聖なる刃と、不思議な本。   作:ほろろぎ

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第十五章 告げられる、その真実は。

 剣司は自身が創作した物語によって、プリミティブドラゴンと友情を(きず)いた。

 そして、セイバーは既存(きそん)のワンダーライドブックでは変身することの出来ない、新たなる未知の姿、『エレメンタルプリミティブドラゴン』へと進化した。

 セイバー エレメンタルドラゴンは傷つき倒れた勇者たちを救うため、単身で二体に分裂したレオ・バーテックスへと挑む。

 

 一直線に駆けてくるセイバーの姿を見た二体のレオは、共に火炎弾を射出してきた。

 数えきれないほどのそれはセイバーに直撃。

 圧倒的な火力が彼の体を消し炭にする……はずだった。

 ところが炎が晴れた先には、怪我どころか(すす)一つ付いていないセイバーが、平然と立っているではないか。

 

 二体のレオの体が、動揺しているかのように震えた。

 いくらブレイブドラゴンのバフ──力の強化──が無くなったとはいえ、レオの攻撃力は十二体のバーテックスの中でも最高のものだ。

 そのレオが、ジェミニの力を借りて二体に増殖しているのだから、火力も単純に倍加していなければおかしい。

 だというのに、レオの攻撃はセイバーには全く通じていないのだ。

 

「どうやらお前とこの姿は、相性が悪いらしいね」

 

 剣司はつぶやくように言った。

 四元素の力を持つエレメンタルドラゴンは、自らの体を火、水、土、風のエレメントに物質変化を起こすことが可能となっている。

 つまり先ほどのレオの火炎攻撃に対しては、セイバーは自分の体を相反する水の属性へ変化させたことで、その威力を無効化したのだ。

 

「みんなの怪我が心配だ。これで決めさせてもらう!」

 

 セイバーは火炎剣烈火をソードライバーに納刀する。

 

『烈火抜刀。エレメンタル合冊斬り』

「森羅万象斬!!」

 

 ドライバーから聖剣を引き抜き、四属性の力を込めた刀身でレオの一体を御霊ごと切り裂く。

 エレメンタルの力は、勇者の(ほどこ)す封印の儀式を必要としないほどの、圧倒的なものだった。

 さらにもう一度聖剣を納刀。

 

『エレメンタル合冊撃』

五大元素蹴撃破(エレメントしゅうげきは)!!」

 

 烈火のトリガーを引き、七色のエレメントの力を右足に収束させた飛び蹴りを、残りのレオに叩きこむ。

 勇者たちを圧倒した二体のレオ、そしてジェミニ・バーテックスは、エレメンタルドラゴンの力の前に呆気なく散っていった。

 

「……剣司……?」

 

 最後のバーテックスが消え去り、同時に夏凛たちも意識を取り戻した。

 意識を失いはしたものの、レオの攻撃は精霊バリアで防がれており、肉体の怪我はかすり傷や軽度な火傷(やけど)のみだったようだ。

 

「これが最後だっていうのに、気絶してる間に全部終わってるなんて……情けないわ」

「みんなに怪我がないなら、それでいいじゃないか」

 

 ここぞという所で力になれなかったことを悔やむ夏凛と、それを励ます剣司。

 彼にとっては友達が無事でいることこそが、なによりの嬉しい勝利の証だった。

 

「……っていうか、変身できるようになったのね」

「ああ、説得がうまくいったよ」

「よかった。って言っていいのかしら……?」

 

 二人が話している時、隣で樹がパクパクと口を動かしていた。

 彼女の視線の先には

 

「……カリバー」

 

 そう、相手はまだ一人残されていた。

 

「戦いは終わりました。あなたの負けです」

 

 セイバーは静かに、カリバーの負けを伝える。

 

「まだ終わってはいない。……戦いは、終わらんのだ」

「? それはどういう……」

 

 セイバーの問いをふさぐように、カリバーは闇黒剣月闇を構えた。

 それに対して、セイバーも無言で火炎剣烈火を構える。

 剣士同士、言葉の代わりに剣で答えを示そう、ということだ。

 

 勇者たちが固唾(かたず)をのんで見守る中で、決着はついた。

 聖剣を振りぬき、互いが交差するその一瞬で。

 

「……グッ……!?」

 

 カリバーが膝をつき、月闇を落とした。

 勝ったのはセイバーだった。

 これまでの戦い、そしてプリミティブドラゴンと結んだ絆が剣司の力となり、ついにはカリバーを圧倒するまでになったのだ。

 

 腰に巻いたドライバーから、力を失ったジャアクドラゴン・ワンダーライドブックが外れ、カリバーの変身が解けていく。

 謎の剣士の正体を見た剣司は、セイバーの仮面の中で両目を見開いた。

 

「に、兄さん……!?」

 

 カリバーの変身者とは、行方不明となっていたはずの剣司の兄、神川大地だったのだ。

 

