聖なる刃と、不思議な本。   作:ほろろぎ

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第九章 生まれてきた日の、喜びを共に。

 夏凛の家で食事を共にし、剣司は少女と友達になった。

 

 その翌日。

 放課後の讃州中学で、夏凛が勇者部の部室前で立ち往生しているのを、やって来た剣司が見つけた。

 

「どうしたの、夏凛ちゃん?」

「ぁ、剣司……」

 

 二人は前日、友達になったのならということで、互いを名前で呼ぶことにしていた。

 

「もしかして、みんなと顔を合わせるのが恥ずかしい、とか?」

 

 もごもごと口ごもる夏凛。

 どうやらその通りのようだ。

 剣司はおおらかに笑って、夏凛の背を押した。

 そのまま扉を開け、部室に入る。

 

「お疲れさま。剣司と夏凛ちゃん、入りまーす」

 

 二人の姿を認めた風たちが、口々に挨拶を返してくれた。

 

「ほら、夏凛ちゃんも」

「え、なにを」

「勇者部五箇条の一つ、『挨拶はきちんと』、だよ」

 

 壁に貼られた、勇者部の決まりを書いた紙を指さす剣司。

 少女は、ぎくしゃくとそれに従う。

 

「お、お疲れ、さま……」

「よかった~。夏凛ちゃん、もう来てくれないんじゃないかと思ってたよ~」

「じょ、情報交換のためよ。あんたたちがのん気すぎるから、誰か監視役が必要でしょ」

 

 人懐っこい笑顔で寄って来る友奈に、夏凛は照れ隠しで答える。

 必要なメンバーも揃ったことで、一同は席に着いた。

 

「どうぞ」

 

 東郷が車イスを器用に操り、全員の前にお茶とぼた餅を配る。

 夏凛は目の前に置かれたお菓子に、不思議そうな顔を浮かべた。

 

「なんでぼた餅?」

「これ、東郷さんの手作りなんだよ」

「さっき家庭科の授業で。いかがですか?」

「……じゃあ、これお返し」

 

 夏凛はぼた餅を受け取ると、代わりにと自前のにぼしを全員に配る。

 昨日までの、他人を一切寄せ付けようとしないクールな態度とは一変。

 心を許したような(さま)に、風たちはなにがあったのかと、剣司に視線で問う。

 当の剣司は笑ってごまかしたが。

 

「それじゃあ、そろそろ本題に入りましょうか」

 

 お茶とぼた餅とにぼしを食したのち、風が今日の集まりの目的を切り出した。

 新メンバーである夏凛の持つ情報を、全員で共有しようというのが今回の内容だ。

 夏凛が立ち上がって話を始める。

 

「以前までの大赦の調べでは、バーテックスがこっちに来る周期にはパターンがあると思われていたわ。けど、今はそれが大きく崩れてる」

「確かに。二日連続で来たり、いきなり三体に増えたと思ったら、一昨日来たのはまた一体に戻っていたね」

「これは、かなりの異常事態よ。おまけにバーテックスは、アルターライドブックで力を増す個体もいる」

「あれは本当に厄介よねぇ」

 

 風がうんざりした様にこぼした。

 夏凛は話を続ける。

 

「そのアルターライドブックを大赦から奪った、カリバーって奴も現れた」

「俺も一度しか戦ってないけど、カリバーの強さは勇者にも匹敵するものだった。もしかしたら、それ以上かも……」

「私はどんな事態になっても対処できるよう訓練してるけど、あんたたちは十分に気を付けなさいよ。じゃないと」

「大丈夫だよ! 夏凛ちゃんも仲間になってくれたんだから。世界を守る勇者と剣士が六人もいるんだもん。私たちは勝てる!」

「……あんたは、ちょっと楽観視し過ぎよ。よく能天気って言われるでしょ」

 

 呆れながら指摘する夏凛。

 言われた友奈も、「そうなんだよね~」とあっけらかんと肯定する。

 

「友奈ちゃんの能天気な所が、私たちの癒しになってるのよ」

「私゙だけの゙、の間違いでしょ」

 

 どんな時でも友奈を全肯定する東郷に、夏凛はツッコみを入れた。

 

「他にも、勇者は戦闘経験を積むことで『満開』と呼ばれる、強化形態への変身が可能になるわ」

「パワーアップ! カッコいいー! どれくらい強くなれるの?」

「データ上では、数十倍は戦闘力が跳ね上がるらしいわ」

「じゃあ、セイバーの方は?」

「ライドブックを三冊同時に使うことで、より強化された形態があるって。でも強力なぶん、体に反動があるとも言われてる」

「おぉ~、本格的だー」

 

