剣司は自身が創作した物語によって、プリミティブドラゴンと友情を
そして、セイバーは
セイバー エレメンタルドラゴンは傷つき倒れた勇者たちを救うため、単身で二体に分裂したレオ・バーテックスへと挑む。
一直線に駆けてくるセイバーの姿を見た二体のレオは、共に火炎弾を射出してきた。
数えきれないほどのそれはセイバーに直撃。
圧倒的な火力が彼の体を消し炭にする……はずだった。
ところが炎が晴れた先には、怪我どころか
二体のレオの体が、動揺しているかのように震えた。
いくらブレイブドラゴンのバフ──力の強化──が無くなったとはいえ、レオの攻撃力は十二体のバーテックスの中でも最高のものだ。
そのレオが、ジェミニの力を借りて二体に増殖しているのだから、火力も単純に倍加していなければおかしい。
だというのに、レオの攻撃はセイバーには全く通じていないのだ。
「どうやらお前とこの姿は、相性が悪いらしいね」
剣司はつぶやくように言った。
四元素の力を持つエレメンタルドラゴンは、自らの体を火、水、土、風のエレメントに物質変化を起こすことが可能となっている。
つまり先ほどのレオの火炎攻撃に対しては、セイバーは自分の体を相反する水の属性へ変化させたことで、その威力を無効化したのだ。
「みんなの怪我が心配だ。これで決めさせてもらう!」
セイバーは火炎剣烈火をソードライバーに納刀する。
『烈火抜刀。エレメンタル合冊斬り』
「森羅万象斬!!」
ドライバーから聖剣を引き抜き、四属性の力を込めた刀身でレオの一体を御霊ごと切り裂く。
エレメンタルの力は、勇者の
さらにもう一度聖剣を納刀。
『エレメンタル合冊撃』
「
烈火のトリガーを引き、七色のエレメントの力を右足に収束させた飛び蹴りを、残りのレオに叩きこむ。
勇者たちを圧倒した二体のレオ、そしてジェミニ・バーテックスは、エレメンタルドラゴンの力の前に呆気なく散っていった。
「……剣司……?」
最後のバーテックスが消え去り、同時に夏凛たちも意識を取り戻した。
意識を失いはしたものの、レオの攻撃は精霊バリアで防がれており、肉体の怪我はかすり傷や軽度な
「これが最後だっていうのに、気絶してる間に全部終わってるなんて……情けないわ」
「みんなに怪我がないなら、それでいいじゃないか」
ここぞという所で力になれなかったことを悔やむ夏凛と、それを励ます剣司。
彼にとっては友達が無事でいることこそが、なによりの嬉しい勝利の証だった。
「……っていうか、変身できるようになったのね」
「ああ、説得がうまくいったよ」
「よかった。って言っていいのかしら……?」
二人が話している時、隣で樹がパクパクと口を動かしていた。
彼女の視線の先には
「……カリバー」
そう、相手はまだ一人残されていた。
「戦いは終わりました。あなたの負けです」
セイバーは静かに、カリバーの負けを伝える。
「まだ終わってはいない。……戦いは、終わらんのだ」
「? それはどういう……」
セイバーの問いをふさぐように、カリバーは闇黒剣月闇を構えた。
それに対して、セイバーも無言で火炎剣烈火を構える。
剣士同士、言葉の代わりに剣で答えを示そう、ということだ。
勇者たちが
聖剣を振りぬき、互いが交差するその一瞬で。
「……グッ……!?」
カリバーが膝をつき、月闇を落とした。
勝ったのはセイバーだった。
これまでの戦い、そしてプリミティブドラゴンと結んだ絆が剣司の力となり、ついにはカリバーを圧倒するまでになったのだ。
腰に巻いたドライバーから、力を失ったジャアクドラゴン・ワンダーライドブックが外れ、カリバーの変身が解けていく。
謎の剣士の正体を見た剣司は、セイバーの仮面の中で両目を見開いた。
「に、兄さん……!?」
カリバーの変身者とは、行方不明となっていたはずの剣司の兄、神川大地だったのだ。
「剣司のお兄さんが……カリバー? どういうことよ」
発覚した敵の正体に夏凛たち勇者も困惑し、互いに顔を見合わせている。
「剣司、私は……」
大地がなにか言わんと口を開きかけた、その時
「……みんな、気をつけて!」
