弱くなってニューゲーム   作:桜油

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さすがになろうのをそのまま載せるのも味気ないので日常回も増やそうと思うのですが、なかなかそんな時間が取れなくて、後から挿入する形になりそうです。


ゆえcontrol④

『魔術師=エリート』、つまり『魔力があればあるほど有能』という風潮が幼稚園児にまで浸透しているこのご時世、『魔力の測定結果』がそのままいじめに直結するケースはそう珍しくない。

 

 

 

『異能』や『外見』、『障がい』や『血縁者の経歴』が原因のいじめも少なくないが、魔力の量がダントツだ。公開する義務はないのだが、如何せん親は子どもに魔力の量を教えるから、子供同士での教え合いから『標的』が決まってしまうことは多々あるし、それで知られなくても、進路にどうしても差が出てしまうから、魔術に関する知識や行動パターンから知られてしまうこともしばしばある。

 

 

 

幼稚園から小中学校の義務教育は魔力の有無にかかわらず学ぶ内容は同一としているが、魔術業界で上を目指すなら、幼稚園から小学校低学年で魔術を本格的に学ぶのは当然である。そこから、魔術学科の偏差値高めの高校でいい成績を出して魔術組織に推薦をもらう(『前回』の俺はこのパターンである)か、魔術大学を卒業して就職活動に成功する(研究者や技術者はこのパターンが多い)、どちらもできなかったらフリーで魔術師としての実績を重ねてスカウトされるのがテンプレである。30歳までに声がかからなかったら潔くあきらめたほうがいいのも定説。

 

 

 

……時々、夢を諦めきれずに30を過ぎても魔術師稼業を続行し、うまくいかずに性根が腐るやつもいるし、そういうやつに限って、学生時代ずっと魔術師にいじめられ続けた一般人で心が弱いやつと同じように悲劇の主人公ぶる。俺はそういうのを一人だけ見たことがあるが、アレは見苦しい。ありきたりな不幸なのだ。多分全世界にごまんといるし、不満な奴だらけなんだろう。しかし、実力主義なこの業界は、弱い奴は淘汰される。平和な終わり方ならいいが、何も残らなかったり、一生癒えない傷ができたり、最悪死んだりする。スカウトされないのはこの業界なりのやさしさであり、そうと理解できない思考回路が甘いのだが、きっと彼らは理解していない。一般人に関しても似たようなことが言える、魔術師が一般人を見下すのなんて当たり前だったのだから、差別解消を謳う前に、自分が見下されないような努力……魔術師にかかわらない努力ができているのかと問いたい。

 

……もっとも、学生時代ずっと一般人を見下すような奴は大抵、魔力を持っていることに胡坐をかいていつの間にか落ちぶれるやつでもある。同じ穴の狢だ。

 

好きで落ちぶれたんじゃない、好きで魔力を持たず生まれたんじゃない、とかいうんだろうが、それは全員同じで、だから一般人をいじらず、魔術師にいじられていないからって余裕こかず、みんな努力したんだろうとも思うわけで。

 

 

 

まあ、そんな背景もあって、魔術師志望の連中は高校受験、大学受験、就職活動の時期、華の20代が一番ピリピリしている。自分の将来のことで手一杯なので、一般人をいじめる余裕もないから、一般人はこの隙に魔術師が一切絡んでこない進路に進めるようにラストスパートをかける。この時期が一番平和なのだ。ついでにそのころになると善悪の判断も大体間違えないし。

 

 

 

ただし、それは逆に、『小中学校は魔術師による魔術師のための魔術師の居場所』であり、『魔術師志望による一般人差別の巣窟』となるくらい、『小中学生の善悪の判断はずれている』ともいえる。

 

 

 

だから、逆行から一年が経過して小学校に入学した俺の、入学から一か月経過したある日に帰宅から開口一番に言った感想はこうである。

 

 

 

「小学校に隕石降ってこねえかな」

 

 

 

 

 

「すごく物騒だね」

 

 

 

夕映が料理の手を止めて玄関の俺のもとに来て苦笑いを浮かべ、俺の独り言にそう返す。序にと続け、

 

 

 

「おかえりなさい。ご飯にする?風呂にする?それとも」

 

 

 