 父親の影響で格闘技をたしなんでいる友奈。

 そのためか、彼女はバトル物の漫画も読んでいるようで、男子的な感性も持ち合わせているのだ。

 

「友奈はそういうの好きねぇ。夏凛は、もう満開したことあるの?」

 

 風が(たず)ねる。

 

「いや、私もまだ……」

「なんだぁ~。じゃあ、あたしたちと変わらないじゃない」

「基礎戦闘力が桁違いなの!」

「あ、じゃあ私たちも朝練とかしちゃう?」

「いいですねー」

「友奈ちゃんは朝起きれないでしょ」

「樹も朝起きれないでしょ」

「「……そうでした」」

 

 少女たちが話し込んでいる最中、剣司は無言だった。

 満開。勇者の力を底上げするシステム。

 その機能に彼はなにか、言いようのない不安を覚えていた。

 その様子に風が気づく。

 

「剣司、どした?」

「……夏凛ちゃん。満開って本当に、ただ強くなるだけのシステムなの?」

「どういうこと?」

 

 夏凛が聞き返す。

 

「そんな大きな力を使えるのに、なんの代償もないって、少し都合がよすぎるかなって」

「それも、あんたの好きな本からの教え?」

「確かに、漫画とかでもパワーアップにはデメリットもあるっていうのが、お決まりのパターンですよね」

 

 と友奈。

 剣司も、その言葉にうなずく。

 

「夏凛ちゃんも言ったよね、セイバーのパワーアップは俺の体に反動があるって」

「それは……まぁ」

「満開にも同じような副作用があるかもしれないって考えるのは、自然じゃないかな?」

「じゃあ、なんで大赦はそれを伝えないのよ」

「……君たちが使うのを躊躇(ちゅうちょ)するような、大きすぎる代償がある、とか」

「なるほど、信憑性はある説だわね」

 

 風は、剣司の言い分に賛同する姿勢を見せた。

 樹も不安な表情を浮かべる。

 

「なんか、怖いですね。剣司さんの言うように、満開は簡単に使わない方がいいかもしれませんね」

「大いなる力にいは、大いなる代償が伴う。俺の推測に過ぎないけど、危険の芽はなるべく()んでおいた方がいい」

「……わかった。そこまで言うなら、満開の使用はなるべく控えておきましょうか」

 

 夏凛も内心では納得しきっていないものの、剣司の忠告を聞き入れてくれた。

 

「その代わり、セイバーのあんたにはしっかり働いてもらうわよ」

「もちろんさ。みんなのことも、夏凛ちゃんのことも、俺が守る。約束だ」

「期待してるわよ。仮面ライダーさん」

 

 話も一段落着いたところで、風が新しい議題を取りだした。

 

「もう重要な話は終わったと思うけど?」

 

 夏凛は首をかしげる。

 

「こっちも、あたしたちにとっては重要な案件なのよ」

 

 次なる議題は、終末に行われる子供たちとのレクリエーションについてだった。

 

「ちょっと待って、それあんたたち勇者部の話でしょ。私には関係ないじゃない」

「なに言ってんのよ。夏凛ももう、勇者部に入ったじゃない」

 

 風は、夏凛が書いた入部希望の用紙を取りだして見せた。

 

「そ、それは剣司に言われて形式上、仕方なく……」

「もしかして用事あった?」

「そういう訳じゃないけど……」

「なら一緒にやろうよ! きっと楽しいよ!」

 

 嫌? と目を潤ませ(たず)ねる友奈の勢いに押され

 

「~っ、わかったわよ。やるわよ! やればいいんでしょ、やれば!」

 

 言葉では嫌々という感じを前面に出しながら、それでも内心ではわずかなワクワクを感じている夏凛だった。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 あっという間に時は過ぎ、レクリエーション当日の日曜日の朝になった。

 集合時間は午前十時。

 現地でとのことなので、夏凛は十五分前には到着できるよう、早めに家を出た。

 

「あ、おはよう。夏凛ちゃん」

「……だから、なんであんたがいるんだって」

 

 (あき)れ顔の夏凛。

 それは家を出た直後、マンションの前に剣司がいたからだった。

 どうやら夏凛のことを待っていたようで

 

