聖なる刃と、不思議な本。   作:ほろろぎ

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第十一章 決戦の時、そして禁断の……。

「剣司さん、ちょっと手伝ってほしいことがあるんですけど」

 

 とある日、学校も終わり下校の時間。

 一人帰る樹を自宅まで送っている最中の剣司に、少女は突然の頼みごとをした。

 

 樹は他人に対して、あまり自分の要求を口にすることはない。

 そんな少女の珍しいお願いに、剣司は驚きながらもそれを即座に引き受ける。

 

「ノートパソコンと、録音機材を持っていたら貸してほしいんです」

 

 と樹。

 

「兄さんが使ってたものが家にあるはずだよ。なにをするの?」

「実は今度、新人歌手を募集するためのオーディションがあって、それに応募してみようかと……」

「おお、ついに夢への第一歩を踏み出すんだ」

「そ、そんな大げさなものじゃないですよ。ただ、ちょっと自分を試してみたいっていうか」

「樹ちゃんなら良い結果を出せるよ。優勝だって夢じゃない!」

 

 オーバーなリアクションを見せる剣司に、樹は可愛らしい微笑みを浮かべる。

 

「ふふっ。剣司さんにそう言われると、なんだか自分を信じられそうです」

「よし、じゃあその気持ちが薄れないうちに、急いで録音を済ませようか」

 

 剣司は駆け足で自宅に戻ると、パソコンとマイクを調達し、樹の待つカラオケ店に向かった。

 

 二人は揃って入店し、個室で準備を終えいざ収録、という時

 

「あれ? おかしいな、録音が始まらないぞ?」

「! 剣司さん、時間が止まってます!」

 

 樹の言うように、部屋の時計も、パソコン内部のデジタル時計も、二人が身に着けている腕時計も、すべての針が静止している。

 このことが表すのはただ一つ。

 

「来たんだ、バーテックスが」

 

 二人の周囲が光に包まれ、次の瞬間には見慣れた樹海に場所は移っていた。

 風たちも近くに飛ばされていたようで、すぐに六人は揃う。

 同時に、壁の向こうから怪物たち(・・・・)も姿を現し始める。

 

「不味いわね、以前より数が増えてるじゃないの」

 

 風が冷や汗と共に漏らす。

 友奈も不安そうに口を開いた。

 

「もしかして、残り全部来てるんじゃ……」

「いや、来たのは五体(・・)だ。二体足りない」

 

 剣司が答える。

 隣では夏凛がスマートフォンのマップを覗いている。

 表示には、アリエス、タウラス、ライブラ、アクエリアス、ピスケスの五体分のマークがあった。

 

「総攻撃じゃないだけ、まだマシかしら」

 

 携帯用のサプリメントを口に入れながら、夏凛が強気な態度で言う。

 隣に立つ剣司には、彼女が自分に活を入れるように無理をしているのだということが見てとれた。

 

「樹もキメとく?」

 

 夏凛は、緊張に震える樹にサプリを進める。

 

「いや、その表現はちょっと……」

「なら、俺に頂戴」

 

 と剣司が代わりに、夏凛からサプリを貰った。

 剣司も、以前敵が三体で攻めてきた時に苦戦した苦い思い出が蘇り、今回はそれ以上の数に対処しなければいけないことに、強い不安を感じている。

 そして、それは風に友奈、東郷も同じ気持ちだろう。

 

「敵に動きがあります!」

「オッケー。勇者部一同、変身よ!」

 

 マップでバーテックスの動きを見張っていた東郷が、注意を(うなが)す。

 部長の指示で、全員が戦いのための衣装を身にまとった。

 

 勇者と剣士は、対岸に迫る異形の群れを見据える。

 

「敵ながら圧巻ですね」

「ここは敵さんのプレッシャーを跳ねのけるためにも、アレをしましょう」

「アレ? アレってなによ」

 

 東郷の漏らした言葉に、風が一つの提案をする。

 詳細を知らない夏凛が首を傾げている間に、彼女を除く五人は円形に集まり、互いの肩を組み合った。

 

「円陣~? それ必要なの?」

「気合は必要でしょ。ほれ、あんたも早く加わる」

 

 懐疑の目を向ける夏凛を引き入れて、陣は完成した。

 リーダーの風が活を入れる。

 

