これが逃げるという事だ   作:福泉

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お待たせしました番外編3話目です。
番外編はこれで一旦終わりにして次回からツインターボ息子馬の話に入っていきたいと思います。
少しお時間がかかるかもしれませんがご了承ください。


番外編03 ナイスネイチャ(ウマ娘)

「まいどお馴染み3着ぅ~」

あたしはここで良い。

「なんとまさかの2着ぅ!」

あたしは2番星でいい。

絶対的な輝きを持つ天才には敵わない。

良い資質、それは秀才の証であって天才の輝きではない。

だからあたしはここで良い、ここが良い。

ずっとずっとそう思ってきた。

・・・本当に?

4着で涙していた私は誰?

ありえないと言われた逃げ切りをしたターボを羨ましく思っていた私は誰?

(うるさい!ネイチャさんはここが良いの!)

嘘。

(嘘じゃない!)

私は嫌。

(ネイチャさんは嫌じゃない!)

私は私、ネイチャさんじゃない。

(黙れ!)

 

「はっ!?・・・夢・・・か・・・」

ナイスネイチャは夢に魘されて目を覚ました。

有馬記念以降ずっとこの夢・・・)

ナイスネイチャはまだ薄暗い部屋の天井を見つめる。

ネイチャさん(あたし)を見つめる私。

(はぁ・・・まさか多重人格者にでもなっちゃいましたかね~ネイチャさんは)

ナイスネイチャはいつもの苦笑いを誰に向けるでもなく浮かべると起きるにはまだ早いともうひと眠りする事にした。

 

「・・・・と言うわけでネイチャさんの次のレースは・・・おや?ネイチャさん聞いてますか?」

「ふえ?ごめんなさい聞いてなかったわトレーナー」

珍しくボーっとしていたナイスネイチャをトレーナーが不思議そうに見つめる。

「何か悩み事でもあるのですか?相談に乗りますよ」

「あはは~・・・悩み事っていうかちょっと最近夢見が悪くて・・・」

話すつもりは無かったがなんとなくナイスネイチャはその事を口に出してしまった。

「夢見・・・ですか?」

「本当に全然対したことじゃないから!それじゃあネイチャさんトレーニングに行ってきまーす!」

「ああちょっと!」

トレーナーの静止を振り切ってナイスネイチャはチームルームから出て行ってしまった。

「・・・ネイチャさん、貴女がその一人称を使う時は何かある時なんですよ・・・」

付き合いの長いトレーナーにはお見通しであった。

 

(なんで逃げてきちゃったんだろ・・・ネイチャさんおかしいですなぁ)

トレーニング場で走りながらもナイスネイチャは悩み続けていた。

(なんでだろう・・・最近チームルームに居ると息苦しい気がする・・・)

チームメンバーとの仲は悪くない。

なのに何故か妙な距離感を感じる。

(はぁ・・・止め止め、トレーニングに集ちゅッ!?)

上の空で走っていたナイスネイチャは小さな窪みに足を取られて転倒した。

「ネイチャさん!」

トレーナーが慌てて駆け寄ってきた。

 

「皹が入ってはいますが折れてはいません。暫くレースは避けた方が良いですね」

「そう・・・ですか・・・」

ナイスネイチャは固定された左足をじっと見つめる。

「大丈夫ですよ。走れなくなる訳ではありませんから」

医者はそう言ってナイスネイチャを励ます。

「ありがとうございます。ネイチャさんリハビリがんばりますね」

ナイスネイチャはいつもの笑顔を浮かべてそう言った。

その様子を隣で見ていたトレーナーは何かを考えこんでいた。

 

「ナイスネイチャさん、何を悩んでいたのか。今何を思っているのか話してくれませんか」

帰りの車の中でトレーナーはナイスネイチャにそう話を切り出した。

「いや~ネイチャさんやっちゃいましたね~。折角調子が登ってきた時なのにまいっちゃいますね~」

「本当の事を言ってください」

「いやいやネイチャさんは何も・・・」

「普段の貴女は自分をネイチャさんとは呼びません。そう呼ぶ時は自分の心を隠している時なんですよ」

「ッ!?」

トレーナーの言葉にナイスネイチャの浮かべていた困り顔と笑顔の混ざり合った表情が引きつった。

そしてゆっくりと息をするとどうにかその表情を元に戻す。

「ネイチャさんそろそろ引退しようかなーって。立つ鳥跡を濁さず、ネイチャさんもそろそろ後輩に道を譲る時が来たんですな~って」

「それは本当に貴女の願いですか?」

「・・・して・・・」

ナイスネイチャの表情は完全に崩れ、大粒の涙をボロボロ流し始めた。

「どうして私は勝てないの!?どうして私はあと一歩が届かないの!?」

長年積み重ねられてきた思いが溢れて止まらない。

「イクノみたいに沢山のレースで走る事もできない!ターボみたいにどんなレースでも諦める事無く走り続けるなんてできない!タンホイザみたいに自分の不運を受け入れて、それでも走るなんてできない!」

