聖なる刃と、不思議な本。   作:ほろろぎ

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第十四章 手をつなぎ、浮かぶのは笑顔。

「大赦からの連絡で、バーテックスの残りが近いうちにやって来るらしいわ」

 

 夏休み明け初日の部室で、揃った勇者部のメンバーに部長である風が告げた。

 旅行中は風と樹のスマートフォンは、満開したことによるデータ収集の名目で大赦側に預けられていた。

 それを返された際に、彼女はバーテックス襲来の予報を聞かされたのだった。

 

「いよいよ、最後の戦いが近いってわけね」

「夏凛ちゃん……」

「大丈夫よ」

 

 近づく戦いの終わりに気を引き締める夏凛。

 自分を気にかけてくれる剣司に対して、少女はニコリと笑みを向ける。

 今の彼女には、勇者部という居場所があるから。

 

 二人のそばでは、犬吠埼姉妹が返却されたスマートフォンを操作していた。

 画面が発光すると共に、スマホ内部から四体(・・)の精霊が飛び出してくる。

 

「これが新しく増えた精霊なのね」

『わぁ~、可愛い』

 

 もともと風と樹には、犬神と木霊という二体の精霊がそれぞれについていた。

 それが今回、勇者システムのアップデートに共ない新たに、鎌鼬(かまいたち)雲外鏡(うんがいきょう)という二体が追加されたのだ。

 

「なんで風先輩と樹ちゃんにだけ、精霊が増えたんだろ?」

「満開の情報を調べる時に、一緒に機能を調整したんじゃないかしら」

 

 友奈の疑問に、東郷が推測を立てる。

 

「そういえば、東郷さんは最初から精霊が三体いるよね」

 

 ええ、とうなづくと、東郷は自身のスマートフォンから青坊主、不知火(しらぬい)刑部狸(ぎょうぶだぬき)を呼び出す。

 

「全員、整列!」

 

 東郷の号令に従い、三体の精霊は一糸乱れぬ綺麗な横並びを見せた。

 

『よく訓練されてますね』

「東郷はしつけの厳しいお母さんになりそうだわ」

「友奈ちゃんが、その辺の調整をしてくれますから」

「なんで友奈が旦那になる前提で話してくるのかしら……」

 

 東郷と会話している姉妹を見つめながら、剣司は追加された精霊について考えを巡らせていた。

 

(精霊が増えたのは風さんと樹ちゃんだけ。満開したのも彼女たちだけ。このことに繋がりはあるのか……?)

 

「……剣司、どうかしたの?」

「あぁ、いや。なんでもないよ」

 

 夏凛の問いに対して、少女らに余計な不安を与えないようにと、剣司はとっさにはぐらかした。

 二人のやりとりに気づかなかった風は、やれやれといった表情で口を開く。

 

「にしても、残りのバーテックスはいつ来るのかしらねぇ~」

「私の勘では、来週あたりが危ないわね」

 

 と夏凛。

 

『いきなり、今来たりして』

「まさかぁ……」

 

 樹の冗談に、みんなはついスマートフォンをチェックした。

 しかし、警報が鳴る予兆はない。

 

「ま、敵さんが来るまでに、あたしたちはやるべきことをしましょう」

「やるべきことって、なにがあるんですっけ?」

「文化祭の劇の練習! その前に小道具の準備! のさらに前に台本作り! もともとの言い出しっぺは、あんたでしょ?」

「そうでした。えへへ」

 

 うっかり劇のことを忘れていた友奈に対して、風からのツッコミが入った。

 敵が来なくても、勇者部の本来の活動が彼らには待っているのだ。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 戦いではない、もう一つの勇者部の、平穏な活動は続く。

 演劇の台本はほぼ出来上がり、配役も決め衣装の準備にも差し掛かった。

 そんな中で、ついに最後の敵襲の日は訪れた。

 

「なんか、デカくない?」

 

 壁の向こうから姿を見せた、獅子座『レオ・バーテックス』を見た風がつぶやく。

 レオの大きさは通常の星座型より一回りも二回りも上回っており、以前現れた合体型のオピュクスよりもさらに大きい。

 

