聖なる刃と、不思議な本。   作:ほろろぎ

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第十二章 過去からの、来訪者。

 三体のバーテックスとアルターライドブックが融合した異常進化体、オピュクスの出現に窮地に立たされる勇者たち。

 その時、突如現れた禁断のワンダーライドブックによって、セイバーはプリミティブドラゴンの姿に変身した。

 プリミティブドラゴンの荒れ狂う力によって、セイバーはオピュクスを難なく倒すことに成功するが……。

 

「GOOOOOOO!」

 

 バーテックスという標的をなくしたセイバーは、次にカリバーに狙いを定めた。

 それはまるで、戦うためだけに存在するバトルマシーンのような行動だった。

 

 痛みを感じないのか、セイバーは烈火の刀身を握りしめたまま、剣をカリバーに叩きつける。

 

「クッ!?」

 

 今までセイバーの太刀はすべて受け止めていたカリバーだが、今度の攻撃は受けきれず、大きく後ずさった。

 すかさず接近したセイバー。

 頭部のソードクラウンを使った攻撃は、まるで角を突き立てるサイを思わせる。

 

「ぐっ!」

 

 胸部アーマーから火花を散らせ、カリバーは苦悶の声と共に膝をつく。

 特殊な希少金属で作られているアーマー、ボルキュイラスには傷が入っていた。

 この装甲は聖剣と同質の金属で作られているため、破壊することは普通は不可能なものなのだ。

 それに傷をつけたセイバー プリミティブドラゴンが、尋常ではない剛力を発している(あか)しだった。

 

「ここは一度、引かせてもらおう……」

 

 カリバーは腰のベルト──邪剣カリバードライバーから本を取りはずす。

 

『必殺リード、ジャアクドラゴン。月闇(くらやみ)必殺撃』

 

 はずしたジャアクドラゴン・ワンダーライドブックを闇黒剣月闇のジャガンリーダーに通し、本の内容を読み込ませる。

 金色(こんじき)の刀身、ゴルドスレイブに闇の力をまとわせ、闇黒の波動をセイバーにぶつけた。

 

「剣司!」

「先輩!」

 

 カリバーの必殺攻撃が直撃したセイバーは、爆炎に飲み込まれる。

 その炎に紛れて、カリバーは樹海から姿を消した。

 残された勇者たちは、呆然とセイバーを飲み込んだ炎を見つめるしかなかった。

 そんな少女らの前に、セイバーは傷一つない状態で炎の中から現れる。

 

「良かった、無事なのね……」

 

 オピュクスが倒されたことで、石にされた体も元に戻った夏凛たちが、セイバーのもとに駆け寄った。

 

「……GOA!」

 

 その仲間たちに向けて、あろうことかセイバーは襲い掛かった。

 とっさに大剣を盾にすることで怪我は避けた風が、セイバーに声をかける。

 

「ちょっと剣司!? あたしよ、風よ!」

「剣司さん! どうしちゃったんですか!?」

「先輩! 止めてください!」

 

 だが暴走状態にある今のセイバーには、仲間たちの言葉も届かない。

 樹も友奈も、慌ててセイバーを止めようと体にしがみつくが、勇者の力でもプリミティブの強力なパワーを抑えることができないでいた。

 

「神川先輩! 風先輩から離れて!」

 

 東郷が銃を向ける。もちろん撃つつもりはなく、あくまでも威嚇のためだ。

 

「AAAAAAAAAA!!」

 

 セイバーは全身から水色のエネルギー波を放射した。

 突然の攻撃に対して精霊のバリアーが自動展開されるが、少女たちは障壁ごと吹き飛ばされてしまう。

 おまけにセイバーの放った衝撃波がシステムに影響したのか、この状況で友奈、東郷、夏凛の変身が解除されてしまったではないか。

 幸いにも勇者装束が解かれることのなかった風と樹は、意識を失い無防備になった三人をかばい、セイバーの前に立ちふさがる。

 