「夏凛ちゃん、行き先が分からないだろうと思ってね。俺が案内しようかと」

「場所って、部室に集合でしょ?」

 

 夏凛はそう言って、予定表を確認する。

 

「ぁ……現地集合って、部室じゃなくて児童館の方だったのか」

「勘違いしていたんだね。よかったよ、念のため俺も来ておいて」

 

 それじゃあ、行こうか。と剣司が先導し、夏凛があとに続く。

 

 二人は歩きながら、ポツポツと会話を交わす。

 

「そういえば、あれから食事はどうしてるの? 相変わらずコンビニ弁当ばかりかい?」

「あんたが文句言いそうだから、たまには自分で作ってるわ」

「そっか」

「それと、これ返しとく」

 

 夏凛はカバンから、一冊の本を取りだした。

 それは、初心者向けに折り紙の折り方をまとめた解説書。

 今日、子供たちと一緒に行う折り紙教室のために、剣司が彼女に貸していたものだ。

 

「読んでくれたんだ」

「そりゃ、せっかく貸してくれたんだし、目ぐらい通すわよ」

「俺も読んだんだけどね、なかなか難しいね、折り紙」

「そう? 何回か練習すれば、いい感じにいけるわよ」

 

 そんなことを話している間に、二人は目的地に到着した。

 

 建物に入ると、他の部員たちはすでに集まっている。

 

「おっは~」

「その挨拶古いよ、お姉ちゃん」

「おはよう、みんな」

「ぉ、おはよう」

 

 恥ずかしながらも、みんなと挨拶を交わす夏凛。

 全員揃ったところで準備を始める。

 そうこうしている内に、レクリエーションの開始まで時間もあとわずかとなった。

 

 子供たちが揃っているであろう部屋への扉を前にして、夏凛は緊張していた。

 勢いで参加を決めてしまったが、自分に子供の相手などできるのだろうか……。

 そんな不安を覚えている少女をリラックスさせるように、剣司は夏凛の肩に手を置いた。

 

「大丈夫だよ」

「で、でも……私子供の相手なんてしたことないし、不愛想だから仲良くなれるかどうか……」

「今日のために、折り紙の練習頑張って来たんでしょ? なら、その気持ちは子供たちにも伝わるよ」

「そんなもんなの?」

「そんなもんさ」

「……」

「夏凛ちゃんは強い子だ。バーテックスと戦ったみたいに、子供たちとも正面からぶつかっていこう」

 

 その言葉に、夏凛はクスリと頬を緩ませた。

 

「バーテックス相手の方がよっぽど気楽ね、これは」

「ハハハ、そうかもしれないね」

「よしっ。完成型勇者の私が、相手になってやろうじゃないの!」

 

 剣司との会話で不安を吹っ切った夏凛。

 少女は清々(せいせい)した表情で、いざ子供たちの前に躍り出た。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 結論から言うと、今回の勇者部のレクリエーションは、子供たちに大好評の内に終わった。

 折り紙教室は、風も樹も、友奈も東郷も器用にこなしていた。

 夏凛も練習のかいあって、子供たちの人気を集めることができた。

 剣司だけは、どう折っても不格好なものしか作れず、逆に子供たちから教わる始末だったが……。

 

 その剣司も、レクリエーションの締めに行われた、本の朗読会で本領を発揮した。

 彼の語る物語は真に迫り、子供たちにもハラハラドキドキの体験を提供でき、名誉挽回。

 勇者部六人も、笑顔で児童館を去ることができた。

 

「今日のレクも、上手くいってよかったですね~」

 

 六人揃っての帰り道。

 その道中で樹が言った。

 

「あたしは夏凛が、子供たちを泣かせるんじゃないかと冷や冷やしたわ」

「そんなことするか! 完成型勇者の私には、子供を手懐(てなづ)けるなんて朝飯前よ」

 

 からかう風に夏凛は、開始前の不安感などどこ吹く風でドヤ顔だ。

 ところで、と夏凛。

 

「なんであんたたちまで、私と同じ方向に歩いてるのよ。みんな帰り道は別のはずでしょ?」

「このあとは、夏凛ちゃんの家で打ち上げをするんだよ」

「家主の許可もなく決定事項!?」

 

 友奈の不意打ちな打ち上げ発言に、夏凛は虚を突かれた。

 

「だってぇー、剣司だけあんたの家にお呼ばれして、あたしたちだけ無視って、それはないでしょ」

「こいつはお呼びしたんじゃなくて、勝手に来たんだけどね」

「じゃあ、あたしたちも勝手に行きましょうか」

「家主に許可を取りなさいよ!」

 