セイバーの感覚器官に気配が感じられ、剣司が叫ぶ。
直後、彼らの周囲で爆発が起きた。
勇者への衝撃は精霊のバリアに防がれ、セイバーもまた体を水の元素と化し、自身と兄を守った。
爆風が晴れた先には、巨大な
「嘘でしょ、なんで……バーテックスは全部倒したはずでしょ!?」
風が動揺を
彼女たちの前には、初めて勇者となった時に倒したはずの乙女座、ヴァルゴ・バーテックスがいたのだ。
ヴァルゴは尻尾状の器官から、卵のような形の爆弾を大量に撃ち出してきた。
爆弾はセイバーたちを目掛けて着弾する。
「ぐあああああっ!?」
爆炎に飲み込まれる七人。
セイバーのエレメントの体を貫いて、爆弾の炎が生身の大地の体を焼き焦がす。
「兄さん! このっ!!」
炎が消えた一瞬、次の攻撃が加えられる前にセイバーはエレメンタルドラゴンの必殺技を放ち、ヴァルゴを葬り去った。
周囲を見回してみる。どうやら他に敵はいないようだ。
兄のもとに駆け寄ろうとした時、地面が揺れ足を止められた。
そのまま樹海化が解けていく。
「……あれ?」
樹海が解除されれば、讃州中学の屋上に戻されるはずだ。
だが剣司は、明らかに学校ではない別の場所に立っていた。
見れば、かつて市のシンボルだった、破壊された大橋が視界に入る。
ここは讃州市から大きく離れた大橋市だったのだ。
「剣司」
「神川先輩……」
「夏凛ちゃん、東郷さん。君たちも一緒だったのか」
二人の少女も剣司と同様に、大橋に戻されていたようだ。
だが、友奈と犬吠埼姉妹の姿はない。
「ずっと呼んでたよ、わっしー。会いたかった~」
不意に、三人の背後から声がかけられた。
剣司たちはビックリしてふり向くと、そこには大きなベッドに寝かされている、全身を包帯にくるまれた少女がいた。
「……?」
少女の言葉から、三人の誰かと面識がある様子だったが、誰も彼女のことは知らなかった。
だが、その隣に立つもう一人の少女に、剣司は見覚えがあった。
「あなたは、銀さん?」
「や、久しぶり」
包帯の少女の側に立つのは、プリミティブドラゴンの物語の解読を手伝ってくれた、先代の炎の剣士を自称する銀だった。
「プリミティブドラゴンのこと、助けてくれてありがとね。あたしには出来なかったから」
「先輩、お知合いですか?」
「ああ、前にちょっとね」
東郷の問いに、以前出会った時の経緯を話して聞かせる。
「私たちの前の勇者……じゃあ、そっちの人も」
「初めまして~、乃木園子っていいます」
乃木園子。彼女こそ大赦のツートップの一角である乃木家の令嬢であり、先代の三人の勇者のリーダーを務めていた者だった。
初対面のはずなのに、東郷に対する園子の言葉は親近感を感じさせるものなのを、当の東郷は不思議に思った。
園子の隣で東郷を見つめる銀の視線もまた、どこか寂しさを感じさせる影をひっそりとたたえたものだった。
勇者部のメンバーよりも以前から勇者として大赦で訓練に努めていた夏凛だが、先代勇者との面識はい。
そのため名乗ろうとするが、先んじて園子が言葉を紡ぐ。
「あなたたちのことは知ってるよ~。三好夏凛ちゃん、神川剣司さん、それと……東郷美森ちゃん」
「あの、俺たちのことを呼んだって……他のみんなは」
「大丈夫。他の人たちはいつもの場所に戻ってるよ。あなたのお兄さんも、入院できるように手はずは整えておいたから」
「どうして兄さんのことまで……」
園子のそばに、太ったカラスのヌイグルミを思わせる物体が出現した。
「この子、セバスチャンって言う私の精霊なの。この子に頼んで、あなたたちのことを観ててもらったの」
勝手に見張っててごめんね、と園子は薄っすらと笑みを浮かべ言った。
だが、そのおかげで大地の様態は守られることになったので、剣司は文句を言う気はなかった。
園子は夏凛に視線を向ける。
「夏凛ちゃんのお兄さんのことだけど……カリバーの言ってたことは、全部本当だよ」
「っ! やっぱり兄貴は、大赦の誰かに殺されてたの?」
「あたしたちも探りを入れてるんだけど、犯人は分からなかった」
