聖なる刃と、不思議な本。   作:ほろろぎ

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第八章 つながるのは、新しい絆。

 はだしの王様・アルターライドブックの力で強化されているカプリコーン・バーテックスに苦戦するセイバー。

 勇者たちは足止めを食らい、誰もが手をこまねいている中で、どこからかカプリコーンに攻撃が加えられた。

 

「これは……東郷さんか!?」

「いえ、私はなにも」

 

 東郷の狙撃かと思ったセイバーだが、そうではないらしい。

 勇者たちは全員、カプリコーンの起こす地震で身動きがとれないままだ。

 その中で、樹が一点を見つめ叫んだ。

 

「み、皆さん! あそこ!」

 

 樹が指さす先には、一人の少女の姿があった。

 少女は赤い戦闘服を身にまとい、両手には二本の刀をたずさえている。

 さらには揺れる足場にも関わらず、平然と両の足で樹海に立っているではないか。

 

 謎の少女は飛び上がり、バーテックスに向けて、手にした刀を投げつけた。

 刀はアルターブックの力で作りだした壁に阻まれるも、壁は爆発によって粉々に砕ける。

 先ほどの山羊座が起こした爆発は、この少女の攻撃だったのだ。

 

「よくわからないけど……俺も手伝う!」

 

 セイバー ドラゴンイーグルは、カプリコーンの頭上はるか高くまで上昇。

 飛行高度の限界点でストームイーグルを取り外し、別のワンダーライドブックをはめ直した。

 

『この弱肉強食の大自然で、幾千(いくせん)の針を身にまとい、生き抜く獣がいる』

 

 ライドミッドに『ニードルヘッジホッグ』の力を与えた、セイバー ドラゴンヘッジホッグ。

 ストームイーグルの飛行能力を失ったセイバーは、そのまま重力にひかれ落下していく。

 セイバーは落ちながら、胸部のヘッジホッグブレスから無数の針を射出。

 撃ちだされた幾千の針はカプリコーンを襲うが、それらは全て、はだかの王様の本の力で生成される壁に阻まれた。

 しかし、それこそが剣司の狙いだ。

 

「さっきの爆発で分かった。お前の、攻撃を防ぐための壁は、どこか一か所にしか作りだせない! つまり俺が、こうして攻撃を続けていれば……」

 

 セイバーの意図を読み取ったのか、赤い服の少女は迷うことなくカプリコーンに斬りかかった。

 剣司の読み通り、セイバーの攻撃を防いでいた山羊座は少女の刀を防御することができず、あえなく切り裂かれ御霊を吐き出してしまう。

 

「風さん! みんな、大丈夫か!」

 

 着地したセイバーは、地震から解放された少女らの元へ駆けよる。

 

「うっぷ、酔った……」

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

 風は揺られ続けたせいで、船酔いの様に吐き気を覚えていた。

 樹たち三人は、なんともない様子。

 その時カプリコーンの御霊から、煙のようなものが発生し、五人を包み込んだ。

 

「なにこれ!? 煙幕?」

「いえ、精霊のバリアーが作動してる。おそらく、毒よ!」

 

 友奈の疑問に東郷が答える。

 バリアーを発生させる機能こそないセイバーだが、その頭部を守るマスクには対毒用のフィルターが備わっているため、中の剣司にも影響はない。

 

「けど、これじゃ御霊がどこにあるか見えないぞ……」

 

 山羊座の煙幕には、セイバーの目であるクロスフレイムバイザーの解析を阻害する効果があった。

 御霊にとどめを刺そうにも、その御霊の場所がわからない。

 五人が困っていると、唐突に辺りに立ち込めていた煙が晴れた。

 

 視界が開けた先には、御霊を砕き、事態を収拾させた謎の少女の姿があった。

 

「え、一人でやったの!?」

「……気配で見えてたから」

「忍者?」

 

 驚きの声を上げる風に少女は、常人が行うには不可能な行為を、なんでもないことのように答えた。

 

「えっと、君も勇者なのかな?」

 

 セイバーが問う。

 が、少女はそれには答えることなく、五人に背を向けるとどこかへと去っていくのだった。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「なんだったのかしらねぇ、あの子」

「風さんも知らないのか。大赦からなにも聞かされてないの?」

「全然。勇者に選ばれたのは、あたしたち四人だけって言われてたから」

 