同じチームのメンバーに感じていた劣等感が溢れ出る。

「・・・ネイチャさん」

「分かってる!皆だって勝ちたいって思ってる事も!でも皆期待を掛けられているのに私に向けられる期待はいつも3着!なんで優勝じゃないの!?私が勝ったらいけないの!?」

それはずっと堪えていた思い。

自分で蓋をして隠していた本音。

「指導力不足で貴女を輝かせて上げられなかった私のせいですね・・・」

「違う!私が弱いから!私に才能が無いから!私が!私が・・・」

あふれ出るモノが無くなったのか、ナイスネイチャの声に力がなくなっていく。

「ネイチャさん、貴女に才能が無いなんて事はありません。確かにGⅠを勝つ事がウマ娘として誇らしい記録である事は事実です。ですがGⅢやGⅡですら勝つことができないウマ娘が殆どなんです。自分で自分を認めてあげなくて!誰が貴女を認めてくれるんですか!」

いつも静かで覇気のないトレーナーの強い言葉にナイスネイチャは顔を上げた。

「イクノさんも、ターボさんも、タンホイザさんも皆さん勝ちたい事は同じです!心無い声が辛いのは貴女だけではありません!落ち込むのは分かります!ですが自分で自分を虐めて何になるんですか!」

「トレーナー・・・」

トレーナーのまっすぐ目にナイスネイチャは顔を上げた。

「諦めてはいけません。諦めずに走り続ければ、かならず良い事があるはずです」

 

「怪我の影響が心配されるナイスネイチャでしたがどうやらさほど問題は無いのか今日も3着です」

(久々のレース・・・今日も勝てなかった・・・でも何でだろう・・・次は行けるっていう確信があるのは・・・今まで無かったのに・・・)

怪我からの復帰戦である京都大賞典。

ナイスネイチャは今までにない手ごたえを感じていた。

確かに勝てなかった。

でもそれは久々の試合に仕掛けるタイミングを計り損ねたからだと分かっている。

(自分が早くなった・・・訳じゃない・・・皆が遅くなった・・・なんで?)

ナイスネイチャは答えの出ないままライブの準備のため控室に戻っていった。

 

「ネイチャさん、作戦を変えましたか?」

「うん、どうしても私は最後の伸びが足りないみたいだから前の方で走ろうと思って」

練習中、イクノディクタスに聞かれてナイスネイチャはそう答えた。

「いえ、それだけではなくて・・・なんというか並走しているとすごいプレッシャーを感じる時があるので何かそういった作戦なのかと・・・」

「え?」

(私そんなにプレッシャーなんてかけてたっけ?)

プレッシャーをかけて走るウマ娘というのは確かにいる。

以外に思うかもしれないがあのシンボリルドルフでさえ他のウマ娘にプレッシャーを与えながら走っているのだ。

ウマ娘の中にはそういったプレッシャーに極端に弱いウマ娘もいる。

「ターボも感じたぞー。なんかこのまま走ってると何かが壊れちゃうみたいな?そんなプレッシャーだぞ」

(はて?私はそんな威圧的なんだろうか?)

思いもよらない仲間からの言葉にナイスネイチャは頭を悩ませる。

確かに今まで他のウマ娘達に何とか勝とうとプレッシャーを与えたこともあるがあまり効果的ではなかったと記憶している。

「もしレースでそれだけすごいプレッシャーを出せたらきっとネイチャちゃんも勝てるね」

「いやいやそんなに簡単じゃないから」

マチカネタンホイザの言葉を否定しながらもナイスネイチャはこのプレッシャーを生かせないか考えていた。

 

「今度のジャパンカップですがナイスネイチャさんとマチカネタンホイザさんの出場が決まりました」

「おー、マチタンにネイチャ、がんばれ~」

ツインターボが笑顔で応援する。

「たしかブライアンさんも出場を予定しているのでしたね」

「ええ、ですがこの前の怪我以降調子を崩しているようですね」

イクノディクタスの情報にトレーナーが追加をする。

「やはり足の怪我は怖いですね。幸いネイチャさんの怪我はあまり影響がなかったようですが」

足の怪我に対して人一倍思いの強いイクノディクタスが改めてナイスネイチャの足を見る。

「そうなると強敵は女傑のヒシアマゾンさんと海外からのウマ娘さん達ですね~」

「海外のウマ娘達は情報があんまりあてにならないのよね~」

海外と日本の競馬場は条件が大きく異なる。

その為に日本で強いウマ娘が海外で、逆に海外で強いウマ娘が日本で実力を発揮できないという事が良くある。

まあ中には馬場適正問わずという天才・・・いやある意味変態の域のウマ娘もいたりするのだが・・・。

 

