聖なる刃と、不思議な本。   作:ほろろぎ

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第六章 姿を見せるは、闇の剣士。

 二日続けて攻めてきたバーテックス。

 それに対抗するため剣司と犬吠埼姉妹は、仮面ライダーセイバーと勇者に変身した。

 だが、今回侵攻してきたバーテックスは三体もいたのだ。

 おまけに怪物同士は、これまでにない連携プレーを組み三人を追い詰める。

 

 新たなライドブックの力を使い、一旦サジタリウスの矢の雨から脱したセイバー。

 急ぎ姉妹の援護に戻ろうとするが、そこに投げかけられたのは、この場にいるはずのない第三者の声だった。

 

「驚いたな。まさか炎の剣士が、現代に復活していたとは」

「え……?」

 

 今この樹海にいるのは、敵である三体のバーテックスを除いては、剣司と風、樹、そして後方へ避難している友奈と東郷の五人だけのはず。

 セイバーは声のした方向へふり向いた。

 そこには、セイバーとよく似た姿の剣士が一人、立っていた。

 

「……だ、誰ですか?」

 

 謎の剣士はセイバーの問いに応えない。

 セイバーの仮面越しに、剣司は目の前の剣士をまじまじと見つめる。

 

 頭部には、聖剣に選ばれた証であるソードクラウンが設置され、右肩にはライドブックに描かれているだろう、神獣であるドラゴンの頭部を模したアーマーが。

 腰のベルトの両サイドには、ライドブックと思わしき本が挿さっている。

 

 各部の特徴や左右非対称なそのシルエットは、セイバーとうり二つであった。

 ただ、セイバーは炎を宿す真っ赤な鎧に対して、謎の剣士の全身は、黒と紫で彩られているという違いはある。

 

「何者なんですか、あなたは? 俺と同じ、仮面ライダーなんですか?」

「……違う、私はライダーなどではない」

「じゃあ、一体」

「私は、闇の剣士『カリバー』……」

 

 カリバーと名乗った剣士は、おもむろに腰に携えた剣──闇黒剣月闇(あんこくけん くらやみ)を抜き、セイバーに向けた。

 

「な、なにを」

「お前の持っている聖剣と、ワンダーライドブックを渡せ」

 

 カリバーは無感情にそう言った。

 その声は仮面越しゆえか、くぐもって聞こえ、変身者が何者か判別できない。

 

「突然なにを言うんだ……あなたは誰なんだ!? なにが目的だ!?」

「お前は大赦の人間か?」

 

 セイバーの問いを無視して、カリバーが逆に尋ねる。

 

「……いや、俺は大赦とは関係ない。でも、勇者とは共に戦う仲間だ」

「勇者……大赦の生み出した戦士か。大赦とつながりのある者と結びつきがあるのなら、お前も信用できん」

 

 カリバーは突如、月闇を振るいセイバーに襲い掛かる。

 セイバーはとっさに烈火をかざし、カリバーの一撃を防いだ。

 

「な、なにをする!?」

「お前が大赦の側に立つのなら、話すだけ無駄だ」

「あなたの言っていることが、さっぱりわからない!」

「話して理解(わか)るものではない」

 

 カリバーは力ずくで烈火のガードを押し上げた。

 無防備になったセイバーの体に、闇黒剣での一太刀を浴びせる。

 

「うわぁっ!」

 

 火花を上げ、セイバーのソードローブが切り裂かれた。

 サジタリウスからの攻撃で砕けたページアーマーが、さらなるダメージによって大きくヒビが入る。

 カリバーはさらに、二撃、三撃、と攻撃を加え続けた。

 そのたびにセイバーの体から火花が散り、剣司の叫びが響く。

 

 一方の犬吠埼姉妹。

 サジタリウスとキャンサーの連携に追われ逃げ惑いながらも、遠目にセイバーの劣勢は、二人の視界に入っていた。

 

「お姉ちゃん、剣司さんが!」

「わかってる! んだけど、こっちはこっちでなんとかしない……とっ!」

 

 風は矢の雨の隙間を縫って、サジタリウスに飛び掛かる。

 振り上げた大剣を、バーテックスの巨体にぶつけんとした時

 

「ぐべっ!?」

 

 これまで静観していたスコーピオンが割って入った。

 横合いからの巨大な尾の一撃によって、女子の口から発してはいけない(うめ)きと共に、風は空中から叩き落される。

 

「お、お姉ちゃん! 大丈夫!?」

 

 樹が叫ぶ。

 樹海に叩きつけられた風は、衝撃で一瞬、意識を手放してしまった。

 その隙にスコーピオンは少女に接近。

 先端に備えた毒を含む尾針で、風に狙いを定める。

 

「風先輩! 樹ちゃん……剣司先輩……!」

 

 戦う三人から離れ、東郷と共に後方へ避難していた友奈。

 彼女の目にも、追い込まれている三人の姿が確認できていた。

 

