※今朝、予約投稿の設定をミスって先に最終話を上げてしまいました。
すぐに削除しましたが、紛らわしいことをしてしまい、すみませんでした。
「やってみろ、たかが人間!」
「お前も人間だろ!」
「知るか!お前が何度世界を作ったとして、邪魔をしても無駄だ!絶対、お前を殺して、その『決意』で、彼女と一緒に笑い合える未来を作る!」
そう叫ぶとクリスは、異能を封じていたのを『拒絶』して、『拒絶』の弾幕を大量に生成し、纏めて一つの拳のようにする。
拳が届く前に、俺と宥は同時に『魔装』剣と鋏を振るい、交差、打ち付け合い、フェイントをところどころ入れて軌道を読ませないように斬撃を放つ。日向がそれを『昇華』することにより、『魔力撃』以上の威力が込められる。
『魔力循環』、『軌道書換・数量書換』
クリスの拳を幾重にも切り刻んでいく。俺達に届くことはない。
「宥、ナイス」
「怜くんこそです」
と仲良くハイタッチした。
宥は戦闘を苦手としていたが、戦う覚悟を決めた人だ。そういう人がたいてい予想を超えてくるものだ。きっと今の宥は、『殺さない殺人鬼』になり果てた彼女よりも強い。
「防いだつもりか!」
クリスは地面から『破壊』の、槍状の弾幕を生やす。
どうやら拳のほうは囮らしい。
だが。
『弾幕破壊』、『方向循環』
俺の死角から現れた有希が異能を使い、俺がその破片をクリスに向けることで、全ての攻撃をしのぎつつ、ダメージをクリスに与えた。
「有希、ありがとう」
「……どういたしまして」
俺の礼に対して、少し照れたように返す有希。
有希は不遇だった。ホムンクルスとして生まれ、兵器利用されて、有住と出会わなければ兵器利用され続けていた。人としてさぞ生きづらかっただろう。だが、それでも、彼は人であることを望んだ。
「あー。れんれんのことだから、なんだかんだ世界を救うとは思ってたけど。世界軸を壊すって言われて止めもしなかったじゃん?めっちゃ怖かったんだけど」
「全くだよ。育を心配させた罰で、後で説教するから覚悟しててね」
俺と有希が話していると、有住と日向もやってくる。
……『前回』の俺にとっては、そんなに深くかかわらなかった……否、深くかかわれなかった二人がいると、少しセンチメンタルな気持ちになる。
「悪い悪い。……いけるか?」
「いけるぜ?親父をぶっ飛ばすって意味なら気合十分!」
「大丈夫。……育が頑張ってるのに私が頑張らないのはだめだよ」
そう即答された。本当……後方支援向きだというのに、前線でも頼もしい人たちだ。
『分子循環』『分子昇華』『気配欺瞞』『魔力循環』『魔力撃』
俺が空気中の窒素分子の分子運動を止め、固体になったところを日向が『昇華』で疑似的に空気を爆発させ、目くらましする。俺と有住はそこを爆風も利用して走り抜け、有住が殺気だけ飛ばしてクリスを釣る。俺はその隙に『魔力撃』も付与した『魔装』剣で斬り落とす。
「……ふざけるな!なぜここまで攻撃が効く?!さっきからダメージを拒絶してるはずだというのに!?」
「なんでだろうな」
仮説はある。『決意』がまだ若干残ってるんだ。
本当はカラッケツになっていてもおかしくなかったが、ここにきて、『別の世界軸の俺』の『決意』が生きてるのかもしれない。それが『拒絶』を打ち消しているのだろう、と。
まあ、関係ない。俺は一刻も早くこいつを倒すだけだ。
「無駄に異能者いじくってたんだろ、その知識もフル活用で考えたらどうなんだ!」
そう煽り、俺は後ろにいる深月に向かって叫ぶ。
「たたみかけるぞ、深月!」
無言でうなずいた深月は俺の意図を察しているようで、魔術式を複数展開して異能も使おうと身構えていた。
『魔装・槍』『魔力撃』『認識否定』『発煙魔術』『思考循環』