「今回も苦しい戦いになりそうだけど、みんな……死ぬんじゃないわよ!」

「誰も死なせない。それが俺とみんなとの約束だ」

「勇者部ファイトー!」

「「「「「オーッ!!」」」」」

 

 戦いの火ぶたは切って降ろされた。

 

『シュツジンー』

「突っ込むわ!」

 

 自分の精霊である義輝の声を受け、夏凛が先駆けを担うため真っ先に飛び出していく。

 相対するバーテックスからも、一体が群れを抜け突出してきた。

 バネのように体をしならせ、樹海の地表を跳ね進んでくるのは牡羊座を冠するアリエス・バーテックス。

 

「一番槍ぃーッ!」

 

 叫びと共に、夏凛の振るった刀の一閃が、アリエスの頭部と思われる部分を、体から切り離した。

 ズンッという重たい音を響かせて、アリエスの首が樹海に落ちる。

 動きを止めたアリエスに対し、封印を(ほどこ)そうと夏凛が近づく。

 

「夏凛ちゃん、避けろ!」

 

 セイバーの声を聞いた夏凛は、反射的にその場から飛びあがる。

 と、そこに首を落とされ動けないはずのアリエスの胴体が突っ込んできた。

 さらに、落とされた首からは胴体が、胴体の切断面からは斬り落としたはずの首が生えてきたではないか。

 

「なにこいつ! 再生するの!?」

 

 夏凛は両手の二振りの刀で、セイバーも火炎剣を振るいアリエスの体をバラバラに切断していく。

 通常であればそれで行動不能になるはずだが、今のアリエスには『アリかキリギリス・アルターライドブック』が埋め込まれていた。

 アルターブックの力によって、バラバラになったアリエスの体はそれぞれが、瞬時に復元されてしまう。

 

「再生されるだけじゃない……こいつは、分裂しているんだ!」

 

 セイバーの言うように、アリかキリギリスの本の特性は『増殖』にある。

 二人の攻撃によって逆に、アリエスは数十体にその数を増やしていた。

 

「ちょっとこれ、どうすればいいのよ!?」

 

 夏凛の焦りの声が響く。

 事態を打開するためには、増えたアリエスの中にいるどれか一体……アルターブックを宿した本体を倒すしかない。

 しかし肝心の本体を見つける術が、彼女たちにはなかった。

 

「なら……これしかないな」

「ちょっと剣司、それは!」

 

 セイバーはホルダーから、二冊のライドブックを取りはずした。

 すでに起動しているブレイブドラゴンもあわせて、三冊の赤いライドブックがそろう。

 

「この状況を打破するためには、三冊のワンダーコンボを使うしかない」

「でもその組み合わせは、あんたの体に反動が……」

「それを恐れている場合じゃないよ。大丈夫だ。俺だって、死ぬつもりはないんだからね」

 

 ソードライバーの中央にストームイーグルを、左サイドに『西遊ジャーニー・ワンダーライドブック』をはめ、火炎剣烈火を引き抜いた。

 ページが開かれ、三冊のライドブックの力がセイバーの体に宿る。

 

『烈火三冊。真紅の剣が悪をつらぬき、全てを燃やす』

 

 全身が赤い装甲におおわれた強化形態、セイバー クリムゾンドラゴンが誕生した。

 変身を終えると同時に、クリムゾンウイングの翼で飛翔。

 炎をまとわせた烈火を構え、セイバーはアリエスの群れに向かっていく。

 

「食らえ! 爆炎紅蓮斬ッ!!」

 

 ワンダーコンボで力を増した豪腕による斬撃は、ストームイーグルの能力で起こした風に乗って炎の竜巻となり、数十体のアリエスを飲み込んだ。

 竜巻の中は斬撃の嵐となり、増殖したアリエスをコピーと本物の区別なく、全てを切り裂き燃やし尽くした。その御霊さえも。

 

「すごい……これが、三冊の力」

 

 強化されたセイバーの行使する必殺技の威力を目の当たりにした夏凛が、圧倒されたようにつぶやいた。

 少女の隣に着地するセイバー。地に足を付けると同時に、その足が力を失いガクリと膝をつく。

 

「ちょ、大丈夫なの!?」

「……あぁ。でもこれ、本当に反動がきついんだね……」

 

 ハアハアと、セイバーは肩で息をしている。

 心配した風、樹、友奈が駆け寄って来た。

 その時、後ろの方で援護を担っていた東郷が、警告の叫びをあげる。

 

