永久未完の歯車 作:残念無念譚
完全無欠の歯車になりたい。
いつからそう思うようになったのかは分からない。
だが、確かに今の自分はそれを標榜している。
終わりの時まで欠けず、朽ちず、早まることなく、遅れることなく、正確に回り続ける。
例えどこにあろうとも。
そういったモノに憧れたのが原因だろうか。
自分は日々を
最初は同じ日だった。
なんども同じ日の朝に目覚める。起きていようとも同じ朝になる。
最初は混乱した。
何を行おうとも次の日が来ない。
一通りの思いつくことを試し、しかし何も変わらない。
だから逆に何もしないことにした。
繰り返しの日々の中で、同じように振る舞うことにしたのだ。
変わらぬ歯車のように。
それが正解だった。
繰り返す同じ日が同じ週になった。
週が月へと伸び、翌月まで伸び、更に伸びて伸びて半年へと達していった。
そして今は同じ年を繰り返している。
今日はその最後の日だ。
今は夜、自分の部屋にいる。
昔はただの部屋だった。
だが、繰り返す日々の中で歯車をつけるようになった。
それは見つけた時もあれば、無性に作りたくなって作ったものもある。
それらを最初は置いておくだけだった。
ある程度数が揃った頃、組み合わせてみようと思った。
それは驚くほどすんなりとはまっていき、一つの機構となった。
やがて更に増えて置く場所に困ったので、部屋の壁につけていくことにした。
今では壁、床、天井を覆い、すべてが噛み合った一つの機構になっている。
そしてこの歯車達にはある模様がついている。
これは昔、繰り返す日々の中で繰り返しの原因を探り、ダメ元でオカルト関係を調べていた時のものだ。
自分が調べた様々な魔術、儀式の中での
記述が抜け落ちていて、何かを呼び出すモノということ以外わからなかった魔法陣だ。
自室の歯車はいつからか回るようになった。
そして初めてこの魔方陣を使った今日、繰り返しの一線を跨ぐ瞬間に
その時、自分は繰り返しの外側になる。
そろそろだ。
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繰り返しの中で常に正確に回るようになった歯車機構が
そして
本人曰く悪魔の類ではないらしいが・・・。
ここで言う言葉は決まっている。
「はじめまして。」
「また時が来たね、キミ。」
テーマカラーが紫な感じのヤツが現れる。
性別は外見からは判別できない。
膝下まである長い髪と黄金の瞳が特徴だ。
コイツは人じゃない何かだ。
名前は知らない。
それがどんな時を指しているのかは分からないが。
少なくとも今の繰り返しの中には無いのだろう。
「前よりも強く感じるよ。」
「そうなのか?。」
「うん、私にとっては微々たるモノだけど。」
歯車は増えていないが状況は進んでいるようだ。
コイツがそう言うなら恐らく今回は次に進む。
ようやく来年が来る。
「そうだ。聞きたいことがあるんだが。」
「何だい?キミに答えられる限りで答えよう。」
「召喚は拒否ができるんだよな?」
「うん、そうだよ。」
「じゃあなんで毎回来るんだ?」
そう、コイツはこの召喚に来なかったことが一度もない。
自分以外で繰り返しを記憶している人間はいないので、そういった人たちが同じ行動をするのはまだわかる。
だがコイツは違う。
コイツは繰り返しを記憶しているハズだ。
自分はともかく、いかに人外とはいえ嫌になってもおかしくはない。
もう数え切れないくらいには喚んでいるハズだが。
「なんでって、キミが呼ぶからさ。」
「嫌にならないのか?」
「ならないさ。」
「そうか。」
コイツが自分と同じようなヤツだとは考えにくい。
人じゃないからこその感覚かもしれないな。
「ねぇ。」
「うん?」
「せっかくだし、一緒に寝ないかい?」
「なにがどうせっかくなのかわからんが・・・。」
「まあいいじゃないか。キミも嫌ではないだろう?」
「お、おい。」
そのままベッドに引き込まれる。
そしてこちらを抱きしめるような形で添い寝になる。
暖かくて柔らかい感じだ。
前に一度触れたときは温度がなくて形容しにくい感じだったのに。
「キミに合わせてみたんだ。どうだい?」
「あのなぁ。」
「その感じなら大丈夫そうだね。」
そうこうしてる内にだいぶ眠くなってきた。
疲れていたのかもしれないな。
暖かさと微睡みの中で、抵抗することなく眠気に身を任せる。
「もう眠るのかい?おやすみ、キミ。」
その言葉を最後に、自分は眠りについた。
暗い部屋で、浮かび上がる人影が二つ。
一つはデスクに着いており、もう一つはデスクの正面に立っている。
執務室で向き合う上司と部下といった風体だ。
「今年は小競り合いで済んだな。」
「はい、向こうも様子見といったところでしょうね。」
「上位存在も大人しい、いつもこうであれば良いのだがな。」
そう言いながら、デスクの人物が指先からの炎で煙草に火を点ける。
ゆっくりと吸い、ゆったりと煙を吐いた。
「
「やはり
「原因はわかったのか?」
「はい。完全ではありませんが、恐らくこのあたりかと。」
そう言って、人影がどこからか出した地図を元に指差す。
「特に歴史がある場所ではないな。」
「ええ、ですが異常です。調査を試みた者は誰一人として近づけないことに気づけませんでした。また、あらゆる方法による干渉の試みは成功していません。」
「結界か?」
「いいえ、それらしきモノは引っかかりませんでした。ですが・・・」
今まではっきりと喋ってきた人影が言い淀む。
それは困惑や信じられないといった感情が滲んでいた。
「なんだ、心当たりがあるのか?」
「ええ、恐らくですが。」
「言ってみろ。」
少しの沈黙の後、意を決して言葉が放たれる。
「因果干渉です。」
「・・・・・・本気で言ってるのか?」
「はい。どのような結果を齎しているのかは不明ですが。」
因果干渉。
それは、例えば結果を先に確定させるモノ、必要な因果を引き寄せるモノ、”因”を消すことで”果”を消すモノなど様々だ。
とても強力な反面、それらの効果は限定的、局所的である。
しかし、これは世界にさえ緩やかに影響を与えている。
通常ではありえない事である。
「にわかには信じられん。バタフライ・エフェクトさえ消すつもりなのか?そこまでして確定させる結果はなんだ?」
「さっぱりです。そもそもこんなモノを扱えるとは思いませんが・・・。他の線での調査も進めています。結論はそれらが終わってからでも良いでしょう。」
「・・・そうだな。引き続き頼むぞ。」
こうして誰にも知られる事なく、二つの人影の会話は終わった。