 風にツッコみを入れながらも、夏凛は決して家に来るなとは言わなかった。

 なんだかんだで、他の勇者部員たちにも心を開いている証拠だ。

 

「うわ~、すごい本格的」

「うわ~、すごい水ばっかり」

 

 夏凛宅に上がって早々、樹はランニングマシーンに興味津々で撫でまわし、友奈は勝手に冷蔵庫の中身をチェック。

 自由なふるまいの面々に、夏凛はもはやなにもいう気になれなかった。

 その隙に、東郷たちはテーブルにお菓子やらジュースを並べていく。

 

「さあ、夏凛ちゃんも座って、座って」

 

 剣司に促され、夏凛も席に着く。

 そして、友奈が一つの箱をテーブルの中央に置いた。

 

「「「「「誕生日、おめでとう!!」」」」」

 

 夏凛以外の声が重なった。

 箱の中には、少女を祝うために用意されたバースデーケーキが。

 

「え、な……なんで私の誕生日を知って……」

「友奈ちゃんが、入部希望の紙に書かれているのを見つけたんですよ」

「見つけた時に、どこからか『祝え!』って声が聞こえたんだよね」

 

 東郷と友奈が、夏凛の疑問に答えた。

 

「子供たちと一緒にって案もあったけど、どうせならお疲れ会も兼ねてと思ってね」

「このケーキは人気商品で、今日のために予約してたんですよ~」

「あ、お金は俺たちで出しあったから、夏凛ちゃんは気兼ねなく食べて」

 

 風、樹、剣司が続く。

 

「?」

 

 だが、主役である夏凛からの反応がない。

 五人は疑問符を浮かべ、少女の様子をうかがう。

 夏凛は両の目から、ぽろぽろと涙をこぼしていた。

 

「!?」

 

 いきなり泣き出した夏凛に、五人の顔が今度は仰天に染まる。

 剣司はあわてて、ハンカチを差し出した。

 友奈は背中をさすってやる。

 

「ご、ごめん。その、私……他人(ひと)から誕生日なんて祝われたこと、今までなかったから……」

 

 鼻をすすりながら、身の上を話す夏凛。

 剣司は少女の内情を聞かされているため、再び同情の念を抱いた。

 

「みんな……ありがとう」

 

 泣き止んだ夏凛は、鼻を赤くしながらも全員に、素直な気持ちを伝えた。

 

「じゃあ、改めて乾杯!」

「「「「「乾杯ー!」」」」」

 

 風の合図で、グラスを打ち合わせる。

 お菓子やケーキに舌鼓を打ち、慰労会を兼ねた夏凛のバースデーパーティーは、とても賑やかに過ぎていった。

 

「剣司」

 

 パーティーの最中(さなか)、夏凛はふいに隣に座っている剣司に声をかけた。

 

「ん?」

「あんたの言うように、勇者部のやつらとなら……私も楽しく過ごせそう」

「……そうか」

「あんたのおかげよ。誘ってくれて、ありがとね」

「どういたしまして」

 

 と、友奈がなにやらカレンダーに印を付けているのに気づいた。

 夏凛が声をかける。

 

「なに書いてんの?」

「勇者部の予定と、私たちの遊びの予定だよ」

 

 見ると、ほとんど毎日のように丸印が。

 

「これから忙しくなるよ~。文化祭でやる演劇の練習もあるし」

「へぇ、文化祭は劇をやることにしたんだね」

「え、そんな予定いつ決めたっけ?」

 

 剣司の言葉に風は疑問を浮かべる。

 

「あれれ? もしかして、私の中のアイディアを勝手に口にしちゃったかも」

「もう、友奈ちゃんはうっかりさんね」

「いや……いいんじゃないの、それ」

 

 友奈の言葉に、風が乗っかった。

 

「よし。今年の勇者部の出し物は、演劇にしましょう!」

「そんな出たとこのノリで決めちゃっていいの?」

 

 一応尋ねる夏凛だが、この部のノリの良さはすでに彼女も理解していた。

 

「夏凛も期待してるわよ。せっかくだから、なにか役を演じてもらおうかしら。あ、剣司にはまた、脚本を担当してもらうからね」

「仕方ないわね」

「わかったよ。でも、責任重大だな~」

 

 そうして夜になるまで、みんなは揃って楽しく語りあうのだった。

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