「みんな、近くに新たな敵影が!」

 

 直後、脳を揺らすような不快極まる鐘の根が響き渡った。

 牡牛座、タウラス・バーテックスの音波攻撃によるものだが、それはさらに『ブレーメンのロックバンド・アルターライドブック』で強まっている。

 

「ぅあぁぁ……! これって、バーテックスの作戦……!?」

「牡羊座が一体だけ出てきたのは、あたしたちを一か所に集めて、そこを叩くためか……くっ!」

 

 怪音に苦しめられる友奈と風。

 セイバーも烈火を落とし、耳をふさいでいるが音は耳ではなく、脳に直接作用しているようだ。

 

 音の届かない後ろで待機していた東郷は、すぐにみんなを助けようとするが、突如地中から三体目のバーテックスが姿を見せた。

 『ピラニアのランチ・アルターライドブック』を体内に取り込んだ魚座、ピスケス。

 

「こいつ……邪魔をするな!」

 

 東郷はスナイパーライフルで狙いをつけるも、ピスケスは樹海の下を泳ぎ回るため、根が障害となり撃てない状況にあった。

 ピスケスは東郷の(すき)を突くように、時折樹海上を飛び跳ね、ピラニアの牙で少女を噛み殺さんとする。

 

「これじゃ、みんなの援護に行けない……!」

 

 怪物の妨害に歯噛みする東郷。

 しかし前線の五人は、彼女の援護を待たずとも自ら事態を打破しようとしていた。

 決め手となったのは、誰あろう樹。

 

「こんな、人を苦しませるような音は……あっちゃダメーッ!!」

 

 少女は音に苦しみながらも、力を振り絞るように武器を展開。

 勢いよくワイヤーを飛ばし、怪音を鳴らし続けているタウラスの鐘を縛り止めた。

 

「樹ナイス!」

 

 音波から解放された風たちは、拘束が解かれないうちにと、息つく間もなくタウラスに攻撃を集中。

 怪物が弱ったところで封印の儀を(ほどこ)し、本体である御霊も破壊した。

 

「みんな、よかった……」

 

 なんとかタウラスを(くだ)した五人を見て、東郷も安どのため息を吐く。

 と、その時

 

「? 魚座が、撤退していく……?」

 

 東郷を追い詰めていたはずのピスケスが、一転してその場から後退を始めたではないか。

 ピスケスが向かう先には、後方で戦いを静観していたライブラとアクエリアスが。

 さらにそこに、もう一つの敵影が姿を見せた。

 

「あれは……カリバー!」

 

 セイバーが敵の姿を見て叫ぶ。

 

「セイバー、そして勇者たちよ。今日こそ決着を付けよう」

 

 カリバーはそう言うと、腰のホルダーから一冊のアルターライドブックを手に取った。

 カリバーの隣では、三体のバーテックスの体が光を放ち始めている。

 ピスケス、ライブラ、アクエリアスの体が、光の中に溶けていく。

 カリバーはその光に向けて、手にするアルターライドブックを放り込んだ。

 

「なんだ、なにをしているんだ……?」

 

 疑問の声を上げるセイバー。

 勇者たちも、敵の出方を静かにうかがっている。

 輝きが失せたあとには、バーテックスの姿が一体だけ。

 

「消えた?」

「これは……合体してる!?」

 

 友奈のつぶやきに、セイバーが返すように声を上げた。

 現れたのは三体のバーテックスに、カリバーの持つ『メデューサ蛇伝・アルターライドブック』の力が合わさった、異常融合体。

 記されることのなかった、失われたはずの゙十三番目の星座゙。

 名づけるならば、『オピュクス・バーテックス』と呼ばれる個体だった。

 

「合体って……そんなの聞いてないわよ!?」

「で、でも、これならまとめて倒せるよ!」

 

 夏凛の焦りを消すように、友奈が言う。

 それは自分を鼓舞するための言葉でもあった。

 

「そう簡単にいけばいいんだけどねぇ……」

 

 風は、バーテックスの隣にたたずむ人影を見据えながらこぼした。

 闇の剣士、カリバー。

 セイバーと同じ聖剣に選ばれた存在でありながら、人類を裏切り怪物に組みしていると目される人物。

 

「俺がカリバーを引き付ける。その間に、みんなはバーテックスを頼む」

 