「もう一体はどこだろう?」

 

 残る一体、双子座のジェミニ・バーテックスの姿を探しながら、友奈が言った。

 樹海に立つ彼女らの身は、すでに戦いのための衣装がまとわれている。

 ただ一人、剣司だけは変身に必要なライドブックを奪われているため、生身のままだが。

 

「みんな、あそこに双子座が」

 

 スマートフォンの地図アプリで敵の姿を確認した東郷が、ジェミニのいる方を指さす。

 バーテックス一の巨体を誇るレオとは対照的に、ジェミニは等身大の人間とさほど変わらない大きさとシルエットをしていた。

 

「これでいよいよ、最後の戦いね」

 

 夏凛が言った。

 その表情には決意のみがあり、戦いを終えた後の不安は微塵もなかった。

 

「ここまできたら、全員無傷で完勝を目指すわよー!」

「「「おー!」」」

 

 風の言葉に友奈、東郷、夏凛が返す。

 喋れない樹も、戦う力をほとんど無くしてしまった剣司も、握りこぶしを振り上げることで答えた。

 

 同じタイミングでバーテックスの側も動きを見せる。

 レオはゆっくりとした速度で進み、反対にジェミニは土煙が上がるほどの速度で地を駆けてくる。

 

「友奈と夏凛は、あたしと獅子座を。樹と東郷は双子座の方を頼むわ」

 

 部長の指示で、それぞれが配置につく。

 

「風さん、俺は?」

「あんたはここで待機」

「待機?」

 

 共に戦うつもりでいた剣司は、虚を突かれたようにオウム返しする。

 

「でも俺は、プリミティブドラゴンのための物語を」

「分かってる。けど、確実に説得できるって訳じゃないんでしょ?」

「それは……」

 

 風の言う通り、プリミティブドラゴンの暴走を克服できるかは一種の賭けだ。

 賭けに失敗すれば、戦場で剣司は無防備となる。

 それはつまり、命を落とす可能性もあるということだ。

 

「ここは、あたしたちに任せて」

 

 友を守りたいという気持ちは、自分も目の前の少女も同じ。

 そのことを知っている剣司は、一人勇者たちから離れていく。

 今は黙って、少女らにすべてを任せるしかない。

 そんな剣司の、悔し気な表情に気づいた夏凛が声をかける。

 

「心配しなくても、たった二体だけなら私たちでもなんとかなるわ。風と樹にも、精霊が二体も増えたんだしね」

 

 なにより完成型勇者の自分がいる、と。

 

「でも、もしもの時には頼んだわよ」

「……みんな、気をつけて」

 

 剣司の祈るような言葉に夏凛らはうなずくと、あとは振り返らず一直線に敵めがけて飛んで行った。

 

 戦いが始まった。

 東郷と樹は高速で突っ込んでくるジェミニを相手にするが、ジェミニは曲芸師のような軽やかな体さばきで二人の攻撃をかわし続ける。

 夏凛、風、友奈は百メートルもあるレオに果敢に挑むも、堅固(けんご)なボディーは少女らの攻撃が直撃しても、傷一つ付かない。

 

 苦戦する勇者たちを、ただ遠目に見ていることしかできない剣司。

 風には止められたが、やはり自分も行くしか……そう思っている時、突如として背後に気配を感じた。

 

「あなたは……!?」

 

 振り返ると、そこにはいつの間に樹海内に侵入していたのか、闇の剣士カリバーがたたずんでいた。

 カリバーは、無言で剣司のことを見つめている。

 不審な態度を剣司がいぶかしんでいると、カリバーが口を開いた。

 

「お前にはもう、力はない。この戦いから手を引け」

 

 これまで剣を交えてきた敵が、突然自分のことを心配するようなそぶりを見せた。

 そのことに剣司は、疑わしげな眼でカリバーを見つめ返す。

 

