聖なる刃と、不思議な本。   作:ほろろぎ

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やっと書けました


第五章 誓いの剣士に、脅威が迫る。

 ヴァルゴ・バーテックスとの戦いから一夜明け、翌日。

 全ての授業を終えた放課後に、剣司たち五人は勇者部の部室に集まった。

 

「うわ~、なにそれ可愛い~!」

 

 友奈の声が部室に響く。

 彼女が見ているものは、樹の周囲に浮かぶ、毛玉に似た物体。

 

木霊(こだま)って言うんですよ、この子」

 

 勇者としての樹のサポートについている精霊、木霊。

 見た目は毛玉から芽が生えたような、植物を模したようなマスコットである。

 

「ずいぶん(なつ)かれてるね」

 

 と剣司。

 彼の言うように、木霊は樹の頭の上で、ポーンポーンと楽しそうに跳ね回っている。

 遠めに見ると、樹が微動だにせずボールをリフティングしているようだ。

 

「まずは、みんな元気でよかった」

 

 黒板になにか書いていた風が、手に着いたチョークの粉を落としながら言った。

 

「友奈と東郷も、なにも言わずに来てくれて、ありがとね」

「いえ。私たちにとっても、他人事じゃありませんから」

 

 と東郷。

 

「戦い方については、樹にあとでアプリの説明書を見てもらうとして、今は基本的なことを説明していくね」

 

 風は黒板に書かれた、クネクネとうねるなんらかの模様を指さしながら

 

「これ、バーテックス。昨日戦ったやつね」

「……なんか、俺が見たのとずいぶん形が違うけど」

「き、奇抜なデザインをよく表してますよね」

 

 ゴホン、と咳をつきながら、風は言葉を続ける。

 

「バーテックスは、昨日の奴一体だけじゃないの。全部で十二体……つまり、残りあと十一体いる」

「あんな怪物が、まだそんなに残っているんですか……!?」

 

 驚く東郷。

 剣司たちも、声にこそ出さないものの、その気持ちは彼女と同じだった。

 

「バーテックスは神樹様の作った結界の外からやって来る。大赦の調べでは、外の世界を(おお)っているウイルスが超進化して生まれた生物、らしいわ」

「あれが生き物……。神様が人に天罰を(くだ)すために創り出した怪獣、と言われた方がまだ納得できるな」

 

 剣司の呟きに風たちも頷く。

 

「奴らの目的は、神樹様を破壊して人類を滅亡させること。以前も襲ってきたらしいけど、その時は追い返すので精一杯だったんだって」

「私たちの前にも、勇者になった人がいたってこと?」

「そうらしいね。俺のご先祖様も、ライダーの力で勇者と戦っていたって、昨日大赦の神官さんが言ってたから」

 

 樹の疑問に剣司が答えた。

 

「そういえば、勇者はバーテックスに対抗するために大赦が作ったものだけど、剣司が変身したあのセイバーってのは、なんだったの?」

 

 風の問いに、剣司は神官に教えられたことのあらましを話した。

 この世界は全知全能の書と呼ばれる本から生み出されたこと。

 その本の一部が、ブレイブドラゴンを始めとするワンダーライドブックになったこと。

 そして、祖先の伊予島杏が使っていた力が、時を超えて剣司に譲り渡されたことなど。

 

「この世界が、たった一冊の本から作り出されたなんて……にわかには信じられない話ね」

 

 大赦から世界の秘密の一端を聞かされていた風ですら知らなかった事実に、彼女は言葉を失ったようにもらした。

 

「あの……本の力を使う裏切り者って、一体誰なんですか?」

 

 バーテックスの体にアルターライドブックが使われていたことについて、友奈が尋ねる。

 

「それは大赦の方でもわからないみたい。でも、本の力を悪用するなんて、俺は許せない」

「剣司……?」

「確かに本には、読んだ人の人生を一変させるような、世界を変えることに匹敵する力を持っている。でもそれは、人々に幸せをもたらすための力のはずだ」

 

 穏やかで怒ったところなど他人に見せない剣司が、珍しく怒りをにじませていることに、風は驚いた。

 剣司の家は、彼が幼い頃に両親が死別し、子供の時の孤独だった心の隙間を、数々の本が埋めてくれていたのだ。

 そのため、剣司は本というものに対して、人一倍の思い入れがあった。

 

「俺は戦うよ。バーテックスとも、本を悪用する奴とも。本が憎まれるのを、黙って見過ごせないから」

「じゃあ剣司先輩も、今日から勇者部の一員ですね」

「俺も……勇者部に?」

「そうね。一緒に戦うんなら、普段から近くにいた方が連携も取れるし。あたしは賛成よ」

「私も異議なし、です」

 