 セイバー クリムゾンドラゴンは、火炎剣烈火を構えカリバーを視野に入れる。

 対応するように、カリバーも闇黒剣月闇を手に取った。

 

 迫る敵に向かって、勇者たちも駆け出す。

 やがてぶつかる両者。

 オピュクスは髪の毛のように無数に生える、蛇のような触手を操り五人の勇者を相手取る。

 

 怪物の相手は女性陣に任せ、セイバーはカリバーとつばぜり合いの姿勢に入った。

 

「邪魔をするな、炎の剣士よ。私の目的は、救いにある」

 

 カリバーが、くぐもった声色で言った。

 両者は剣をぶつけ合いながらも、言葉を交わす。

 

「救いだって? あなたは人類を滅ぼそうとしているんじゃないのか!?」

「誰に吹き込まれた?」

「大赦の人が言っていた。あなたは人類の裏切り者だと」

「それは違う。真の裏切り者は、大赦にこそ潜んでいる。私は、その相手を探しているのだ」

 

 剣士たちの側では、勇者と怪物が攻防を繰り返している。

 

「その相手って……」

「私の友を殺した者だ」

「友達を?」

「我が友の名は、三好晴信」

「なんですって!?」

 

 側でオピュクスの進撃を食い止めていた夏凛が、驚きと共に剣士たちの元へやって来た。

 

「あんたなに言ってるの!? 兄貴が殺されたって、どういうことよ!?」

 

 人類の存亡がかかった戦いの場であることも忘れ、夏凛はカリバーに詰問する。

 

「そうか……晴信の妹とは、お前だったのか」

「答えなさい! 兄貴は事故で死んだんじゃないの!?」

 

 カリバーに切っ先を向け叫ぶ夏凛。

 

「大赦にそう言われたのか」

「そうよ」

「それは嘘だ。大赦にいる何者かが、晴信を殺した。私は、彼が殺された現場に居合わせたのだ」

「誰よ……誰が兄貴を!」

「そこまでは分からない。大赦は事実を隠ぺいした。だからこそ私は大赦を抜け出し、バーテックスの側に着いたのだ」

 

 セイバーも疑問を口にする。

 

「どうして、あなたがそこまでする必要が……?」

「晴信は、ある事実を知ったために殺された。それは大赦にいる何者かが、全知全能の書を自らの意のままにしようとしていたからだ」

「それが、真の裏切り者……」

 

 自身の目的を語り終えたカリバー。

 話を聞いていた夏凛は、予期せぬ内容に呆然自失の状態となっていた。

 力なく刀を下ろし、その場に立ちすくんでいる。

 

 その隙をついて、オピュクスが仕掛けてきた。

 胴体であろう部位に備えられた目を思わせる器官から、怪光線を発射。

 

「夏凛ちゃん!」

「ぐっ!?」

 

 セイバーが叫ぶも、光線は夏凛の両足に当たってしまう。

 と、彼女の足が石のように変化したではないか。

 これは、体内に収められたメデューサ蛇伝の持つ能力である。

 さらにオピュクスは、動けない夏凛を狙って鞭のような触手を伸ばした。

 

「危ないっ!」

 

 セイバーは夏凛を庇い、その身を盾として触手の前に立ちふさがる。

 伸ばされた触手は一本だけではなく、鞭のようにしなるそれが、セイバーの全身を殴打した。

 

「ぐあーっ!」

 

 強烈な打撃の連続によって弾き飛ばされるセイバー。

 地面を転がり、その衝撃でソードライバーから三冊のライドブックが、すべて外れてしまった。

 必然的に変身も解け、その姿は剣司のものに戻る。

 

「な、なんだと!?」

 

 剣司の姿を目にしたカリバーが叫んだ。

 これまで一切の感情を見せることがなかったカリバーが、初めて動揺を表したのだ。

 一方の夏凛は、地面にうずくまる剣司に駆け寄ろうとしたが、石化された足では動くことができない。

 せめてもと、少女は声をかける。

 

「剣司! 大丈夫!?」

「う……! なんとか、ね……」

 

 鎧を通して受けた痛みに顔をゆがめながら、剣司は夏凛を心配させまいと無理やり笑顔を作ってみせる。

 

 動揺から立ち直ったのか、カリバーは再び平然とした態度で、樹海に転がるライドブックを拾い上げた。

 それはクリムゾンドラゴンに使用した三冊のみならず、ホルダーに携行していたすべてのワンダーライドブックも含めてである。

 