ごめん、と動けない園子に代わって銀が頭を下げた。
場に気まずい沈黙が流れる。
その静寂を破ったのは東郷だった。
「乃木さん」
「……なにかな~?」
「あなたのその体は、バーテックスとの戦いで怪我を?」
「違うよ。これは、満開を繰り返してたら、こうなっちゃったんだ」
「満開を使って……それはどういうことですか」
東郷に続いて剣司が疑問を投げかける。
背中に嫌な汗がジワリと浮かんだ。
「満開したのは、犬吠埼風さんと樹ちゃんの二人だよね。その二人は、あとで体の具合が悪くなったはずだよ」
「ちょっと待ってくれ。まさか、そんな……」
「咲いた花は、あとは散るしかない。満開を使うとね、散華という隠された機能が働く仕組みなの」
散華。それは神の力を行使した代償として、使用者の体の一部を神に供物として捧げるものだった。
そして一度捧げられた供物は、二度と戻ることはない。
満開の真実を知らされ、夏凛と東郷は息をのんだ。
そして剣司は、ガクリと膝をつきその場にくず折れる。
「じゃあ、風さんの左目はもう見えないままで、樹ちゃんはもう二度と、声が出せない……?」
これまで危惧していたシステムの真相は、自分の不安よりも大きな代償をもたらすものだった。
そしてその満開をあろうことか、自らの暴走によって使わせてしまったのだ。
その事実が剣司の心に、とてつもない衝撃を与える。
「俺のせいで……俺のせいで二人は……」
「剣司、しっかりして!」
初めてできた友の片目を、そして妹分の夢を奪ってしまった。
そのショックで呆然自失となる剣司は、夏凛の呼びかけにも反応を示さない。
二人の隣で、東郷はさらに園子への問いを重ねる。
「私たちは全ての敵を倒した……はずだった。なのにさっきの戦いでは、最初に倒したバーテックスがまたやって来たわ。あれは一体」
「バーテックスがどこから来るか、あなたは知ってる?」
東郷の問いに、園子は逆に質問を返してきた。
「四国の外をおおうウイルスが進化して出来た怪物、それがバーテックスでしょう」
「表向きはね。でも、真実は違う。壁の外には、バーテックスを生み出し続ける、真の敵がいるんだよ」
西暦の時代、世界全土はウイルスにおおわれ人類の大部分が死滅した。
それが表向きの歴史。
だがかつて、上里家の人間である大赦の最高位の神官は言っていた。
世界の滅亡は、全知全能の書を悪用しようとした何者かによって引き起こされた、と。
そして全知全能の書は、人の身には大きすぎて扱えない力。
そんな本を利用できるものとは。
そんな相手と戦った神樹を、劣勢に追い込み四国に押しとどめた存在とは。
東郷の頭の中で、一つの答えが導き出される。
「まさか……私たちの戦っている相手は、神そのものだというの……!?」
東郷の言葉に、園子は静かにうなづいた。
「大赦は、敵を『天の神』と呼んでる。天の神を倒さない限り、バーテックスは無限によみがえってくる」
「じゃあ、私たちはこれからも、戦い続けなければならないというの……」
戦って、満開を使い、その成れの果てが目の前にいる少女の姿。
全身の大部分を供物として捧げ、満足に動くこともできないそれは、まさに神への生贄というに
「でも」
園子が剣司を見つめながら、静かに口を開く。
「聖剣に選ばれて、禁書の力も仲間にできたあなたなら、もしかしたら……」
西暦の時代に剣士に選ばれた伊予島杏以来、数百年ぶりに仮面ライダーセイバーへと変身する力を得た剣司なら、あるいはこの事態を打開できる可能性があるかもしれない。
それは
話が全て終わったのを見越してか、どこからともなく仮面をかぶった集団が姿を現した。
不気味なその集団は、みな大赦に所属している神官たちだった。
「彼女たちを家に帰してあげて」
園子の言葉に従い、神官たちは礼をもって剣司たちを家へと送り返す手はずを整える。
それぞれの家へと向かう車の中で、剣司は園子から言われた言葉を
(俺がなんとかしないと……俺がみんなを助けないと……)
その追い詰められた決意の先にあるのが、終わりへと向かう物語の始まりだと気づかずに。