そこで止めてニヤニヤする夕映だが、後ろをよく見れば魔術式が若干見えている。どうやら効果は小規模な爆発らしい。俺も物騒なことを言ったが夕映もなかなか物騒なことをしている。俺は夕映に構わず靴を脱いで玄関に上がり、魔術式をいじって無効化した。

 

 

 

「昼ごはんで」

 

「ばれてら。あ、昼はそこのラーメンとおにぎりね」

 

 

 

夕映の話に礼を告げつつ、俺は今日も四時間授業だったので少し遅くなった昼ご飯を食べ始めた。割と空腹だった体に染み渡る。……染み渡るで日本語があっているかは知らないが。

 

 

 

俺の前に夕映が座り、机に乗り出すように俺に迫って、

 

「今日の魔術式はあっさりやられたけどなんで?結構自信あったんだけどな」

 

と魔術の感想を求めてくる。夕映の、新婚夫婦が毎晩交わしていそうなあのセリフ、その割には殺意高めの術式と俺の解除、そこからの感想戦までの一連の流れは小学校に入学してからの日課である。

 

 

 

「杜撰な起動してるからだ。若干見えてるしあっさり解けた」

 

「あちゃー。次から気を付ける」

 

 

 

そう話す彼女は楽しそうで、ノートパソコンを取り出してカタカタと何かを書き込んでいる。恐らく改善点だろう。

 

 

 

一応補足しておくと、夕映も俺より修羅場をくぐっているだけあってかなりの実力者だ。『軍』の下っ端や中堅に確実に勝てるレベル。俺があっさり解除した魔術式も、『院生室』が今から10年後に発表する魔術式スクロールより100倍のコスパを誇っている。

 

 

 

そんな優秀な彼女は、俺と同じく小学一年生なのだが、不登校で過ごして中学校からまともに通うと決めているんだと。

 

理由は本人曰く、

 

「小学校に入学したところで有意義な時間を過ごせないからねえ。最初はそりゃ楽しんでたけど、飽きたっていうか。中卒の私には中学から通うのがちょうどいいよ。三年間でおなかいっぱい」

 

らしい。高校は?とも聞いたが、目的達成で忙しくなるから逆に無理と言っていた。

 

 

 

俺も通う必要は本来ないのだが、それでも俺が通うことにしたのは、『丈凪怜』の仲間三人と出会うタイミングを知らないのが大きい。

 

 

 

俺は確かに推薦任務の前に『丈凪怜』やほか三人については調べた。

 

結果、『殺さない殺人鬼』『Last Order』『ジョン』などいろいろ二つ名は出てきたものの、いつ頃であったとかそういう情報まではとれなかった。普通ならそういうのは情報屋に依頼するのだが、重要性が低いことにお金を費やしたくなかった当時の俺はそこをケチったわけだ。見事に裏目に出ている。……『Last Order』が誰を指しているのかさっぱりだし、『殺さない殺人鬼』とか矛盾しているし、『ジョン』は単純すぎやしないかと突っ込みどころ満載でもある。

 

『同類』であるはずの夕映もそこは知らないらしいが、しかし、俺は、途中の目標としてあの三人を幸せにしたい。

 

 

 

『丈凪怜』が関わったから不幸になったのか、関わらずとも不幸になっていたのか、それはわからない。だがつまりそれは『関わり方次第では、本人が幸せになれることもあり得る』と解釈してもいいはずである。

 

あくまでも『その人がその人の力でその人なりに幸せになる』方針で行くので、きっかけを与えるだけというスタンス。そのわずかなチャンスを逃して結果『前回』と変わらないオチを避けるため、俺は、小学校に退屈な思いをしてでも通うことにしていたのだが。

 

 

 

「小学校に隕石落ちなくてもいいから、せめて今から小学生全員常識ある大人の転生者に挿げ変わらないかな」

 

「うわぁ……」

 

 

 

ドン引きしていた夕映は、

 

「相当参ってるねえ。不登校になればいいじゃん」

 

と悪魔の囁きをしてくるので、

 

「いや、しかし俺のやりたいことができなくなっても困るんだ」

 

と反論すると、夕映は肩をすくめながら、食卓に置いていたせんべいを手にする。

 

 

 

「あのねえ。人生で関わったすべての人に幸せであってほしいって思って行動するのは勝手だけど、それで自分が不幸になったら意味ないじゃん。そういうのエゴイストっていうの。自分のために生きなよ」

