聖なる刃と、不思議な本。   作:ほろろぎ

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第七章 解かれた封印、禁断の書。

「厄介な……」

 

 ダメージを与えてもすぐに傷を治してしまうバーテックスに対し、東郷は忌々しげにつぶやいた。

 

「私がやるよ。勇者パーンチッ!」

 

 東郷と入れ替わるように、友奈がスコーピオンの尾の一本に接近。

 必殺の拳を打ち込み、尾の破壊に成功した。

 続けて風も、大剣によって二本目の尾を切断する。

 

「俺もいくぞ! 頼むよ、ディアゴスピーディー!」

 

 セイバーはバイクにまたがり、アクセルをふかすとバーテックスめがけて走り出す。

 そのままディアゴスピーディーのヘッド部分に設置されている、聖剣を模した装置──『ディアゴシャープ』に炎を収束させた。

 ディアゴスピーディーはアクセル全開で、スコーピオンの残る最後の尾に突撃。

 バイクの先端に(かか)げた炎の剣によって、三本目の尾も呆気なく砕かれた。

 

「よし、あとは封印を……」

 

 風は封印の儀を行おうとするが、バーテックスの体内に埋め込まれたトライケルベロスの本が力を発揮。

 粉砕されたばかりの三本の尾は、即座に修復されてしまった。

 

「これがアルターライドブックの力……面倒すぎでしょ」

 

 風は、本の持つ力が加わったバーテックスの(わずら)わしさに、うんざりした様に言った。

 

「剣司さん、大赦から戦いに使える本を貰ったんですよね? なにか他に、使えそうな本はないんですか?」

 

 樹の問いに、セイバーは腰のライドブックホルダーから数冊の本を取り出す。

 それらに目を通し、この状況に適した本を、即座に選び抜いた。

 

「このライドブックの力なら……」

 

 選んだワンダーライドブックを、ソードライバーの左側にあるスロットにはめ込む。

 物語系の属性を持つ本から力を引き出し、セイバーの左半身──ライドレフトに、その特殊能力を付与する。

 

『とある少年が、ふと手に入れたお豆が、巨大な木となる不思議な話』

 

 セイバーの左半身に、装填した『ジャッ君と土豆の木』の力が与えら、その姿が変化。

 二冊の本の力を重ね合わせた、仮面ライダーセイバー ドラゴンジャッ君が誕生した。

 

「これで、どうするんですか?」

「こうするのさ」

 

 友奈の見ている前で、セイバーは左腕をスコーピオンに向ける。

 左腕の武装『インタングルガント』から、鋼鉄よりも固い土豆を連続で射出。

 弾丸のように連射されたそれは、トライケルベロスで強化されているスコーピオンの体にも、次々と埋め込まれていく。

 それだけではない。

 埋め込まれた種子からは、豆の木が発生し始める。

 

「すごい……木やツタがバーテックスに絡みついて、動きを止めちゃった」

 

 樹は呆気にとられたようにつぶやく。

 彼女の言うように、スコーピオンは土豆のツタに全身を巻き付かれ、武器である毒針を持つ尾も、全く動かせなくなっていた。

 

「動きさえ止めてしまえば、いくら再生能力や強力な毒を持っていても、それはなんの役にも立たない」

 

 セイバーが言った。

 

「あの土豆のツタは、バーテックス自身のエネルギーを利用して育ったんだ。だから今、あの怪物は相当弱ってるはずだよ」

「なら、これ以上攻撃を加えなくても封印は可能、ということですね」

「よし、勇者一同で封印の儀を始めるわよ!」

 

 セイバーと東郷が言うように、スコーピオンは力を土豆に吸い取られ弱体化している。

 風の号令によって、勇者たちはバーテックスを囲み、いとも簡単に御霊を露出させることに成功した。

 同時に、トライケルベロス・アルターライドブックも体外に排出され、それをセイバーが回収する。

 

「あとは御霊を壊すだけ、ねっ」

 

 風が御霊を切るために剣を振るが、御霊は彼女の攻撃をヒョイッと避けたではないか。

 

「ちょ、このっ! 大人しく切られなさいよっ。このっ、この!」

 

