追記:特殊フォント適応外のサブタイトル以外馬の字に変更しました。
これは我々の知る歴史からほんの少しだけ異なる結末を迎えた馬の世界。
その違いを如実に表すJRAのCMがこれだ。
『94年、有馬記念』
その馬がハナを切らなかったレースは一度もない
驚異の逃げ率100%
GⅠはおろかGⅡですら未勝利の馬が
有馬記念という大舞台で伝説と呼ばれる大逃げを見せる
小柄なボディに巨大なエンジン
その馬の名は
『ツインターボ』
「最終コーナーを回ってまだツインターボが先頭だ!後続馬は苦しいか!
しかしやはりこの馬!シャドーロールの怪物ナリタブライアンが大外から一気に捲り上げる!
場内はどよめきと歓声に包まれている!残り200を切っているがナリタブライアン苦しいか!?
ツインターボがまだ先頭!懸命に粘る!ナリタブライアン苦しいながらも追い上げる!
内ツインターボ!外ナリタブライアン!ツインターボ!ナリタブライアン!
まさかまさか!まさかのツインターボ逃げ切ったゴールイン!
これが逃げるという事だ!」
その走りは無謀か、それとも挑戦か
次の挑戦者を見よ。有馬記念
そしてこれはそんな世界の影響を受けたウマ娘の世界のお話である。
個性派ぞろいのチームカノープス。
しかし仲の良さはどのチームにも負けない、かもしれない仲良しチーム。
そんなカノープスのメンバーがトレーニングを終えてトレーナーの前に整列していた。
「さて、今年の有馬記念ですが、タンホイザさん、ネイチャさんお二人の出場が決まりました」
その様子にマチカネタンホイザは驚きをもって、ナイスネイチャも照れた様子で髪の毛をいじりながら喜んだ。
「ねぇねぇトレーナー!ターボは!?」
「ターボさんは惜しくもはじかれてしまいました。結構ファンも多いのでもしかしたら、とは思ったのですが」
「ブー」
自分は出られないと分かったツインターボはほっぺを膨らませるという分かりやすい不満げな表情をする。
そんなターボを苦笑しながらイクノディクタスがなだめる。
「でもお二人とも出場出来て良かったですね。特にネイチャさんは四回目ですし」
「あはは~、三年連続三着なんていうあたしらしい記録作っちゃったけどね~」
イクノディクタスにいつもの様に少し斜に構えた様子で答えるナイスネイチャ。
中々勝ちきれない自分に、その気はなくともついつい卑屈になってしまうナイスネイチャだがそれでもファンはかなり多い。
いつか必ずファンに答えて見せると心の底には熱い思いが眠っている。
「よ~し!有馬記念がんばるぞ~!えい!えい!むん!」
どこかずれた様子で気合(?)を入れるマチカネタンホイザ。
彼女も実力は高いのだがここぞという時にトラブルに巻き込まれて実力を発揮できずに終わってしまうという何とも間の悪いウマ娘である。
「そうだ!ねぇトレーナー、明日は確か全員トレーニングはお休みだよね!」
「ええ、明日は休日ですし、まだ有馬記念まで少し時間がありますから明日なら大丈夫ですよ」
ツインターボの言葉にトレーナーが頷きながら答える。
「ねえ皆!明日はネイチャとマチタンのげ・・・げきれいかい?をやろうよ!」
「そうですね。それは良い考えかと思います」
ツインターボの提案に硬そうに見えて意外とノリの良いイクノディクタスが賛同した。
「ええ!?ネイチャさんにはそういうのは似合わないというか・・・」
「え~ネイチャさんも行きましょうよ~」
内心嬉しいのだがやっぱり一歩引いてしまうナイスネイチャをマチカネタンホイザが笑顔で説得する。
「う゛~ネイチャ~」
「あ~もう分かりましたネイチャさんも行きます行かせていただきます」
泣くツインターボには敵わないとヤレヤレポーズでナイスネイチャは諦めた。
「よし!じゃあ明日は皆でパーティだー!」
泣く子がもう笑ったとばかりにコロっと表情を変えてツインターボが手を上に突き上げた。
「「「おー!」」」
「あの~ほどほどでお願いしますね」
トレーナーの言葉は残念ながら皆の言葉に搔き消されてしまった。
そして翌日。
「マチタン遅いぞ~!」
「ふぇ~すいません」
「いや、集合時間1時間前からいるターボがおかしいから」
「実際まだ予定していた時間より十分も早いですからね」
待ちきれないとばかりにツインターボがマチカネタンホイザに怒るがその様子にナイスネイチャとイクノディクタスがあきれた様子でたしなめる。
元々早めの行動を心がけるイクノディクタスと周りの空気を読むのが得意なナイスネイチャはどうせツインターボが待ちきれないだろうと二十分前から集合場所でツインターボにつきあっていた。
マチカネタンホイザも決して遅刻しているわけではないが相対的に遅くなってしまいペコペコと皆に頭を下げている。
「おや?今日は皆さんでお出かけですか?」
そこを偶然マチカネフクキタルが通りかかった。
「お、マチタルだ~」
「むむ!なんとも珍妙な呼び名ですね!」
略称を好むツインターボがマチカネフクキタルにやや変わった略称をつけた。
「今日はネイチャさんとタンホイザさんの激励会なのです」
「おぉ!そういえばお二人とも有馬記念出場おめでとうございます!」
やたらと占いやらシラオキ様とやらに傾倒してはいるが基本良い子のマチカネフクキタルは素直に祝福する。
「あはは~、まああたしなりに頑張りますよっと」
「ありがとうねフクちゃん」
やはり恥ずかしそうにするナイスネイチャと素直にお礼を言うマチカネタンホイザ。