「剣司のお兄さんが……カリバー? どういうことよ」

 

 発覚した敵の正体に夏凛たち勇者も困惑し、互いに顔を見合わせている。

 

「剣司、私は……」

 

 大地がなにか言わんと口を開きかけた、その時

 

「……みんな、気をつけて!」

 

 セイバーの感覚器官に気配が感じられ、剣司が叫ぶ。

 直後、彼らの周囲で爆発が起きた。

 

 勇者への衝撃は精霊のバリアに防がれ、セイバーもまた体を水の元素と化し、自身と兄を守った。

 爆風が晴れた先には、巨大な(たこ)を思わせる異様な物体が浮遊していた。

 

「嘘でしょ、なんで……バーテックスは全部倒したはずでしょ!?」

 

 風が動揺を(あら)わに叫ぶ。

 彼女たちの前には、初めて勇者となった時に倒したはずの乙女座、ヴァルゴ・バーテックスがいたのだ。

 ヴァルゴは尻尾状の器官から、卵のような形の爆弾を大量に撃ち出してきた。

 爆弾はセイバーたちを目掛けて着弾する。

 

「ぐあああああっ!?」

 

 爆炎に飲み込まれる七人。

 セイバーのエレメントの体を貫いて、爆弾の炎が生身の大地の体を焼き焦がす。

 

「兄さん! このっ!!」

 

 炎が消えた一瞬、次の攻撃が加えられる前にセイバーはエレメンタルドラゴンの必殺技を放ち、ヴァルゴを葬り去った。

 周囲を見回してみる。どうやら他に敵はいないようだ。

 兄のもとに駆け寄ろうとした時、地面が揺れ足を止められた。

 そのまま樹海化が解けていく。

 

「……あれ?」

 

 樹海が解除されれば、讃州中学の屋上に戻されるはずだ。

 だが剣司は、明らかに学校ではない別の場所に立っていた。

 見れば、かつて市のシンボルだった、破壊された大橋が視界に入る。

 ここは讃州市から大きく離れた大橋市だったのだ。

 

「剣司」

「神川先輩……」

「夏凛ちゃん、東郷さん。君たちも一緒だったのか」

 

 二人の少女も剣司と同様に、大橋に戻されていたようだ。

 だが、友奈と犬吠埼姉妹の姿はない。

 

「ずっと呼んでたよ、わっしー。会いたかった~」

 

 不意に、三人の背後から声がかけられた。

 剣司たちはビックリしてふり向くと、そこには大きなベッドに寝かされている、全身を包帯にくるまれた少女がいた。

 

「……?」

 

 少女の言葉から、三人の誰かと面識がある様子だったが、誰も彼女のことは知らなかった。

 だが、その隣に立つもう一人の少女に、剣司は見覚えがあった。

 

「あなたは、銀さん?」

「や、久しぶり」

 

 包帯の少女の側に立つのは、プリミティブドラゴンの物語の解読を手伝ってくれた、先代の炎の剣士を自称する銀だった。

 

「プリミティブドラゴンのこと、助けてくれてありがとね。あたしには出来なかったから」

「先輩、お知合いですか?」

「ああ、前にちょっとね」

 

 東郷の問いに、以前出会った時の経緯を話して聞かせる。

 

「私たちの前の勇者……じゃあ、そっちの人も」

「初めまして~、乃木園子っていいます」

 

 乃木園子。彼女こそ大赦のツートップの一角である乃木家の令嬢であり、先代の三人の勇者のリーダーを務めていた者だった。

 初対面のはずなのに、東郷に対する園子の言葉は親近感を感じさせるものなのを、当の東郷は不思議に思った。

 園子の隣で東郷を見つめる銀の視線もまた、どこか寂しさを感じさせる影をひっそりとたたえたものだった。

 

 勇者部のメンバーよりも以前から勇者として大赦で訓練に努めていた夏凛だが、先代勇者との面識はい。

 そのため名乗ろうとするが、先んじて園子が言葉を紡ぐ。

 

「あなたたちのことは知ってるよ~。三好夏凛ちゃん、神川剣司さん、それと……東郷美森ちゃん」

「あの、俺たちのことを呼んだって……他のみんなは」

「大丈夫。他の人たちはいつもの場所に戻ってるよ。あなたのお兄さんも、入院できるように手はずは整えておいたから」

「どうして兄さんのことまで……」

 

 園子のそばに、太ったカラスのヌイグルミを思わせる物体が出現した。

 

「この子、セバスチャンって言う私の精霊なの。この子に頼んで、あなたたちのことを観ててもらったの」

 

 勝手に見張っててごめんね、と園子は薄っすらと笑みを浮かべ言った。

 だが、そのおかげで大地の様態は守られることになったので、剣司は文句を言う気はなかった。

 園子は夏凛に視線を向ける。

 