 ブンブンと大剣を振り回すが、御霊は風の攻撃が読めているように、軽やかに剣の軌道を避けていく。

 射撃武器を持っている東郷とセイバーも狙いをつけるが、御霊はそれにすら反応し動きを止めない。

 

「マズいです、封印の拘束時間があとちょっとです!」

 

 友奈が焦りの声を上げる。

 バーテックスの拘束には勇者の力を使用しているため、その時間が切れるということは勇者たちの変身も解けるということだ。

 

「こ、ここは私に任せてください」

 

 おずおずと、樹が名乗り出た。

 

「樹が? どうするつもり?」

「さっきの剣司さんを見て思いついたの。動きを止めるには……こう!」

 

 樹は武器の糸を網目状に組み、それをバッと広げ、小さく動き回る御霊が避けきれない広範囲に広げた。

 それはまるで、素早く逃げ回る魚を捕まえる投網の様に。

 小回りの利く御霊も、広い範囲を動くことはできなかったようで、樹の張った網で簡単に捕まえることができた。

 

 あれだけ手こずらされた御霊の動きを容易に止めた樹に、みんなは賞賛をおくる。

 

「やったな、樹ちゃん!」

「えへへ……。お姉ちゃん、今だよ!」

「オッケー。今度はあたしたち犬吠埼姉妹のコンビネーションを、受けてみろーっ!!」

 

 樹の糸で動きを封じられた御霊に向けて、姉の風が大剣の一撃を食らわせる。

 今度こそ避けること叶わず、御霊は砕け散った。

 

 戦いが終わり、樹海化が解ける。

 三体ものバーテックスを、カリバーという新たな敵の登場にもめげず、勇者と剣士は見事に敵を退(しりぞ)けることができた。

 

 自身はカリバーにやられた痛みを感じつつも、剣司は他の四人が怪我を負うことなく戦いを終えられたことに安堵する。

 そんな剣司の元に、友奈と東郷が歩み寄る。と、二人は揃って頭を下げた。

 

「「先輩、ごめんなさい!」」

 

 いきなりの謝罪に、剣司はキョトンとした表情を浮かべる。

 

「い、一体どうしたの、二人とも」

「だって私たち、剣司先輩との約束を破っちゃったから……」

 

 二人を危険な目に合わせないために、剣司は戦うことを決意した。

 だが少女たちは、剣司らを助けるためとはいえ勇者になり、自らその危険に飛び込んでいった。

 結果的に剣司の決意を無にするような行いをしてしまったことに、友奈と東郷は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「友奈ちゃんが悪いんじゃないんです。私が発破をかけるようなことを言ったから……。責は私にあります」

「違います! 東郷さんは私について来てくれただけなんです! 勇者になったのは私が自分で……」

 

 互いをかばい合う友奈と東郷。

 そんな二人の言い合いを、剣司は手で制した。

 

「いいんだ、二人が謝ることはない。むしろ俺が不甲斐ないばかりに、結城さんたちまで戦いに参加させることになって、ごめん!」

 

 剣司は後輩二人に向けて、頭を下げた。

 友奈も東郷も、その行為を慌てて止める。

 悪いのは自分だ。いや自分が。

 そんな、互いが互いを思うばかりに責任の被り合いに発展し始めた時

 

「あーもう! ごめん合戦はもう終わり!」

 

 風が、三人の言い合いを止めるために声を上げた。

 

「巻き込んだあたしが言えたことじゃないけど、二人のおかげで助かったんだから、ここは謝るよりも他に言うことがあるでしょ?」

「そうだね。結城さん、東郷さん、助けてくれてありがとう。君たちが来てくれなかったら、きっと俺たちはひどい結末を迎えてたはずだ」

「友奈さんも東郷さんも、私たちのピンチに颯爽(さっそう)と駆けつけてくれて、本当に勇者みたいでしたよ」

「私、昔から勇者って言葉に憧れがあったんです。それで風先輩に勇者部に誘われて、今こうして本物の勇者になれて、なんだか夢が叶っちゃいましたね」

 