 友奈の提案、風と樹の賛同によって、剣司もこの時から勇者部に所属する仲間となった。

 

 そんな剣司の決意を見た東郷は、秘かにため息をついた。

 その様子に誰よりも早く気付いたのは友奈。

 

「どうしたの、東郷さん?」

「風先輩も、樹ちゃんも……勇者として選ばれたわけじゃない神川先輩も、みんな恐怖に耐えて戦ったというのに、私はなにも出来ずに……」

「そんなに落ち込まないで。黙って見てただけなのは、私も同じだよ」

「それは、神川先輩との約束があったからでしょう。きっと友奈ちゃんは、みんなが危機に(おちい)ったら戦っていた」

「東郷さん……」

「なのに私は……お国の一大事だというのに、あろうことか敵前逃亡……」

 

 いざという時に行動できなかった自分を責める東郷。

 友奈は、自分自身に失望する親友を励まそうと、懐から一冊の手帳を取り出した。

 

「東郷さん、そんなに自分を責めちゃダメだよ! 私のお気に入りを見せてあげるから!」

 

 ほら、と取りだしたのは、彼女が自作した一品物の(しおり)である。

 

「見てこれ、キノコの栞だよ。可愛いでしょ?」

「……うん、そうだね……」

「あぁ、気を使わせてしまった!?」

 

 どうやら効果はなかったようだ。

 友奈に代わって、剣司が東郷の前に歩み出た。

 腰を落とし、車イスの彼女に視線を合わせ、静かに語りかける。

 

「東郷さん、そうやってすぐに思いつめるのは……君のいい所だ」

「私の……いい所?」

「ああ。結城さんは、目標に向かって一直線に突き進むっていう面があるから、そんな時には東郷さんの、一旦立ち止まって周りを見返してみるような性格が、互いにベストマッチなんだよ」

「友奈ちゃんと私の相性が……」

「昨日の戦いの時だってそうだよ。東郷さんがいたから、結城さんが傷つかずに済んだんだ。君が、結城さんを救ったんだ」

「私が友奈ちゃんを……! ぁ、でも……風先輩と樹ちゃんは」

「風さんたちのことは、俺に任せてくれ。君は結城さんを、俺は風さんと樹ちゃんを助ける。役割分担。それが、俺と東郷さんの約束だ」

「……分かりました。不肖、東郷美森。これからも友奈ちゃんをお助けし続けることを誓います!」

 

 敬礼する東郷に、同じように敬礼で返す剣司。

 そこに風が近づいてきて、こっそりと剣司に話しかける。

 

「なんか、うまいこと言いくるめられたような気もするけど……東郷のフォローありがとね、剣司」

「いや、俺もその……友達、には悲しい顔をしてほしくないからね」

 

 再び笑顔を取り戻した東郷。

 友奈の隣でこそ輝くその表情をとりもどせたことに、剣司は新たなる友として嬉しく思った。

 そして、次は犬吠埼姉妹に語りかける

 

「東郷さんだけじゃないよ。風さんと樹ちゃんも、あんな危ないことはやめてほしいって思う。俺もセイバーの力が使えるんだから、二人はもう、無理して勇者を続けなくても……」

「なに言ってんの。前から事情を知ってたぶん、あたしの方が少しは経験値が先輩なんだからね? 後輩のあんたは素直に頼りなさいっての」

「私も……今までみたいに、ただお姉ちゃんに守られてばかりじゃなく、これでやっと隣に立つことができたんですから、勇者をやめる気はありませんよ」

「二人とも……」

「あたしにだって、戦う理由ってやつがあるんだからね。いくらあたしのためだって言っても、それを奪わせることはさせないわよ」

「自分一人だけで戦うなんて、水臭いことはもう言わないでください。私たちも……友達なんですから」

 

 友奈と東郷が互いを想い合うように、剣司も風と樹のことを想い、二人を戦いから遠ざけたかった。

 それでもなお揺るがない姉妹の気持ちを知り、心強い反面、二人を止められない自分に不甲斐なさも感じる。

 そんな剣司の気持ちを察してか、風と樹はそろって彼の手をとり、ただ優しく微笑みを向けた。

 

「風さん、樹ちゃん……すまない。……いや、違うな。どうもありがとう」

「お礼を言うのはこっちの方よ。あんたはあたしたちみたいに、選ばれたわけじゃないのに一緒に戦ってくれるんだから。本当、ありがとね」

「お姉ちゃんに剣司さんが加われば、二百人力で安心です」

 

 剣司にも笑顔が戻り、姉妹の手を握り返す。

 と、不意にポケットの中のブレイブドラゴン・ワンダーライドブックが光を放ち始めた。

 

「うわっ。なんだ、突然?」

「みなさん、あれを!」

 

 樹が外を指さす。校庭で運動中の生徒が、みな不自然に硬直していた。

 