 翌日の放課後。

 剣司と風は、カプリコーンとの戦いの場に現れた、謎の赤い服の少女について話していた。

 答えが出ないまま、勇者部の部室へと到着。

 扉を開けると、部室の中には件の謎の少女がいたではないか。

 

「あ、君は!」

「遅いわよ」

 

 驚く剣司に、少女は静かに遅刻を告げた。

 

「この子、三好夏凛ちゃんって言うんです。今日私たちのクラスに転校してきた、助っ人の勇者なんですよ」

 

 本人に代わって、友奈が少女のことを剣司と風に説明する。

 同じクラスの友奈と東郷はもちろん、先に部室に着いていた樹にも、すでに夏凛のことについては伝えられていた。

 

 剣司は、夏凛の姿を改めて見つめる。

 キリッとした顔立ちから、一見して勝ち気で好戦的な見た目にも思えるが、目の前の少女はそれとは正反対の静かな、どこか陰のある雰囲気を感じた。

 

「……なによ」

「あ、ごめん。なんでもない」

 

 異性からじっと見つめられることに気を悪くしたのか、と剣司は即座に謝る。

 風は剣司に、そっと耳打ちした。

 

「一目惚れか、少年」

「違うって!」

 

 それで、と東郷が話を元に戻す。

 

「今日は挨拶のために勇者部に来てくれた、ということらしいです」

「そうなの。あたしは犬吠埼風。この部の部長で三年の先輩だから、わかんないことあったらなんでも聞いてね」

「俺は神川剣司。勇者じゃないけど、本に選ばれて、みんなと一緒に戦ってる」

「知ってるわ、仮面ライダーとかいうシステムでしょ。昨日の戦いで協力してくれたことは、感謝してる」

 

 でも、と夏凛。

 風ら四人の少女を見回しながら

 

「あんたたちは素人同然ね」

「む、実際素人なんだからしょうがないでしょ。訓練だって受けてないんだから」

「よくそんな温い心構えで、勇者をやっていられるわね」

「成せば大抵なんとかなるが、あたしたちのスローガンだからね。大丈夫よ」

「そんなんじゃ……いつか死ぬわよ」

 

 反論する風だったが、夏凛の真剣な物言いに口をつぐむ。

 

「……ま、私が来たからには死人なんて出させないから、安心しなさい」

 

 夏凛はそれだけ言うと、友奈が引き留めるのも構わず部室を後にした。

 

「夏凛ちゃん、帰っちゃった……。一緒にかめやで、うどん食べようと思ってたのになぁ」

「なんだか、(かたく)なな感じの人でしたね」

 

 残念がる友奈。東郷も、夏凛への印象を漏らす。

 

「フフフ。ああいうお堅いタイプは今までいなかったから、張り合いがあっていいわね」

「お姉ちゃん、悪い顔してるよ」

 

 姉妹の横で剣司は無言で、夏凛が出て行ったあとの扉を見つめていた。

 その様子に樹が気づく。

 

「どうしたんですか、剣司さん」

「え、まさ本当に一目惚れ?」

「だから違うって」

 

 しかし、夏凛のことが気にかかるのは事実だった。

 

「彼女、なんだか……すごく寂しそうだった。それが他人事に思えなくて……」

 

 剣司はカバンを持つと、部室の扉に手をかける。

 

「三好さんを独りにしちゃいけない気がする。俺、彼女を追いかけてみる!」

「あ、じゃあ私も!」

 

 即座に部室から駆け出した剣司と、着いて行こうとする友奈。

 しかし、友奈は風に呼び止められた。

 

「あんたはあたしらと、子供たちとの交流会でなにやるかを決めなきゃダメでしょ」

「……そうでした」

「ここはあいつに任せましょ。さ、あたしたちは作戦会議と行くわよー」

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 夏凛が部室を去ってから、剣司があとを追って出ていくまで間はほとんどなかった。

 にも関わらず、少女の姿はどこにも見当たらない。

 校舎の周辺を探しても見つからなかったので、剣司は職員室で夏凛の家の住所を聞いた。

 今は、直接彼女の自宅へと向かっている所だ。

 

 しばらく歩き、夏凛が暮らすマンションの側まで来た所で、ようやく少女の姿を見つけることができた。

 夏凛は下校の途中で、コンビニに立ち寄ろうとしていた。

 剣司も急いで少女が入った店に入店する。

 