 はにかんだ様に微笑みを浮かべる友奈。

 今度こそ勇者部は一丸となって、五人でバーテックスの脅威から世界を守ろうと誓うのだった。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 勇者部の心が一つになったのも早々に、剣司はまた一人、事態の報告のため大赦へと呼び出されていた。

 前日同様に社殿の奥の部屋に通され、対面するのは昨日会ったのと同じ神官だった。

 

「やはり今回現れたバーテックスにも、アルターライドブックが使われていましたか」

 

 剣司から差し出されたトライケルベロスのアルターブックを受け取りながら、神官が言った。

 どこか超然とした雰囲気を持つ神官に対して、剣司は早速と、話の(かなめ)を口にする。

 

「俺たち今回の戦いで、あなたが言っていた裏切り者だと思われる人物に会いました」

「……ほう、その者は?」

「カリバーと名乗っていました。セイバーにそっくりな姿で、でも俺より圧倒的に強かった」

「ですが、貴方はしっかりと生き延びた」

「ブレイブドラゴンが力を貸してくれたおかげです。でも次に戦いになったら、今度はどうなるか……」

 

 カリバーに対して不安を感じる剣司。

 勇者部のみんなと共に戦い、彼女たちを守るという約束に嘘偽りはない。

 それでも、カリバーと相対してその力は身に染みている。

 

「では、こちらをどうぞ」

 

 顔をうつ向かせていた剣司の前に、神官は一冊の本を置いた。

 

「これは?」

 

 硬質的な表面からワンダーライドブックであろうことは察せられるが、それは今所持しているどのライドブックとも異なる形状をしていた。

 本全体は黒く塗りつぶされ、ページの数も本自体のサイズも、通常のワンダーライドブックより厚みがある。

 

「え、と……」

 

 剣司は本のタイトルに目をやるが、表紙に記されている文字はどうにも判別がつかない。

 神官は、本をズイッと剣司の前に近づける。

 

「これの名は、『プリミティブドラゴン・ワンダーライドブック』。大赦がアルターライドブックよりも厳重に保管していた、いわゆる禁断の書物と呼ばれる代物です」

「禁書……確かに、見るからに禍々しい感じがしますけど……これを俺に使えと?」

「これは、誰もがおいそれと使えるものではございません。神樹様も大赦にて封印するように言われた、いわくつきの本です。ですが、セイバーに選ばれた剣司様なら、あるいは……」

 

 プリミティブドラゴンに手を伸ばす剣司。

 表紙に触れた瞬間、なにかとても恐ろしいという感覚を覚えた。

 

「カリバーの正体は不明ですが、その者が使っている闇黒剣月闇は、大赦で保管されていたものです。それを持っているということは」

「カリバーは……大赦の人間なんですか……!?」

 

 神官は無言でうなづいた。

 人類を守護する神樹。その神樹を信仰する大赦は、同様の人類の守護機関である。

 その大赦から、人間を滅ぼそうとする存在に組みする者が出た。

 非常にスキャンダラスな事態だ。

 

「人間を裏切るという暴挙に出たカリバーとは、もはや話し合いは不可能。剣司様、どうか次にカリバーと対面した時は、迷わずお斬りください」

「ぇ……斬るって、それは、その……」

「カリバーの命を絶つのです」

 

 涼しい顔で、平然と人を殺すことを神官は要求してきた。

 剣司は、あり得ないお願いに動揺する。

 

「な、なにを言うんですかいきなり! 人を殺すなんて、出来るわけないでしょう!」

「カリバーを人と思ってはなりません。人類全体への裏切り者です」

「で、でも、向こうは俺を殺すことまではしませんでしたよ。命は取らないって言ってましたし……」

「敵の言うことなど、信用してはなりません。悪とは、平然と嘘をつくのです」

「し、しかしですね……」

 

 神官は頭を下げたまま微動だにせず、らちが明かないと思った剣司は、ひとまずプリミティブドラゴン・ライドブックを受け取り、大赦を後にした。

 

 自宅に帰った剣司。

 どっと疲れが出て、ベッドに横になる。

 

「はあ……とんでもないことになってきたなぁ」

 

 戦う対象は怪物だけだとばかり思っていたが、まさか人間相手にも命のやりとりをしなければならない可能性が出てくるとは。

 剣司自身にはもちろん、相手がどんな人であろうと、生命まで奪おうという気はない。

 だが神官の言うように、相手もそう思っているとは限らないのは事実だった。

 

