込められて、その中で戦っているってこと?だとすればだいぶピンチだと思う。暁くんを連れてくるにしたって、到着自体は速いけどこんな異空間に侵入する方法なんてあるんだろうか。
私は考えている間にも敵の対応をしてくれている命さんをちらと見る。
……頼るしかないかな。
「命さん」
「何かな」
「私、……皆についていけないかもしれない。足手纏いになるかもしれないんだ」
「……」
「みんなの力になりたい。暁くんを丈凪くんの所へ連れていきたい。方法はわかるけど、私では超えられない壁がある」
「……」
「だから、力を……ううん、気持ちを貸してください」
そう言って頭を下げた私に命さんはしばらく無言だったけど、口をようやく開いた。
「……さあ?」
ええ……。
なんとも煮え切らない返事に困惑したけど、命さんの言葉には続きがあった。
「ああ、いやね。質問をさせてほしいんだよ。協力するもしないも、その返事を聞いてからじゃないと踏み切れそうになくてさ」
「質問……?」
私が頭を上げて頷くと、命さんは私を見据えて尋ねた。
「君には何もできない。それは私にもわかる。この状況、君の背景も考えれば、どうにもできないというその判断は正しい。……しかし、しかしだ育。そうならばなぜ、『任せる』『委ねる』という選択をしないのかな。きっと君の兄さんは一人でも勝てるさ。『前回』、実際に勝ってるのだから。ほかの世界でも彼が勝つという結末事態に変化はないんだ」
「……」
「諦めないのはなぜ?君はもう頑張っただろう、充分みんなの力になっただろう、今逃げても君の優しい仲間たちならきっと認めるさ。それさえ考えれば、君の心が軽くなり、これ以上傷つくことがない道を選ぶべきだろう。君は傷つくことを恐れるのだから」
「……」
「なんて。君のその仲間を殺そうとしたり、君の傷に気づかずに苦しめたり、私がいないほうが幸せだっただろうし、私が言うことではないか」
「それは、……そうかもしれないですけど」
命さんの最後の言葉は否定できなかった。命さんが癒えにいないことがだんだんと増えた中学時代から、私の人生は色づいていったから。
ただ、質問には答えられる。
「でも……私は、大切な人が頑張っているときに手をこまねいて傍観するだけなんてしたくない。傍観してそれで大切な人がいなくなったら、そっちのほうが耐え難いよ。だから私は私の選択を信じて駆け付けたい。少しでもいいから力になりたい」
「……」
「大丈夫。私はもう私を肯定できる。そして命さんもそうなれる。私らしく、命さんらしく生きようよ。今は私ひとりじゃ力になれない。命さんはわからないけど……すぐ駆けつけることは難しいはず。でも、命さんが思ってるほど、私たちってちっぽけな存在じゃないんだよ。無意味じゃない」
「……」
「あと、最後の。私、確かに命さんがいなくなってから幸せになったけど……その幸せは命さんのおかげで手に入れたものだよ。命さんがいなきゃ私は普通の女の子になれなかった。暁くんに出会えなかった。厳しさを知らなかったら好きになることも共に過ごすこともなかった。暁くんと時を重ね、思いを重ねることもなかった。咲とも出会えなかっただろうし、有住さんも知り合うことはなかったと思う。丈凪くんと再会できなかった、丈凪くんの仲間と仲良くなることもなかった。命さんは、私の人生の柱なんだよ」
そこまで言い切ると、命さんは微笑んだ。
「……なにかおかしいことでも言ったかな」
「いや。懐かしいことを思い出したよ。君と同じことを願った人がいたこと、その人は自分で台無しにした上に大切まで壊してしまったこと、その大切が残した言葉の数々をね」
「……」
「あはは、馬鹿だね私。原点をようやく思い出した。君の言葉で思い出せたよ。そうだよね、……人助けなんて、面白そうだからで十分だった」
命さんはそう話して、私に手を差し伸べる。
「……行こうか、丈凪怜のところ」
「……えっと、」
「ああ、ごめん。わかりにくかったね。君に気持ちを貸そう。これはそういう提案だ」