「むむ!急にシラオキ様の予言が来そうです!はんにゃらほんにゃらほりゃー!」
どこに持っていたのか突如水晶玉らしき球体を取り出したマチカネフクキタルがブツブツと呪文を唱え始めた。
「むむ!これは!なななんと!」
「どうしたのさ~」
中々結果を言わないマチカネフクキタルにツインターボが訝しげに首をかしげる。
「ふ、不吉な予感がいたします!今日のお出かけは中止したほうが!」
「え~!せっかくネイチャとマチタンのお祝いしようと思ってたのに~!」
いきなりの不穏な発言にツインターボが不満げに声をあげる。
「いやいやたかが占いでしょ。それにフクキタルってばしょっちゅう不吉だー!とか不幸がー!とか言ってるしあんまりあてにならないでしょ」
「それもそうですね」
呆れた様子のナイスネイチャと元々占いを信じていないイクノディクタスは全く気にしていなかった。
「よーし出発だー!」
「ああこらターボ待ちなさい!」
待ちきれないとばかりにツインターボが走り出してしまったので慌ててナイスネイチャが追いかけていく。
「あはは、ありがとうねフクちゃん。十分気を付けるね」
「タンホイザさん行っちゃいますよ」
「ああ!シラオキ様の予言は絶対なんですよー!」
お礼を言いつつイクノディクタスに促されてマチカネタンホイザが皆を追いかけていく。
そんな彼女たちにマチカネフクキタルが悲鳴のような声を上げるが残念ながら彼女たちが足を止めることは無かった。
「さて、とりあえず商店街まで来たけど何するの?」
「ん~?」
「・・・無計画だったのね」
発起人のツインターボが首をかしげているのでナイスネイチャは呆れてしまった。
「そうですね、いくら激励会とは言えあまり羽目を外す訳にもいきませんし有馬記念の事を考えるとスイーツ食べ放題、という訳にもいきませんから・・・お決まりにはなってしまいますがカラオケやゲームセンターあたりが無難かと推測します」
イクノディクタスが提案をする。
「え~ターボお腹すいた~」
「あはは、実は私も・・・」
「まあ程々ならトレーナーも文句は言わないんじゃない?」
「そうですね。少々食べる程度ならウマ娘である私たちなら問題ありませんね」
ウマ娘にしては小食のツインターボだがそれでも人に比べれば非常にたくさん食べる。
特に年頃のウマ娘たちにとってはスイーツの魅力には抗い辛い。
だがここで食べすぎてしまっては折角の有馬記念をふいにしてしまいかねないのでそこは自重する。
幸いな事に体調管理の鬼であるイクノディクタスがいる以上カノープスでは太り気味はめったに起こらないのでトレーナーもそこは心配していなかった。
ただ放置しておくとどこまでも暴走してしまうツインターボや何かと間の悪いマチカネタンホイザ、意外とノリがいいので抑え役としては少し不安の残るイクノディクタスに常に一歩引いているせいでやや主体性にかけるナイスネイチャの四人が揃うと良くどうしてこうなった!が起きやすいのでそこがトレーナーの心配の種なのである。
それでもチームカノープスを取りまとめていられるトレーナーは実は他のトレーナーからは一目置かれている。
まだベテランとは言えない年齢で線が細く、一見押しに弱く見えるカノープストレーナーだがその実は調整力に関してはベテランでも舌を巻くほどの実力者なのだ。
中央トレセン学園でチームトレーナーを任されるというのはそれだけの実力が認められていないと出来ない事である。
「あ!クレープ屋さんがあるよ!ターボクレープ食べたい!」
商店街の広場にクレープのキッチンカーが止まっている事に気が付いたツインターボが三人に提案、というか自分の意見を言う。
「クレープか、いいわね」
「私も食べたいです」
「そうですね、クレープを食べ歩きしながら何をするか決めましょうか」
「わーい」
反対意見が出なかった事に喜んだツインターボは一目散にクレープ屋に走り出した。
「おう!可愛い嬢ちゃんいらっしゃい!」
「わ!怖い顔!」
クレープ屋の可愛らしい外見とは異なり店主は強面の男性がやっていた。
「こら!失礼なこといわないの!」
「はっはっはっ!自分でも似合わん顔しとるとは思っとるから大丈夫だ」
ナイスネイチャがツインターボを叱るが店主は気分を悪くした様子もなく笑っている。
「副業でね、子供もいるし少しでも家計の足しにと思って定期的にここでやっとるんだ。顔は悪いが味は保証するぜ」
「それはすばらしいですね」
「お友達にも紹介しておきますね」
素直に感心するイクノディクタスとマチカネタンホイザ。
「おうありがとなお嬢ちゃん、それで注文は何にするんだい?」
店主に促されて四人はメニューを見つめる。
「よし!ターボはミックスベリー&クリームで!」
「あいよ、当店の一番人気だな」
「じゃあネイチャさんはチョコバナナで」
「あいよ、三番人気のチョコバナナね」
「では私はチョコアーモンドでお願いします」
「あいよ、大定番のチョコアーモンド一つっと」
「え~っとえ~っと、フルーツミックスでお願いします」
「あいよ、二番人気のフルーツミックスっと、焼き上がりまで少し時間かかるからちょっと待っててくれよな」
「「「「は~い」」」」
注文を受けた店主は慣れた手つきでクレープを焼き始めた。
お読みいただきありがとうございました。
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