「あなたは、大赦に真の裏切り者が潜んでいるといった。それは本当のようだ。なら、俺たちが力を貸します」

「お前のような子供になにができる。敵は我々が思うよりも、もっと深い場所にいる」

「それでも、あなた一人よりは……!」

「仲間などいらん。それに……」

 

 不意にカリバーが黙り込む。

 

「それに、彼ら(・・)の目を(あざむ)く必要もある」

「……彼ら?」

恭順(きょうじゅん)を示さなければ、すぐに見破られる」

 

 カリバーは腰のホルダーから、ブレイブドラゴン・ワンダーライドブックを取り外し、レオ・バーテックスに投げ入れた。

 続けてジェミニもレオの体に取り込まれる。

 

「嘘でしょ……」

 

 少女らの中の誰かが、絶望のつぶやきを漏らした。

 ただでさえバーテックス中最大の巨体を誇るレオが、ジェミニの能力によって二体に分裂したではないか。

 さらに撃ちだされる無数の火炎弾は、ブレイブドラゴンの書の力によってパワーアップしている。

 

「みんなーッ!!」

 

 炎の砲弾による無差別な爆撃は、勇者たちを紙屑のように吹き飛ばした。

 少女らの上げる悲鳴すらも、爆炎とそれにともなう轟音でかき消される。

 

 炎に焼かれる樹海の中で、夏凛たち五人の勇者はみな一様に、力なく倒れ伏していた。

 起き上がろうとする素振りもない。

 みんな気絶してしまったのか、それとも……。

 

 強化されたレオの攻撃は、想像以上に少女らにダメージを与えているようだった。

 このままでは彼女たちは成すすべなく、バーテックスの手にかけられてしまうのは明白だ。

 

「プリミティブドラゴン! 頼む! 俺に力を貸してくれーッ!!」

 

 剣司は叫んだ。友の命を救うため。

 その願いに応えてくれたのか、伸ばした腕の先にはプリミティブドラゴン・ワンダーライドブックが出現した。

 同時に、剣司の意識がライドブックの中に飛んでいく。

 

 そこは、どことも知れない深く、鬱蒼とした森の中。

 剣司の前には、プリミティブドラゴンの精神が形となった少年がいた。

 

「みんな、どこ? どこにいるの……?」

 

 少年は、以前見た時と同じように泣いていた。

 家族も、同属も消え去り、たった独り取り残され、その悲しみに囚われたまま。

 

「…………」

 

 剣司は少年に歩み寄る。

 目の前に現れた自分以外の存在に、少年の顔が上がった。

 

「やっと、見つけた」

 

 涙を(たた)えたまま、少年は腕を伸ばす。

 その腕が、かぎ爪を備えた巨大な竜の腕に変化し、剣司に迫る。

 剣司は今度は逃げずに、少年の求めを受け入れた。

 

「ぐっ……くぅ……!」

 

 竜の腕は、強烈な力で剣司の体を握りしめる。

 長い年月をかけて、やっと見つけた他者の存在を離すまいと。

 精神世界とはいえ、その身に受ける感覚は現実と変わらない。

 剣司は全身の骨が砕けるのではないか、というほどの握力に耐え、少年に声をかける。

 

「大丈夫だよ、俺はどこにもいかないから」

「…………嘘だ!」

 

 少年の体から悲しみの波動があふれ、剣司をつかむ腕にさらなる力が加わる。

 

「みんな、そう言ってた。どこにもいかないって。でも……みんないなくなった! 君も、いなくなるんでしょ!?」

「……俺も、君と同じだった。友達が誰一人いなくて、孤独だった」

 

 少年の悲しみが理解できる剣司は、その涙を払うため静かに語りかける。

 

「でも、俺にもいつしか仲間が、友達ができた。……君も同じだよ」

「僕も……?」

「君の物語を読んだよ。共に過ごした仲間をすべて失い、たった一人残され、孤独の果てに亡くなった。それでもなお、いなくなった仲間を求める君の魂は、独り世界をさ迷い続ける」

 

 でも……

 

「でも、物語はそこで終わらなかった」

 