「これって、もしかして……」

「二日連続とは、参ったわね」

 

 風の精霊である犬神が、彼女のスマートフォンを持って、画面を全員の方に向ける。

 そこには『樹海化警報』という文字が表示されていた。

 

 神樹の結界である樹海に、再び立つことになった五人。

 全員の顔に緊張が走っている。

 五人が召喚されてからほとんど間を置かずに、敵対するバーテックスも壁を越えて姿を見せた。

 

「あのー……、バーテックスが三体もいるように見えるんですけど、私の見間違いですか?」

「いや、俺の目にも三体映ってるよ」

 

 目をこすりながら問う樹に、剣司は認めたくない事実を認めざるを得なかった。

 昨日の今日での連戦に加え、今回の敵は一気に三倍の数がやって来たではないか。

 

「友奈と東郷は神樹様の方に退避してて」

「わ、分かりました」

「みなさん、ご武運を」

 

 車イスを押す友奈の姿が遠ざかってから、風は樹と剣司の方を向く。

 

「さて、今回は昨日以上に厳しい戦いになりそうだけど……準備はいい、二人とも?」

「わ、わたしはだいじょうび!」

「俺もいけるよ」

「んじゃ、いくわよ!」

「「「揃って、変身!!」」」

 

 風と樹はスマートフォンを介して神樹から神の力を(たまわ)り、剣司はブレイブドラゴン・ワンダーライドブックを介して、全知全能の書の力の一端を体に降ろす。

 二人の勇者と一人の剣士へと姿が変わった。

 セイバーが、部長でありリーダーでもある風に指示を仰ぐ。

 

「どうする? 昨日みたいに三人で一体ずつ倒していくかい?」

「いえ、それじゃ時間がかかるわ。ここは危ないかもしれないけど、一人一体の相手をしましょう」

「ちょっと待って! なにか飛んでく」

 

 樹が言葉を言い終わる前に、高速で飛来する物体が風に到達しようとしていた。

 とっさに風の前に立ったセイバーが、彼女をかばう。

 

「ぐあっ!?」

 

 飛んできたのは柱のように巨大な、一本の『矢』だった。

 矢は、風をかばったセイバーにぶつかり、その体を弾き飛ばす。

 

「剣司!?」

「剣司さん!」

「痛い……けど、大丈夫だ。この甲冑、結構頑丈だよ」

 

 セイバーの体を(おお)う『ソードローブ』の多重装甲おかげで、痛みはあれど怪我を負うことはなかった。

 それでもページアーマー(装甲)の何枚かは一撃で砕けてしまっていることから、矢を放ったバーテックス──サジタリウスの攻撃は相当に厄介である。

 そして、サジタリウスの攻撃はそれだけではない。

 今度は無数の矢を、文字通り雨のように降り注がせてきた。

 

「うわわ、いっぱい来たぁ~!」

「散らばって避けて!」

 

 風の叫びで、三人はそれぞれ別方向に駆け出す。

 だがそれも、キャンサー・バーテックスの差し向ける反射板を中継して、サジタリウスの矢は追撃の手を緩めない。

 必死で矢から逃げる三人。

 

「こんな時のためのライドブックは……これか!」

 

 セイバーは、ベルトのホルダーに携帯しているライドブックを一冊抜きとった。

 それは、前日に大赦で面会した神官から渡された本の一つである。

 表紙であるカードバインディングを開き、その機能を開放する。

 開かれたページから、特有のライドスペルが紡がれた。

 

『タイヤを開け、真紅のボディーが目を覚ます。剣がシンボル、走る文字、毎号特別加速。ディアゴスピーディー』

 

 本は巨大化、変形して一台のバイクを構成した。

 

「俺、二輪の免許持ってないけど……場合が場合だし、許してもらえるよな」

 

 セイバーはディアゴスピーディーにまたがると、アクセルをふかして一気に矢の雨から脱出する。

 時速二百キロを優に超えるスピードで、セイバーはあっという間にバーテックスの射程範囲の外に出ることができた。

 バイクを止め、風と樹の様子を探す。

 

「二人とも、まだ無事みたいだな」

 

 姉妹はいまだ、矢の攻撃から走って逃げ続けている。

 しかし、それもいつまで持つか……。

 セイバーが姉妹の救出に向かおうとした、その時

 

「驚いたな。まさか炎の剣士が、現代に復活していたとは……」

 

 突然、背後から聞こえてきた何者かの声。

 ふり向いたその先には、セイバーに酷似した、一人の剣士の姿があった。




プロットは最後まで完成してるんですが、ちゃんとしたお話に組み立てる際に、細かいセリフやら地の文やらでつまづいて、時間がかかってしまいました。お待たせして申し訳ないです。
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