 樹はいまだ、サジタリウスとキャンサーの執拗な攻撃に追いまわされ、セイバーは新たに現れた謎の剣士に追い詰められ、風にもまたスコーピオンの魔の手が迫っている。

 

 友奈は、握りしめていた自分のスマートフォンに視線を落とした。

 彼女もまた、勇者に選ばれしもの。

 その力を使えば、今危機に立たされている仲間を救えるかもしれない。

 

(……でも、私が勇者になったら、今私たちを守ろうとしてくれている剣司先輩の頑張りを、無駄にしちゃうかも……)

 

 しかしそれ以上に、目の前に広がる仲間のピンチを見過ごすことの方が、友奈の心に大きな苦しみをもたらしていることは明白。

 東郷はそんな友奈の隣に移動すると、彼女の手をそっと握った。

 

「東郷さん……?」

「友奈ちゃんが今、なにを考えているか分かるわ。みんなを助けに行きたいんでしょう?」

「でも、そうすると剣司先輩との約束を破っちゃう。東郷さんも、置き去りにできないよ」

「だったら」

 

 東郷は握る手に力をこめ、友奈の目を見つめながら、言葉を続ける。

 

「だったら、私も一緒に戦うわ」

「だ、ダメだよそんな! 東郷さんは車イスなんだし」

「そんなの関係ない!」

 

 普段は大和撫子を体現するおしとやかな東郷が、珍しく声を大にして自分の意見を主張した。

 そのことに友奈は驚き、ビクリと肩を震わせる。

 

「友奈ちゃんが戦うのなら、私も側にいる。一緒に戦って、友奈ちゃんを守るわ。それが、私と神川先輩との約束だもの」

「約束……」

「友奈ちゃんのやりたいようにやるといいわ。神川先輩も、思い立ったらまっすぐ突き進むのが、友奈ちゃんのいい所だって言っていたでしょ?」

 

 柔らかい微笑みを向ける東郷。

 友奈はその笑顔が好きだった。

 今なにもしなければ、東郷の笑顔も、風や樹、剣司の笑顔も、もう二度と見れなくなるかもしれない。

 

「私は……約束を破ることになっても、それでも……ここでみんなを助けられないなら、私は勇者じゃなくなっちゃうから」

「うん。一緒に行こう。それで、約束を破ったこと、一緒に怒られよう」

「ありがとう、東郷さん」

 

 二人はつないでいた手を放し、それぞれのスマートフォンに表示された、勇者の力を起動するためのアイコンを押した。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 樹海の上に倒れ伏す風に、スコーピオン・バーテックスは無慈悲な一撃を見舞う。

 しかし、それは彼女の精霊である犬神の張るバリアーによって防がれた。

 だがスコーピオンは、そのバリアーをすら破ろうと、二度三度と尾をぶつけ続けている。

 

「ぅ……くっ……!」

「お姉ちゃん! 急いで逃げて!!」

「あたしもそうしたいんだけど……っ!」

 

 すぐに意識を取り戻した風だが、幾度となく振り下ろされる尾の力に押され、なかなか回避する隙が見いだせない。

 

 樹は樹海の根の隙間に潜り込むことで、サジタリウスの矢の追撃から身を隠すことに成功していた。

 が、彼女を取り囲むようにキャンサーが反射板を周囲に展開し、姿を見せるのを待ち構えているため、そちらも身動きが取れないでいる。

 

「マズい、このままじゃ……!」

 

 自分たちがやられるか、そうでなくとも足止めされている間に、バーテックスが一体でも神樹の元にたどり着いてしまえば全てが終わる。

 成す(すべ)のない状況に焦りを感じる風。

 その時、出しぬけに自身を襲うスコーピオンの尾針が砕けるのを、風は見た。

 さらに残る尾も、次々と節々が砕けていく。

 

「え? なにが起きたの?」

「風先輩!」

 

 風のもとに、勇者服姿の東郷がやって来た。

 動かない下半身の代わりに、触腕状のパーツが少女の移動をサポートしている。

 東郷の手には銃が握られていた。

 先ほど破壊されたスコーピオンの尾は、彼女の狙撃によるものだったのだ。

 

「東郷!? なんであんたが勇者に」

「説明はあとで。今は樹ちゃんを救出に向かいましょう」

「……わかんないけど、わかった!」

 

 スコーピオンは東郷の攻撃を受け撤退を始めたため、今は追撃の必要はないと彼女は判断した。

 立ち上がった風は東郷と共に、妹を狙う怪物を対処するためにそちらへ急行する。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「ぐわぁっ!!」

 

 カリバーからの一方的な攻撃にやられるばかりのセイバー。

 大振りの一太刀をくらい、肩から胸にかけての装甲は砕かれ、ついに膝をついた。

 

「大人しく、聖剣とライドブックを渡せ。命までは取らん」

 

 闇黒剣月闇をセイバーの首筋に当て、これが最後だと告げる。

 