俺の剣と槍が交差し、とらえどころのない斬撃、突撃が繰り出される。足も胴も首も切り刻むが、死ぬことさえ拒絶しているのか死なない。切り落とした端から生えてくる。
頑丈だな、まったく。
深月は……『丈凪怜』の死んだ事実を『否定』した、まさに命の恩人だ。俺から助けに行くでもなく、丈凪育が保護して育てたらしい。自分の不都合は一切信じない少女だと暁はいっていたが、今の彼女は自分のことを肯定できているだろうか……いや、それは愚問だった。ここ一か月の彼女の顔色はずっと明るい。自分なりに何かを乗り越えたのだろう。もう、彼女が自分を見失うことはない。
さらに畳みかける。
俺は『魔装』でボールを作り出して暁に投げる。暁はそれを受け取るとまた投げて、クリスの頭上にボールが到達した。
『投影→重量書換・大小書換』『時間循環』
暁の投げたボールは頭上で重くて大きい鉄球に変化し、俺がそれを重力加速度に従ったものよりさらに加速させ、クリスを押しつぶす。
「本当、怜と協力するとか……明日槍が降りそうだよっ!」
「仮にそうなったら文化祭中止だな」
暁。一番すげー奴。俺に助けられなかった日向を救い、俺が諦めかけた局面でも決してあきらめなかった、まさに勇者。こいつに諦め方を奪われた、そんな感じだ。……まあ、本人に言ってもキモイってなってもめそうなので、俺の子の本音がこいつに伝わることはほぼない。さっきまでのやり取りで知られてるかもしれないが。
クリスは満身創痍だが、それでもひざを折ることをしない。立ち上がり続ける。
こいつもこいつでメンタルが強いな。心はオリハルコンか何かで?
「認めよう。お前らは不遇な境遇を自慢してぴいぴい泣くだけの虫けらなどではなかった。今まで戦ったどの敵よりも強い。……妻を、梓乃を殺した連中よりも厄介だ!だが、この機を逃せば、自分の平穏すら危うい。梓乃と共に生きるなど以ての外!だからこそ、その中心のお前だけは殺す!」
「怜は殺させない」
『時間操作・確率操作』
突如、俺の横をすり抜け、夕映がクリスに突貫して、『魔装』槍でクリスの腹を貫く。
「クリス。君が怜を殺すなら、私がその前に君を殺す。意地でも邪魔するよ。それでも殺すなら、まずは私を殺して」
「真白だけじゃない……親父、いい加減にしろ。人にはそれぞれ大切な存在ってのがあるんだよ。奪われた側の親父が奪いまくっても、かつての親父みたいなのが大量生産されるだけだろ。その覚悟もないくせにお袋を、より殺されやすいような事業に巻き込んでたんだろ。せめて、大切な存在を守るために戦ってるれんれんや真白の邪魔をするな」
「怜は僕だけが手出ししていいんだよ。勝手に蚊帳の外にしないでくれない?」
夕映が、有住が、暁がそういって俺の前に出る。
気づけば、
「生み出してくれてありがとう。でも……親友は殺させない」
「私も、生まれてよかったとは思ってる。けど、自分のエゴで世界を巻き込むのは違うよ」
「私たち、兄妹としてやり直そうと思うんだ。早々に双子の兄に死なれても嫌だよ。暁くんも認めてるのに、失礼しちゃうね」
「怜くんは……私の初めての友人です。彼は私に、『助ける』『殺人鬼じゃない』と……無償の善意と無条件の信頼をくれました。今度は私の番です。私は怜くんを助けます。こんなところで死んでいい人じゃありません」
みんながみんな、俺を庇うようにクリスを取り囲んでいる。
「……自殺志願者ばかりか!」
そうつぶやき、クリスは高らかに宣言する。
「ぼくは『秩序』!」
『状態書換』で動きを縛る。
「希望を抱き、」
『概念破壊』で魔術を封じる。
「言霊と幸福・安心と秩序ですべての生物を裁き、」
『性質昇華』で俺に力がみなぎる。