「三好さん!」

「……神川剣司……」

 

 剣司が声をかけると、夏凛はわずかに驚いたような表情を浮かべた。

 

「なんであんたが、ここにいるのよ」

「ぁ~、それは……」

 

 深い理由もなく、直感で夏凛のあとを追いかけてきただけ。

 それをそのまま言っても、ストーカー染みた行為に引かれるだけだろう。

 

「まあ、どうでもいいわ」

 

 夏凛は興味なさげに言うと、さっさと商品を手に取りレジへ向かう。

 会計を済ませると、剣司の横を素通りして店をあとにした。

 剣司も慌てて少女のうしろに続く。

 

 夕暮れ。海沿いの歩道を、無言で歩く二人。

 

「……なんで着いて来るのよ」

 

 夏凛は、いつの間にか隣を歩いている剣司の方に顔を向け言った。

 理由も言わずにつけられては、夏凛としてもいい気分はしないだろう。

 話をそらすように、剣司は夏凛の持つコンビニ袋に目を落とした。

 中には商品が二点。

 

「そのお弁当、今夜の?」

「そうよ」

「いつもはなにを食べてるの?」

「いつもこれよ」

「……いつもコンビニ弁当なの? 三食全部?」

「悪い?」

「そりゃあ、体には良くないと思うよ」

「……あんたには関係ない。それに」

 

 と、夏凛は歩きながら、袋からもう一つの商品を取りだす。

 

「これがあるからいいのよ」

「えっと……にぼし?」

「ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、EPA、DHA。色々入ってるにぼしは、完全栄養食なの。だから、これを食べてれば健康でいられるのよ」

 

 夏凛のにぼしへの絶対的信頼に、剣司はなにも言えなかった。

 

「で、でも毎食コンビニ弁当じゃあ、いくらにぼしを食べてても、いつか体調を崩すと思うよ」

「……だって、自分で料理作るの面倒だし」

「確かに」

 

 今現在、独り暮らしのような生活をしている剣司も、食事の用意を日に三度しなければならない(わずら)わしさは理解できた。

 

「あ。だったら、今夜は俺が三好さんのご飯を作ろうか?」

「え!? な、なんでそうなるのよ」

「だって、いつもいつもコンビニ弁当じゃ、飽きてくるでしょ?」

「そりゃまあ、そうだけど……」

「たまには温かいご飯も食べたほうがいいよ。そうと決まれば、さあ、行こう!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

 剣司のいきなりの提案に、これまでクールな態度だった夏凛が、初めて動揺を見せた。

 その隙に乗じて、剣司はちゃっかりと夏凛の自宅に上がり込む口実を得たのだった。

 

 少女の自宅であるマンションに到着した。

 夕食の材料は、剣司が別の店で自腹で購入済みである。

 そのため夏凛も、断ることができない状況にあった。

 

「はぁ……どうぞ」

 

 夏凛はドアを開け、やけくそ気味に入室を許可してくれた。

 部屋に通された剣司は、室内を見回す。

 中にはスポーツ選手が使うようなトレーニングの器具が置かれ、それ以外はこれといった特徴がなかった。

 

「ずいぶん、さっぱりしてるんだね」

 

 女子の家には犬吠埼姉妹のお宅くらいしかお邪魔したことがないが、それと比較すると夏凛の部屋はとても簡素に思えた。

 日用品は、必要最低限のものしか置かれていない。

 漫画やゲームなどの趣味の品は、影も形もなかった。

 

「台所はそっち」

「わかった。三好さんは、ゆっくりしててね」

 

 教えられたキッチンで、剣司は早速と料理にとりかかった。

 

「男の割には、結構手際がいいのね」

 

 料理中の剣司にふと、夏凛が独りごとのように声をかける。

 彼女の言うように、剣司は慣れた手つきで調理を進めていく。

 

「俺、今一人暮らしなんだよね。だから自炊は割とするんだ。見たところ三好さんも、この家に一人で住んでるの?」

「そうよ。あんたのことは大赦も調査してないみたいだから、私も情報を知らないんだけど、家族は?」

「両親は、俺が子供の頃に亡くなってる。兄さんが一人いるんだけど、実は半年ほど前から、行方不明になってるんだ」

「……そうなんだ。お兄さんが……」

「と、話してる間に完成。はい、どうぞ」

 

 剣司が作ったのは肉うどんだった。

 