「……ありがとう!」
私はすぐに命さんの手を取って、丈凪怜の近くにいない現実を『否定』した。
私が私を好きになれて……一番好きな人の一番好きな人になってから、私の『否定』は制御可能になった。感情を糧に戦うこともできるけど、もう自分を捨てるような戦い方はしないって未来の自分に約束したから、仲間が死にそうなときにしか無茶はしないつもり。
だから、現実を『否定』しても何の問題もなく真白さんの前に出た。やっぱり近くにいた。
けど異常なのはその周囲。完全に包囲されて集中して攻撃を受けているのに、そのすべてがそれていく。やっぱ真白さんすごい。だってこんなにすごい爆風と筋肉と爆発の被害をすべてそらすんだから。
そして真白さんが背にしている謎の結界。あれに丈凪くんが閉じ込められているんだろうか。
真白さんは私たちの姿が目に入ったらしく、ひどく驚いていた。
「深月ちゃん……無事だったんだ、良かった!それに充喜、……え、深月命!?」
と咄嗟に身構えるので私は制止する。
「真白さん、今の命さんは仲間だよ」
「はあ?そんなすぐ信用できるっておかしいんじゃないの」
「暁くんも私も助けたんだから違いないよ」
「それはこいつが君たちを贔屓してるだけだよ」
「でも、人助けの理由なんか面白そうで十分って」
「……あー。そういや君ら兄妹だった。なんでそんなお人好しなんだろうね」
「えっと?」
「こっちの話。片や仲間を殺しかけた人でも普通に許すバカ、片や自分の人生の目標になったって笑いながら世界の運命を託されちゃうバカ。なんでか憎めないのよねえ。……惚れた弱みってか」
真白さんは呆れたように肩を竦めた。
「まあ、うん。今は手出しされない限り黙認するよ。怜と同じこと言われると弱いなあ、私」
「……そりゃあよかった。とりあえず説明をお願いできるかな」
命さんがようやく口を開くと、真白さんは説明を始める。
私の予想通り、丈凪くんは結界の中に突如閉じ込められていること。
戦闘音はしているし、会話からして本郷拝祢と交戦状態になると推察できること。
介入しようにも、その結界は何をどうしても破れないこと。
一応戦況はこちらが優勢、だけど相手は『全知』だから何をされるかわからないし、現にさっきからとてつもなく嫌な予感がしていること。
そこまで説明し、真白さんは覚悟を決めたような表情で話す。
「でも、君たちが来てくれてよかった。おかげで私はある作戦を決行できる」
「作戦?」
「私は『運命操作』でこの結界を無理やり壊す。一瞬しかできないだろうけど、なんとか通り抜けてほしいんだ」
「……それって」
私の言葉に真白さんは頷いた。
「うん。……私は死ぬだろうけど。後はよろしくね」
「君もバカじゃん」
それをさえぎったのは命さんだった。
「……バカって、」
「いや、君は本当にバカだよ。残される人の気持ちを考えなって。多分、怜は君が死んだとわかれば『決意』が折れて使い物にならなくなって、世界滅ぶよ?」
「そんなわけ」
「ある。君だってわかってるんじゃないの?」
「……」
「あのさ。彼は勇者って質じゃないんだよ。世界のために頑張るとかじゃないんだ。大切な仲間が一番で、世界なんて二の次のはずだよ。そして仲間の中での一番大切なんて……すごくわかりやすいほうだと思う。そうでなきゃ、あいつは人をかばうために、咄嗟に噓はそうそうつかないはずだよ」
「……」
「あいつの本心を、あいつの決意を聞いた後なら私は止めないけど。苦しいだろうなあ……大切な人が身を挺して、自分の代わりに死んじゃって、そんな世界に一人取り残される。何を思えばいいんだろうね?」
その言葉はやけに実感が伴っていた。
「ま、そんなわけで。君のその案は却下だ。私の最終目的すら達成できなそうだし」
「……じゃあ、どうするの」
「君らはここでしのぐだけでいい。私が突入する」
「は、そんなのできるわけ」
「できちゃうんだよ」
と命さんはあっさり通り抜けた。
ええ……?道理が全くわからないまま呆然とする私の横で、真白さんは