「お姉ちゃん、どうしよう? 今の剣司さん、なんかおかしいよ……」

「ええ、多分あのライドブックのせいでしょうね。まったく、一難去ってまた一難とはこのことだわ」

 

 姉妹は額に冷や汗を浮かべながら、この状況にどう対処するか話し合う。

 

「こうなったら、アレを使うしかないわね」

「アレって、もしかして……」

 

 勇者のパワーアップシステム、満開。

 通常の勇者五人がかりで(かな)わなかったオピュクスを難なく葬り去ったプリミティブドラゴンの力に、たった二人で対抗するためにはそれしかないだろう。

 

「樹はなにもしなくていいわ。まずは、あたしが試してみる」

「え、でも」

「危険かもしれないって剣司も言ってたでしょ。お願い」

 

 姉の真剣な顔に口をはさめなくなった樹は、しぶしぶうなずくと距離を取った。

 

「いくわよ、剣司。……『満開』ッ!」

 

 システムの起動コードが認識され、オキザリスの花が開く。

 風の勇者装束が黄色から、白を基調としたものへと変化した。

 

「これが満開か……」

 

 体内を膨大なエネルギーが満たすのを、風は感じていた。

 彼女の変化を見て、セイバーは雄たけびを上げ少女に迫る。

 風は大剣を構え、プリミティブドラゴンの力を正面から受け止めた。

 

「嘘……満開を使って互角なの……!?」

 

 勇者の力を数十倍に引き上げる満開を使えば、風はセイバーを止められると思っていた。

 しかしプリミティブドラゴンの力は少女の予想以上に強く、一人では拮抗するのがやっとのありさまだ。

 いや、変身しているのが男女の違いということもあるのか、セイバーの方が徐々に押し始めている。

 このままではマズい。

 風が内心で焦りの声を浮かべた時、突如としてセイバーの動きが止まった。

 

「……樹!?」

 

 見れば、いつの間にか樹も満開システムを使用していた。

 風同様に白くなった勇者装束で、背後のリング状のパーツから強化されたワイヤーを放射。

 これがセイバーの四肢を拘束していたのだ。

 

「お姉ちゃん、今のうちに!」

「……わかった。剣司、ちょっと痛いだろうけど、我慢してよねッ!!」

 

 拘束を解こうともがくセイバーに向けて、風は全力でスイングした大剣の側面をぶち当てる。

 

「GOA!?」

 

 初めてダメージらしきダメージを与えることに成功。

 衝撃でプリミティブドラゴン・ワンダーライドブックはドライバーから外れ、元の姿に戻った剣司は意識がなく、風たちが支える間もなくその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 途切れていた意識が戻った時、剣司が漏らした第一声がそれだった。

 彼は今、どことも知れない森の真っただ中に立ちすくんでいた。

 説明のつかない状況に対して、原因を探ろうと、ボヤける頭を動かして記憶をたどる。

 

「俺は、プリミティブドラゴンの本に無理矢理変身させられて……それで」

 

 その後のことは思い出せないが、勇者部の仲間になにか大きな迷惑をかけたのでは、という予感はあった。

 とはいえ夏凛たちが、腹いせに意識のない少年を森の中に一人放置するなどといった、復讐に走る人間でないことも承知している。

 

「四国のどこかに、こんな森があるんだろうか……?」

 

 剣司は周囲をぐるっと見回す。

 ()の光も木々に(さえぎ)られまともに差さず、動物や虫の鳴き声一つない。

 とても陰鬱な雰囲気に、剣司はブルッと身震いをする。

 

 ふいに、背後から視線を感じた。

 ふり返ると、いつの間にそこにいたのか。一人の少年が、人形の様に立ちすくんでいた。

 少年は剣司よりもさらに幼く、小学生ほどの年頃に見える。

 

「君は……」

 

 力なくうなだれている様子の少年に声をかけようとする。

 と、その声に反応して、少年は顔を上げた。

 

(涙……?)

