聖なる刃と、不思議な本。   作:ほろろぎ

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第二章 友の秘密と、日常の終わり。

──昔々、ある所に、一人の勇者がいました──

──勇者は、人々に悪さを続ける魔王を説得するため、一人きりで旅を続けていました──

──長い長い孤独な旅の果てに、とうとう勇者は、魔王のもとへとたどり着けたのです──

 

「やっとここまで来れたぞ、魔王! もう、みんなに嫌がらせをするのは、止めるんだ!」

「なにを言うか。先に我を恐れて、一方的に悪者扱いしたのは、人間たちではないか!」

 

 剣司が徹夜で書き上げた人形劇の脚本は、風の手を通して勇者部に渡った。

 脚本を読んだ部員たちは、全会一致でこのストーリーで劇を行うことに同意。

 そうして、メインの人形や舞台の背景の書き割りなどを勇者部が手作りし、晴れて今日、保育園での劇のお披露目となったのである。

 

「だからと言って、嫌がらせはダメだ! みんなと話し合えば、きっとわかってもらえるよ!」

「うるさいうるさい! 話してもどうせまた、我を悪者にするに決まっている!」

 

 勇者の役を、二年生である結城友奈が演じ、対する魔王役は風が担当している。

 二人の掛け合いを脇の方で見つめているのは樹と、同じく二年で友奈の親友を自認する東郷美森。

 そして、協力してくれたお礼にと呼ばれた剣司もまた、樹たちの隣に立って、二人の演者のやりとりに見入っていた。

 メインの視聴者である園児たちも同様にである。

 

 物語もクライマックスが近づいてきた。

 演じている友奈にも熱がこもる。

 そのため、予期せぬアクシデントが起きてしまった。

 

「僕が君を、悪者になんてさせない!」

 

 無意識に動かした片腕が書き割りに接触。

 背景のパネルが倒れ、演者である友奈と風の姿を、園児たちの前にさらけ出してしまったではないか。

 

「ぁわわ、どどど、どうしよう……!?」

 

 友奈も風も、思わぬトラブルで演技をするのも忘れてしまう。

 どうしよう、と慌てる二人。

 このままでは、劇を中断せざるを得ない。

 

 ふと風の目に、劇を観覧していた剣司の姿が目に入る。

 剣司はどこから持ち出したのか、ノートに大きな文字で『魔王、勇者へ怒りをぶつける』と書き、それを風に向けた。

 

(? よくわからないけど……えぇい、ままよ!)

 

 風は即座に、剣司の指示に従う。

 

「さっきから勝手なことばかり言いおって! もう怒ったぞ、勇者よ! 我がお前をコテンパンにしてくれるわ!」

 

 人形の魔王が、手にした槍で勇者人形を、ポコポコと叩きだした。

 続けて剣司は、樹にBGMとして魔王のテーマソングをかけさせる。

 さらに友奈に、『勇者も怒って、魔王とケンカをはじめる』と指示。

 

「ぼ、僕も怒ったぞ、魔王! この、わからずやめ!!」

 

 友奈も勇者人形を動かし、魔王と可愛らしい殴り合いを演じる。

 本来このお話は、勇者の説得に心を動かされた魔王が改心して終わる、という展開を迎えるはずだった。

 この先どうなってしまうのか、見ている園児はもちろん、演じる友奈に風、樹と東郷もハラハラとした気持ちで、なりいきを見守っている。

 

「け、剣司さん、どうするんですか……?」

「大丈夫。東郷さん……」

「……わかりました」

 

 剣司は東郷に耳打ちをして、事態の収拾を図る。

 

「みんな、このままじゃ勇者が負けてしまうわ。一緒に勇者を応援しよう。がーんばれ、がーんばれ。はい」

『がーんばれ! がーんばれ!』

「ぐわああああ、子供たちの声が、我の力を弱らせるぅぅぅ」

 

 東郷の呼びかけに応えて声援を送る園児たち。

 風も、剣司の意図を察してアドリブで対応。

 

(友奈、今よ。とどめ、とどめ!)

