伊予島家から託されたブレイブドラゴン・ワンダーライドブックの力で、剣司は炎の剣士『仮面ライダーセイバー』へど変身゙した。
先ほど風に、剣司は勇者ではないので戦う力はない、と言われたばかりだったため、目の前の状況に友奈と東郷は唖然としている。
セイバーとなった剣司は、二人に声をかける。
「この力があれば、風さんと樹ちゃんを助けられる。結城さんと東郷さんは、ここで隠れてて」
友奈の心にはいまだ迷いがあった。
仲間の命の危機に、なにもしないでいいのかと。
しかしその、仲間の命を心配し守ろうとしているのは、目の前の剣司も同じ。
そんな男の決意を、無駄にするような真似はしてはいけない、と少女は決めた。
「分かりました。私たちは、ここで先輩たちが帰ってくるのを待ってます。それが、私たちの゙約束゙です」
「絶対に、三人で戻ってくるよ」
セイバーは力強くうなずくと、怪物目指して駆け出した。友を救うために。
一方の風たちは、近距離でヴァルゴの爆弾を受けたため、たまらず地面に叩きつけられてしまっていた。
二人には、神樹の力の一旦を
その精霊は、敵の攻撃に対してバリアを張ることができるので、風も樹も怪我は負わずにすんでいた。
「クソっ……樹、大丈夫……!?」
「う……ぅう……」
近距離で受けた爆風の衝撃で、頭がクラクラする。
風は上半身を起こし、樹に呼び掛ける。
樹の方は、まだ衝撃の影響から立ち直れない様子だ。
そんな二人に、ヴァルゴは容赦なく追撃を加える。
姉妹それぞれに向かって、二発の爆弾が発射された。
「やばっ……」
「てやあぁぁぁーっ!!」
突然聞こえてきた、第三者の声。
飛び込んできたセイバーは、勢いそのままに爆弾に突っ込む。
そして、すれ違う瞬間に火炎剣を振りぬいて、二発の爆弾を両断した。
爆弾は姉妹に到達する前に、その脅威を無効化される。
着地したセイバーは、倒れている姉妹のもとへ走り寄った。
「風さん! 樹ちゃん! 大丈夫か!?」
「え……その声、剣司!?」
「剣司さん……その姿は……」
セイバーの格好を見た姉妹の目が点になる。
「え? え? なにこれ。なんで剣司が……っていうか、その格好なに!?」
「俺もよくはわからない。でも、ご先祖様の本が、力を貸してくれたんだ」
セイバーは姉妹を立たせてやりながら答えを返す。
「ってわあああ! 二人とも、また爆弾が」
「はあっ!!」
ヴァルゴは、さらなる追い打ちをかける。
が、樹の叫びに反応したセイバーが、振り向きざまに剣を振りぬき爆弾を両断した。
「もう、なにがなんだかって感じだけど……今はとにかく、あのバーテックスを倒すわよ!」
「分かったよ、お姉ちゃん!」
「剣司も……こうなったら、協力してもらうからね」
「ああ! 俺はそのために変身したんだ」
「行くわよっ!」
風の声を合図に、二人の勇者と一人の剣士は怪物に挑みかかる。
樹は糸状の武器を伸ばし、鞭のようにヴァルゴの体を打ち付けた。
風は大剣で、セイバーは烈火で斬りかかる。
しかし……
「なんだこれ!? 硬いっ!」
セイバーが驚きの声を上げた。
三人の攻撃は、ことごとくヴァルゴの体表に弾き返され、ダメージを与えることができない。
「この手ごたえ……まるで、
「そうなの。この肌のせいで、あたしたちもさっきから苦戦してるのよ」
話しながらも、三人は攻撃を加え続ける。
しかし一向にその刃が通ることはなかった。
「バーテックスっていうのは、こんなに厄介な相手なのかい?」
「あたしが大赦からもらった情報では、
その時、樹の頭に事態を打開するための考えが浮かんだ。
「お姉ちゃん、剣司さん。バラバラに攻撃するんじゃなくて、一か所に集中すればどうかな!?」
「さすがあたしの妹、ナイスアイディア!」
「いや、それだけじゃダメだ。なにか、さらなるもう一手を……」
剣司の脳裏に、そのもう一手の策が浮かんだ。
それは、ベルトにセットされているブレイブドラゴン・ワンダーライドブックからの情報だった。
「俺が先行する!」
セイバーは、手にする火炎剣烈火をソードライバーに納刀する。
烈火のトリガーを引き、再び抜刀。
ブレイブドラゴン・ワンダーライドブックの力が、剣に収束する。