 

 少年の頬にしずくが流れているのが、剣司の目に入った。

 少年は声も上げず、一人静かに泣いていたのだ。

 だがその泣き顔が、剣司の姿を見た途端に止まった。

 

「……やっと、見つけた」

 

 小さな声で少年は言った。

 次の瞬間、少年の姿が変わった。

 剣司の目の前には、巨大な水色の竜の骨があった。

 竜の骨は尖った手を伸ばし、剣司をつかまえようとする。

 

「うわぁ!?」

 

 とっさに後ずさり、距離をとる剣司。

 竜の骨は、伸ばした手を力なく下した。

 

「君も、いなくなるんだね……」

 

 骨が言った。その声は、少年のものと同じだった。

 直後、骨から水色の波動が放射され、剣司の体は強い衝撃を受けた。

 

「……はッ!?」

 

 衝撃によって一瞬だけ昏倒していたのか、すぐに意識が戻った剣司。

 だが彼は、もうどことも知れない森の中にはいなかった。

 代わりに、どことも知れない病院のベッドの上に寝かされていた。

 

「どこだ、ここは……」

「あ、気がついたみたいだね」

 

 剣司の独り言に応えたのは、聞き覚えのない少女の声だった。

 横を見ると、ベッドの脇に置かれた椅子に、声の主であろう少女が腰かけている。

 声と同様、やはり見覚えのない少女だった。

 

「……えっと」

「初めまして。あたしは、銀」

 

 銀、とだけ少女は名乗った。

 それが苗字なのか、名前なのかはわからない。

 ベッドから起き上がろうとする剣司を、銀は押しとどめた。

 

「そのままでいいですよ。まだ体調も良くないでしょ?」

「え、えぇ。まぁ……」

 

 いう通り、戦闘と二度に渡る強化変身の反動による疲労が、まだ抜けきっていない。

 

「そうだよね~、やっぱりプリミティブドラゴンの力は強力過ぎて、あとがツライですよね~」

「ぇ……なんで君が、プリミティブドラゴンのことを知って……」

「あ、言うのが遅れたけど、あたし、あなたの前に炎の剣士をやってたんだ」

「……えぇ!?」

 

 銀はニッと笑って、剣司に握手を求めながら言った。

 少女の衝撃の発言に剣司は言葉を失い、反射的に彼女の手を握り返すのが精一杯だった。

 

「って言っても、ブレイブドラゴンは伊予島家で保管されてたから、あたしが使ってたのは火炎剣烈火だけだったけど」

「はぁ……」

「えっとですね、二年前にもバーテックスが攻めてきたことがあって、その時にあたしと友達二人が選ばれて、お役目についてたんだ」

「そうなんですか?」

「あたしは勇者としての素質もあったし、炎の剣士としての素質もあったみたいだから烈火だけ大赦から渡されたんだよね。

でも、ある時バーテックスが三体同時に攻め込んできた時があって……いやぁー、あの時はあたしもさすがに死ぬかと思ったなぁ。

あ、それでその時に、プリミティブドラゴンの本が勝手に飛んできて、その時だけ唯一、あたしもライダーになれたんです。

おかげでバーテックスは全部追い返せたけど、あたしは暴走して友達に襲い掛かっちゃって……」

「俺も同じです。プリミティブドラゴンの力は危険だ」

 

 ふ、と剣司は根本的なことに思い至った。

 

「それで先輩は、どうして俺に会いに?」

「年齢はあなたの方が先輩なんだけどね」

 

 ややこしいな、と苦笑を浮かべながら、銀は数冊の本を取りだした。

 

「えと、これは……」

 

 本を眺めながら剣司は問う。

 

「プリミティブドラゴン・ライドブックのページは見ました?」

「はい。でも、文字が全く読めなかったです」

「あれには物語があるんだ。でも、大赦ではそれを読み解くことは禁じられている」

「封印されていたんですよね」

「だからこれは、あたしの個人的なツテを頼って仕入れたもの」

 

 銀は、彼女が持ってきた本を剣司にすべて渡す。

 見るとそれらは、古文書やら文献やらの様々な資料の類。

 