「ヘクチッ!ア゛ア゛ッ!オシウマ娘ちゃんの写真にデジタンの唾がぁ!」

 

「情報があてにならないからと言って油断していい相手ではありませんからしっかりトレーニングをしましょうね」

「「はい」」

二人は元気よく返事をした。

 

「スタートしましたジャパンカップ!おっとヒシアマゾン出遅れたか最後方からのレースになります。ナリタブライアンは好スタート、真ん中デュークワインが出ていきます。しかしタイキフリーザーが先頭に立ちます。先頭集団固まったまま第1コーナーへ入っていきます。ヒシアマゾンが最後方のままレースは進んで行きます。タイキフリーザーが現在先頭で逃げております。しかしそれほど離れずに先行集団が形成されております。ナイスネイチャは先行集団の外目につけております。」

(よし!いい位置につけた!)

ナイスネイチャは上手くスリップストリームが生かせる位置につく事ができた。

「ナリタブライアン今日は中団待機の様子。後ろの方にマチカネタンホイザ。最後方は変わらずヒシアマゾンであります。ヒシアマゾン最後方のまま中間点を過ぎました。タイキフリーザーまだ先頭です。先行集団はポジション争いが激しくなってきている。ナリタブライアンはまだ中団に抑えたままだ。ヒシアマゾンは最後方のままです。3・4コーナーの中間点に入ってまだタイキフリーザー先頭!欅の向こうを過ぎてまだタイキフリーザー先頭だ。しかし外からナイスネイチャが上がってくる。ナリタブライアン外に出た!ナリタブライアンが外から行った!ナリタブライアンここから行けるのか!ヒシアマゾンも外から行く!」

(行ける!今日は!行ってみせる!)

ナイスネイチャはあれから何度も試したプレッシャーを発動させた。

理由は分からない、なぜか知らないが最終直線に入ると強いプレッシャーが出るようになっていた。

そのプレッシャーは周りのウマ娘達を無意識に失速させる。

「タイキフリーザー失速!ナイスネイチャ前に出る!ランスも前に出る!しかしランス伸びない!ナイスネイチャがまだ先頭!ナイスネイチャ頑張れ!ヒシアマゾンが上がってくる!ナリタブライアンは厳しいか!」

(お願い!耐えきって私の体!)

軋みを上げる全身を動かしてナイスネイチャは最後の直線を走り切った。

「ナイスネイチャだ!ナイスネイチャが!今!長い長い時を経て!やっと手に入れました1着ゴールイン!善戦ウマ娘と呼ばれて幾年!ナイスネイチャ、悲願のG1初勝利!長年ナイスネイチャを応援してきたファン達の歓声!割れんばかりの拍手!ああ、私はこの試合を実況できた事を嬉しく思います!ナイスネイチャ、本当におめでとう!」

(ああ・・・これが・・・憧れの・・・)

ナイスネイチャはただただ掲示板を眺め続けた。

夢ではないのか、幻ではないのか、涙を何度も何度も拭って確かめて、それでも消えない自分の数字。

「ネイチャちゃん、おめでとう」

振り向けばそこには一緒に戦っていたマチカネタンホイザが居た。

「おめでとう。よく頑張ったな」

近寄ってきたヒシアマゾンがそう言って拍手をする。

ナリタブライアン達も口々におめでとうと言いながら拍手をしてくれる。

「ありがとう!」

ナイスネイチャは初めての笑顔を皆に見せた。

それは今までの人に好かれる愛嬌のある笑顔ではなく、心の底からの笑顔であった。




この世界のナイスネイチャのLv5覚醒専用スキルです。

忍び寄る重圧:先行(金スキル)

最終直線で前の方で競り合っていると周りのウマ娘の速度を下げる。

ただし発動時に近くにいるウマ娘にしか効果がないため大逃げと追い込みには相性が少し悪い

下位スキル

見えない壁:先行

最終直線で前の方で競り合っていると周りのウマ娘の速度をわずかに下げる。

次回予告

その日、僕は生まれた。
なぜだか知らないけれど知らない記憶を持って。
ただなぜかその記憶と色々違っているみたいで・・・?

シーズン2 第1話 次代誕生(馬)
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