『必殺読破』
「火炎十字斬!!」
極限まで高められた炎の斬撃。
超高温の刀身によって、岩のようだったヴァルゴの体表が、溶けるように切り裂かれる。
「まだだ! 続けてくらえ、
『ドラゴン、一冊撃。ファイヤー』
ドライバーに納刀した烈火を、今度は抜かずトリガーを二度引く。
炎の力を次は右足に集中させ、飛び蹴りを放った。
蹴りの一撃は、先ほど火炎剣で切り裂かれた
セイバーは傷口を割って、ヴァルゴの体を弾丸のごとく貫通していった。
「わぁ~」
「すっご……」
樹も風も、セイバーの必殺技の威力に目を見張った。
ヴァルゴに初めてダメージを与えることに成功したセイバー。
飛び蹴りののち、重力にひかれて落下したセイバーの近くに、あるものが落ちてきた。
一辺が十センチにも満たない、四角形の奇妙な物体……。
「これは……?」
セイバーは、ヴァルゴから出てきた物体を手に取る。
ヴァルゴの様子が一変した。
体表が波打つようにうごめき、これまで宙に浮いていた巨体が、力なく地面の上に下降しはじめる。
明らかに弱っている。
風はこの機を逃すまい、と樹に呼びかけた。
「樹! こいつを封印するわよ!」
「え? 封印って、聞いてないよ、お姉ちゃん!?」
「バーテックスは手順を踏まないと倒せないのよ。 ダメージから復活する前に、早く!」
風は樹に指示して、スマートフォンに入っている勇者のためのテキストを読ませる。
慌ててそれを流し見た樹は、まず定位置についた。
続けて、封印のための特別な
「え、えぇっと……『かくりよのおおかみ、あわれみたまい、めぐみたまい』……?」
「大人しくしろ、こんにゃろーっ!!」
「えぇっ!? それでいいの!?」
「魂がこもってれば、言葉はなんでもいいの!」
律儀に祝詞を唱えていた樹の頑張りもむなしく、風が気合の雄たけびと共に叩きつけた大剣によって、封印の儀式は発動した。
動きを抑えられたヴァルゴの、頭部と思わしき部位が開口。
中から、三角錐の物体が露出する。
「風さん、あれは……?」
「あれが御霊。言うなれば、バーテックスの心臓よ」
「じゃあ、あれを壊しちゃえば」
「そ、あたしたちの勝ち。ってことでぇーっ!」
風がジャンプし、全力を込めて大剣を振り下ろす。
「くあぁーっ!? 御霊まで硬すぎっ!」
ヴァルゴ本体同様に、御霊も頑丈にできているようだ。
それでも、先の風の一撃で亀裂は生じている。
「よし。もう一度、三人で同時に攻撃しよう」
「分かりました、剣司さん」
セイバーと樹も飛び上がり、風も加わって亀裂に攻撃を集中。
三位一体の攻撃を受けた御霊は、パキンッという音と共に、ガラス細工のように砕け散った。
続けて、ヴァルゴ・バーテックスの本体も、砂のような粒子状に分解されていく。
「……これ、私たち勝ったの……?」
「そうだよ、樹! 私たちの勝ちだ!!」
「よかった……みんな無事で」
三者三様に勝利の喜びをかみしめる中、樹海は大きな光に飲み込まれていった。
「……あ、先輩たち!」
友奈の声がした。見れば、彼女の横には東郷の姿も。
そして、辺りはすでに樹海ではない。
少女らは讃州中学の校舎、その屋上に立っていた。
「戻ってこれた……のか」
ドライバーからライドブックを抜きとり、セイバーの姿を解いた剣司がつぶやく。
風は友奈らの元へ歩みより、その身を確かめる。
「友奈、東郷も、無事でよかった」
「風先輩たちも。剣司先輩は、約束を守ってくれたんですね」
「ああ。約束も、みんなのことも、この世界のことも……守れてよかった」
眼下に広がる街を見て、一同は胸をなでおろした。
「これで終わったんだよね、お姉ちゃん」
「今のところは、ね……」
風の物言いに、四人は引っ掛かりを覚える。
だが、誰かがそれを口にする前に、風が言葉を続けた。
「あたしたちが樹海にいた間、この世界の時間は止まっていたの。だから今はお昼休みで、この後も授業があるんだけど、みんな疲れただろうから、今日はもう早退ってことにして、帰って休みましょう」
早退の理由と、突然教室から五人の姿が消えた状況については、大赦があとでフォローしてくれる、と風。