「混沌をもたらす者!」
『性能欺瞞』でクリスに付与されている『拒絶』の効果を失くす。
「お前は歪みを正す者。うまく回らなくなった世界を再度『LOAD』し、『巡らす』者」
『神経否定』でクリスの感覚を封じる。
「きっとぼくからこの希望を奪い絶望に堕とす」
『投影→異能書換』で俺の異能の出力が上がる。
「もう諦めろ。お前が『人類の希望』などありえない。梓乃とともに生きられないのが『正しい歴史』であり、それが世界の『決意』など認めない」
『心理操作』でクリスの異能を封じる。
「どうか、ぼくを、殺さないでくれ!!!」
「散々冒涜的な真似をしといて、遺言それかよ」
俺はゆっくりと歩み寄る。クリスは全く抵抗できる状態じゃない。
クリスの前に立ち、そっと触れた。
「……お前みたいな糞魔術師は、地獄の業火に焼かれてろ」
『血液循環』
俺の異能の原点。
血液を逆流されるとどうなるか。自明の理である。
「―――――」
クリスの体は何の抵抗もなく破裂し、もう再生することもなかった。
それでも念のため、『分子運動循環』で燃やし、灰になったそれは風に流れて行った。
何人もの異能者が苦しんできたラスボスの、あまりに呆気ない幕切れだった。
その後の話をしよう。
呆気なさ過ぎて何回も死亡確認をやったり、ほかに世界の危機はないのかと夕映に問いただすトラブルを挟みつつ、ようやく世界崩壊の危機を免れたことを手放しに喜べた俺達だが、一つ重要な問題があった。
現在深夜三時。本郷やクリスの一件のせいで校舎はボロボロ。明日……もとい、今日の朝には文化祭初日だ。
今更中止にも延期にもできない、だが一晩で校舎も文化祭の装飾もズタボロですとか笑えない。
夕映曰く、「洗脳されてる間や世界軸が壊れていた間の出来事は認知してないと思う」だそうなので、このままでは怪奇現象か指名手配待ったなしではないか。
なんということでしょう、陰ながら世界を救った英雄のはずが、器物破損罪で捕まるとか間抜けすぎる。
そんな訳で、俺たちは生徒たちが登校してくるまでのたった五時間で、ボロボロになった校舎の補修、装飾の修繕でデスマーチすることになった。世界を救うのに徹夜するんじゃなく、後始末で徹夜して社畜の気分を味わうとは夢にも思わなかった。
どうでもいいことに……ああ、いや、一応大事なことではあるんだけど、今迄からは考えられない方向で異能を使うことになるとは思わなかった。
校舎が壊れているのをごまかすために『欺瞞』を使うとか。
皆の動きを素早くしたり体力が尽きないようにするために『昇華』を使うとか。
装飾を戻すために『操作』を使うとか。
瓦礫を処理するために『否定』を使うとか。
ごまかすと支障が出るところを修復するために『書換』を使うとか。
眠気をごまかすために『破壊』を使うとか。
俺も一応頑張った。『決意』も『循環』ももう使えないから魔術も使えないのだが、異能でどうしようもない範囲……深月と日向が頑張っていた全校製作が木っ端みじんだったので、『受容』も使えないし『投影』も段々怪しくなってきた暁の力も借りた。……『投影』、さっきまで使えてたのに何で使えなくなったかなあと首をひねっていたら、夕映から回答があった。
「あー。それ、怜の『決意』の力の残滓のおかげじゃない?」
「マジか」
何気に、『決意』を分けてくれた『ほかの世界軸の俺』はMVPかもしれない。
人々の礎の鑑だな?
して。
なんとか修繕作業が終わった朝五時から仮眠をとれる―――――わけもなく、今度は壊れた町の修繕作業。一応『状態書換』で住民眠らせてから復旧作業。
比喩なしに世界中跳んで東奔西走で街を再生した。俺?その辺に転がってるホームレスの回収作業ですけど???