「夏凛ちゃんのお兄さんのことだけど……カリバーの言ってたことは、全部本当だよ」

「っ! やっぱり兄貴は、大赦の誰かに殺されてたの?」

「あたしたちも探りを入れてるんだけど、犯人は分からなかった」

 

 ごめん、と動けない園子に代わって銀が頭を下げた。

 

 場に気まずい沈黙が流れる。

 その静寂を破ったのは東郷だった。

 

「乃木さん」

「……なにかな~?」

「あなたのその体は、バーテックスとの戦いで怪我を?」

「違うよ。これは、満開を繰り返してたら、こうなっちゃったんだ」

「満開を使って……それはどういうことですか」

 

 東郷に続いて剣司が疑問を投げかける。

 背中に嫌な汗がジワリと浮かんだ。

 

「満開したのは、犬吠埼風さんと樹ちゃんの二人だよね。その二人は、あとで体の具合が悪くなったはずだよ」

「ちょっと待ってくれ。まさか、そんな……」

「咲いた花は、あとは散るしかない。満開を使うとね、散華という隠された機能が働く仕組みなの」

 

 散華。それは神の力を行使した代償として、使用者の体の一部を神に供物として捧げるものだった。

 そして一度捧げられた供物は、二度と戻ることはない。

 

 満開の真実を知らされ、夏凛と東郷は息をのんだ。

 そして剣司は、ガクリと膝をつきその場にくず折れる。

 

「じゃあ、風さんの左目はもう見えないままで、樹ちゃんはもう二度と、声が出せない……?」

 

 これまで危惧していたシステムの真相は、自分の不安よりも大きな代償をもたらすものだった。

 そしてその満開をあろうことか、自らの暴走によって使わせてしまったのだ。

 その事実が剣司の心に、とてつもない衝撃を与える。

 

「俺のせいで……俺のせいで二人は……」

「剣司、しっかりして!」

 

 初めてできた友の片目を、そして妹分の夢を奪ってしまった。

 そのショックで呆然自失となる剣司は、夏凛の呼びかけにも反応を示さない。

 二人の隣で、東郷はさらに園子への問いを重ねる。

 

「私たちは全ての敵を倒した……はずだった。なのにさっきの戦いでは、最初に倒したバーテックスがまたやって来たわ。あれは一体」

「バーテックスがどこから来るか、あなたは知ってる?」

 

 東郷の問いに、園子は逆に質問を返してきた。

 

「四国の外をおおうウイルスが進化して出来た怪物、それがバーテックスでしょう」

「表向きはね。でも、真実は違う。壁の外には、バーテックスを生み出し続ける、真の敵がいるんだよ」

 

 西暦の時代、世界全土はウイルスにおおわれ人類の大部分が死滅した。

 それが表向きの歴史。

 だがかつて、上里家の人間である大赦の最高位の神官は言っていた。

 世界の滅亡は、全知全能の書を悪用しようとした何者かによって引き起こされた、と。

 

 そして全知全能の書は、人の身には大きすぎて扱えない力。

 そんな本を利用できるものとは。

 そんな相手と戦った神樹を、劣勢に追い込み四国に押しとどめた存在とは。

 東郷の頭の中で、一つの答えが導き出される。

 

「まさか……私たちの戦っている相手は、神そのものだというの……!?」

 

 東郷の言葉に、園子は静かにうなづいた。

 

「大赦は、敵を『天の神』と呼んでる。天の神を倒さない限り、バーテックスは無限によみがえってくる」

「じゃあ、私たちはこれからも、戦い続けなければならないというの……」

 

 戦って、満開を使い、その成れの果てが目の前にいる少女の姿。

 全身の大部分を供物として捧げ、満足に動くこともできないそれは、まさに神への生贄というに相応(ふさわ)しい有様だった。

 

「でも」

 

 園子が剣司を見つめながら、静かに口を開く。

 

「聖剣に選ばれて、禁書の力も仲間にできたあなたなら、もしかしたら……」

 

 西暦の時代に剣士に選ばれた伊予島杏以来、数百年ぶりに仮面ライダーセイバーへと変身する力を得た剣司なら、あるいはこの事態を打開できる可能性があるかもしれない。

 それは一縷(いちる)の望みを託した、少女自身の願いの言葉でもあった。

 

 話が全て終わったのを見越してか、どこからともなく仮面をかぶった集団が姿を現した。

 不気味なその集団は、みな大赦に所属している神官たちだった。

 

「彼女たちを家に帰してあげて」

 

 園子の言葉に従い、神官たちは礼をもって剣司たちを家へと送り返す手はずを整える。

 それぞれの家へと向かう車の中で、剣司は園子から言われた言葉を反芻(はんすう)していた。

 

(俺がなんとかしないと……俺がみんなを助けないと……)

 

 その追い詰められた決意の先にあるのが、終わりへと向かう物語の始まりだと気づかずに。

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