 独り残された竜の子供は、死してなお仲間を求め、魂となっても苦しみに囚われていた。

 だが、そんな子竜の魂を、ずっと側で見守っていた存在がいたのだ。

 春のそよ風が、夏の陽の光が、秋の暮れなずむ大地が、冬の輝く雪水が。

 竜の子を取り巻く自然たちは、ずっと彼の側にいて、彼の旅路を見つめ続けていた。

 

「そうだよ、君は一人だけど、独りじゃなかったんだ」

 

 剣司は自らが創り上げた、プリミティブドラゴンの悲しみの物語の先にある、救いのためのストーリーを話して聞かせた。

 少年は、ただ黙って剣司の話を聞いていた。

 そうして、語り終えられた物語を、じっくりと咀嚼するように瞳を閉じる。

 

「そうか……僕にも、友達がいたんだね」

 

 鬱蒼とした茂みの向こうから、暖かな太陽光が差し込んだ。

 陽の光に照らされた少年の瞳には、もう涙はなかった。

 

「俺とも、友達になってくれるかい?」

 

 剣司はそう言って、右手を差し出す。

 いつの間にか、少年は彼を捕らえていた腕を開放していた。

 そして少年も、心からの笑みを浮かべて、剣司の手をとりギュッと握り返した。

 

 瞬間、剣司の意識は樹海に立つ元の体に戻った。

 右手にはしっかりと、プリミティブドラゴン・ワンダーライドブックが握りしめられている。

 剣司は、右手に持つプリミティブドラゴンの本を(かか)げた。

 

 表紙からは竜の腕が具現化したボイドタロンが出現。

 それはグンッと伸びると、二体に分裂したレオ・バーテックスの一体に突き刺さる。

 即座に引き抜かれた腕の中には、カリバーの手によってレオの体内に挿入されたブレイブドラゴン・ワンダーライドブックが握られていた。

 

「なんだと!?」

 

 暴走形態でしかないと思っていたプリミティブドラゴンが、剣司の意を組んで動いていることにカリバーは動揺の声を上げた。

 剣司はそんなカリバーを気に留めず、プリミティブドラゴンの表紙を開き、そこにブレイブドラゴンを挟み込む。

 

『ブレイブドラゴン、ゲット』

 

 二冊の本は溶け合うように融合すると、一冊の新たなる書──『エレメンタルドラゴン・ワンダーライドブック』へと変化した。

 剣司はエレメンタルドラゴンを、聖剣ソードライバーに装填する。

 

「変身!」

『バキ、ボキ、ボーン。メラ、メラ、バーン。シェイクハンズ』

 

 剣司の体がセイバー プリミティブドラゴンのものに変化。

 さらに炎や風、水などの元素がその身にまといつき、仮面ライダーセイバーを新たなる姿へと進化させていく。

 

『エレメント、マシマシ。キズナ、カタメ』

 

 現れたのは、これまでのどのワンダーライドブックでも成しえなかった、セイバーの未知なる姿。

 その名も、『エレメンタルプリミティブドラゴン』。

 両肩に宿ったプリミティブドラゴンとブレイブドラゴンが、胸の装甲の上でガッチリと固い握手を交わす、友情のフォームである。

 

「バカな……再び戦いの中に戻ろうというのか!?」

 

 カリバーは叫ぶように言った。

 それは本心から、剣司を戦いから遠ざけようという意思を感じさせるものだった。

 

「あなたが俺を心配してくれているのはわかります。なぜかは知らないけど。……でも、俺は友達を助けるためなら、何度でも戦います!」

 

 セイバーはそう言うと、カリバーを残して一人でレオ・バーテックスに挑みかかった。

 勇者たちを、友達を救うために。




プロットを組みなおしたり、セイバー関連の装動を塗装したり
なんやかんやで執筆が思うように進まず停滞してました、ごめんなさい。

更新止まってる間にセイバー本編も終わってしまいましたね…
久しぶりに毎週楽しみに見れたライダーでした。リバイスも面白そう。
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