「なんで二杯も?」

「俺の分。せっかくだから、一緒に食べようかなって」

「……あんたって、ちょっと図々しいところあるのね」

 

 まあいけど、と夏凛。

 二人は手を合わせ、うどんに箸をつける。

 夏凛が麺をすするのを見た剣司は、味の評価を求めた。

 

「どう?」

「……普通。手際の良さのわりに、味は普通だわ。良くも悪くも、無難って感じ」

「そっかぁ~……」

 

 微妙な評価に剣司は肩を落とした。

 

「でも……」

「?」

「その、悪くはないわよ。人の手料理なんて食べたの、ずいぶん久しぶりだから……うん、悪くない」

 

 照れながらも、夏凛はそう言ってくれた。

 剣司も、少女の言葉に心が温かくなって、二人は無言でうどんをすする。

 沈黙も嫌ではなかった。

 

「私もね」

 

 ふいに夏凛が口を開いた。

 

「私にも、兄貴が一人いたんだ」

「そうなの」

「うん。でも……半年前に、亡くなったの」

 

 少女の突然の告白に、剣司はドキリとした。

 

「……理由を聞いてもいい?」

「私にもわからないわ。兄貴は大赦に努めてた。結構なエリートだったらしいわ。でも、半年前に事故にあったって。それだけ言われて、詳しい説明はなにもなかった」

「そうなんだ」

「兄貴は子供の頃から優秀で、私はいつも親に比較されてた。だから勇者に選ばれた時は、これでやっと兄貴を越えられるって思ってたんだけど、その兄貴がいなくなったんじゃね……」

 

 剣司は以前、なにかの本で読んだことがあった。

 『燃え尽き症候群』。

 超えるべき目標であった兄を亡くしたことで、夏凛は気持ちのやり場をなくしていた。

 彼女がどこか無気力な感じに見えていたのは、そのせいだったのだ。

 

(そうか。俺が三好さんに感じたシンパシーは、お互い兄がいなくなって、独りになったという共通点があったからなのか)

 

 剣司は少女への同情から、なにか励ましの言葉を贈らなけらば、と思った。

 しかし様々な本を読んできた経験があっても、いざという時になると、適切な言葉が浮かんでこない。

 そのことに悔しさを感じる剣司。

 それでも、ふり絞るように言葉を紡ぎ始める。

 

「俺も、三好さんの気持ちはわかるつもりだ。今まできっと、つらい思いをしただろうね。でも、俺は今はすごく楽しいよ。それは、勇者部のみんながいるからだ」

「勇者部って、結城友奈たちがいる……」

「勇者部のみんなは、全員気のいい人たちばかりだから。きっと三好さんも、みんなと一緒にいれば、心が安らぐんじゃないかと思うんだ」

「私にも、その勇者部に入れっての?」

「強制はしない。でも、このまま孤独を貫くのは、君にとって良くないはずだ」

「私は、誰かとなれ合うために勇者になったんじゃない。私には、世界を守るって使命があるのよ」

「その使命を果たすためにも、君には仲間が必要なはずだ」

 

 剣司は、夏凛に右手を差し出した。

 

「三好さん。俺たちと共に戦ってくれるのなら、その前に……俺と友達になってくれないか?」

「とも……だち」

 

 剣司の言葉を反芻する夏凛。

 視線が剣司の顔と、その右手との間を行ったり来たり。

 いきなりの申し出に、自分がどうするべきか決めかねている様子だった。

 

「私、友達なんていたことないから……」

「なら、これから少しずつでも、作っていけばいいよ」

「私は、勇者になるための訓練しかしてこなかったから、友達なんて作っても、どうしていいかわからないわ」

「俺も友達がいなかった。本だけが俺の友達だった。でも、今はこうしてみんなと仲良くなれてる。君だって」

「……私も、仲間に加えてくれるの?」

「当然だ。俺は、三好さんとも友達になりたい!」

 

 まっすぐにぶつけられた気持ちを受け、夏凛は頬を赤くしながら

 

「……しょ、しょうがないわね! そんなに言うんだったら、その、なってあげてもいいわ。と、友達……」

「ありがとう!」

 

 おずおずと差し出された夏凛の右手を、剣司はしっかりと握りしめた。




ようやく主要キャラが出そろいましたね
本編の三倍くらい話数使ってるじゃないか(白目)
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