揃って屋上をあとにし、校門をくぐろうとしたところで、風のスマートフォンに着信があった。
「大赦からだわ。剣司に、今から大赦の方まで来てほしいって」
「俺に用事?」
「あんたが変身した、あの仮面ライダーってやつについて、話が聞きたいんじゃないの? あたしも、あんなの大赦から知らされてなかったんだから」
「わかった。俺の方も、セイバーのことについては知りたいと思ってたんだ」
剣司は少女らと別れ、一人大赦の建物へと向かっていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
大赦──それは、ウイルスに覆われた四国を守護する存在『神樹』を
その大赦の支部の一つに、剣司はやって来た。
カバンには聖剣ソードライバー、ブレイブドラゴン・ワンダーライドブック、そして、ヴァルゴの体から排出された
「ようこそ、おいで下さいました。神川剣司様」
建物の入り口をくぐる前に、どうやって彼の来訪を知ったのか、
その人物に案内され、剣司は大赦の建物内へ通される。
廊下を突き進み、やがて建物の奥にある部屋の前にきた。
「どうぞ、こちらへ」
入室を即され、剣司はそれに従い部屋に入る。
畳の上に対面する形で座る二人。
神官は、おもむろに頭を下げた。
「えぇっ! いきなり土下座!?」
「この度は……」
驚く剣司に構わず、神官は頭を下げたままの姿勢で言葉を続ける。
「勇者様方の戦いにお力添えをいただき、感謝の言葉もございません」
「いえ、そんな……。俺はただ、約束を守りたかっただけです」
「約束?」
「友達を守りたい。その一心があればこそ、俺はあの時戦えたんです」
「……そうですか」
神官は一瞬、笑ったように剣司には感じた。
「剣司様がお使いになった力は、かつて三百年もの昔、あなたのご先祖である伊予島杏様がお使いになっていたもの」
「ええ、それはおじから聞きました」
「杏様も、初代の勇者様たちと共に、バーテックスと戦われていたのです」
「ご先祖様もライダーだったんですか!?」
うなずく神官。
「そもそも火炎剣烈火とは、この世界が『全知全能の書』と呼ばれる本によって、混沌から今の形に創成された際に、闇と別たれた光の具現化」
「この世界が本から生まれた……!?」
「烈火の炎が知性の
「今の、俺たち人間……」
「そして、三百年前……何者かが全知全能の書の力を使い、世界の理を書き換えたために起きたのが、ウイルスの世界への蔓延とバーテックスの誕生の由来なのです」
「なんですって!?」
「ですが、神樹様は世界全てがウイルスにおおい尽くされてしまう前に、全知全能の書の力を分冊された。それが、剣司様もお持ちになっているワンダーライドブックとなったのです」
剣司はカバンから、一冊の本に似た物体を取りだし、神官に見せた。
「これは……」
「俺たちが戦ったバーテックスの体から出てきたものです」
それはワンダーライドブックによく似ているが、表紙は黒く、本に絡みつくように鎖が巻かれている。
「これの名は、『アルターライドブック』。ワンダーライドブックの一種であり、我ら大赦が管理していたものです」
神官が答えた。
「犬吠埼風様の報告によれば、バーテックスは大赦の予想よりも力を増していた様子。この『岩石王ゴーレム』の本の力によって、体質が頑強に進化していたのでしょう」
「なんでバーテックスがライドブックを……?」
「アルターライドブックは大赦の保管庫に封印されていたものです。ですが、我らが気が付いた時には、そのことごとくが遺失していた」
「え……それって」
「おそらくバーテックスの側に、我々人類に対する裏切り者が存在しています」
感情を一切見せない神官の物言いに対して、度重なる驚愕の情報の連続を受けて、ついに剣司は言葉を失ってしまった。
「こちらを、お受け取り下さい。剣司様の戦いの助けとなるはずです」
驚きから抜けきれない剣司を余所に、神官は彼にいくつかのワンダーライドブックを渡してきた。
言われるがままにそれを受け取ると、用は済んだとばかりに大赦支部の建物から外に、追いやるように出される剣司であった。
烈火の設定は、セイバー本編のものとは少し変えています。