「い……嫌だ……」

「死にたいのか、お前」

「それも嫌だ……。俺は……仲間と一緒に、この世界を守るんだっ!」

 

 セイバーは力を振り絞り、烈火を振り上げて闇黒剣を弾く。

 再び対峙する形になったセイバーとカリバー。

 

「世界を守るだと? お前程度の力で、なにができる!」

 

 情けをかけることなく、カリバーは斬りかかってきた。

 だが今度のセイバーは、カリバーの一撃を火炎剣で受け止めた。

 それだけではない。

 続く連撃も、確かに烈火で防ぎ続けている。

 

「まさか、この短時間で私の太刀を見切ったのか……!?」

「俺の力じゃない。本が、ブレイブドラゴンが、俺に力を貸してくれているからだ!」

「本が力を……」

 

 剣司の言葉になにか思う所があるのか、カリバーは攻撃を止め、彼の話の続きを待った。

 

「本は昔から、俺のさみしい心を慰めてくれたんだ。本は俺の家族みたいなものなんだ。その本を悪用するような奴は、絶対に許せない!」

「本が……家族だと?」

 

 カリバーは剣司の発言に、なんらかの引っ掛かりを覚えた模様。

 月闇を下ろしたまま動きがピタリと止まり、再び攻撃を仕掛けてくる様子がない。

 その時である。

 

「センパーイ!!」

 

 勇者としての力を開花させた友奈が、文字通り飛んできた。

 カリバーとの間に割って入り、セイバーを(かば)うように闇の剣士の前に立ちふさがる。

 

「結城さん!? 勇者に変身したのか!」

「はい、東郷さんも一緒です」

「……そうか」

 

 聞きたいことはあったが、剣司は追及することなく、友奈の手を借りて立ち上がった。

 その背後。

 サジタリウスとキャンサーの二体のバーテックスの体が、砂と化し崩れ落ちるさまが遠目に見えた。

 風と樹の援護に向かった東郷の協力もあって、三人は難なく二体の連携攻撃を打ち破ったようだ。

 

「すぐに風さんたちもここに来る。カリバー。いくらあなたでも、五対一では勝ち目はないぞ」

「かもしれんな。では、私はここで引かせてもらおう」

 

 壁の外へ逃げようとするカリバー。

 

「逃がさない!」

 

 友奈はカリバーの逃避を阻止しようとするが、彼女の行動を、東郷の元から撤退してきたスコーピオンが邪魔する。

 砕かれた尾は再生を終え、その毒の尾針を友奈に向けてきた。

 友奈は後方に飛びのくことで、尾の攻撃を回避する。

 

「スコーピオン、あとは任せる」

 

 カリバーはそう言うと、腰に挿していたアルターライドブックを、バーテックスの体に投げ入れた。

 スコーピオンの体が脈打つ。

 挿入された『トライケルベロス・アルター(・・・・)ライドブック』の力によって、その尾が三本に増殖した。

 それだけではない。

 尾の先端に一本のみが生えていた毒針も、トライケルベロスの力によって、犬の牙のように数十本に増設されている。

 

「なにこれ。バーテックスがパワーアップしたの?」

 

 セイバーと友奈の元に、風たちも合流した。

 開口一番、風がスコーピオンの変態した姿に言及する。

 

「うわぁ……なんか、お腹ペコペコのワンちゃんみたいな感じですね」

 

 牙状のスコーピオンの尾針は、毒液をボタボタとこぼしている。

 それがまるで、餌を前にヨダレを垂らす犬のように見えたため、樹は若干引き気味だ。

 

 そんな間にカリバーは、さっさと壁の外へ逃げてしまっていた。

 が、この世界の住人は神樹の教えによって、壁の外に出てはいけないと小さい頃から教え込まれているため、追跡しようとは誰もしなかった。

 もっとも、追いかけようにも力を増したスコーピオンが、それを許さないだろうが。

 

「みんな、気を付けて! あのバーテックスは、カリバーのアルターライドブックで強化されている!」

「カリバーって?」

「さっき俺と戦ってた剣士のこと!」

「攻撃が来ます! みんな避けて!」

 

 セイバーと風がやりとりする間に、スコーピオンは尾を振り下ろしてくる。

 東郷の言葉で、五人は散らばって回避した。

 

 五人それぞれに狙いをさだめ、スコーピオンは三本の尾を操作し後を追いかける。

 針の攻撃は勇者たちのバリアーで防がれるも、こぼれた毒液は樹海を侵食していった。

 

「いけない、樹海が……!」

 

 樹海へのダメージは、現実世界で事故や災害といった形で影響を及ぼしてしまう。

 東郷は毒針を避けながらも、二丁のショットガン状の武器を取りだし、攻撃を行う。

 散弾は無数のスコーピオンの尾針をまとめて砕くが、アルターブックの力もあり、損傷した部位は即座に再生されてしまった。




戦闘が長くなってしまったため、半端なところですが次回に続きます。
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