「深月命も馬鹿だね。それって君は」
と何かを言いかけたけど、結界越しに命さんは真白さんの口を封じた。
「馬鹿だよ、私は。守りたい人の命の椅子を奪おうとしてたんだから。本末転倒だろ?」
「……」
「怜は勝てないかもしれない。負けもしないけどね。そんな猶予は君たちにはないだろう?じゃあ君の知ってるあの男と同じ手法を取らないといけなくなる。それなら、こんな状態の私が適任だ。最期に私は私なりに、自分の世界軸の話に巻き込んだ責任を果たしてくるさ」
と命さんは結界の奥に消えようとする。真白さんがそれを呼び止めて、質問を投げかけた。
「……君の目的って何だったの」
「至極単純だよ」
と命さんは私と結界の奥を指さしながら答えた。
「一組の兄妹が、同じ青い空の下で笑い合う。そんなハッピーエンドがほしかったのさ」
本郷との戦いも大詰め。
本郷はあれ以来被弾が増えて、回復も追いつかず、ついに致命傷を与えた。
魔術無効化もしてるので、このまま放置すれば本郷は死ぬ。
「もうこれで終わりだ」
俺がナイフで影縫いをし、『魔装』剣を首元に突き付けると、本郷は哂っていた。
「随分と余裕そうだな」
「おうよ。そりゃ余裕にもなるって。お前の詰みが決まったから」
「何を言ってるんだ。どう考えてもお前の負けだ。認めろ」
俺がそう言うと、本郷は爆笑した。
「可笑しくて腹痛いわ。いつからお前、勝ったとか思ってんの?オレの異能忘れた?」
「『全知』だろ、そんなの」
「面白いな、お前。『全知』を利用しつつ深い情報を読み取らせないように調整はしてたくせに気づかねえのか」
「……」
「じゃあ教えるけど……オレがやってた情報処理は、回避、軌道、魔術式構築だけじゃねえよ。一部にかかった異能無効化術式を解析して解除、……お前の『決意』を解析し、再現できる魔術式を構築した」
「破滅願望じゃあないのか、目的は」
「破滅願望?何それ、食えるの」
俺の、やっとの思いで出した声は、あっけらかんと返された。
「人類は最初から嫌いだよ。現実とかクソゲーだろ。他人の不幸は蜜の味。他人の不幸を自分が味わうのでもいいけど、世界はぶっ壊してみてえなあ。それだけがオレにとっての謎だった。いやあ、『決意』はクッソ重くて解析きつかった。おかげでクッソ被弾して回復魔術を使うのも処理重くて回復追いつかなかったが……これで勝てる」
「どうするつもりだ」
「とりま、今のこの理不尽な状況を打開するじゃん?で、お前とかいう理不尽な存在を殺すっしょ?で、理不尽な世界もぶっ壊して終焉を見る。ぜってえ楽しそうだよなあ!」
そう笑う本郷は、本当に見たことのない術式を展開する。『決意』を思わせる強い迫力がそこにある。魔術無効化がまだ生きているので、それをはねのけて展開されているのを見るに本当に『決意』なんだろう。
「……まあ、とりあえず。お前の努力を否定するところから始めるかねえ」
俺は『決意』でその魔術をはねのけようとしたが、その異能が発動しない。
「ああん?まだあきらめてねえのかよ。でも後手後手だよなあ……お前も疲れてんじゃね。お前が『異能』を使える理不尽を超越したから、おとなしく殺されろ。……いや、いっそお前の仲間を目の前で殺すのもいいな。あの青い歴史改変者から殺そう。そうしよう」
「……!」
「お、ビンゴ。オレは頭悪いとも天才とも思ったことねえけど、こりゃあバカでもわかるな!よし、青髪を無残に殺してからお前を殺して、仲間も殺す!よかったな、みんな仲良く天国行けるぜ」
「人を馬鹿にしすぎだろ……!」
「当たり前じゃん。全人類オレ以下だわ」
と本郷は俺をはねのけて、魔術を起動する。
……が、何も起きなかった。
「……は?」
本郷は再び魔術を展開して起動したが、まったく変化がない。
そして俺も異変……いや、正常に戻ったのを感じた。
『決意』が、使える。
本郷はよほど焦っているのか俺には目向きもせず、魔術式の展開、起動を繰り返す。これは何というか……物理法則に干渉できていない?