「これがあれば、プリミティブドラゴンの物語も解読できると思う」

「え、でもさっき、読むことは禁じられてるって」

「あなたも変身したなら、あの本になにか感じなかった?」

 

 銀に問われ、確かに剣司はプリミティブドラゴンから、他のライドブックとは違うなにかしらを感じてとっていた。

 

「あの本を解読できれば、戦いの役に立つんじゃないかと思って、こうしてやって来たって訳。今のあたしはお役目から外されてるから、もうこれくらいしか力になれないからね」

 

 用事は済んだ、と銀は席を立つ。

 

「それじゃ……またね」

 

 そう言って、銀は病室を後にした。

 

 それから数分と間を置かず、入れ替わるようにして勇者部の面々が、剣司の様子を見にやって来た。

 その中で風の姿を目にした時、剣司は心臓を鷲づかみにされたような気分になった。

 

「風さん、その目は……!?」

 

 風は左目に医療用の眼帯を付けていた。

 

「フフフ、これは先の闇黒戦争で暴虐の限りを尽くす魔王を封印した時に」

「風先輩」

「あはは、冗談冗談」

 

 風なりのジョークを、東郷がジト目で制す。

 風に変わって友奈が説明を始める。

 

「戦いの疲労のせいだそうです。風先輩と樹ちゃん、満開したらしいので」

「……風さんと、樹ちゃんが、満開を……!?」

「そんな大げさにしなくても大丈夫だって。お医者さんも、すぐに治るって言ってくれてるんだから」

 

 風の言葉に樹も、コクコクと相づちを打つ。樹は声が出せなくなっているようだった。

 詳しい経緯を聞いて、剣司の顔は青ざめていた。

 バーテックスとの戦闘でならまだしも、暴走した自分を止めるために、自身が危険視していた満開を使わせてしまったのだから無理もない。

 

「二人とも、俺のせいで……すまない!」

 

 ベッドの上で、土下座でもしそうな勢いで頭を下げる。

 風たちは慌ててそれを止めようとするが、なお剣司は頭を下げ続ける。

 

「あれは不可抗力って奴なんだから、気にしないでって。別に一生このままって訳じゃないんだからさ、ね?」

「けど……」

「二人が満開を使ったのは、私たちが気絶してたせいでもあるんだから、剣司だけの責任じゃないわ」

 

 夏凛もフォローの言葉を口にする。

 

「そうですよ。先輩は自分一人で無理しようとし過ぎです。私たちは仲間なんですから、困った時には助け合わないと」

「友奈ちゃんの言う通りですよ。互いを信じ助け合うのが私たち勇者部の約束だって、樹ちゃんにも言ったそうじゃないですか」

「結城さん、東郷さん……わかったよ」

 

 剣司はやっとのことで顔を上げた。

 続けて、夏凛と友奈、東郷に視線を向ける。

 

「ところで、三人は体の調子は……」

「私たちはなんともありませんよ」

「現実の方も、色々と事故が相次いだみたいだけど、人的な被害は幸いにもゼロだそうよ」

「そうか……今回も、なんとか世界は守れたんだね」

 

 夏凛の言葉を聞いて、剣司の胸のつかえも一つは取れたようだった。

 しかし、続けて一つの懸念(けねん)が沸き上がる。

 

「夏凛ちゃん、お兄さんのことだけど……」

「……それも、平気よ。そもそも敵の言うことだから、こっちの動揺を誘うための嘘かもしれないしね」

 

 事故死だと思っていた少女の兄が何者かに殺されたかもしれない、という話は友奈たちも聞かされている。

 そのため彼女たちも、なんとも言えない表情で二人のやりとりを見ていた。

 沈んだ空気を払うように、風が声を上げる。

 

「なんにしても、バーテックスは残り二体。そいつらを倒せば戦いは終わるわ。最後まで気を抜かずに、頑張りましょう」

 

 リーダーの活を入れられ、五人はうなずき、決意を新たにするのだった。

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