こうなったのは全部本郷のせいだ。おのれ本郷。
三時間後に終わって学校に滑り込み、生徒会の手伝いと突如沸いた糞みたいな依頼の対応をしつつ、そんなこんなしてたら文化祭がスタート。
寝る?高校生活最後の文化祭を睡眠に費やすとか論外。
ついでに、ちゃんと『投影』『決意』『受容』ができてるかの最終確認で文化祭を見て回る。パトロールなど二の次だ。純粋に夕映と文化祭を楽しみたいんだよこちとら。
模擬店で買い食い、食べ歩き、お化け屋敷で煽り合い、ゲームセンターもあったので煽り合い。魔術研究部に凸して知識マウントし、実践は魔術が現状使えないのでお断りしたが、それでも喧嘩を売ってきたのでマジカルキック……魔術などないしキックですらないがプラシーボ効果に期待したごく普通のパンチで秒殺して差し上げた。
『身体強化』ありきの『軍用体術』だが、魔力が尽きた場合も想定したものなので再現はたやすい。
更にいろんなところを回り……ステージ本番。
女性陣が先なのだが、夕映の姿がステージ上にないまま最初の曲が始まる。
あれだけ激しい戦いで一睡もしていないというのに、選曲ミスもなければ踊りも歌も完璧、むしろキレキレで盛り上がっていた。
そして二曲目に入ろうかという時、ボーカル兼進行をしていた宥が夕映を観客席から呼び寄せる。夕映は特に驚くわけでもなく観客席から登場し、登壇して観客席に手を振ってお辞儀する。
宥が他己紹介をした。
「はい。活動開始から長らくいなかったメインボーカルですが、今日、やっと合流できました!真白夕映……私たちの大切な仲間です!」
「今日限りの登場ですが、ぜひ、楽しんでください!」
そしてライブが再開された。更に盛り上がっていく。
舞台袖から見る夕映はとても楽しそうだった。
そう。俺が見たかったのはこの、何の曇りもない晴れた笑顔だ。
そして新曲でライブを締めくくった。
女性陣のライブは大成功した。
俺たち男性陣もライブを始める。
が、女性陣みたいに完璧なライブができない。それでも盛り上がるが、……これだとなんだか締まりがない。
なので、ふざけることにした。
俺は以前に深夜テンションで作った曲を流す。暁が表情をこわばらせ……青筋を立てるが、俺は気にしないで流し続ける。
有希は苦笑いを浮かべていた。
俺が息を吸うと、横から出番を終えたはずの夕映が出てきて、俺が歌おうとした……というか叫ぼうとした歌詞をパクり始めた。
俺の考案したダンス付きだ。いつ見られたんだろうか?
有住はドラムやってるし。
「ええ……?」
と俺も困惑するも、夕映が楽しそうなので気を取り直す。
そして俺も思いっきり叫ぶ。踊りも忘れない。夕映が満足げにしている。
因みに観客たちは最初訳が分かっていなかったが、『訳を考えずひたすら叫んで踊って楽しむ曲』だと理解したのか、吹奏楽部に頼み込んで楽器を調達したり、魔術式を書き換えて器用に魔力制御もして、音だけを鳴らす魔術を連発している奴もいる。
深月も乱入したのは意外だった。しかも日向と有希も一緒に。
乗っ取りかねないのでかぶせるように叫んでおいて、やっぱり踊る。ここまでくると音楽が無駄に豪華だ。吹奏楽部まで来たからか?
宥もここにきて乱入。おとなしめに叫び踊る。おとなしめに踊るとは(哲学)。
まだ暁が乱入してこないので、巻きこむべく俺は夕映と一緒に耳元で叫ぶ。裏では深月が歌ってるが、俺と夕映の声量を上げようと魔術を使ってるやつがいるから、暁が余計に青筋を立てた。
「あー!!!やりゃいいんだろやりゃ」
そう全ギレした暁はマイクを握り、七拍子で叫び始める。
「ぎゃああああああああああ!!?」
「ざまああああああああ!計算しろばああああああか!今七拍子だっつーの!てか苦手ならなんで入れた!?」
と伝達魔術で話しながら変則七拍子を続ける。クソ、無駄に器用な奴……!
七拍子ゾーンが終わっても、なぜか有住のドラムと暁の和太鼓の勝負が始まる上に吹奏楽部まで出張ってくるし、コーラスで声量やエフ分の一揺らぎ、ビブラートをいかに出すかの勝負も始まるしでなかなかカオスだったが、全校生徒が盛り上がっていたので良しとしよう。
そんなこんなで、文化祭は幕を閉じた。
次がエピローグです