「あ、い、行くぞ魔王。勇者パーンチ!!」

「こうして、熱い拳で語り合った勇者と魔王は、お互いを認め仲直りできたのでした。めでたしめでたし」

 

 東郷のナレーションに乗せて、樹がBGMを変更、エンディングテーマを流す。

 曲の雰囲気も相まって、当初の予定を外れた劇も、どうにかこうにか終わりを迎えることができたのだった。

 

「今日の演劇、大成功でしたね!」

 

 四国名物のうどんを提供する食事処、『かめや』。

 テーブルに着いた友奈は開口一番、そう言った。

 

 保育園での人形劇という、部活動の一環を終えた勇者部。

 打ち上げと称してここ、少女らの行きつけのうどん屋である『かめや』で、揃って夕飯をとることになった。

 今回の劇の協力者である剣司も一緒に、と全員から誘われ、少女たちと席を共にしている。

 

「いや、あれを成功に含めるとか、友奈の(ふところ)広すぎでしょ」

 

 メニューを見ながら風が言った。

 友奈はペコリ、と頭を下げる。

 

「その節は、ご迷惑をおかけしました。でも、剣司先輩のフォローのおかげで、なんとかなって良かったです」

 

 友奈とは今日が初対面なのだが、彼女は会って早々、剣司のことを名前で呼んできた。

 他人に対して壁を作らない少女。

 剣司の方でも、人懐っこい友奈の雰囲気にのまれ、彼女に対する警戒心はあっという間に取り払われたのだ。

 それは、彼女の親友である東郷に対しても、同様であった。

 

「俺もびっくりしたよ。無事に終われたのも、みんなの協力あってこそさ」

「友奈ちゃんの勇者役、ばっちり決まってたわ」

「東郷さんのナレーションも良かったよ~」

「お姉ちゃんも、魔王の演技ノリノリだったね」

「ふっふっふっ、我が迫真の熱演に拍手を送るがよい」

 

 わー、と一同は手を叩き、賞賛を送った。

 話をしていると、注文したうどんが届けられ、揃って食べ始める。

 

「神川先輩は読書がお好きと(うかが)ったのですが、色々な本を読まれているから、ああいったお話が書けたんですか?」

 

 上品にうどんをすする、その手を止めて東郷がたずねる。

 

「いや。本はたくさん読んできたけど、やっぱり読むのと書くのじゃ勝手が違うからね」

「なにか、参考にされた作品でもあるんですか?」

「あぁー、うん、まあ……ちょっとね」

 

 言葉を濁す剣司。

 叔父から、ブレイブドラゴンワンダーライドブックのことは他人に話してはいけない、と言われているからだ。

 理由は聞かなかったが、多分本が古いものだから、貴重さのためだろう。

 

 そうですか、と東郷。

 それ以上追及されることはなかったので、剣司も安心してうどんを食べ進める。

 と、東郷の隣で麺をすすっていた友奈が、勢いよくある提案をしてきた。

 

「そうだ! せっかくだから、剣司先輩も勇者部に入ってもらったらどうかな?」

 

 他の部員に向けて尋ねる。

 思わぬ提案に剣司は聞き返した。

 

「え、俺が勇者部に?」

「はい! 今日は先輩と一緒に活動出来て、とっても楽しかったですから!」

「でも、勇者部って女の子しかいないよね。俺みたいな男が一人、それも途中から加わるなんて、邪魔になるだけなんじゃ……」

「そんなことないですよ。勇者部は、困ってる人を勇んで助ける、をモットーにしてますから。私たちは今日、剣司先輩に助けられたから、先輩も入部資格は満たしてます!」

「そういえば、去年は人手が足りなかったって風先輩も言ってましたよね。樹ちゃんが入って助かってますけど、それでも男の人の手は貴重だから、私は友奈ちゃんの案に賛成します」

「あ、わ、私も賛成です。剣司さんが入ってくれれば、これからできることも増えていくだろうし」

 

 友奈の案に、東郷も樹も迷うことなく賛同した。

 そんな中、風はなんとも歯切れの悪い様子を見せる。

 

「い、いやぁ~、それは、ちょっと、どうなんだろう……?」

「? どうしたんですか、風先輩?」

「ひ、人手の方は、樹が入ってくれたおかげでもう十分っていうか、その、今の四人でもやっていけてるっていうか……」

「「「???」」」

 

 目を泳がせ、しどろもどろとした態度の風。

 普段見せない彼女の様子に、友奈も東郷も、妹の樹も頭にクエスチョンマークを浮かべる。

 そんな珍しい風の心情を察してか、剣司は助け舟を出す。

 

「ありがとう、結城さん。うれしい申し出だけど、今回は遠慮させてもらうよ」

「……そうですか」

「でも、なにか困ったことがあったら声をかけて。その時はまた、協力するから」

 

 それで、剣司の勇者部への加入という話は、お流れとなった。

 そのあとは、うどんを食べ終えるまで、他愛のない話が続いた。

 

「そういえば、お姉ちゃん。なにか私たちに相談することがあるって、言ってなかった?」

 

 うどんを食べ終えた樹が、そう切り出した。

 

「ああ、そうだったわ。文化祭の出し物、まだ決めてなかったからね。その話し合いをしようと思って」

「まだ四月だよ? 早くないかい?」

「そう言って余裕見せてたら、去年は間に合わなかったからね。だから、今年は早めに決めておきたいのよ」

「せっかくだから、一生の思い出になるようなものがいいな!」

「大衆がなびくような、娯楽性の高いものがいいですね」

「私たちの活動をスライドで上映……じゃ、娯楽性はないですね」

 