 

「自分のために生きてる結果これなんだよ」

 

「ああもう、難儀な性格してるなぁ」

 

と呆れたようにため息をついて、せんべいをぼりぼりとかじり、夕映は

 

「仕方ない。じゃあこう考えてよ、」

 

と俺の皿を下げた。

 

「私にとって君は結構重要なポジションにいる。あ、友人って意味だけじゃなくて、私の目的遂行って意味もあるよ」

 

「それは何となく予想してた」

 

最初に俺が夕映に殺されかけた時の様子から、いろいろ察せるところはあったから。

 

 

 

夕映は「まあ、だろうね」と言って続けた。

 

 

 

「で、君の仲間との出会いも割と重要なんだ。君が結構ピンチになりやすいし、どう乗り切るかで私のやり方も随分変わる」

 

「俺でもか?」

 

「うーん」

 

 

 

ピンチと言われてもあまり思い浮かばず聞き返すと、夕映は暫く悩んでいる様子だったが、

 

 

 

「まあ、バタフライエフェクトを警戒しておくべきじゃないかな。改変すればするほど、余計に。最大のイレギュラーは君が逆行してることそのものだから、何が起きてもおかしくないよ」

 

と結論付けた。

 

 

 

「物事をいい方向にもっていっても強敵がやってくるのか」

 

「そういうもんだよ。寧ろいい方向にもっていった後のほうがずっと怖いんだって。希望と絶望のバランスは差し引きゼロなんだよ。希望を祈れば祈るほど、絶望が舞い込んでくる。この世の中はそういう仕組みになってる。だから逆行者は、自分にとってのハッピーエンドを求めてもなかなかたどり着けない」

 

「そういうものか」

 

「うん。そんな説くそくらえって思って抗っても、結局避けられないことはあるみたい。未来の私は世界救えたって話だけど、それでも繰り返したらしいね」

 

 

 

と皿洗いをしながら語る夕映は、なぜ未来の自分のことを知っているのかについては語らなかった。無粋かもしれないが、俺は尋ねた。

 

 

 

「……じゃあなんで繰り返したんだ?」

 

「ん?ああ、未来の私だから断言はできないけど。世界が滅ぶのに変わりがなかったのもあるだろうけど、何より大きいのは、それで世界が滅ばなくても自分にとってハッピーエンドではなかったからじゃないかな」

 

「滅ぶのも確定事項なのか」

 

「過程は違えど、そうらしいよ?だからイレギュラー起こすしか正しい歴史に改変する手段がないんだけどね」

 

「で、俺がそのキーパーソン」

 

「そそ。期待しているよ?私の無限ループを終わらせてくれるかもしれないから。だからこそ、今、無駄に精神をすり減らさないでほしいんだ」

 

 

 

とけらけら笑う夕映は、皿洗いを終えたのか俺の前の席に再び戻って話を再開する。

 

 

 

「今まで積極的に君の将来のお仲間三人と関わってたわけじゃないから具体的な時期は知らない、でも名前と顔と出来事はわかる」

 

「それはそれで中途半端な知識だな」

 

「うっさい。出来事で覚えてたほうが合理的なんだから仕方ないじゃん。いちいち年数覚えてらんないよ、作戦立案と検証で忙しかったから余計に」

 

「どんだけ繰り返してんだよ?」

 

「さあ、覚えてない。でも知的好奇心を満たしたかったのは否定しないよ?異能リビドーで暴走してた時期もあるから。でも本気でやってた時期もある。……最低でしょ」

 

と笑顔は変わらないのだが、どこか悲しげで。

 

「最低かどうかは兎も角。その知識を俺に教えてくれてるし、繰り返したおかげで今から世界を救えるんだろ?救えた後に繰り返さなければ、夕映も含めた全世界の人の努力を水の泡にしなければ、それでいいんじゃないか」

 

「私にとってハッピーエンドじゃなかったら?」

 

「俺が手伝う。無理やりにでもハッピーエンドにする」

 

「強引だなあ」

 

 

 

と笑顔が愉し気なものに戻った夕映に、

 

 

 

「だから、俺の人助けを手伝ってくれ。あてがあるから話し始めたんだろ」

 

 

 

と続けると、

 

 

 

「うわあやられた。そういうことね」

 

 

 

と夕映は更に笑みを深くし、指を立てて話し始めた。

 

 

 

「えー、君が助けたいその三人なんだけど。実を言いますと、毎回決まった出来事があってね。その出来事の内容から時期を特定できちゃうのです」

 

「マジか」

 

「うん。ちなみにその兆候は今んとこゼロ。だから無駄だよーって」

 

「マジかー!」

 

 

 

小学校に通う意味皆無だった!