「あぁ~。厄介だよ、本当に」

 

 不満を口にしながら、渡されたばかりの本に目をやる。

 禁書、プリミティブドラゴン・ワンダーライドブック。

 

「この本に触れた時に感じた悪寒は、なんだったんだろう」

 

 恐る恐る、表紙に触れる。やはり嫌な感じがぬぐえない。

 それでも尚、好奇心からページをめくり本の内容に目を通そうとするが

 

「なんだこれ……文字が全然読めないぞ」

 

 プリミティブドラゴンのストーリーは、全てが判別不能の書体で書かれていた。

 

「これが禁書の実体か」

 

 剣司は再びため息をついて、この日は眠りについた。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 三体のバーテックスが攻めてきてから一月半の間、新たな侵攻もなく平和な日々が続いていた。

 そして今、久方ぶりに第五のバーテックスが攻めてきた日。

 勇者部一同はすでに樹海に立ち、変身も済ませていた。

 

「あ。みんな、敵来たよー!」

 

 友奈が、今回の相手であるカプリコーンの姿を視認する。

 

「まだ二戦目だし、さすがに緊張するわね」

「東郷先輩、ここでこうやるといいみたいですよ」

「なるほど、ここをこうこうこうね」

 

 樹と東郷はスマートフォンのテキストを見ながら、戦いの方法を再確認。

 だが、往々にして実戦はなにが起きるかわからないものだ。

 セイバーの姿の下で、剣司はカリバーがいつ姿を現してくるかと緊張していた。

 そこに風が声をかける。

 

「剣司、大丈夫?」

「正直な所、不安だよ。カリバーのこともあるし、今回のバーテックスはアルターブックで、どのくらい強くなるやら」

「戦う前から心配してもしょうがないって。成せば大抵なんとかなる!」

「勇者部の五箇条、だね」

「あたしたちで、今回もなんとかしてやりましょう」

「ああ。風さんのリーダーシップには救われるよ」

 

 目の前にカプリコーンの巨体が迫って来た。

 勇者部は戦闘態勢に入るが、それより先にバーテックスの方が仕掛けるのが早かった。

 現実世界とは切り離されているはずの樹海が、大きく振動する。

 

「うわわ、地震!?」

 

 友奈が声を上げて驚く。

 これが山羊座の持つ、固有の能力だ。

 勇者たちは足元をすくわれ、立つこともままならない。

 

「東郷、撃って! 撃って!」

「無理です! この揺れでは照準が定まりません!」

 

 遠距離攻撃に長けた東郷でも、狙いをつけられなければその力を発揮できない。

 

「だったら、これだ!」

 

 セイバーは腰のスロットから赤のワンダーライドブックを取りはずし、ソードライバーの真ん中──ミッドシェルフにセットする。

 

『烈火二冊。荒ぶる空の翼竜が、獄炎をまとい、あらゆるものを焼き尽くす』

 

 ボディー中央のライドミッドに、『ストームイーグル・ワンダーライドブック』の力が付与され、セイバーの姿がドラゴンイーグルと呼ばれる形態へと変化した。

 背中に追加された羽、バーミリオンウイングによって、セイバーは空へと飛びあがる。

 

「これなら能力は通じないぞ」

 

 セイバーはそのまま、空を翔けカプリコーンに斬りかかる。

 が、烈火の刀身は山羊座の体には届かず、その前に突如発生した『壁』らしきものに止められてしまった。

 セイバーは旋回し、何度もカプリコーンを斬りつけるも、その刃はすべて壁に防がれる始末。

 これはバーテックスの体に埋め込まれた、『はだしの王様・アルターライドブック』の効果であった。

 

「クソっ! 風さんたちは身動きがとれないし、俺の攻撃は壁が邪魔して通らない……どうすれば」

 

 歯噛(はが)みするセイバー。

 その時、セイバーと対峙するカプリコーンの背中が、突如として爆発を起こすのだった。




夏凛ちゃんが合流する所までやりたかったんですけど、長くなったので次回に持ち越しです。
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