 娯楽性、東郷の発したこの言葉が縛りとなって、勇者部四人の話し合いに剣司も加わったが、結局いいアイディアは浮かばず、この日は解散となった。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 翌日、讃州中学。

 

 剣司は今日も一人、自分の机で読書に耽っていた。

 しかし今はお昼休み。

 クラスメイトたちは友人同士で話しながら、昼食をとっている。

 そんな中で剣司は、本を片手に読み進めながら弁当をつつく、という器用な真似を演じていた。

 

「こーら、行儀悪いぞ」

 

 そう注意し着てきたのは、友人の犬吠埼風。

 

「今いい所なんだ」

「だからって、ご飯食べながら読むことないでしょ」

「あぁ~……」

 

 風は剣司から本を取り上げると、きちんと栞を挟んでページを閉じ、弁当の横に置いた。

 そして、風は剣司と対面するように、前の席の椅子を借りて腰掛ける。

 さらに剣司の机に、自分の弁当を置いた。

 

「せっかくだし、一緒に食べてもいい?」

「それは、もちろん」

 

 風は弁当の包みを開け、剣司も改めて自分の弁当と向き合う。

 

「美味しそうだね。風さんがそのお弁当作ったの?」

「まあね」

「やっぱり風さんは、いいお嫁さんになるよ」

「だーかーらー、恥ずかしいこと言うなって。樹の分も作ってるから、そのついでよ。そっちは……」

 

 剣司の弁当は、スーパーで売っている出来合いのものだ。

 

「夕飯は作るんだけど、昼までは面倒でね」

「朝はどうしてんの?」

「もっぱら菓子パン。休みの日はトーストと、スクランブルエッグとか目玉焼きだね」

「ま、学校ある日は仕方ないか」

 

 二人はそれぞれの弁当に箸を伸ばす。

 半分ほど食べたところで、風が思い悩むように口を開いた。

 

「……あのね、この間のことなんだけど……」

「ん?」

「友奈たちが、あんたのことを勇者部に入れよう、って言ったでしょ」

「あぁ……」

「その時、あたし……反対するような態度とっちゃって、ごめん」

「いや、いいんだよ。俺は全然気にしてないから」

「別に、嫌がらせしてるわけじゃないのよ? でも、その……色々とさ、事情があって……」

 

 人には誰だって、他人には言えない秘密があるものだ。

 現に剣司だって、ライドブックのことを秘密にしている。

 

「いいよ、無理に聞くつもりはないから」

「本当、ごめんね」

「だから、いいって。兄さんも、仕事の都合でいろいろと、俺にも秘密があったみたいだから。慣れたもんさ」

「お兄さんも、大赦で働いてたんだっけ?」

「うん、そう」

 

 答えた後で、剣司は風の言葉に違和感を覚えた。

 お兄さん()? まるで、自分も同じと言っているみたいじゃないか。

 

(でも、風さんは中学生だぞ? 大赦で働けるわけないじゃないか)

 

 剣司の疑問を打ち消すように、耳障りな警報音が鳴り響いた。

 

「ぇ……ウソ、まさか……!?」

 

 その音を聞いた風は、信じられないといった表情を浮かべ、ポケットからスマートフォンを取り出す。

 彼女の様子を見ながら、剣司は無意識に弁当に箸を伸ばし、おかずを口に放り込んだ。

 

「痛っ!?」

 

 口に入れたおかずは柔らかいハンバーグだったのだが、噛もうとしたそれは、まるで石のようにガチガチに固まっていた。

 冷えたから、というものじゃない。

 文字通り、石のように硬質化してしまっているのだ。

 

「なんだ、これ……?」

 

 ハンバーグのかけらを口から吐き出す。

 

「剣司、あんた……動けるの!?」

 

 風の奇妙な問いかけに、剣司は周囲を見回す。

 クラスメイトも、時計の針も、空を飛ぶ鳥も、全てが写真のように、ピタリと静止していた。

 

「なに、これ……どうなってるんだ……!?」

 

 非現実的な光景を見せられた剣司が呟く。

 一体、なにが起こっているんだ。

 不意に、剣司はズボンのポケットに手を入れた。

 取り出したのは、伊予島家から預けられた『ブレイブドラゴンワンダーライドブック』。

 叔父に、いつも肌身離さず持ち歩け、と言われていたのだ。

 

「本が、光ってる……」

 

 ブレイブドラゴンは、なにかに反応するように明滅を繰り返していた。

 

 日常が、終わろうとしている。

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