「残るは、お前の持つ火炎剣烈火のみだ」

 

 カリバーは、地に伏せる剣司を見つめ言う。

 

「すべてがそろえば、全知全能の書は復活する。それを使えば、晴信も生き返らせることができるはずだ」

「剣司に近づくなーっ!」

 

 カリバーを止めるため、オピュクスの相手をしていた風たちが立ちはだかった。

 世界の危機ももちろん重要だが、だからといって友のピンチを見過ごせるはずがない。

 

 そんな少女たちを、バーテックスは非情にも後ろから攻撃する。

 風も樹も、友奈も東郷も、石化光線を浴びて手足が固まり、身動きが取れなくなってしまった。

 これで敵なしとみたオピュクスは、悠然とした足取りで神樹の元へ向かっていく。

 

「う、嘘でしょ……こんなところで……」

 

 もはやこれまでか……風を始め、勇者たちの心に絶望が浮かび始める。

 そんな中で、剣司は痛む体に鞭打って、ヨロヨロと立ち上がった。

 

「俺は……みんなと約束したんだ。誰も死なせないって……。だから、こんなところで……諦めてたまるかーっ!!」

 

 その叫びに反応したとでもいうように、突如として剣司の目の前の空間がゆがむ。

 

「これは……!?」

 

 ゆがみの中から現れたのは、禁書『プリミティブドラゴン・ワンダーライドブック』。

 言い知れぬ不安を感じていた剣司は、唯一この本だけはセイバーの時でも持ち歩かず、自宅に保管していたのだ。

 その禁書が意思を持っているかのように、空間を飛び越えて、この危機的な戦場に現れた。

 それだけではない。

 プリミティブドラゴン・ワンダーライドブックはひとりでにソードライバーのライトシェルフに収まると、剣司の意思を無視して彼の姿を変化させる。

 

『バキッ、ボキッ、ボーン。ガキッ、ゴキッ、ボーン。プリミティブ……ドラゴン』

 

 全身に水色の竜の骨を思わせる装飾が施された、セイバー プリミティブドラゴン。

 無言で、脱力した様にたたずむその姿は、戦場には似つかわしくない。

 普段のセイバーとは違う異様な雰囲気を、勇者部の面々は感じていた。

 

「……GUOOOOO!」

 

 変身者である剣司のものとは思えない、獣のような雄たけびを上げ、セイバーはオピュクスに飛びかかる。

 脚部の装甲、バーサークレッグがもたらす圧倒的な力による突進。

 人間とは比較にならない巨体を誇るバーテックスが、セイバーのタックルによって突き飛ばされる。

 

「GARUAAAAAA!!」

 

 オピュクスの体に取りついたセイバーは、がむしゃらに火炎剣を振り回す。

 剣裁きなどとは無縁の、刀身をただ力任せに叩きつけるそれだけで、怪物の体は容易に傷つけられていく。

 なんの技も使っていないが、強化形態であるクリムゾンドラゴンよりも、一撃一撃の破壊力は何倍にも増していた。

 

「剣司……一体どうしちゃったのよ……」

 

 今までのセイバーとはまるで違う、野生の獣よりも荒々しい姿に、夏凛たちは戦慄を覚える。

 その間にも、セイバーはバーテックスへの攻撃の手を休めない。

 勇者たちも、カリバーすらも事態を静観しているその内に、オピュクスの体はズタズタに切り裂かれ、切断面からは御霊が露出していた。

 

「GUU!?」

 

 急所をむき出しにされたオピュクスは、慌てたようにセイバーを振り落とし後退する。

 そうはさせじと、セイバーは必殺技を発動。

 ボイドタロンと呼ばれる胸の装甲が展開し、竜の腕のように伸ばしたそれで逃げるバーテックスを拘束した。

 

『グラップ、必殺読破。クラッシュ、必殺斬り』

 

 烈火を振り回した衝撃波が竜の爪のようなエネルギー波となり、動けないオピュクスに直撃。

 爆発と共に御霊は砕け、オピュクスは砂のように崩れ去った。

 

「GUOAAAAAAAAAAA!!」

 

 それは勝利の雄たけびか。

 セイバー プリミティブドラゴンの咆哮が、静寂を取り戻した樹海に響き渡った。

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