 

ショックでうなだれる俺に夕映は構わず続ける。

 

 

 

「いやね?最初にそれ教えてもいいんだけど、ランダムイベントからチャンスがあっても可哀想かなあってなって、確証得るまで黙ってたの。でもさ、探偵雇って調べたら皆まともに学校行ってない!ってなって」

 

「すでに不幸なのか?なら」

 

「探し出すこともできるけど、そこから先は自分でやってよ。この時期って本来丈凪怜も学校通う余裕すらない感じだったはずだから、この時期会いに行ったら何が起こるか予想できない。逆行してて一番暇な時間ともいうね。今回は魔術の修行に使えてるだけまだ有意義だけど」

 

「Oh……」

 

 

 

ようやく、夕映が小学校に通うことになぜ消極的かがわかった気がした。イレギュラーを起こして情報をわざわざ捨てる意味がない。

 

だが、そうなると、

 

 

 

「じゃあ一年前じゃなくて六年後を逆行のタイミングにしてもよかったんじゃないか」

 

 

 

と聞くと、

 

 

 

「それ?私も詳しいことは知らないけど、次元が大きく揺れるのはそこだけなんだよねえ。その隙に付け入るからきれいに逆行できるけど、そこに居合わせたりそれ以外のところに逆行を試みたらぐちゃぐちゃになるのよ。実際、夫婦が巻き込まれてスプラッタになってるのは毎回見てるよ。子供がいたなら悪いことしたなあ。それに、そこより後だと目的が達成できなくなる人もいるから好都合なんじゃないかな」

 

 

 

と言われた。……なんというか、その。

 

俺の両親が死んだのってそのせいじゃね?という言葉は飲み込んだ。

 

 

 

そして慌てて話題を切り替える。

 

 

 

「……えと、じゃあ。出来事から時期を特定できるから、その出来事で介入するタイミングを教えてくれるってことか」

 

「ご名答。序に、目立ちにくいように、でも確実に近くに控えていてあげるよ。とびっきりの打開策を用意してね」

 

「出てこないのは…イレギュラー防止か」

 

「うん、私はその出来事に直接関与しないはずだから。勿論呼ばれたら行くよ?でもこれは本当に最後の手段だから、裏技、チートを使うくらいの感覚でいて」

 

 

 

このお願いを、俺は了承するのだった。

 

 

 

「で、」せんべいをまた食べ始め、夕映は話を切り替えた。

 

「なんで隕石降って来いとか言ってたの?」

 

「上靴隠すわ雑巾絞った水を飲まそうとしてくるわランドセルとか教科書とかずたずたにするわ俺に飛び蹴りかまそうとするわ仕返しに全員リンチするわで全然落ち着かん」

 

「ああ、途中おかしかったけど一般人・異能者あるあるだね…その割にはぴんぴんしてるけど」

 

 

 

ランドセルもきれいだし、と俺の背負っていたランドセルをなでていたので、俺は、まあ、と答える。

 

 

 

「索敵、浄化、『循環』使って逆行、身体強化で全部対応できるからな」

 

「うん、リンチにしたのは絶対異能リビドーのせいでしょ」

 

「むかつくことに、俺は正当防衛が認められず謹慎くらったんだぞ」

 

「ああ、もうそういうことでいいや。ちょうどいい、サボタージュしようよ」

 

 

 

と疲れたように返す夕映に、それもそうか、とサボタージュしてる間に何をするかを考え始めるのだった。

 

 

 

ちなみに、サボタージュ初日から叔母が突撃してきて、「真白はいいけどお前は通え。絶対」とのありがたい差別と折檻を頂いたので、結局、全員俺におびえて腫れ物のような扱いになったこと以外は生活が変化することはなかった。

 

まあ、一人のほうが気が楽だからいいんだけどさ……腑に落ちないよなあってなりました。まる。




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