やっと我に返った本郷が俺の胸ぐらをつかむ。
「お前……どんなチートを使いやがった!今すぐやめろ!」
「いいや。彼の直前までの状況を考えるに、こうはならないよ」
「……?!」
誰も入ってこれないはずの結界に、何者かが入ってきていた。
その人物は歩を進める。
「彼は決意を折られて、異能がひどく弱体化していた。どうあがいても、世界の真相を知りうるほどに練度が上昇した君の異能、そこから生じる魔術を封じることは不可能だよ」
「……」
「練度が一定以上に上昇すると物理法則のみならず世界軸に干渉できるようになる。実を言うと、別の世界軸出身の人が別の世界軸の人にちょっかいをだせるのもその辺からなんだ。弱体化さえしていなければ彼は君のその魔術を封じるくらい問題なかったかもね?君の下手な魔術を克服するくらいわけない。……ま、だから先に心を若干折っておいたんだろうけど」
「……じゃあ、誰がやったんだよ」
「できるのはごくわずかしかいないね。他の皆は練度不足だ。充喜暁は意識を失っているし、真白夕映はもしやったら死んでしまう。明らかにこれは第三者の仕業だ」
そう侵入者は言いながら結界の中央まで来て立ち止まる。
「犯人の推理はおおよそ終わっただろうけど、なんでか気になるって顔だね。私は私らしく生きようと思ったから、では納得してくれないか。じゃあこう言っておこうかな、君のようなくそ野郎に私の夢が壊されるなど、そんな結末は認めたくないからだ」
「深月……命」
彼女は、ところどころに激しくノイズが走っていた。
「君はもう物理法則に干渉できない。君が存在する現実を『否定』したからね。君はやはり世界を崩壊させる人物というだけあって強かった。おかげで私も消えそうだよ。まあ、ちょうどいい結末だよね」
そう、彼女は嗤う。
本郷は激昂した。ノイズをところどころに走らせながら。
「ふざけるな!お前こそ世界が糞に見える筆頭だろ!『教会』にいじられまくって、解放された時には憧れの兄はぶっ殺されてて!初恋はその下手人で!敵討ちしてたらいつの間にか暴走させられてて!そして初恋の人をぶっ殺して世界をぶっ壊しちまった!お前には何の落ち度もなかったのに、不幸に襲われてたんじゃないか!!」
そしてそこまで叫んだ後にハッとした表情で深月命に尋ねる。
「……待て。そのあと逆行した。そこまではわかる。……なんで、同一人物が二人もいるんだよ!世界軸のルールではそれは認められないはずだから、ほかの歴史改変者も憑依という形をとってんだろ!」
「そりゃあ、世界軸のもう一つのルールってやつじゃないの」
「はあ……?」
「私は世界を壊した。居所がないけど混沌にいてはいけない。だから別の世界に飛ばされた。次元地震のせいで私という存在を正せず、同一人物が二人いるようになった」
「まさか……世界を『否定』した!?」
「そう……おかげで君より影響力は強くなった。もっとも、使いすぎると世界に私が認知されてこの通り消されるんだけど、……今はむしろ好都合さ」
そこまで語ると、深月命は俺に顎で促す。
「戦え、早く勝て。私は君に言いたいことがあるし、私がいられる時間はそう長くない」
「……わかった」
俺はこの戦いを早く終わらせると『決意』する。
深月命はそれを見て本郷に向き直り、一言。
「いい言葉を教えよう。人の世は苦しい。されども美しく、そして愛しいのさ」
本郷は吼える。
戦いが、もうすぐ決着する。